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第35話




 ラルたちが街周辺の覇権を得たため、この辺の森にはいい相手がいない状態だった。

 少し考えて『魔物の荒野』で腕試しをすることにした。

 モンスターのレベルは格段に上がるらしいが、ここ数日各ギルドで聞いた話やギルドにいる冒険者達のレベルを見て無謀というほどではないと判断した。

 万が一に備えてゴブリンエリートの部隊をすぐ近くの森に配置した。さすがに荒野ではゴブリンたちの一団は目立ってしまうのでしょうがない。

 魔物使いが使役してもおかしくないアイラの配下たちは普通に連れて行くことにする。


「ああ、そうだ。アイラ、デューオたちにあれ着けてやって」


「はい、わかりました」


 魔物使いギルドに行った時に気づいたのだが、配下のモンスターになんらかの目印をつける魔物使いが多いようだ。

 魔物使いの使役するモンスターには他の野生のモンスターとの外見的な違いが無いため、乱戦の時のフレンドファイアや魔物使いから離れて行動したときに別の冒険者に狩られてしまう恐れがあるのだ。

 それを防ぐために首輪を着けたり、刺青をモンスターに施したりするらしい。刺青も装備品扱いと聞いた時には驚いた。

 今日はデューオたちに首輪をつけてやる。クインは首につけるのを嫌がったので右の鎌の付け根に巻いてやった。

 首輪もエミィお手製で俺の魔力入りの特別製だ。これを作るときにアイラとやや揉めた。自分もその首輪が欲しいと。

 俺はすぐにオッケーをだしたが、エミィがすぐには無理だと教えてくれた。亜人奴隷用の首輪は外すのに何らかのスキルが存在するらしく奴隷商に外してもらう必要があるようだ。

 せっかくだから魔宝石を使った首輪を作ってそのまま奴隷商で付け替えようと話した。

 首輪作成をエミィに頼んでも良かったのだが、そこはデートの時の約束で、一緒に作りに行くことにした。

 エミィもその話を聞いて、その次は私ですよね?とプレッシャーをかけてきた。やはり昨日の契約からエミィの積極性が増している気がする。

 2人との2回目のデートはしばらく先の事だ。今は冒険者としての活動を優先する。


 

 俺達は準備万端で『魔物の荒野』に乗り出した。

 

「では、ゴーストたちに偵察をさせてみるかのぅ」


 前方と左右に数体ずつのゴーストを向かわせるジル。ゴーストが役に立つところを見せてやると意気込んでいた。

 こんな真昼間にゴーストを使って大丈夫なのか聞いたら、夜のほうが動きはいいが別に昼でも問題無いそうだ。


「うむ、あるじよ。前方にオーガがおるようじゃ。数は2匹。ここからそんなに遠くないのぅ」


 言われて前方に目を凝らすと確かに何かが動いている。

 オーガは身長2mを越える体と発達した両腕から繰り出す強烈な一撃が危険なモンスターだ。油断すれば中堅の冒険者でも全滅する。

 慎重に近づいて行くと一匹のオーガは、座り込んで元気がない。

 もう一匹は逆に元気がありすぎる。両腕を地面に叩きつけている。腕を下ろす度に地面が陥没して辺りはクレーターだらけだ。


「オーガっていつもこんな感じなのか?」


 オーガのステータスを確認しながらみんなに聞いてみる。ちなみに座り込んだオーガはLv.32、元気なオーガはLv.34だ。 


「そんなわけないじゃろ、ゴーストどもの攻撃のせいじゃ」


 ゴースト系モンスターのスキルでオーガたちを『脱力』、『恐慌』状態にしたらしい。

 ダルゴーストが『脱力』の状態異常を、パニックゴーストが『恐慌』の状態異常を起こすスキルがあるらしい。


「オーガみたいな単純なやつらには相性が良いからのぅ」


 『恐慌』はデューオの【咆哮】でも陥る状態異常だがこんな感じなるのか。さらに近づいた俺達にまったく気がついていない。

 俺たちは『恐慌』状態のオーガの後ろからそっと近づき、新調した武器で総攻撃をかけた。

 新しくした日本刀のような刀、―――銘を【絶霧ぜつむ】と付けた―――ククリ刀を【鋭牙えいが】、マインゴーシュを【護手まもりて】と名づけた―――はオーガの硬い肌に難なく刃がとおりそのまま丸太のような右腕を中程から断ち切った。

