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第50話




 フレイの話を聞くと、俺との対決に負けてからフローラの態度が冷たくなったらしい。

 あせったフレイが今朝、お嬢様にもっと頑張りますので許してくれと言いに行くと、


「ちょうど良かったわ。フレイ、私に本当の騎士様が見つかったの」


 そう言われたらしい。その後、フレイはずっと中庭であの謎の行動を取り続けていたらしい。

 正直、フレイがお嬢様の騎士を解任されようがどうでもいいが、このタイミングで現れた『本当の騎士様』とやらには興味がある。

 都合よく、ギーレンとお嬢様、そして、新しい騎士がギーレンの応接室に居るらしいので、少し顔を見に行く。

 もちろん、シルバーグリズリーを倒した奴の情報も欲しい。

 受付の秘書っぽい人にアポを取ってくれるように頼むと、応接室に向かってくれと言われた。

 こんな警備で大丈夫なのだろうか?

 応接室の前に行くと護衛が2人、扉の前に立っていた。なるほど、先ほどの受付は本当に受付だけする人のようだ。

 警備なんかはこの2人が担当なんだろう。


「ギーレンさんに用事があるんだけど」


「領主様は現在、来客中だ」


「その来客も俺の知り合いだよ。フローラお嬢様だろ?俺が会いにきたって言えば、中に入れてくれるよ」


 2人がなにやら話し合っている。まぁ別に無理やり入ろうとは思わない。


「少し待て、確認を取る」


「ああ、いいぜ、ついでに契約の2項と3項を良く思い出せって伝えて」


 護衛の1人が中に入ってすぐに部屋の中が騒がしくなった。どたどたと足音が聞こえたかと思うとすぐに扉が開いた。


「まったく、君ってやつは!!」


 どうやら気がついたようだ。


 2.1が守られている間、ヒビキは一週間に一度ギーレン・ブルクスに会いに行く権利を持つ。


 この文面、実は俺が尋ねてきた時点で絶対にギーレンは俺を出迎えなければならないのだ。

 一週間とは何か? 7日間で区切られるひとつの週だ。

 では、7日とはどこで区切る?

 月曜日?

 日曜日?

 それとも俺が最後にギーレンに会ってから7日後?

 では、そもそも何を基準として2項が守られているとする?

 俺が自発的にギーレンに会いに行った時が権利の行使になるのか?

 それとも、偶然会ってしまえば権利の行使になるのか?

 答えは、『分からない』だ。

 そして、答えが出るときは、3項が効果を発揮するときだ。それがどんな風に作用するかも分からない。

 つまり、契約を解除できないギーレンは俺の来訪を拒めない。

 出てきたギーレンが俺を睨む。おそらく早速、契約の解除を試して失敗したんだろう。


「どうかしましたか?領主様?ここにフローラお嬢様も居ると聞いて、あいさつをと思ったのですがお邪魔でしたか?」


「あの契約は何なんだ!?こんなことになるのなら私は・・・」


「どうやらお忙しいみたいですね。出直してきましょうか?」


 俺がそう言うとギーレンが慌てて止める。


「待て、待ちなさい。中で用件を聞こう。フローラ嬢がいるがかまわないかね?」


 もちろんだ。それも目的のひとつなのだし。俺が頷くとギーレンが中に案内してくれた。

 中に入るとソファーにフローラが座っており、紅茶を飲みながら近くに立っている剣士と楽しそうに会話している。


「まぁ、エヴィン様ったらそんなことまでご存知ですのね~」


「いえ、単にそういう経験があっただけのことです」


 どうやらあの男がフレイから『フローラの騎士』の座を奪った男らしい。

 ギーレンが応接室の奥のソファーに腰掛けて2人に来客を告げている。

 フローラは俺達を見て、まぁ、と口元に手をやり驚いているようだ。

 男は、興味が無いのか少し俺達を見てからすぐにフローラへと視線を戻した。


「またお会いするなんて奇遇ですわね。えっと、冒険者さん?」


 そういえばこのお嬢様に名乗ってなかったのを思い出した。


「ヒビキです」


 すると、近くの男が反応する。


「ヒビキ?もしや君は『全滅』かね?」


「えっと、そう呼ばれる事もありますね」


 剣士はそうか、とつぶやいて俺を見続ける。俺はそれを無言で受け流す。

 そんな沈黙を破ったのは、領主様だった。


「さて、ヒビキ君。君の用件はなんだね?」


「聞きたいことがあってきました」


 俺は、最近シルバーグリズリーを倒した奴の名前を尋ねる。

 すると、なぜかギーレンが剣士のほうを見る。


「シルバーグリズリーを討伐したのは俺だよ」


 剣士は、エヴィン・クルーガーと名乗った。


「なるほど、あなたがそうだったんですね」


「ああ、そうだ。ところで」


 エヴィンが俺の後ろで小さくなっているフレイを見る。

 フレイは視線に気づいておどおどしている。初めて会ったときの強気な態度はどこに行ったのやら。


「フレイ、だったか?まだ何か用があったのか?」


 フレイは何とかエヴィンを睨みつけ、言い放つ。


「お、お前が本当にお嬢様の騎士に相応しいのかを確認していない!!」


「決闘でもするのか?」


「そのとお、むぐぅ」


 話している最中に俺がフレイ(バカ)の口を塞ぐ。

 こいつはつい最近、決闘でぼろ負けしたのを覚えてないのか?

