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第29話


 次の日の朝、約束どおり教会までクェスを迎えに行く。アイラとエミィには留守番を任せた。

 ここ数日ハードだったし昨日も結局休めなかったので今日一日自由にしていいと伝えて、食事代+お小遣いを渡しておいた。

 早朝というほどでもないが周りにはまだ朝独特の気配が残っており、すれ違う人たちはいまだ眠そうにしながらもせわしなく動いている。

 

「おはよう、クェス師匠」


 そんな朝すれ違った人たちの誰よりも眠そうなクェスがすでに教会の扉の前で待っていた。


「おはよう、どうして朝は眠いのかしら?」


 朝のあいさつの次に出てきた言葉は哲学じみているがただ眠いだけだろう。彼女が朝に弱いのは森での数日ですでに知っている。


「もう少し遅いほうが良かったか?」


「別にいいわ、何時でも目が覚めるときは眠いのだから」


「そうか」


 森の中で何度も繰り返された会話をここでも繰り返す。クェスとの朝のあいさつはここまでがあいさつだ。

 さて、いつものお約束を消化して、ここまで意図的に無視していた厄介ごとに目を向ける。


「で、何でお前までこんなところにいるんだよ」


 KYシスターが少し離れたところでこちらをうかがっている。


「わ、わたくしは、教会の敷地内に不審な人物がやってくるというのでその見張りに・・・」


 俺は、あからさまにため息をつく。


「お前さぁ、俺の事嫌いなら無駄に絡んでくるなよ。そのほうがお互い幸せだぜ」


「べ、別に私は無駄に絡んでなど!!」


 自分から俺に絡んでいるなんて意見が許せないのか、顔を真っ赤にしてわめいている。


「ああ、分かったよ。師匠、急かして悪いがさっさと行こう」


「そうね、ここはうるさくて眠れない」


 まだ寝むたげなのクェスをうながして教会から離れることにした。というか、寝る気なのか。


「あっ、」


 セイラが何か言いたげな顔をしていたが、俺は気にせず歩みを進める。わざわざ悪口を聞いてやる趣味は無い。


 

 昨日スキルを試した森の近くの場所で魔法の練習をすることにした。


「あなた、火と水を使えたわね」


「ああ、水はまだまだ勢いも無いけどな」


 火魔法はかなり威力が出るようになったが、水魔法は攻撃として使うには少々心もとない。


「なら、今日はほかの属性の練習をしましょう。私の弟子なのだから火と風の検定に合格させたい」


 ここでクェスのステータスを確認する。


*******************************************

クェス・エル・マナロード Lv.32

魔術師 16歳


スキル

【火魔法】★★★★


【風魔法】★★★★


【土魔法】★


【水魔法】★


【魔力増強】★★★


基礎魔術コモンマジック】★★★


【魔術の血統】★★

魔術の才能を持つ子孫が生まれやすい


*******************************************


 クェスは、【火魔法】と【風魔法】がかなりすごい。星が4つ並んでいるやつはほとんど見たことが無い。

 それに星1つとはいえ土と水まで使える。すごい魔術師に弟子入りしたものだ。

 

「とりあえず、私が風を起こすから『全滅』は私の魔力を感じて。できるなら私の風をそのまま操って」


 そういうと、いきなり周りに突風が吹き荒れた出した。いや、風は俺達を中心に渦を巻いておりすでに小さな竜巻のようになっている。


「あぁ、師匠。スパルタだなぁ」


「すぱるた?」


「厳しいなって意味!!」


「そう?」


 風の音に声を阻害されて大声で叫ばなければ俺の声は師匠に届かない。だというのに師匠は全く叫んでいないのにクリアに声が聞こえる。

 これは自身で起こした風を完全に操っている証拠だ。

 俺はクェスが起こした竜巻に意識を集中させ、風を起こしている魔力の流れを感知した。


「すごいな、これは」


 風に編みこまれるように糸状の魔力が俺たちの周りに無数にある。糸は集まって太くなったり、逆に分かれて細くなったりはするが全く絡まっていない。

 試しに糸に魔力を伸ばしてみる。


「うわ、引っ張られる!?」


 糸に魔力が接触した瞬間、回転を続ける糸に魔力をどんどん引っ張られていく。それこそまるでミシンに取り付けられたボビンのように無限に魔力を持っていかれるような感覚だ。


