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第66話






 状況は絶望的と言っていい。しかし、諦めれば殺されてしまうだけだ。

 俺はセルヴァのステータスを確認しつつ、合流したアイラとルビーと共にセルヴァに再度攻撃を仕掛ける。


**************************

セルヴァ・ドラグロード 

灼熱竜 Lv.55 220歳

  

スキル

【灼熱竜の鱗】

その鱗はあらゆる攻撃を減ずる。

特に、灼熱竜の司りし炎の眷属による魔法は無駄と言って良いだろう。


【灼熱竜の牙】

あらゆるものを噛み砕く牙、灼熱竜にとっては鋼すら餌となる。


【灼熱竜の翼】

灼熱竜の飛ぶ様は美しい。


etc.

**************************


 説明文すらなんか神話っぽい書き方だ。

 あと、etcってなんだ!?電子料金収受システムのことか!?

 違いすぎる扱いとレベルに気を落とす暇も無くセルヴァに接近する。

 まずは、切り込み隊長のルビーが襲いかかる。

 いつもは相手の全身を捕らえるルビーの補食攻撃でなんとか左の前足を捕らえる。

 ジュルジュルとセルヴァの鱗を溶かそうと頑張っているが、少し溶かして、再生される。を繰り返しているようで、左足の拘束以上の効果は期待できないようだ。


「なんだこれ?スライムか?スライムごときが私の邪魔をするな!!」


 ミノタウロスを吹き飛ばした時のように体をふるわせるセルヴァ。

 しかし、ルビーは体の粘度を変えて柔軟に攻撃を受け流す。

 

 思い通りにいかないセルヴァは癇癪を起こした子供のように暴れ始めた為近づくのも難しい。

 

「行きます!!」


 そんなところに突っ込んでいくアイラ。

 目にも止まらぬ速さで接近し、迫り来る右前足を【護手】で弾き返す。


「グァッ!?」


 【衝撃反射】が発動したようだ。

 自由に動かせない左前足に加え、右前足を弾き飛ばされた為、体勢を崩して前のめりに倒れるセルヴァ。

 すかさず押さえにかかるミノタウロス。俺も土魔法でセルヴァの体を埋めて少しでも動きを封じる。


「こ、この!!私はこんな攻撃でダメージなんて受けてないぞ!!」


 言葉通りセルヴァはダメージを受けていないのだろう。【灼熱竜の鱗】は物理攻撃にも有効なのだろう。

 俺も近づいてセルヴァの体に触れる。この拘束もそれほど長くは持たないだろうから仕掛けををしておく。


「ガァァァァァァーー」


 仕掛けを済ませてすぐ拘束を吹き飛ばされた。

 今残っているのはルビーの左前足の拘束だけだ。


 

『主よ、ここまでしてもほとんどダメージ無しのようじゃ』


 ウィスパーゴーストからジルの声が聞こえる。

 先ほどまでの連携はジルからの指示のお陰だ。

 数体のゴーストをセルヴァのまわりに配置して常に状況を報告してくれていたので的確な攻撃を行えた。


「とりあえず、セルヴァの鱗に仕掛けは出来た。ルビーに『アレ』の準備だけ指示してくれ。少しは弱らせてからいい場所に追い込む」


『わかった』


 ジルとの交信を終えて、ルビーの加勢に行くためにセルヴァへと近づき始めたちょうどその時。

 セルヴァが大きく息を吸い込むモーションを行った。


「マズい!?」


 あまりにも有名なドラゴンの攻撃方法。『ブレス』だ。

 息を吸い終わったセルヴァがジルとエミィがいる辺りを向いた。


「グゴォォォォーーー」


 灼熱の炎がセルヴァの口から放たれる。炎は、目の前に現れた『地面』にぶつかって跳ね返ってセルヴァ自身の体を炙る。


「うわっと、なんだ!?何が起きたんだ!?」


 やはり自分の炎でダメージは受けないようだ。

 俺がやったことといえば、『ある書物』に魔力を込めただけ。

 ある書物と言うのは『召喚の書』だ。先ほどセルヴァに近づいたときに本を押し付けてしるしをつけてきた。

 