 俺がフレイにだけ聞こえるように小声で耳元に囁く。


「お前、このままやりあったらまた負けるぞ」


「ムーッ、ムッムー」


「黙れ、このままここで罰ゲームの一回目を始めたいのか?」


 罰ゲームときいて、フレイがガタガタ震え始めた。


「なにも、邪魔しようとしている訳じゃない。それどころか、お前に協力してやるよ」


 俺の目的はもちろんフレイの手助けではない。フレイを装備と戦術でできる限り底上げしてエヴィンと戦わせ、エヴィンの実力を見るのが目的だ。

 ルビーに確認したが魔族の反応は無いようだ。しかし、このタイミングで現れたこいつが無関係とは到底思えない。

 もし、フレイが負けても俺の損害はフレイに買い与える装備代くらいだ。

 それも、決闘が終わってから装備を回収すれば大したことはないだろう。


「さぁ、奴に決闘は3日後だと伝えるんだ」


「あ、あぁ、わかった」


 こうして、フレイとエヴィンの決闘は3日後に領主の城の中庭で行われることになった。





 ギーレンの城をあとにして俺たちは、すぐにティルの店に行く。

 フレイに新しい武器を買い与えるためだ。


「お前はガタイは良いから、長物を振り回せるよな?」


「わ、私は剣で戦いたいんだが~」


「ティルさん、なんかいいのある?」


 フレイを無視して武器を見繕う。


「そうだな、これなんてどうだ?」


 ティルがフレイをひとしきり見たあと、槍のような武器を渡してくる。


「ハルバートか、なかなかの業物だな」


 先程まで渋っていたフレイが手渡された武器を見て目の色を変えた。

 渡されたのは全長2mほど、槍のような先端と、側面には両端が反り返った形状の斧のような刃が取り付けられている。

 ティルの作品としては珍しく装飾が施されていた。どうやら先端の刃の部分は全て魔鉱で出来ているようだ。


「少し、先端が重くできてるんでな、結構な力がないと振り回せんのだがあんたなら大丈夫そうだな」


「少し振ってみたい」


 俺たちは、店から出てフレイを見守る。フレイは周りに何もないのを確認して、ゆっくりと確かめるように振り回し始めた。


 フレイが構えてハルバートを振る。ヒュン、と高い音が耳に届く。

 だんだんと速度をあげていくハルバートは、まるで竜巻のように唸りをあげる。

 やはり、こいつはまともに戦えば強いのだろう。


「良さそうだな。使ったことがあるのか?」


「ああ、基礎だけだがな」


 恐らく、騎士の学校のようなところで学んだのだろう。

 ティルさんにハルバートを購入することを伝える。

 あと、前に頼んでおいたオモチャもいくつか受け取った。

 


 買い物も終わったのでゴブリンの村に行く。

 最近、街の宿屋よりこっちにいる気がするが、仕方が無い。


「ラル、この村で強い奴を数匹連れてきてくれ」


 ラルにフレイの相手を見繕ってもらう。


 現れたのは、

 ロングソードを持ったゴブリンエリートが2匹

 鉄の槍を持ったゴブリンエリートランサーが2匹。

 そして、両手に剣を持ったただのゴブリンが1匹。


「このゴブリンが強い奴なのか?」


 ラルはしきりにうなづいている。まだ進化していないがかなりの使い手らしい。

 まぁ、戦ってみれば分かるだろう。


「この訓練で、強さを見せられればラルのように名前と武器を与えてやるぞ」

 

 選抜ゴブリンたちの士気が上がったようだ。

 まずは、ゴブリンエリートAとの戦いだ。

 ゴブリンエリートはゴブリンに比べると一回り大きいがそれでも人間の成人男性よりは小さい。

 大体、12~14歳くらいの体格だろうか。

 ハルバートをより使いこなさなければすぐに接近されてしまうだろう。

 


 両者がジリッジリッと間合いをつめ始めた。

 おそらく、後一歩近づけばハルバートが届くだろう位置で両者の接近が止まる。

 あの突進バカのフレイが自分から攻めない。ハルバートの性能を生かす為に迎撃に徹するつもりなのだろう。

 ぐっと体をたわませてハルバートの穂先を背中側に回し力を貯める。いくらでも待つと言う意思を相手に伝える。

 攻撃の主導権を与えられたゴブリンエリートAはしきりに体をゆすって攻撃の意思を相手に読まれないようにしている。

 しかし、フレイは全く動じない。痺れを切らしたのはゴブリンエリートAのほうだった。


「ギィーーー」 


 勢いをつけて、一気に駆け出す。すぐに来るであろうフレイの一撃に備えて剣を低い位置に構えた。

 しかし、いくら待っても攻撃が来ない。不審に思いフレイを見ると未だに構えから一歩も動いていない。

 反応できなかったのだろうと判断したゴブリンエリートAは、そのままさらに速度を上げて攻撃に移ろうとした。

 その時、フレイが持ち手を入れ替えハルバートの石突を両手でスライドさせながら突き出し、そのままゴブリンエリートAに突進していく。

 近いのは棒術などの突きだろうか。


「はぁぁぁ!!」


「ギッ!?」


 石突をゴブリンエリートAののど元近くで寸止めしそのまま動きを封じる。

 ゴブリンエリートAを気遣う余裕すらあるとは、こいつ、マジで強くないか?

 その後、他のゴブリンたちとも訓練させたが、まともに打ち合えたのはラルと、二刀流のゴブリンだけだった。

 約束どおり、二刀流のゴブリンには名前をつけてやることにした。


「お前の名前はムサシとする。あとで剣は用意する。二本必要なんだよな?」


 ムサシに確認すると、こくりとうなづいた。ティルの店でいくつか武器を買っていたが、いい組み合わせの2本が無かった。

 次までにいい剣を準備しておいてやろう。 



 さて、ゴブリン達に勝ち越したフレイが調子に乗っているので、いじめてやらねばならない。

 やれやれ、やりたくないがしょうがない。

 



 

  



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