第47話
ゴブリンの村に着くとラルたちに村の周辺の土を掘り返させた。
50匹で土を掘り返すのですぐさまそこら中に土の山が出来上がっていく。
「ルビー、頼むぞ」
俺の指示でルビーが土の山を食べ始めた。『白い粘土』の作成のためだ。
次々と土の山が消えていくがゴブリンたちも負けじと土を掘り返す。
「よし、こんなもんか。ラル、少しペースを落としていいぞ」
30分ほど土を掘り返して、ルビーが食べる。を繰り返した頃、ラルたちに交代で休むように指示して家に入る。
家の中ではすでにエミィたちが『白磁器』の作成の準備を整えていた。
「ご主人様、こちらの準備は整いました」
エミィに言われてルビーが作ってくれた『白い粘土』を取り出し、早速、丸皿を作成し始めた。
「難しいですね。綺麗に丸にならないです」
「アイラさん、こうやって手の中で回しながらやると綺麗な丸になりますよ」
「クフフ、この粘土とやらの感触がなんとも言えんのぅ」
みんなで話しながら皿を作っていく。
アイラはこういった作業があまり得意ではないようで、何度も皿のようなものを作っては壊しを繰り返している。
エミィは2回目なので多少慣れている。アイラにコツを教えながら皿を作っていく。
ジルは粘土の感触が気持ちいいのだろう。両手を粘土の塊に突っ込みぐにぐにと揉んで遊んでいる。
やはり、いきなりの素人に綺麗な丸皿を作らせるのは難しいか。こんなことならろくろでも作っておくんだった。
これでは戦力は俺とエミィだけだ。まぁ、今晩中に皿を20枚作り上げられればいいのだから、何とかなるだろう。
黙々と作っているとゴブリンが粘土を持ってきてくれた。ルビーはまだ、外で土を食べ続けているだろう。
「ギギッー」
「うん?お前もやりたいのか?」
粘土を持ってきたゴブリンが俺達の作業を見て、参加したいと言ってきた。
こういったことに興味を持つゴブリンも貴重だろうから皿作りに参加させる。
「ギー、ギー」
「へぇ、結構うまいじゃないか」
参加したゴブリンは手先が器用なようで、製品になりそうな皿を完成させていた。
成形済みの皿も数枚出来てきたので釉薬をエミィに渡し、完成品に仕上げてもらう。
完成した『白磁器』を見て、アイラ、ジルが驚きながら恐る恐る触っている。
「すごいのぅ、まるで宝石のような光沢じゃのぅ」
「本当に、綺麗です」
『我にもぜひ見せて欲しいのだが』
「きゃっ」
声の主は、エミィの腰の鞄の中にいる。
「いきなりだな、『叡智の書』。お前、食器にも興味があるのか?」
『ああ、持ち主よ。我の興味は全ての未知に向けられる』
鞄から取り出してもらった『叡智の書』が机の上の『白磁器』に興味深々だ。
『おお、この光沢。すばらしい。ぜひ製造方法を教えて欲しい』
「そうだな、教えてもいいが俺達が死ぬまでは誰かに聞かれても答えないでくれよ」
『製造方法の秘匿は新しいものを作った者達にとっては当然だ。約束しよう』
簡単に作り方を教えてやる。『叡智の書』はふむふむと話を聞いていた。
辺りが暗くなる頃にはアイラとジルも大分、皿作りになれてきていた。
特にジルにはこういった才能があったのだろう。独創的な作品をいくつも生み出していた。
「どうじゃ、ワイバーンの置物じゃ」
最初は粘土で思いつくままの形を作って、焼成後にボロボロになる。
を繰り返していたのだが、いつの間にか置物を完成させていた。
今回の納品は皿がメインだがこれらもいくつかサンプルとして渡すのもいいだろう。
それと、あの後陶芸に興味を持ったゴブリンが3匹に増えた。全員、ノーマルのゴブリンだがすでに十分戦力になっている。
「ギギギ、」
「ギギーギ」
「グゲガ」
今も楽しそうに3匹で何か話しながら皿を作っている。これなら皿作りをこいつらに任せられそうだ。
まぁ、仕上げにはエミィが必要だが。
粘土のストックも出来たのでラルたちに作業の終了をつげ、解散させた。
ルビーも今掘り出してあった分の土を回収して家に戻ってきた。
「お疲れルビー」
ルビーを労うと嬉しそうにぷるぷる震えた。
ノルマの丸皿20枚もクリアできたし、新製品も増えた。
明日の準備はばっちりだろう。今日は色々ありすぎた。大人しく添寝だけでゆっくり眠ろう。
朝起きると、またもや両手両足を幸せ固めでロックされていた。
今日の約束は別に時間までは決められていないので何時に起きてもかまわないのだが目が覚めてしまった。
すると俺の身じろぎで起こしてしまったのだろうか、アイラの耳がピクピク動いきその後、すっと目も開いた。
「おはよう、アイラ」
目を覚ました瞬間に目が合う。
「おはようごじゃいます、ごしゅじんさま」