 少し大きめの咆哮をあげこちらを向こうとするが、その背にはすでにアイラの太刀―――が突き刺さっていた。背中から進入した刃は狙いたがわずオーガの心臓を貫いていた。

 まともな抵抗も無く一匹目を仕留めて、もう一匹に視線を向けるが『脱力』状態のオーガは未だにボーッとしていた。

 ここまで無抵抗だとなんだかやりにくいが、せっかくなのでパーティーで一番レベルの低いエミィにオーガを倒させた。

 オーガを倒しきるとエミィはレベルが上がっていた。やはり一回りは違う相手を一人で倒すと入る経験値がすごいようだ。

 『オーガの角』を回収して次の獲物を探す。


「うむ、あちらにオークの群れがおるな。『恐慌』状態にしておいた」


 いわれた方向に向かうとすぐにオークの群れが現れた。がオークたちは戦えるような状態ではなかった。

 先ほどのオーガは一匹だけが『恐慌』状態だった。そのため、無意味な攻撃を地面に繰り返していたのだろう。

 しかし、今回のオークは30匹もの群れだった。そのため、群れの中で争いが起こっているらしい。

 今回のオークの群れの平均レベルは20ほど、森であった個体よりもレベルだけなら上だった。さすが『魔物の荒野』のモンスターだ。

 

「あんな乱戦に突っ込んだらまずいな。エミィ、指輪の力を貸してくれ」


「はい、あの群れの真ん中に特大の火球を打ち込めばいいですか?」


「いや、俺が操るからオークの周りに炎を撒いてくれ」


「かしこまりました」


 俺の命令を聞いてすぐにエミィが炎を放つ。オークの群れの近くにいくつか火柱が上がる。

 それを見届け、俺は炎を支配下に置いた。さらに風魔法でオークたちを中心にゆるい旋風を生み出す。

 クェスのあだ名でもある火炎旋風ファイアーストームの再現だ。実物は見たことが無いため勝手なイメージだがこんな感じだろう。

 風は炎を巻き込み円を描いて上昇する。炎は空気を暖め上へ上がる風をさらに押し上げる。酸素の薄くなった下部に風魔法で新たな空気を送り込む。

 やや時間はかかったが、俺の作り出した火炎旋風ファイアーストームはオークの群れを完全に包囲し、すでに内部の状況が分からないほどに炎が荒れ狂っている。

 中から聞こえていた奇声が完全に消えたのを確認して、ゆっくりと風を散らし、炎を消していった。

 中に残っていたのは、こんがり焼きあがった『オークの肉』だった。どうやらやりすぎて素材まで焼いてしまったようだ。

 

「いやはや、すごい威力じゃな。ゴブリンといい、今の魔法といい、わらわの主はすごいのぅ」


「森で使っていた魔法よりすごくなってます」


「そういえば、クェスさんに魔法を教えてもらったと仰ってましたね」


 仕方が無いので良い焼き加減の肉をいくつか見繕い昼食にする。

 オークの肉は脂身があって焼いただけのものに持参していた塩を振っただけでも結構うまい。

 残った肉はルビー達に与えた。そこら中に散らばる肉を一度ルビーがすべて集めて、デューオ達に分け与えている。こんなところで【統括者】っぽいルビーをみるとは思わなかった。


