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第45話


 フレイは、すでに完全武装で広場で待っている。俺はルビーからいくつか受け取るものがあったので少し遅れて広場に向かった。


「遅い!!どうせまた、卑怯な攻撃のための準備をしていたんだろう」


 フレイの言う通り、絡め手の準備をしていたがそんなことは全く顔に出さずに答えてやる。


「なに言ってるんだ?こっちはすでに何戦もしてるんだぞ。そりゃあ準備くらいするさ。ああ、そうか『誇り高い騎士』様は自分さえ良ければ良いんだっけ?」


「お、のれ~」


 審判が慌てて決闘の開始を告げた。この決闘は一応争奪戦のエキシビジョンマッチ扱いだ。

 さすがに私闘を簡単に認めるわけにはいかなかったのだろう。


「はぁあああ」


 真正面から突っ込んでくるフレイ(バカ)の足元の少し先の土を操作して、穴を作る。

 サイクロプスにも使った手だが今度は規模が小さいため簡単だ。

 勢い良く足を突っ込んですっ転び、前転を繰り返して俺のすぐ手前でようやく止まるフレイ。

 目を回したのかふらふらとしながら何とか立とうとするがうまく行かない。

 俺はその隙を見逃さずに剣先をフレイの顔に向けてやる。


「うっ、」


「はい、俺の勝ち」


「ま、待て!!今のはおかしい!!」


「・・・お前なぁ、さっきも言ったが戦場でも同じセリフをはくのか?」


「う、が、あ」


「まぁいいさ、好きなだけ相手をしてやるよ」


「そ、そうか。よし、お前なんて油断さえしなければ負けるはずがないんだ!!」


 そして始まった2戦目。

 またもや、フレイ(バカ)が突っ込んでくるので今度は分かりやすく『卑怯』な手を使う。


「セイッ、ヤァ!!」


 なかなか鋭い太刀筋だが防御に集中していれば難なくかわせる。

 かわしながらルビーから受け取った『麻酔薬』の薬瓶をあけて、風でフレイの周りを漂わせる。


「はぁ!!、チョリャ~、ヒョコダ~」


 段々ろれつが回らなくなって来た様なので、頃合を見て手から剣を弾き飛ばしてやる。


「はい、また俺の勝ち」


「ひがう、こんなのらめだ。ひきょうものめ~」


 まだやるというので、薬の効果が切れるまで30分ほど待って、3戦目を行った。


「こ、今度こそ!!」


 こいつに学習能力は無いようだ。真正面からくるフレイバカを今度は【水魔法】で新たな実験の被験者にしてやる。

 水魔法の応用で粘液ローションを作り出し、フレイの両手にかけてやる。

 

「な、なんだこれは!?くそ、ぬるぬるする」


 フレイは始めてみるだろうローションに戸惑い手に力を入れる。

 その瞬間、頼りにしていた愛剣は彼女の手からスポーンと飛んで行ってしまった。

 あわてて、剣を取りにいくがローションまみれの手では剣を握れないようだ。

 このまま、3戦目を終わらせてもいいのだがそれではつまらないだろう。

 新たに大量の粘液ローションを作り出し、フレイに頭からぶっかけてやった。


「うわっぷっ」


 息をするのも困難なくらいに大量の粘液を浴びたフレイは今度は自分の体を支えるのに精一杯になっていた。

 何度も地面にたまったローションの池に頭から突っ込んでいる。

 全身粘液まみれで体をくねらせるフレイはなかなかエロい。あれ、エミィが笑顔でこっちを見てる。何でだろうすごく怖い。

 エミィからプレッシャーに押されてさっさと終わらせることにした。


「なるほど、隙だらけだ」


「き、きさま!!真面目に戦う気は無いのか!?」


「真面目に戦ってるよ。俺から言わせて貰えば、お前こそ真面目に戦ってるのか?」


「なんだと!?」


「じゃあ、バカなのか?毎回、同じような突進しかしてこないけど」


「私の突撃を馬鹿にするな!!」


「まぁ、好きにしろよ。それで負けるのはお前なんだから」


「ぐ、ぐぞぉ」


「で、まだやるか?」


「あだりまえだ!!」

 

