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第26話

 





その場で鍛冶屋に舞い戻り、トトに教会までの道を聞くと近くまで送ってくれるとの事。


「あんたたち、本当にこの街に来たばっかりなんだね。この街は、領主様のお城が真ん中にあるから酔っ払いだって迷子にならないよ」


 クスクスと笑いながら案内してくれるトト。


「今日ついたばかりだからな さすがにどこに何があるかまだ完全に把握してないんだ」


 一度、銀杯亭まで戻ることが出来れば教会の位置も分かるんだがと言い訳しておく。冒険者が方向音痴では本気で命の危険がある。

 しかし、トトは別のことに驚いていた。


「今日!? じゃあ、昨日まで森にいたの? それとも魔物の荒野をこえてきたの?」


「ああ、ブレトから来た。まだ魔物の荒野には行ってないな」


「すごいね、最近じゃ魔物の荒野より森のほうがモンスターでいっぱいでこの街の冒険者達も手を焼いてるんだよ」


「確かにすごい数のモンスターが森の中にいたな」


 魔王復活はまだ一般には伏せられているようだ。セイラが勇者を探している時点でいまだ正式な勇者が現れていないのは明白だ。

 おそらく魔王復活は勇者選定が終わってから大々的に発表されるのだろう。

 

「領主様も冒険者ギルドと連携して近々討伐隊を出すんだって言ってるよ」


 ブレトへの救援隊をそういう風に説明しているのか。まあ、モンスターの活動が活発的なのは事実なのだから討伐隊を出してもおかしくはない。

 

「おかげで街は活気づいてるんでみんな喜んでるよ」


 まあうちはあんまり関係ないけど、と言っている。ティル鍛冶屋は現在昔からのお得意さんからの依頼で細々と暮らしているようだ。

 ティル鍛冶屋にある武器、防具の良さが分かるような目端が利く冒険者はそうはいないようで常連客も依頼を受けて出ていったきり戻らなかったり、引退したりと年々減ってきているようだ。