 つまり、この場所のいるセルヴァを、少し座標や角度をずらして『召喚』したのだ。

 今回は、元の場所から50mほど横に動き地面に頭を向けるような姿勢で『召喚』した。


「この、今度こそ!!」


 ジルとエミィの位置を再確認し、またそちらにブレスを吐こうとするセルヴァを地面から30mほど離れた場所に『再召喚』する。


「くそ、またか!?」


 ズドンとすごい音を立てて地面に衝突したセルヴァ。

 鱗のせいで剣で斬ることは出来なくても、衝撃くらいは多少内部に影響を及ぼしていると信じたい。


 セルヴァが体勢を整える前に三度目の『召喚』を行う。


「何度も同じ手が通用すると思うな!!」


 前の『召喚』と同じように地面から離れた場所に配置すると、セルヴァは空中で飛膜を広げて空中で姿勢を整えようとする。

 その瞬間を狙っていた大弩隊が左右の飛膜を狙い打つ。

 鱗には弾かれた矢ではあったが、さすがに薄い飛膜には突き刺さる。


「ギ、ギャァァーー」


 おそらく貫かれた痛みはそれほどではないだろう。しかし、崩れた姿勢のまま地面に叩きつけられる。


「ぐ、ぐぅぅ」


 どうやら、しっかりと内部にダメージが通っているようだ。

 セルヴァは苦痛に顔を歪めながら立ち上がってくる。

 しかし、そこにはすでにルビーが待機していた。

 すぐさま両前足を包み込み動きを封じる。

 それと同時にアイラと俺で大量の薬瓶をセルヴァに投げつけた。


「うわっ、ぷ。なんだこれ?お酒ぇ!?」



 対ドラゴン用の切り札、『高純度の酒精エタノール』だ。


 『ドラゴン』、その姿は大きな恐竜のような体とコウモリのような飛膜を持つ。

 爬虫類に近い肉体構造であるなら『変温動物』であるはずだ。さらに爬虫類の嗅覚の良さ。

 

 その二つの特徴に対して有効と思われるのが高い揮発性による体温の低下と刺激臭の同時攻撃を行えるエタノールだった。

 ドラゴンの支配する迷宮にいくのだから対ドラゴン戦を想定して準備をしたのだが、ろくなものがなかった。

 それと言うのも、ドラゴンはただの冒険者が倒すものではないと言う認識があるからだ。

 ドラゴンを討伐するのは勇者か国の軍隊だ。

 冒険者にとってドラゴンは台風などの天災のようなものだ。

 『ドラゴンに会ったら逃げろ。無理ならあきらめろ。』

 これが、遊戯迷宮に挑戦するときの心構えである。

 迷宮未経験者ダンジョンバージンな冒険者に度胸試しとして挑戦をすすめるのがウェフベルクでの冒険者達の慣わしだそうだ。

 仕方なく、街で買った酒からエミィの【精製】で限界まで高純度にした酒を大量に作成した。

 

「ゴァ、グゥゥ?」


 先程より元気が無くなってきた。どちらかといえば、苦しんでいると言うよりは酔っ払ってるように見える。

 そういえば、東洋の龍でも西洋の竜でも酒に酔いつぶれて討伐される竜の話があった気がする。

 ルビーには嗅覚もお酒を摂取しても酔っ払う器官が無いため全く影響がない。

 ルビーが少しずつセルヴァを飲み込もうとしている。両前足から胴体へ這い上がり、長い首を残して胴体の半分を飲み込む。

 やはり、消化しきることは出来ないようなので攻撃用の切り札を取り出す。

 サッカーボールくらいの魔鋼の球である。中には暇を見つけては『充電』し続けた【電撃魔法】が詰まっている。


「セルヴァ、あーん」


「うん? あーーん」


 【灼熱竜の鱗】の効果があるのでそのまま放っても効果はたいしたことが無いだろう。

 完全にへべれけになっているセルヴァに口をあけるようにゼスチャーすると簡単に口を開けてくれた。

 そこに躊躇わず魔鋼球を放り込んで、ルビーに撤退をうながす。


 ズルズルとルビーが這って逃げていくのを確認して、ビー玉サイズの魔鋼球を取り出す。

 【電撃魔法】を帯びさせると、表面がバチバチと帯電し始めた。

 先ほどの魔鋼球は、外から起爆用の魔力を与えなければ球の中の魔力が解放されない。

 この小球は導火線に火をつけるマッチのようなものだ。 

 ピンと指で弾いて、空中に放ち【操力魔法】で操作してセルヴァの口の中に入れる。

 

 しばらくして、ドゥーンという鈍い音と共にセルヴァの口から白煙が立ち上った。


「ア、ガ、ガ、ガァ」


 完全に白目をむいている。これなら止めを刺すのも難しくないだろう。

 

 二個目の魔鋼球をルビーから取り出そうとしたその時、後ろから声がかかった。


「お待ちください」




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