 鼻声なのは粘液だけのせいではないだろう。水魔法で粘液を洗い流してやり、火魔法と風魔法で服まで乾かしてやった。

 そこまで俺ににしてもらいながら、お礼も無く4戦目は始まった。


「ぐぅ~~」


 今度は少し成長したのか、いきなり飛び出さずこちらを睨みながら隙をうかがっている。

 しばらく様子を見たが、なかなか動かなかったのでこちらか近づいてやる。

 スタスタと間合いをつめて刀が届く範囲まで来たところですぐさま刀を振るう。

 フレイはあっけに取られたのかポケーと俺を見ていたがすぐにはっとして刀を避ける。

 しかし、すぐさま追撃を仕掛ける。フレイは体勢を崩したままゴロゴロと地面を転がり攻撃を避けている。

 そのまま広場の端まで追い詰めて、4戦目は終了した。


「まだ、「やる!!」そうか」


 すこし被せてくるほど悔しいのだろう。すでに涙目になっている。

 5戦目。そろそろ、本気でフレイを倒しにかかる。


「いくぞ~」


 親切にも声をかけて攻撃をしてやる。風を操り追い風を背中から受けて加速。【選別】で相手の剣を認識してそこまで一直線に向かう。

 フレイが迎撃を行おうとするが、遅い。フレイの剣が構えを取るのと俺の刀がフレイの首筋1cm手前で止まるのがほぼ同じタイミングだった。


「フレイ、まだやるか?」


「や、」


「良く考えて答えろ。次からはもうこんなにやさしくない。俺の試合を見てたんだろ?相手は、がたがた震えて動けなくなったり、白目向いて倒れたり、触れてもいないのにぶっ倒れたりしてただろ?」


「あ、う、あ」


「お前にはもっとすごい攻撃をしようか?全身から血が噴き出して倒れるとか、体をいくら切り刻んでも死なない、いや死ねない、とか。どうだ、フレイ、ま・だ・や・る・か?」


 今のところそんな技はまだ開発していない。そう、今のところは。


「わ、私の負けだ」


「『負けだ』ぁ?」


「ひぃっ、わ、わたしのまけです。ごめんなさい!!」


「よし、じゃああとは罰ゲームだな。5回分も考えなきゃいけないんだから時間をくれよ」


「ご、5回?」


「ああ、お前何回俺に負けたんだよ?」


「ご、5回、です」


「だろう?じゃあ5回分の罰ゲームが必要だよな?」


「は、はい。その通りです」


 フレイの罰ゲームは後のお楽しみに取っておく。

 道草を食ったが今はこの街にいるらしい魔族についてギーレンから話を聞かなければならない。




「どうやらあのネクロマンサーをそそのかしたのは邪神ではなく、魔族のようなんだ」


 さきほど城に着いたときと同じ内容を告げられる。


「それはさっき聞いた。もっと詳しい情報は無いのか?」


 ギーレンがネクロマンサーの男を確保しているのだから一番情報を持っているのはこの男だろう。

 ギーレンが言うには、ネクロマンサーの男は魔族とこの街の中で出会ったらしい。

 サイクロプスの死体を提供され、あの日の夜にモンスターが大群で攻めてくるので街中をゾンビで混乱させろと指示を受けたらしい。


「完全に末端だな。その魔族が本当にこの街にいるのかも分からんな」


「しかし、あの男は街の中で会ったといっている」


「まぁ、いないとは言わないが」


「そこでだ。君達へのお礼の件なんだが、『魔族探知機』を贈ろうと思うんだが」


「魔族探知機?」


 魔族探知機は作成に時間がかかり、その上起動させるのに魔鉱石が大量に必要になるらしい。

 その為、確かに高価な代物だ。お礼として贈るにはいささか以上に効果が限定的だが。

 

「本当は、領主の財産だから借用しか許可しないんだが、今回は特別に君に差し上げようと思ってね」


 特別だぞ!!とこちらをゆびさすギーレン。

 こいつ、今度は魔族狩りに俺達を引きずり出すつもりだ。

 なにが特別に俺に送るだよ、ただの計算じゃねえか。


「そうか、じゃあありがたく貰っていく。さて、アイラ、エミィ、ジル、明日にはこの街を出るから宿に戻って出発の準備をしようか」


「ちょっ、ちょっと待ってくれ!!どうして出て行くんだ!?」


「どうしてって、この街には魔族がいるかもしれないんだろ?危ないじゃないか?」


「き、君は自分の事しか考えてないのか!!高価な『魔族探知機』を君に譲ると言っているんだぞ!!すこしは街の事を考えたまえ!!」


「俺が、自分の事しか考えていない?おいおい、自分の事しか考えてない奴ってのは、他人の獲物を横取りしてあまつさえそれを事故のように語って仲間面する奴の事じゃないか?」


