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第22話




 魔法の師匠(期間限定)が出来て少しすると、ようやく残りの2組も部屋に入ってきた。

 冒険者ギルドからこの話し合いを記録に残すための証人兼書記としてリリもいる。


「俺はフロン、後ろの2人がレフとライだ」


 3組目は、3人とも剣士のパーティだった。レベルはルクスたちに比べると少し低い。フロンは人間、後ろの2人は獣人のようだ。

 

「私はフェール。この娘はカッパー、次がアル。最後にニコ。」


 4組目は、全員女性の4人組リーダーのフェールがレベルが最も高い魔剣士。あとの3人は少しレベルが低い魔物使いと拳闘士、巫女だった。

 知らない職種も含まれているし2組とも名前だけで職種まで明かしたのはルクスたちだけだ。

 おそらく、冒険者にとって職種を隠すのは当然のことなのだろう。まあ俺には丸分かりだが、ぼろを出さないように気をつけよう。

 

「さて、とりあえず道中どうやって探索するかだが、」


 フロンが話し始めた。探索の方法はそのまま討伐できるモンスターの量に関係してくる。つまり、金が絡んでくるのだ。


「各自パーティ単位で行動して毎日同じ時間に集合。情報の共有。でいいんじゃない?」


 フロンが確認しフェールが答える。そんな適当でいいのか?


「まあ、そんなところか じゃあ、報酬の方の分配だがなうちは見ての通り剣士しかいない。 魔術師のいるとこに比べるとうまみが少ないんだ。優遇してくれんかね?」


「ふざけんじゃないわよ、そっちのパーティ編制まで出されたんじゃたまんないわ。報酬は1人頭で割るべきでしょ?」


 パーティメンバーが4人のフェール達にはそのほうがいいだろう。しかし、どちらもあからさま過ぎる。これで本当に駆け引きしてるつもりなんだろうか。


「『トライソード』も『灼熱』も少し落ち着きなよ」


 ルクスが2人をいさめる。トライソードはフロンの灼熱はフェールのパーティ名であり2人のあだ名でもあるらしい。

 俺達以外のパーティはそれぞれ面識があるようだ。


「えらく余裕だな『激剣』、お前達の取り分を俺達に分配してくれるならこの話し合いには決着がつくぞ」


「嫌だよ。別に余裕なんて無いさ。あんた達がいつまでもくだらない話し合いを続けてるからだろ?」


「じゃあ、どうするってのさ。『トライソード』の馬鹿の意見を通すなんていったらあたしはこの仕事おりるからね」


 ルクスはにっこりと笑って爆弾を落としやがった。


「『全滅』がいるんだ。意見を聞いてみないか? ヒビキ、どう思う?」


「どう思うって」


 自己主張しかしない馬鹿2人に付き合いきれないといえばいいのか?

 仕方が無いので多少は建設的な話をすることにした。


「目撃情報が何件か入っているんだろ? とりあえず、どんなモンスターが出るか確認しておいたほうがいいんじゃないか?」


 目撃情報については事前には知らされていなかった。出発するまでには情報を精査して伝えると依頼を受けた日にリリから言われている。

 言い争っていた2人は、こちらを見て驚いた顔をしている。こいつら、本当に馬鹿か。


「リリさん、頼んでいた目撃情報の資料もらえる?」


「ええ、ちょっと待ってね」


リリが手に持った紙の束から数枚を取り出してこちらに渡してきた。


「知らないモンスターが多いな。ルクス、知っているモンスターがいたら教えてくれないか?」


「ああ、もちろんだ。なるほど、蟲系のモンスターが多いな」


 蟲系のモンスターは繁殖力が旺盛でその土地の生態系を狂わせるほどに増殖するらしい。

 今回の調査が目撃情報が出てから数日で調査隊を森に送る理由はその脅威的な繁殖力を危険視しての事である。


 目撃情報のあったモンスターは、ショットビー、アーマーマンティス、ポイズンボア、フレグランスアントなど蟲系統とよばれる群れをなすタイプのモンスターだ。

 他にもこの街の近くにはいないようなモンスターが目撃されているらしい。


「なんでそんなモンスターがこの辺にいるんだ?」


 ここまで聞いてようやくフロンはその事に疑問を持ったようだ。


「それを調べるために俺たちが調査するんだよ 」


 自分だけがその事に気づいていなかったと知ったフロンが顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


「とにかく、数で押してくるモンスターが多いみたいだからパーティー単位じゃ襲われた時に対処しきれないかもしれない 俺は、2組で探索するのを提案する」


 俺の提案にルクスのパーティーはうなずいていたが残りの奴らは不満そうだ。

 抜け駆け出来ないと考えてるのだろう。妥協案をだしてやるか。


「なら、賛成してくれてるルクスのパーティーと俺のパーティーは組んで探索を行う。 あんたらは好きにしてくれ。 報酬は討伐したモンスターに比例して分配しよう」

 