起き抜けの為か少し言葉が怪しいがにっこりと微笑んでくる。
アイラの頭の下に置かれた右腕をアイラの頭に回し、よしよしと頭を撫でる。アイラはくすぐったそうにしているが顔を俺に擦り付けてくる。
可愛いなぁとほのぼのしていると、首をぐりんと左側に回されてしまった。
「ぐぅぁ」
無理に首を回されたため変な声が出てしまう。俺にそんな声を上げさせた張本人はニコニコと笑顔であいさつしてくる。
「おはようございます。ご主人様」
「お、おはよう、エミィ」
返事を返すがエミィは不満げだ。少し考えてアイラにしたように左腕でエミィの頭を撫でてやる。
「はふぅ」
ようやく機嫌を直してくれたようだ。
「この流れじゃと次はわらわかのぅ。しかし、足で撫でられてもあまり嬉しくないのぅ」
ジルも起きたようで両足の拘束を緩めてくれる。
「おはよう、ジル。悪いがそんな趣味は無いぞ」
「わらわにも無いのぅ。出来れば掌で撫でて欲しいものじゃ」
すでにアイラもエミィもベッドから出ている。両腕はフリーだ。せっかくなので両足に絡み付いているジルを両腕で抱き寄せてハグをする。
ぎゅーっと音がするくらいに抱きしめるとジルの匂いしかしなくなる。
「クフフ、情熱的じゃのぅ。わらわは別にこのままでもいいんじゃが、どうやらそうもいかんようじゃ」
「うん?」
後ろを見ると、アイラ、エミィと一列に並んでいる。どうやらハグ待ちのようだ。
名残惜しいがジルを両腕から解放し、順番待ちのアイラをハグする。
「むぎゅー」
アイラは、口でむぎゅーと言いながら俺の背中に手を回しハグを返してくる。
30秒ほどでアイラを解放するとどこかぽぁぽぁした様子だったが大丈夫だろうか。
「むぎゅー」
次は、エミィの番だ。エミィも口でむぎゅ―と言っているが流行っているのか?
やはりエミィも30秒ほどハグして放してやる。
さてこれでやっと朝飯にありつけると思っていたのだが、ジルがエミィの後ろに並んでいた。
「わらわは一度少ないからのぅ」
2度目が有りだと判断した2人がジルの後ろに並ぼうとするのを何とか止めてジルを軽くハグして今朝はこれでおしまい。と宣言した。
この日から、『朝のハグは2回まで』と俺達パーティの間で決定した。
まぁ、背面からの抱きつきはノーカンとか、腕なら有りとか色々法の網をかいくぐるような寝起き戦争が繰り広げられるのだが、それは今は関係ない。
ようやく朝の準備が終わり、納品する品物の検品を済ませて、街へと出発する。もちろん品物は綺麗に箱詰めしてルビーの体の中に入れた。
ラルたちにはルビーの吐き出した土をならしてもらい、そこを畑にするように指示しておいた。
ゴブリンにそんなことが出来るかはわからないが、やらせてみた。
街まではモンスターに襲われることも無く到着した。これがラルたちのおかげなのか、周りにモンスターが居なくなってしまったのかどちらなのかは不明だ。
「さて、早速錬金術師ギルドに向かうか」
「そうですね。フランクさんもきっと待っていらっしゃいます」
錬金術師ギルドに着くと鑑定の時の受付のお姉さんが俺達の事を覚えていてくれたようで、すぐにフランクに取り次いでもらった。
「やぁ、いらっしゃい。待ってたよ」
フランクの応接室に案内された俺達を笑顔で迎えるフランク。
「依頼の品の納品に来ました。確認ください」
足元においてあった木箱をあけて、中の皿を取り出しフランクに渡す。
「うん、確かに。しかし、いつ見てもすばらしい」
「それと、食器ではないんだがこんなものも準備した」
ジルの作ったワイバーンの置物を数個、机の上に並べる。
「手作りになってしまうんでね、どうしても一つ一つ違うものになるんだが、どうだろうか?」
「これは、『白磁器の置物』かい?」
「ああ、俺の国では魔除けの効果があると信じられている」
嘘ではないだろう。シーサーや狛犬は陶器で出来ているものもあるし、原材料に魔鉱石の粉末も使っている。何がしかの効果があるかもしれない。
「そうか、これはワイバーンを模しているのかね?」
「ああ、そうだ」
「他の生き物も作れるかね?」
俺は、ちらりとジルを見る。ジルも視線に気づき、小さく頷く。
「ああ、可能だ。何かオーダーがあるなら応えよう」
その場合は、その生き物の資料と追加料金をいただくと伝えておいた。
「うんうん、これも実に貴族様好みだね」
商談は成立し、約束の金貨10枚を受け取ってギルドを後にする。
次の期限はあと3週間あるが、できるだけ早く納品してもらえると助かるとフランクに言われたので、できるだけ頑張ると伝えた。
次は冒険者ギルドだ。昨日の争奪戦の賞品を受け取らなければならない。