第70話
ギルドに戻ってすぐに俺を探している奴が分かった。
そいつは『すすり泣きの封印石』を見て大爆笑していた。
「あっははー、ひぃー、ひぃー 腹、痛てぇ。お前、何やってんの?」
近くで見ていたが全く気づかれなかった。仕方なく声をかけてやることにした。
「おい」
「えっ!? おわっ、あんたが『全滅』さん?」
「そうだ、俺に何のようだ?」
「チィース。俺、ユウキ・クロノって言います。よろしくセンパイ」
クロノ? 先輩?
「お前、まさか!?」
「ええ、先輩と同郷ですよ。こっちで『魔王』やってま~す」
そこまで言われてステータスを確認する。
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黒野 祐樹 Lv.??? 15歳
魔王
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
???の加護 効果 ????
スキル
【魔王】
全ての魔族の上に立つ。
ステータスは魔族最強となる。
【偽装】
ステータスを任意に隠せる。
自身よりも上位者には効果が薄い。
【???】
自身の???を???する。
効果はレベルに???する。
【???】
???
【???】
???
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ほとんど何も分からないがこいつが『魔王』なのは分かった。
「で、魔王が何のようだ?」
「さすがセンパイ。動じませんね。今回は、魔族の野望を打ち砕いた『全滅』さんを見に来ました」
俺のほうが早く召喚されたので先輩。
こいつは気がついたら魔王城の玉座にいたそうだ。
「いや、マジビビリましたよ。あたり一面全部化け物で埋め尽くされてたんですもん」
「これが夢じゃないと気づいて、色々調べてたら自分が今、魔王なのに気がついて。後はクリア条件っすかね」
「クリア条件?」
「ええ、俺が魔王として召喚されたってことはこっちの人間滅ぼせってことでしょ?で、センパイが対戦相手ってことかな?」
嬉しそうに話しかけてくる魔王。
「センパイの勝利条件はなんですか?まさか魔王の討伐とかじゃないすよね?」
「俺は、こっちの世界についてからも何の説明も受けていない」
「マジですか?俺は、なんか頭の中に『YES』『NO』出るようになったんで色々聞いていって調べましたよ」
「俺、最近そのスキル手に入れたわ」
「うわぁ、ムズゲーすね」
後で調べて分かったが俺が現れた場所、すぐ後ろに神殿があったようだ。
チュートリアル無しでここまで来たのか。その情報知りたくなかった。
ちなみに、俺の勝利条件って『魔王』の討伐なのかな?
『NO』
どうやら違うらしい。
じゃあ、人類の殲滅?
『NO』
良かった、違うようだ。
「ちなみに、この『YES』『NO』、都合が悪いと『・・・』って何も答えないんであんまり信用してもダメっすよ」
なるほど、嘘は言わないようだが完全に味方と言うわけでもないのか。
「それでぇ、魔族のアイテム化って俺が考えたんすよ。貴族とか偉い奴の館には探知機あるから忍び込めないんすよ。マジ無理ゲーっす」
あんなのス○ークでも無理でしょ。と息巻いている。
アイテム化した魔族は探知機にはかからないし、『滅魔薬』もあまり効かない。
強い人間に憑依できれば力も強くなるといい事尽くめの作戦らしい。
「とりあえず、先輩とのガチバトルって展開は無いみたいなんでよかったっす」
「でも、お前、人類滅ぼすんだろ?」
「う~ん、どうだろ?俺、結構今の生活気に入ってるし」
「でも勇者とか来るだろ?」
「ああ、そうらしいっすね。俺が魔王やってるとどこかで神様が勇者選ぶらしいんで。てゆうかこれマッチポンプじゃん」
確かに、俺やユウキに加護を与えている神様が同じならその通りだ。
「とりあえず、俺も勝利条件とやらの検討がつかんから普通に生活してるわ」
「うっす、じゃあとりあえず今日はこれで帰ります。アホな部下の状態も見れたんで」
『すすり泣きの封印石』を指さしてニヤニヤ笑う。
「おお、またな」
「はい、また来るっす」
なんとなく友達と話すノリで話してしまったが、相手は『魔王』だ。
警戒はしなくてはならない。
さてこれからどうするか。
魔王に出会って一週間。魔王とは別の問題が発生した。
「ケンカ?」
「はい、村のゴブリンさんたちと迷宮ゴブリンさんたちの仲が悪いんです」
ラティアが悲しそうに報告してきた。
どうやら、ラルの命令を迷宮ゴブリン達が聞かないのだそうだ。
迷宮ゴブリンたちの主張を聞くと、俺に忠誠を誓ってここまで来たのであって、ラルの下にはつきたくないとの事。
「うーん、どうしたもんかね」
「簡単じゃ、一度思いっきりケンカさせればよかろう」
「それはさすがに」
「男などいちど殴り合えば分かり合える物じゃ。女なら一緒に甘いものでも食えば仲良くなれる」
少々乱暴だが一理あるのかもしれない。しかし、さすがにケンカは許可できない。
なにか、別の物でストレスを発散させられれば。
「そうだ、野球をしよう」
大所帯になりつつあるゴブリン村の住人を適度に参加させられて、観客として他のゴブリンたちも楽しめる。
うん、いいアイディアかも知れない。
早速、広場に集められるだけのゴブリンを集めた。
まずは、野球のルール説明だ。
とりあえず、難しいルールは省いて簡単に説明した。
説明後、すぐに遊んでみる。
口で説明するよりやってみたほうが覚えも早いだろう。
ピッチャーと適当な守備。
そして、バッターだけのお遊び野球。
ゴブリンたちはすぐに野球を覚えて、はまり出した。
野球を教えて3日後、また広場にみんなを集めて野球大会の開催を宣言する。
お互いスタメンを9匹選び出し、怪我などあれば補充する形にした。
「我ら、新参のメンバーへの不当な冷遇を正してやる!!」
いつの間にやら、フレイが監督のようなポジションに収まっていた。
確かにフレイは新参者だが、気があったのだろうか?あいつ、ラル達とも仲良かった気がするが。
「ご主人様と永く共にいた私達に勝てると思っているのですか!!」
どうやら古参組はエミィが指揮を執っているようだ。
いや、最古参はアイラだし。
でもアイラはルビーと楽しそうにキャッチボールしてるし。
「行きますよ、ルビー」
ルビー、結構いい球ほおるよな。
さて、プレイボールだ。