「ふう、腹もふくれたな。ジル、次はどこだ?」


「せっかちじゃのう、食休みが欲しいところじゃ」


 不満を漏らすジルにデコピンを食らわせて次の獲物に案内させる。そもそも食後30分はすでに経っている。十分休んでるじゃないか。


 次の獲物はパラフラワーという植物のモンスターだった。その場から動かず、群生している。

 近づいてきた人間を麻痺効果のある花粉で動けなくしてそのまま人間の体を苗床に増えていくのだ。

 ジルによるとこいつらには知性と呼べるほどの意識が無いため状態異常はかけられなかった。

 そのまま近づくと植物のくせに実のようなふくらみに口と歯がついてこちらを威嚇してくる。

 パラフラワーが動けないのをいいことにエミィに魔法弓で相手の攻撃が届かない所から次々と倒させる。

 群生しているパラフラワーをすべて倒し終わるとエミィのレベルがまた上がっていた。

 パラフラワーから『しびれごな』を回収した。


「うむ、『麻酔薬』の原料じゃな」


「詳しいな」


「なに、ネクロマンサーという職は薬品の扱いも時に必要なんじゃよ」


 なるほど、と後ろでエミィがうなづいている。うちの薬学担当はエミィだったから、これを機に2人が仲良くしてくれると嬉しい。

 移動のためにジルに周りの様子を教えてもらう。


「あちらにギガバッファローの群れがおるな。む、ゴーストの攻撃が効かん。恐らく群れのボスに邪魔されておる」


 ゴースト召喚役に立ちすぎだ。それをジルに伝えると少しだけ頬を染めてそっぽを向いてしまった。


「とりあえず近づいてみよう。ジル、数は分かるか?」


「そうじゃな、30匹くらいかの」


 ギガバッファローは体が大きくてそれなりに強いモンスターだ。


「出来れば分断して倒したいな。『ギガバッファローの肉』は確かギルドでも収集依頼のあった素材だ」

 

