第69話
ウェフベルクに到着したのは夜中だった。
さすがに今日はゆっくりしようと言うことで俺たちはいつもの宿をとることにした。
一晩休んだとはいえサイの体力は馬車での移動でかなり消耗していたためギルドへは明日の朝から行くことになったのだ。
家に戻ればいいのではないかと訪ねると、この街にはまだ拠点がないとのことだった。
今の体力でヤクゥを見つけるのは難しい。一刻も早く会いたいところだろうが我慢してもらう。
さて、サイは満身創痍だったが俺達はそうでもなかった。いや、俺以外はそうではなかったと言うべきか。
『ここ数日、野宿ばかりでろくに相手をしていなかったのだから当然ではあるな』
定位置に置かれた『叡智の書』が現状を分析する。
「申し訳ありません、はしたないとは思いますがお情けをいただけますか?」
「昼間にずっと寝ておって全然眠くないのでな、わらわの話し相手になってくれんかのぅ」
「ご主人様。あの、お願いします!!」
どうやらうちの娘達は、体力が有り余っているようだ。
明日は、サイをヤクゥに引き合わせるだけだ。最悪立っていられれば格好はつく。
「いいよ、おいで」
俺は、体力が尽きるまで戦うつもりだった。
異変に気がついたのは3周目に突入した頃のことだ。いつもならそろそろ限界が見えてくる頃なのに全く問題ない。
どころか、
「ちょ、ちょっと休憩しませんか?」
「なんじゃ、今日の主は底なしじゃのぅ。さすがにへとへとじゃ」
「ご主人様、ご主人様!!」
体力のあるアイラ以外はへばってきている。
そこではっと気がついた。
「俺、無限の体力を手に入れちゃったんだ」
つまり、
①,体力や水分を失う。
②,【自己再生】で魔力がある限り回復し続ける。
③,星剣が瞬時に魔力を回復させる。
④,①に戻って繰り返し。
ということである。
「ふ、ふははっは!! ついに俺は手に入れたのだ。(性的に)最強の力を!!」
その日は、3人を思う様可愛がった。これで主人の面目も保てるだろう。
「今日はとても情熱的でした」
「うむ、いつもこれくらい愛してくれるのであれば不満は無いな」
「すごく良かったです。またお願いします!!」
女性のバイタリティを舐めていた。しかし、俺に体力的な制限が無くなったのは事実だ。
もしかしたら今回のダンジョンでの一番の収穫はこれかもしれない。
次の日の朝ヤクゥとサイを引き合わせるために冒険者ギルドに向かった。
ヤクゥはギルドの入り口のすぐ近くに座り込んでいた。どうやらずっとここで待っていたらしい。
「兄ちゃん!?」
「ヤクゥ!!兄ちゃん帰って来たぞ!!」
サイの胸に飛び込んでいくヤクゥ。サイはヤクゥの体当たりをなんとか受け止める。
「良かった。死んじゃったかと思ってた」
「あぁ、お前がヒビキに依頼してくれたおかげでこうして生きて帰れた」
ぐっ、と残った片腕でヤクゥを抱き締めるサイ。
ヤクゥは嬉しそうにしていたがサイに片腕が無いことに気が付き泣きそうな顔になっている。
「に、兄ちゃん!?腕が無いよ!?」
「あぁ、迷宮でヘマして無くなった。心配するなもう傷も塞がってる」
「で、でもこれじゃあ冒険者は」
片腕で冒険者を続けられる奴などそうそういないだろう。まして、サイはソロで迷宮に潜っていたのだ。
冒険者への復帰は絶望的だろう。
「しかたないさ、命があるだけでも感謝しなきゃな」
「う、うん」
そこまで話してサイがこちらを向いた。
「そういうわけで、すごく心苦しいんだが報酬の支払いを少し待ってもらえるか?先にこれだけは支払っておくから」
そういってサイはセルヴァの宝物庫でもらった金貨を差し出してきた。
「報酬の支払いは一括でいい。とりあえず、貸しにしといてやる」
「それじゃあ話が違う!!」
今回の報酬は、金貨6枚だ。サイと馬車の中で相談して決めた。
少し貰いすぎな気もするが普通迷宮に救助に来るバカなんていないので相場が分からない。
最初はもっと高額だったのだが、明らかに払えそうな額ではない。
それならしっかりと払える額を少しずつでも返してくれと言ってこの金額になった。
「勘違いするなサイ。俺はお前の借金の返済を遅らせて少しでも利子を取るつもりなんだよ」
