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第61話





 『守護者』の部屋に入る前に作戦会議を行った。


「初めてのボス戦だし、気を引き締めていこう」


「ボス?『守護者』ではないのですか?」


「まあ、確かにこの階層の支配者ボスといえるかのぅ」


「群れのリーダーのことですね」


 ジルに中の様子を探らせると、部屋の奥に階段と階段を守るように陣取っているモンスターがいることがわかった。

 試しに状態異常をかけてもらったが、どうやら効かないようだ。やはりある程度知性のある個体には効きにくいようだ。


「とりあえず俺とアイラで中を見てくるよ。相手を確認できたらすぐに戻る」


 部屋には扉もないので出入りは自由のようだ。念のため、ウィスパーゴーストをつけてもらい分断されても連絡できるようにしておく。

 中に入ると一辺が100mほどの正方形の部屋に出た。中は回りを見渡せるほどの光量がある。そして、もっとも特徴的なのは、


「天井、高いなぁ」


 天井までの高さが軽く20mほどあった。この迷宮に入るときにそんなに下に降りた感覚は無かったが、どうやら上層全体に傾斜がついていたのだろう。

 そして、肝心のボスは、


「あれか」


 奥に中層に繋がる階段が見える。その階段の前にどん、と存在感のあるモンスターが座っていた。

 鷹の様な頭部と翼、そして獅子の体を持つ幻獣。ドラゴンと並びあまりにも有名なモンスター。

『グリフォン』だ。グリフォンは、こちらに気がつくと大きな翼をはばたいて天井すれすれまで一気に上昇する。


「ギュラーーッ!!」

 

「速い!?アイラ、いつでも下がれるようにしておいてくれ!!」


「はい!!」


 偵察が目的とはいえ、できるだけ情報は集めたい。グリフォンのステータスを確認する。


******************************************

グリフォン  Lv.20


スキル

【守護者】

対象に守護を与える。又、対象の状態を把握することができる。

現対象→階段

守護できる対象の上限はレベルに依存する。

*******************************************


「なるほど、あいつを倒さないと下にはいけない訳だ」


 レベルは20とそれほど高くはないが、翼による三次元機動は厄介かもしれない。

 俺とアイラはグリフォンに背を向けないようにじりじりと下がっていく。

 グリフォンは、こちらを値踏みするように睨みながら近くを旋回し続けた。

 あと少しで通路にたどり着く。

 グリフォンはそんな心の緩みを見透かしたのだろうか。

 突然の急降下を開始した。


「なっ!?」


 とっさにアイラを通路に押し込み、迎撃する。奴の攻撃の瞬間を狙ってカウンターを試みる。


「喰らえ!!」


 タイミングはドンピシャだった。グリフォンが急に軌道を変えなければ、


「ググッ」


 急降下のために畳んでいた翼を急に広げて急ブレーキ。俺の刀が空を切る。

 ヤバい!?落下の速度は大分落ちたが、振り終わりを狙われれば関係ない。


「ご主人様!!」


「主よ!!」


 エミィとジルの声がしたかと思うと、目の前が炎に覆われる。グリフォンは火まで吐けるのか!?


「グギャーーーッ」


 しかし、グリフォンは炎に包まれて苦しんでいる。通路の方を見ると、エミィとジルが指輪を着けた手を前につき出していた。

 どうやらあの炎は、エミィ達がおこしてくれたもののようだ。


「ご主人様!?ご無事ですか!?」


 せっかく通路に押し込んだアイラが俺のそばまで戻ってきた。


「すぐに通路までお連れします。エミィ達の援護もそれほどもたないでしょうから」


 アイラのいった通り、グリフォンはすでに翼で風をおこして炎を散らしていた。

 俺達はすぐに通路に撤退した。


「ふう、ビックリした」


 レベルの差があるので、流石に一撃でやられることはないだろうが、怪我くらいはしていたかもしれない。


「助かったよ。ありがとう、皆」


「いえ、当然のことですから」


「わらわはご褒美が欲しいぞ」


「ジル!!」


「いや、考えておくよ。アイラとエミィにもな」


「あ、ありがとうございます」


「ご褒美ですか?一体なんだろう」


「クフフ、期待しておるぞ~」


 さて、ご褒美は後々考えるとして今はグリフォン攻略が先だ。

 グリフォンは完全に火が消えてから部屋の中央に陣取ってこちらを見続けている。

 部屋を出てまで追うことはしないようだ。さすが『守護者』。


「さて、散々な目に合わせられたんで、仕返ししなきゃな」


 俺は、対グリフォン戦略を仲間に説明した。



 