「でも、ヒビキみたいな新規のお客さんがたくさん買ってくれることもあるんだからまだまだやれるよね」


 拳をぐっと握ってこっちを見つめるトト。


「とりあえず、店の前のちぐはぐな看板をどうにかしたらいいんじゃないか?」


「ちぐはぐ!?どこが!?」


 やはり、あの真新しい看板はトトが取り付けたものらしい。


「あの看板のせいですっごい胡散くさい店に見える」


 トトが他の2人を見つめると、アイラは困った顔で首をかしげているし、エミィは申し訳なさそうに小さくうなづいている。

 ショックを受けたのだろう、うつむいてとぼとぼと歩いている。

 そのままにしておくのも忍びないので助言してやる。


「せっかく腕のいいドワーフのおっさんがやってるんだから もっとその辺をアピールしたらいいんじゃないか?」


 それを聞いてトトが、ドワーフ?と首をかしげ、次の瞬間には笑い出した。


「ぷぷ、お父さんは、人間だよ」


「なんだと!?」


 あんな、スタンダードなドワーフそのものな外見で人間とは。つまりティルは、背の低いガッチリ体型の髭もじゃの人間のおっさんということか。


「まあ、確かにドワーフみたいな外見だけどね」


 まだ笑いが収まらないようで、ケラケラ笑っている。良く笑う娘だ。

 ひとしきり笑い終わる頃には教会に到着していた。


「はい、到着」


「わざわざ、ありがとうな」


「いえいえ、大事なお客様ですから」


 今後ともご贔屓に、と一礼してトトが来た道を引き返していく。


「じゃあ、3日後にまた会いましょう」


 曲がり角で大声を上げて大きく手を振ってから帰っていく。


「ああ、よろしく頼む」


 こちらも手を振って答えてやる。


「良かった、ヒビキ。やっと来たね」


 一息つくまもなく教会から疲れきったルクスが出てきた。


「どうした、ルクス。えらく疲れてるな」


 まあ、原因はKYシスターだろうが。


「ああ、セイラが何かと世話を焼いてくれて、ちょっとね」


 何でもセイラはルクスたちを泊まる部屋に案内するとそのまま部屋に居座り続けたらしい。

 バーラたちとこれからの事を話し合いたかったのに全く話せなかったとの事。これが計算ずくで行われているならセイラはかなり頭が切れるということになる。

 あのウザイだけのキャラは作られたものなのだろうか。どちらにしろつくづく係わり合いになりたくない奴だ。

 ついさっきセイラ自身の準備の為に部屋を離れたためこうして外の空気を吸いに来たところ俺達に気づいて出てきたのだとか。

 ルクスと教会の中に入ると問題のセイラがいた。おそらくここまでルクスと一緒に来ていたのだろう。

 衣装は最後に見たものと同じようだが、全く汚れていないところを見るとすでに着替えを終えているようだ。


「あら、もう到着されたのですね。もっとゆっくりでも良かったのに」


 顔を合わせて早々嫌味とは本当に嫌なやつだ。


「ああ、誰かさんみたいに思いつきで動けるくらい身軽なら時間にルーズでも良いんだろうがな」


 ぐぬぬとうなっているセイラを無視してルクスと食事会の会場に向かう。

 どうやら、ビュッフェ形式での食事会らしくすでに十数人の客が食事を楽しみつつ歓談していた。

 しかし、俺達が会場に入るとそこにいたすべての人間がこちらに顔を向けた。参加しているのはやはり教会関係者が多いようだ。数人は貴族のようだが服装から見るにそれほど位の高いものではないだろう。

 なにやら値踏みされているような視線を感じるが、おそらくルクスへと向けられた視線だろう。もしくは、俺とルクスのどちらが勇者候補か知らされていないのかもしれない。

 俺の後ろのアイラが不躾な視線に怖がり俺の後ろに隠れてしまう。エミィも多少圧倒されたのだろう俺の服の袖を掴んで離そうとしない。

 2人を安心させるためあいていたほうの腕で頭を撫でてやる。少しは落ち着くだろう。

 会場を見渡すと、バーラたちが部屋の端っこに集まっていた。

 バーラはワイングラスだけを持って時々それを口に持って行くが中身はほとんど減っていない。

 ゲイルは、持っている皿に食べ物を山盛りにしてむしゃむしゃと食べている。

 クェスもゲイルに負けず劣らずの量の食事を黙々と食べ続けている。ゲイルと違うのは全く大口を開けず小さな口で食べているはずなのに、気づいたら皿が空っぽになっていることだろうか。

 まさか魔術でも使っているのだろうか。そんな馬鹿なことを考えながらルクスと共にバーラたちと合流する。

  

「ヒビキ、アイラ、エミィさっきぶりね 」

 

 バーラが影のある顔を無理やり笑顔にして俺達に挨拶する。


「むぐむぐ、ようヒビキ。ここは飯だけはうまいみたいだぞ」


 食べながら挨拶するゲイリー。


「もぐもぐ」


 クェスは、もぐもぐと口で言っている。やはり魔法使いは変わり者が多いようだ。


「そっちもお疲れ様。あの女神官と片時も離れずに行動するとか、俺なら1時間持たないな」


「いやいや、俺達だって別に平気って訳じゃねえよ」


「そりゃそうか」



 食事会はそれからすぐに始まった。とはいえ、噂のKYシスターが短い挨拶をして、どうかごゆるりとご歓談ください、ですんでしまった。

 そのあとすぐにこちらにやってくるかと思っていたが主催者として挨拶回りなどなかなかに忙しそうに動き回っている。

 そのあいだ、俺達に声をかけてくる奴らはいなかったのでこちらも食事と酒を楽しませてもらった。


「そういえば、銀食器を使ってるんだな」


 俺が少し気になったことをつぶやいた。


「ええ、教会では銀は特別な金属だから。実際に魔力を通して特別な銀金属を生成することもあるし教会と銀には結構つながりがあるのよ」


 バーラが答えてくれた。

 実はこの世界に来て初めて銀食器を見たのだ。宿屋や飯屋では木を加工して作った食器しか出てこなかった。

 