「糸が見えた?でも糸に魔力をつけちゃだめ。糸を一本一本支配するんじゃなくて、風全体を薄く魔力で満たすの」


 なるほど、クェスが竜巻を作ってくれたのは風で空間を仕切って俺にイメージさせやすくするためか。

 本当に優秀な師匠である。弟子の俺も少しは優秀なところを見せなければ。

 点ではなく、面で見ろってやつだな。すぐに糸から魔力を切り離し、竜巻の無風空間を俺の魔力で満たすイメージを持つ。


「お、こんな感じか」


 俺の魔力で満たした空間の少し外にある風に俺の魔力がしみこんでいくのが分かる。

 じわじわと魔力がしみこんだ部分が増えていきとうとう竜巻の外周部まで到達した頃には竜巻は俺の思い通りに動かせるようになった。


「竜巻を操れるようになった?じゃあ、竜巻を消して」


 そういわれて早速竜巻を消そうと魔力の流れを塞き止めようとするが逆にこっちの魔力が流れに飲まれてしまう。


「いきなり消すのは無理。火と違って急には消えない。集めた風をほぐして散らすイメージ」


 師匠の言葉を素直に聞いて、密集していた糸を解きほぐして風を散らしていった。5分ほど風を散らし続けるとようやく竜巻は消えてくれた。


「ふう、時間かかったなぁ」


 やれやれといった感じでつぶやくとクェスが首を振っている。


「そんなこと無い、すごく優秀。普通、あの竜巻を支配なんて一日じゃ出来ない」


「・・・なんでやらせたんだ?」


「だって、『全滅』は私の弟子だからきっと優秀」


 嬉しそうにうんうんとうなずいているクェスを見ていると文句も言えなくなってしまった。

 それに【風魔法】も星2つで習得できていたので文句なんて言えない。




 【風魔法】習得も昼には終わってしまったので街に戻って昼食を取った。

 クェスと2人きりで食事するのは初めてだが、クェスの食いっぷりの前では色気のある展開にはならないだろうとすでに理解している。

 

「飯食ったら魔術師ギルドに直接行くのか?」


「そう、検定は昼一番の時間にしておいた」


「俺が風魔法覚えられなかったらどうしてたんだよ?」


「うん? その時はとりあえず【火魔法】で5級をとればいいわ」


「でも、お前の弟子なら【火魔法】と【風魔法】を習得してなきゃいけないんだろ?」


 朝、クェスにそう言われた気がする。


「別に師匠の得意魔法が得意でなければいけないわけじゃない そもそも、誰に何の才能があるかなんてやってみなきゃわからないから」


 そうか、俺には【賢者の卵】があるからどんな魔法でも使えるけど普通は使えない魔法のほうが多いのか。


「まあ、一番弟子は身内から選ぶ場合が多いから、系統が似ることも多いのだけれど」


「あれ?お前、俺の事一番弟子って言ってなかったか?」


「そうよ、あなたは私の一番弟子。無様な真似は許さない」


 いつものぼーっとした顔で食べ物を食べながら言われると本気のように聞こえるが、これが彼女なりのジョークだと分かるくらいには顔を突き合わせている。


「なんで身内から弟子を取らなかったんだ?」


 そう聞いてしまってから、しまった、と後悔した。ルクスやバーラのように訳ありに決まっている。


「む、無理にいう必要は無いぞ。俺が無神経 「私には身内がいないのよ」 だった」


 食い気味に答えられてしまったが、まだ事情までは聞いていない。


「そうか、なら仕方ないな」


 この話を終えるためにそれ以上の会話を行わなかった。




 食事を終えて、魔術師ギルドに行く。魔術師ギルドはブレトにもあったらしいが行ったことがない。

 クェスによるとこの街の魔術師ギルドは冒険者として活動する魔術師の支援が主な仕事らしい。ギルドなんてどこもそうなんじゃないのかと聞くと、


「魔術師ギルドは街によって雰囲気が全然ちがう。ブレトのギルドは魔術師の管理が最優先」


 来るもの拒まず去るもの追わずが基本的なスタンスの魔術師ギルドだが、所属しているのが魔術師という強力な力を持った個人だ。

 そんな人間が好き勝手しないように管理する事も魔術師ギルドの重要な仕事だ。

 この2極化は、職員の雇用制度に起因する。魔術師支援を担当する部門は、同じ魔術師達から職員を採用する。

 しかし、魔術師の管理を担当する部門はすべて王国で採用された人材で担当する。

 魔術師ギルドが設立した時、魔術師の支援だけが主な仕事であった。しかし、そのときの王族が魔術師の危険性を説き、急遽管理部門をねじ込んだらしい。


「だから、ブレトの街の魔術師ギルドには魔術師が少ないし、冒険者の魔術師も寄り付かない」


「なるほどね」


 だから俺の検定もウェフベルクにいる間に済ませたかったんだな。


 