 まずは、先程のように俺とアイラで部屋に入る。違うのは、俺の装備だ。

 急降下の突進に対抗するために左手に丸盾を持ち、右手には秘密兵器を持っている。

 俺達の侵入にすぐに気づいたグリフォンは再び天井までの飛び上がった。

 俺はまた上空で旋回を始めた奴を見据えて、アイラに指示する。


 アイラの準備完了の合図を見て、俺は壁際まで駆け寄り、グリフォン目掛けて全力でダッシュした。

 グリフォンはじっと俺を見ている。ここまで届くものなら来てみろと言っているのだろうか?旋回をやめて真正面から俺を見据えている。

 構わずダッシュを続ける俺、目標はグリフォンの真下にいる『ルビー』だ。

 

「いくぞ!!」


 勢いよくルビーを踏み込みルビーの弾性を利用して大ジャンプを行う。

 グリフォンは最初、あっけにとられた顔をしていたが、すぐに回避行動を行った。

 グリフォンに避けられたことでなんの障害物もなく、最高到達点に達した俺は、右手に持っていた秘密兵器をグリフォン目掛けて投げつけた。


「グギュウァーー!?」


 グリフォンの体に絡まる縄。その縄の先端に括りつけられた拳大の金属の塊が数個。

 『ボーラ』と呼ばれる捕縛用の武器だ。対人の物もあるようだが、グリフォンの捕縛が本来の使用法に近いだろう。

 縄に余裕がなくなると、次は金属同士が引き合い、縄の弛みを締め上げる。

 ここからが俺のオリジナル。

 先端に取り付けた魔鉱の塊に【電撃魔法】を込めて、磁力で捕縛力を強化。

 さらに、まだ暴れるようなら電撃を直接体に流し込む二段構えの逸品だ。


 どうやら、グリフォンは電撃まで食らったようだ。

 全身をぐるぐる巻きにされた状態で地面に倒れている。


「さて、生きてるかな?」


 俺がボーラを使ったのは生きたまま捕獲したかったからだ。

 『叡知の書』によると、グリフォンを使役してた魔物使いがいたとのことなので、俺の配下モンスターにしてみようかなと考えたのだ。

 念願の飛行モンスターを手に入れるチャンスは逃したくない。

 失敗しても、少しすればまた『守護者』は現れるらしいので周回プレイも辞さない覚悟だ。

 


 結果からいってしまえば、この一体で成功した。

 目を覚ましたグリフォンはすぐさま俺達を威嚇してきたが、数回の説得・・で納得してくれた。


「よし、じゃあもうひとつ試してみようかな」


 今回、迷宮へ行くことになり、家の中を漁っているときに発掘した『召喚の書』を取り出した。

 召喚の書は、契約した相手をその場に呼び出すことのできるアイテムだ。

 具体的には、召喚したい相手の体に召喚用のしるしを刻むことで召喚の書に書かれているしるしとパスが繋がるらしい。

 今まで使っていなかったので、グリフォンにそのしるしを刻んでみた。


「痛くないか?」


「グギャ?」


 どうやら痛くないようだ。しるしを刻むのも本のページを押し付けるだけでいいみたいだ。流石ファンタジー、便利である。


「とりあえず、こいつを外まで連れ出すか」


 せっかく上層をクリアしたがこれでは先に進むが大変だ。元来た道を戻るはめになったが俺的には大満足だ。




 二度目の上層はかなり楽になった。一度目で見逃していた道や部屋をいくつか発見し、上層の地図はほとんど完成した。

 

「しかし、他の冒険者に全く会わないな」


 一周目の時から気になっていたが、この迷宮には俺たち以外いないのだろうか?


「今この迷宮にもっとも近い街の冒険者達が、主力の不在とモンスターの襲撃でかなり疲弊しているからではないでしょうか?」


 なるほど、今のウェフベルクの冒険者達ではこの迷宮で稼ぐのは難しいのだろう。

 上層では、オークの群れや蟲系のモンスターが少し出るくらいだ。

 手にはいる魔鉱石や素材も大したものはない。この迷宮で稼ぎたければ中層以降まで潜る必要があると言うわけだ。

 つまり、


「ヤクゥの兄貴は中層以降にいるってことか」


「その可能性が高いですね。おそらく、人の少ない迷宮ならうまみが大きいと考えたのではないでしょうか?」


「よし、なら俺達も中層に向かうか」


 すでに中層への階段の位置はわかっている。探索もこの辺にして中層へ向かうことにする。

 


 二度目のボス戦は、最初から全力で倒しにかかった。グリフォンを風魔法で動きを封じようとするが、完全には動きを止められない。

 仕方がないので、風で動きが少しにぶったグリフォンに水をぶっかけてそこに全力の【電撃魔法】をぶちこむ。

 【電撃魔法】はさすがの威力で、黒焦げになったグリフォンが天井から落ちてきた。

 手にはいった素材は『グリフォンの風切羽』だ。

 これは、風魔法の威力をあげる効果があるようで、このままでも多少効果を発揮するし、装備品にすればそれなりの効果があるとのことだ。

 帰ったらエミィにちゃんとした装備品にしてもらおう。




 意気揚々と向かった中層はまさに『迷宮』と呼ばれるにふさわしい場所であった。


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