「しかし、利子と言っても」
利子の話もちゃんとしている。一年で銀貨12枚の定額式だ。
1ヶ月に銀貨1枚を忘れずに支払えば元金は増えない。
「利子はちゃんと毎月受け取ってやるからせいぜい俺の為に働け」
「・・・すまない。出来るだけ急いで返す。絶対にだ」
サイは、犬獣人は義理堅いんだ、と真剣な顔で言っている。
サイ達はすぐに次の仕事を探すといってギルドから出て行った。
「さて、俺達はどうするかな~」
何か面白そうな依頼は無いかと探していると、
『ブレトの街までの商隊の護衛 依頼者 錬金術師ギルド』
こんな依頼を発見した。
「ブレト?連絡が取れるようになったのか?」
ブレトと聞いて思い出せるのは、あのさわやかな根っから勇者と被虐神官達の事だ。
少し興味がわいたのでギーレンの執務室を訪ねることにした。
「やぁ、君か」
俺のアポ無しの訪問にも慣れた様でギーレンが驚きもせず応対する。
「ブレトの街への依頼を見たんだが、もう大丈夫なのか?」
「ああ、そのことか。実はつい2日前にブレトから知らせが来てね。耳の早い奴らはもう出発しているよ」
ちょうど、街から離れている間にブレトとの連絡が復活したらしい。
「なんでも、勇者候補が千匹のモンスターを倒したとかで大活躍だったみたいだよ」
ルクスだ。しかし千匹か。さすがだ。
「ただ、教会のほうで色々あるみたいでまだ勇者候補のままみたいだよ」
セイラとバーラどちらが勇者を選定した『聖女』になるか揉めているのだろう。
個人的にはバーラを推したい。
「そうか、参考になったありがとう」
「どういたしまして。ブレトに行くのかい?」
「今のところそんな予定は無いよ」
「そうか、ブレトでなくても別の街に行くなら教えてくれ。少しは力になるよ」
「とか言って、また何かするつもりか?」
ギーレンが首をぶんぶん横に振って下心は無いと訴えてくる。
「まぁ、いいや、じゃあまた」
執務室を後にして次に向かったのは錬金術師ギルドだ。
ギルドの受付でフランクを呼び出すと、10分ほどで待合室にフランクがやってきた。
「やぁやぁ、ヒビキ君。エミィさんもいらっしゃい。他の方は、この前、領主様のお城でもご一緒でしたね」
「こんにちは、フランクさん」
「今日はどんな用かな?そういえばラティアさんはいないんだね?」
「冒険者ギルドにブレトへの商隊の護衛の依頼を出したでしょ?」
「ああ、そうだよ。ブレトとの交易が再開したから、早速『白磁器』をブレトにも広めようと思ってね」
やはりそうか。普通、錬金術師ギルドは商品を商人ギルドに卸すはずだ。それをしないのは市場の独占のためだろう。
「そうか、じゃあ今まで以上に『白磁器』が必要になりますね」
「そう、そうなんだよ。ちょうど君に増産の相談をしようとしていたところなんだよ」
現在、丸皿のセットを大体一週間に2セット納めている。ゴブリンとラティアがいれば勝手に納品まで行ってくれているのだ。
白色粘土さえ準備しておけば増産もそれほど難しくないだろう。
「わかりました。どれくらい欲しいんです?」
「とりあえず、2週間後にあるだけ全部が欲しい。商隊の出発がそれくらいだ」
「ずいぶんゆっくりですね?」
「今、この街で護衛のできる冒険者が極端に少ないからな。どうしても数をそろえなきゃいかん」
「大変ですね。じゃあ2週間後に納品に来ます。多分、普通に納める物も合わせて10セットくらいは大丈夫だと思います。」
「ああ、頼むよ。こっちも積荷のリストを洗いなおしておくから」
フランクと別れて街を歩く。ゴブリン村に戻る前に色々買い物をすることにしたのだ。
「さて、どこから行くかな」
「あ、おーい『全滅』」
後ろから最近聞きなれてきた声が聞こえる。
「シチューのおっさん。どうしたの?」
「冒険者ギルドにお前に会いたいって奴が来てるんだよ。探してきてくれって頼まれてな」
「俺、朝はギルドにいたけど?」
「じゃあ入れ違いになったんだな」
「誰が待ってるの?」
「さあ?どうも魔族の事を聞きたいみたいだったぞ。『すすり泣きの封印石』の周りをうろちょろしてたし」
仕方が無いので来た道を戻る。さて、どんなやつがいるのやら。