「やっぱり、高いから飯屋なんかじゃ使えないのかね」


「違う、銀の食器はすぐに黒ずんだりして管理が大変。教会のようにこだわりがあったり、貴族のように見栄をはるためでもなけれ日常的には使わない」


 今度はクェスが答えてくれた。銀について詳しいな。


「銀は魔術師にとっても特別な金属。ある程度の実力の魔術師なら装備品に銀を使ったものをひとつは持ってる」


「魔鉱石みたいなものなのか?」


「その考え方で間違ってない。魔鉱石にこめた魔力は放出することが前提だけど、銀は魔力をこめても取り出せない」


「それで、何の役に立つんだ?」


「長年持ち主の魔力をこめられた銀は、触媒として非常に優秀。たとえば、その銀で杖を作れば魔法の威力が上がる。そのまま身につけていれば、自分以外の魔力をある程度はじいてくれる」


「なるほど」


「魔術師の中には銀の商いを行っているものも少なくない。より良い品質の銀を求めているうちにそうなったみたい」


 しかも、自分も魔術師だから顧客の求めているものも分かる。なるほど、餅は餅屋だな。


「ヒビキも魔術師ギルドの検定に合格したら何か銀の装備品を見繕ってあげるわ」


「いいのか?」


「師匠だもの」


 そういうものらしい。2日後に朝から魔法の練習を行い、そのまま魔術師ギルドで検定を受ける約束をした。


「勇者様、楽しんでいらっしゃいますか?」


 セイラが挨拶回りを終えてこちらに来た。露骨に嫌な顔をするのはゲイリーとクェス。バーラは顔を伏せてしまった。


 ルクスが、ああ、と軽く返事を返す。周りの空気に全く気づかないセイラはルクスに話しかけ続ける。


「そうそう、今日いらしてる皆様に勇者様をご紹介したいのですが、少しお付き合いいただけませんこと?」


「い、いや、俺は君の勇者になるつもりは・・・」


「ええ、本日はお顔合わせだけですの。私の友人としてご紹介させていただきますわ」


 そう言われてルクスも断りきれなくなりセイラに連れて行かれてしまった。

 バーラたちはさすがにルクスを1人にしておけなかったようで、全員でルクスのあとを追っていった。

 ルクスたちと分かれてからは平和に食事と酒を楽しむことが出来た。


「アイラ、この肉うまいな」


「はい、この街の名産の大鶏のお肉ですね」


「アイラは鶏肉好きだったよな?」


「はい、このお肉は食べ応えがあって味もしっかりしていてとてもおいしいです」


「そうか、エミィも食べるか大鶏の肉?」


「はい、ありがとうございます。 ああ、これは本当においしいですね。いつも食べてるお肉とはやはり違いますね」


 こんな肉を毎日食べられるくらい稼げるように頑張ろうと、3人で誓い合いながら食事を続けた。






「本日はお集まりいただきましてまことにありがとうございました」


 セイラのそんな締めの挨拶で食事会は閉会した。

 

「ヒビキ、つき合わせて悪かったな」


「別にいいさ、後半は飯食ってるだけだったし」


「たしかに」


 俺とルクスはお互い笑いながらお休みを言い合う。クェスとは再会の約束をしているが他のメンバーとはまた会えるか分からない。


「まあ、薄情かもしれんが頑張れよ」


 詳しい事情を知らない、いや知ろうとしない俺にはこれぐらいしかかけられる言葉が無い。


「ああ、これは俺達の問題だからな。ここまで付き合ってくれただけでも感謝してる」


「それじゃ、また会うこともあるかもしれないが元気でな」


「ヒビキもな、俺達は多分一週間くらいはこの街にいると思う」

 

 一週間もすれば救援隊が組織され出発するはずだ。ルクスたちはその救援隊に参加する。

 ルクスはセイラに勇者と呼ばれそれを否定しているがすでにその行動は勇者のそれといっても過言ではない。


「俺たちもしばらくはこの街にいると思う」


 そんなルクスに畏敬の念を感じつつ、それだけ伝えて教会を後にする。


「さて、明日からはしばらく本格的な狩りはお休みかな。アイラとエミィは何かしたいことあるか?」


 急にそんなことを聞かれてとっさにやりたいことが出てこない二人に別に急いでいないからゆっくり考えろと伝え、2人と銀杯亭を目指す。

 あたりはもう夜だが、大通りのいたるところにブレトには無かった魔力で灯りを供給する“魔灯”があるため足取りは確かだった。

 


 





オー迷子ゴッドについてですが、オー迷子ッドじゃね?と頂きましたが、神野響が迷子になるという意味も込めているので打ち間違いではないつもりです。

寒いギャグの説明つらいです(泣)

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