「う、ぐぅ」


「どうしました領主様?別に誰の事とも言ってませんが?ああ、そういえば連絡が遅くなった謝罪がまだでしたね?もちろんワザとじゃないでしょうけど?」


「あ、あたりまえだ!!」


「そう、ワザとじゃない。でも、俺は迷惑をかけられた。さて、どうしましょう?」


「これ以上何を望むというんだ!?」


「別に何かが欲しいわけじゃないですよ。ただ、迷惑をかけられたなぁ、これじゃこの街で気持ちよく仕事が出来ないなぁと思っているだけですよ」


「しかし、それは、しかたなかったんだ!!ほかに分配できそうなものが無くて」


 とうとうギーレンがぶっちゃけだした。そろそろ頃合だろう。


「ええ、分かってますよ。他の冒険者達への報酬の為でしょう?だったら一言言ってくれれば俺もこんなに機嫌を悪くしなかったんですがね」


「う、う、う」


「だったらこうしましょう。ギーレンさんあなたは今回の件を反省してる。そうですね?」


「あ、ああ」


「なら今後こういったことがないように俺の権利を最優先に守るように『契約』してください」


「け、契約?」


「ええ、うちの奴隷に『契約』の魔法が使える奴がいますのですぐにはじめましょう」


 契約内容は、

 1.ヒビキがウェフベルク街、及びその周辺にいる場合、ギーレン・ブルクスはヒビキの権利を最優先に守らなくてはいけない。

 2.1が守られている間、ヒビキは一週間に一度ギーレン・ブルクスに会いに行く権利を持つ。

 3.1、2が破られた場合、ギーレン・ブルクスの持つ全ての資産をヒビキに譲る。


「こ、これに同意すれば今回の件も水に流してくれるんだな?」


 ギーレンが何度も文面を確認して俺に聞いてきた。


「ええ、もちろん。ネクロマンサーの捕縛とウェフベルクの街の防衛の報酬は『魔族探知機』で結構。連絡ミスについてはこの契約が成立すれば水に流します」


 ギーレンがほっとしている。『契約』の魔法は絶対ではない。同ランクの『契約解除』の魔法さえあれば解けてしまう。

 本来、『契約』の魔法は蜜蝋などと同じで破られていないのが大事なのだ。

 商人が交わした契約を『契約解除』で破ればその商人の信用はガタ落ちになる。

 逆に結んでいる契約の数がそのまま商人の評価にもつながる。

 しかし、ギーレンは商人ではないし、この契約を結ぶことを公にはしない。つまり、いつでも『契約解除』できると考えているのだ。

 契約内容に契約解除した場合の文面も無いため完全に油断しているのだろう。

 しかし、この契約は『血の契約』だ。そもそも『血の契約解除』を行えるものがいないだろう。

 後で気づいてせいぜいショックを受ければいい。


「これで、契約成立だ」


 準備した羊皮紙に契約内容をしたため、2人が羊皮紙に血を一滴ずつ垂らす。これは、『血の契約』が廃れる前の名残だそうだ。

 血の契約には文字通り血が必要なため、今回はそれが役に立つ。

 改めて魔族討伐の依頼を領主から直接受けることになってしまったが、成功報酬は悪くない。

 フレイたちをここまで連れて来た『お礼』も受け取ったのでふところは暖かい。

 意気揚々と城の出口に向かっていると錬金術師ギルドの支部長、フランクとばったり出会った。


「おお、ヒビキ君。エミィ君」


「フランクさん、どうしてここに?」


「いや、なにモンスターの素材が大量に入荷したと聞いてね、確認と仕入れに来たのだよ」


 なるほど、ネクロマンサー事件の時のモンスター素材か。しかし、支部長自ら買い付けとはなかなか大げさだな。


「うん、私は昔から自分の目で見ないと気がすまないのでね。それに明日はあの日だからね。出来るだけ仕事を残しておきたくないんだよ」


 あの日?何の日だろう。考えているとエミィが青い顔で袖を引っ張る。


「ご主人様、明日は白磁器の納品の日です!!」


 すっかり忘れていた。全く準備していない。俺はラル達と一緒にゴブリンの村にとんぼ返りすることとなった。



 




次の話はフレイのカコバナです。

フレイ、護衛としてダメすぎというご意見をいくつか頂いたので少々掘り下げようと思います。

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