 ギルドに到着すると中にはローブを着た老若男女があふれていた。


「なんで、魔術師ってローブが好きかね」


「ローブはどんなときでも着ていられる万能の服」


 ローブ信者がここにもいた。

 中はローブ率に目をつぶれば冒険者ギルドとさほど変わらない。奥にカウンターがいくつかありそこで用件を伝えるのだろう。


「待ってて、受付を済ませてくる」


 そういってクェスがカウンターに近づいていった。

 カウンターにいた男と2,3言葉をかわして戻ってくる。


「行くよ。ギルドカード出しておいて」


 クェスに連れられ建物の奥に向かう。途中ギルドカードを職員に渡してたどり着いたのはグラウンドのような空間だった。

 ギルドカードは全ギルド共通なのかと聞くと、冒険者ギルドに登録していない魔術師には魔術師ギルドがオリジナルのギルドカードを発行していると答えられた。


「では検定を始めます。ヒビキさん、どうぞこちらへ」


 グラウンドの奥に30歳くらいの女性の魔術師がいた。何で分かるかって?ローブを着ているからだ。


「ここで、あなたが使える魔法を見せてください。こちらの『検魔計』でレベルを計ります」


 女性の横に一辺30cm位の立方体があった。これが『検魔計』だろう。

 俺は、【火魔法】を使って見せた。全身に纏うように炎を出してそれを一度右手に集めたり散らして体に纏わせたりした。


「はい、結構です。【火魔法】4級ですね ほかの魔法も使えますか?」


「はい」


 そう答えて次は【風魔法】を使う。今朝覚えたばかりのそれでグラウンドに緩やかな竜巻を発生させた。今俺が【風魔法】で出来るのはこの竜巻を作ることだけだ。

 しかも、本気でやると台風並みの風になるがすぐに制御できなくなってしまう。やや強いくらいの風で竜巻を作れとクェスには指示を受けている。


「はい、ありがとうございます 【風魔法】は5級ですね。威力は5級でもグラウンドいっぱいに旋風をつくるなんてさすが火炎旋風ファイアーストームのお弟子さんですね。」


 火炎旋風は、クェスのあだ名らしい。今回クェスにはほかの魔法は登録しないほうが良いとアドバイスを貰っている。

 使える魔法が多いと色々と目をつけられるそうだ。


「では、ギルドカードに今回の検定の結果を登録させていただきます。待合室でお待ちください。また、クェスさんはこれで一級への昇級条件が満たされました。おめでとうございます」



 そういってグラウンドから元来た道を引き返し待合室に戻される。

 ものの5分ほどでギルドカードが返却された。

 

「これで、約束は果たしたかな。色々ありがとうな」


「こっちも助かったからお互い様。じゃあ、一番弟子に記念品をあげなきゃ」 


 そういってローブから銀製のイヤリングを取り出す。赤と緑の小さな宝石がついた精巧な細工を施したものだ。


「これ、肌身離さず持っていて。」


「いいのか、すごく高そうだが」


 確かに食事会の時に記念品を渡すとは言われていたがこれは一目で見て分かる高級品だ。


「いい、私の弟子だって証だし」


 少し照れているように見えるのはうぬぼれだろうか、ありがたく受け取っておく。


*******************************************

火炎旋風のイヤリング


火炎旋風の弟子の証。


*******************************************


「この宝石も魔術に関係あるのか?」


「それは『魔宝石』、『魔鉱石』と同じで魔力をこめることが出来る。私の魔力が入ってる」


「へえ、はじめて見た」


「『魔宝石』は結構レア。今回は大奮発した」


「悪いな。大事に使わせてもらうよ」


「うん、そうして」


 検定がすぐに終わってしまったのでそのあと2人でブラブラ街中を歩いて周り、少し早めの夕食を取ってクェスを教会まで送っていった。

 宿に戻り、アイラとエミィにイヤリングについて咎められてクェスに弟子の証としてもらったと伝えると、


「魔術師にとって、自分の魔力をこめた『魔宝石』を渡すのは愛情表現の意味合いがあります クェスさんどういうつもりなんでしょう?」


 エミィが困惑しながら俺に教えてくれる。


「え、いや、だって普通に記念品だってくれたんだぞ。そんなそぶり無かったし」


 俺とエミィでどういうつもりなんだろうとうんうんうなっていると、アイラが


「クェスさんとお買い物うらやましいです」


 とつぶやき、エミィまではっとしてそれに同調する。

 2人に延々ねだられ1人ずつと買い物に行くことを了承させられた。


「欲しいものがあるなら3人でいけばいいじゃないか」


「クェスさんとは2人きりで買物されたんですよね?」


 そういわれて、アイラと魔物使いギルドに、エミィと錬金術師ギルドに一緒に行くという約束をした。

 どちらも、どこに行きたいか聞くと


「ご主人様にお任せします」


 と答えられてしまった。ここまで言われて買い物が目的ではないことに気づく。

 よろしい、ならば戦争デートだ。


 ここまで盛り上がって明日はティルの所に行かなければならないことを思い出し、2人をおさえて次の日にしてもらう。

 その日の夜はご機嫌取りの為に2人を可愛がりまくった。

































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