 『ギガバッファローの肉』は赤身の肉で結構うまい。シチューなんかに良く入っている肉だ。


「デューオとルオに分断させますか?」


 アイラが提案してくる。しかし、30匹のギガバッファローにたった2匹で突っ込ませるのは少し不安だ。


「指輪の炎を使いましょうか?」


 エミィも意見を出しくれる。確かに炎で相手を混乱させて分断するのはいい考えかもしれない。しかし、分断後にその炎が俺達の連携を阻害する恐れもある。


「ゴブリン達に手伝ってもらえばよかろう。この辺は街からそれなりに離れておるし、念のため近くに人間がいないかゴーストたちに調べさせよう」


 ジルがほぼ満点の答えを出した。


「そうだな、こっちも数で対抗するか」


 懐から魔物笛を取り出して吹く。するとすぐにラルと数匹のゴブリンエリートがやってくる。

 ラルにこの先にいるギガバッファローの群れを狩ると伝えるとゴブリンエリートの一匹がすぐに森に戻っていった。

 ラルに囮を頼んで俺達で側面から攻める。そんな大雑把な作戦を立てた。

 ラルたちが正面からギガバッファローに突っ込んでいく。やや形はいびつだがしっかりと突撃陣形を維持して突っ込んでいく。

 ギガバッファローたちの意識が完全にラルたちに向いたのを見計らい俺達は側面から総攻撃を仕掛けた。

 まずデューオたちに先陣を切らせた。すでに両手に太刀を持ったアイラが彼らのすぐ後ろについている。何かあればすぐに前へ出てデューオたちを助けるつもりなのだろう。

 俺は突進しながらも風魔法で砂煙を起こし出来るだけ群れを分断しながら【絶霧】で手の届く位置にいるギガバッファローを倒していた。

 エミィは魔法弓が届く距離から援護をしてくれている。レベルアップのおかげか、命中精度が上がっている気がした。

 ジルはエミィと一緒にいた。クインに護衛してもらいながらゴーストたちで戦闘を助けてくれている。

 拮抗していたラルの部隊とギガバッファローの戦闘は俺達の参戦によって一気に崩れていった。

 30分経った頃にはギガバッファローはすべて倒されていた。お目当ての『ギガバッファローの肉』を回収して何とか一息つく。


「ふう、集団戦はやっぱりきついな」


「はい。乱戦になるとルビーたちへの指示も難しくなりますね」


 先ほどの戦いでアイラは魔物笛を吹きっぱなしだった。


「魔法弓も魔鉱石や矢をこめるタイミングは隙だらけになりますね」


 魔法弓は打ち出す力を魔鉱石にこめた魔力でまかなっている。そのため、魔力切れと弾切れの二つを気にしながら戦わなければいけない。

 つい先日まで、単発での攻撃しかできなかったのに、魔法弓のおかげでかなり援護攻撃が行われるようになっていたが、今度はそれが途切れるのに不満が出てしまう。

 まったく人間と言うのは欲深い生き物だ。 


「それは火と風の魔法弓をうまく使い分けて対応してくれ。こっちも気にするようにしておくから」


「はい。一回の戦闘で両方使い切ることは無いと思いますが、索敵中に矢込めと魔鉱石交換を終わらせておきます」


「戦闘中の矢込めならわらわも手伝おう。戦闘が始まってしまえばゴーストたちへの指示も必要ないからのぅ」


「お願いしてもいいですか?」


「うむ、戦闘中にエミィがあたふた動いているのを横で見ているだけなのは心苦しいのでのぅ」


 薬の話に加えて戦闘中にもこの2人は近くにいることが多い。多少は仲良くなってきているのだろう。


「まあ、とりあえず今日はこの辺でいいだろ。ラルたちを森に引き上げさせるぞ」


「うむ、なかなか充実した狩りじゃった」


 ジルが満足そうに頷いている。ふと疑問に思ったので街へ戻りながらジルに質問する。


「そういえば、お前本当にゴーストしか使わなかったな。まぁパーティにいる分には十分に役に立つんだけど、それでどうやって戦ってたんだ?」


「うん?戦ってなどおらんよ。今まではパーティになぞ参加したことがないしのぅ。さすがに物理攻撃が全くできんわらわでは役にたたんじゃろうからな」


「そうか、ちなみになんでゾンビの召喚がいやなんだ?」


「ゾンビにはいい思い出が無いんじゃ」


 ジルが嫌な顔をして言葉少なく答える。


「そうか、ちなみにほかのアンデッドならどうなんだ?」


「他の?」


「いや、ほらスケルトンとか、デュラハンとかフランケンシュタインとか?」


 フランケンシュタインはどっちかと言うと人造人間か。


「アンデッドって、ゾンビ以外にもいるのか?」


「え?」


 詳しく聞いてみると、ジルのネクロマンサーの技は独学らしい。家にあった死霊魔法の儀式の本だけでここまでの腕になったようだ。

 ただ、家にあった本と言うのがゴースト召喚とゾンビ召喚の一部しか乗っていなかったようだ。

 ゾンビ召喚が苦手になってからは全くゾンビのことには触れていないようだ。

 誰かに指摘されなかったのか聞くと答えずらそうに、友達などおらん、と答えた。

 せっかくのネクロマンサーだ。実力を存分に発揮してもらおう。魔術師ギルドで関連書籍を探して買ってやろう。


「ゾンビにも色々あるんだよ。ジルが苦手なのは、腐りかけた死体みたいなゾンビだろ?」


 腐りかけた死体にピクリと反応して頷いてくれた。


「スケルトンは骨だけだし、デュラハンにいたっては腐る体がないからな」


 街に到着して、今日の収穫の一部を冒険者ギルドで売却する。ついでにいい依頼がないか物色していると、


「ヒビキ、よかったここにいたのか」


 声に釣られて振り返るとルクスがいた。装備はつけていない。普段着のようだ。しかし、イケメンだった。


「ルクス、久しぶりだなどうかしたのか?」


「うん。俺達、明日この街を立つことになったから最後にあいさつしたくて」


 




 

 





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