 馬鹿な2人なら、この条件でオッケーするはずだ。

 単独行動を許した上で上手くすれば誰よりも報酬を手に入れられる。この程度のうまみで簡単に騙されるだろう。

 本当なら、2組で協力できる俺たちの方が得になる可能性が高いのだが、組んで報酬を2分割より、組まずに報酬独り占めのほうがお得に感じるらしい。


「そうだな、それならいいか」


「ええ、問題ないわ」 


「じゃあ、さっさと出発しよう、ずいぶん時間を取られてる」


 調査隊のメンバーはようやく出発することになった。




 街を出てから2日がたったが、見つけたモンスターは、普通にこの辺にいる奴らや、目撃情報があった奴でも一匹だけとかそんなものだった。

 収穫と言えばそんなはぐれモンスターを仲間に出来たことと魔術の訓練くらいだ。

 アイラが新米の魔物使いだと説明し、経験を積みたいからとはぐれモンスターに出会う度に仲間にした。

 さすがに出会った全てのモンスターを仲間に出来た訳ではないが、すでにアイラの配下のモンスターは10匹ほどになっていた。

 仲間にしたのは、ショットビー3匹、フレグランスアント3匹、パラライズスパイダーとアーマーマンティスが1匹ずつにシャープウルフが2匹だ。

 特に戦闘ではアーマーマンティスがかなり役に立ち、探索にはショットビーやシャープウルフがおおいに役立った。

 さて、魔術の最初の訓練だが魔力を感じ、見ることができるようになることだった。

 すでに魔力が見える俺は、半日ほどクェスから話を聞きながら出来るようになったことにした。

 魔力が見えるようになったら、水晶玉を渡された。これはなにかと訪ねようとしたら透明だった水晶玉の中に色が生まれた。


「色が濁ってるわね」


「駄目なのか?」


「違うわ、あなたダブルなのよ」 


 水晶玉は自分の魔力の適正を調べるものだったようだ。複数の属性を持つものが触れると色が濁るらしい。確かに何色と言えばいいのか分からない色をしている。


「へぇ、アイラさんも新米とは思えないくらいすごいし、ヒビキもダブルだなんてすごいパーティーだね」


「まあ、まだちゃんと習得できるか分からんがな」


 その場で属性の確認を行い、火と水に適正があると言われた。確かにすでに習得している魔法だ。

 歩きながらランプの炎や水筒の水を操作させられてなかなかに疲れる訓練だった。アイラが配下に置いたモンスターたちを探索に回してくれていなければどれだけ大変だったか分からない。

 クェスは案外スパルタのようだ。


 街をでてから3日目、事件が起こった。

 冒険者の街までの道程を半分も過ぎていない森のほぼ真ん中で蟲達の本隊を見つけたのだ。

 複数種類の蟲達は互いを補食対象としながらも、繁殖によりその数を保っているようだ。捕食、産卵、孵化のサイクルをめまぐるしいスピードで行っている。

 少し小高い丘の上から見える景色は森と森の隙間からあふれ出るようなモンスターの群れに覆い尽くされている。

 

「なんだあの数、信じられんぞ」


「こりゃ、思ったよりも大事になりそうだね」


「まずいな、完全にブレトに向かって進んでるぞ」


 あれほどの大部隊をなぜ冒険者の街が見過ごしたのか不思議ではあるが、このまま冒険者の街まで行って戻っていたらあの大部隊がブレトの街についてしまう。


「こりゃ、誰かが急いで戻って知らせなきゃ間に合わないな」


 ここまで3日かかったのは調査しながらだからだ。全力で街に戻ればおそらく2日ほどで着くだろう。

 そして、あの大部隊なら行軍速度はかなりゆっくりしたものになるはずだ。

 対策を取るのに充分とは言えないがなにもしないよりはマシである。


「俺たちが戻ろう」


 トライソードのフロンが立候補した。


「正直、あの数は無理だ。まだ半分も来てねえのにこの有り様じゃあっちにつくまでに死んじまうよ」


 確かにトライソードには回復役がおらず、全員剣士だ。ほかのパーティに比べると無理がきかない。まあ、回復役がいないのはうちのパーティーも同じだが、こちらにはルビーがいる。

 戦闘中に完全に手のあいているルビーがポーションや薬草を渡してくれる。

 さらに道中増えた仲間のモンスターに対して司令官の様な立ち位置になっているようだ。俺達のパーティに危険が及べばすぐさまモンスターが連携して助けに入る。

 そんなわけで、おそらくトライソードがこの中で一番身軽に動けるパーティーだろう。


「頼めるかフロン?」


 ルクスが確認している。フロンは熟練の冒険者だ。退き時をあやまることはないだろう。


「ああ、やばくなりゃ俺たちだけでも逃げるさ」


 冒険者は国に忠誠を誓う騎士と違い自分達の命を最優先する。

 なかには冒険者から騎士に取り立てられる者や、逆に騎士から冒険者になる変わり者もいるが概ね冒険者は自分達が一番大事だ。

 街がひとつ無くなるかもしれない事態であってもそれは変わらない。

 

「出来ればあの街に無くなって欲しくはない 頑張ってくれ」


 そんなルクスの言葉に答えることなくひらひらと手を振るだけで答えたフロン。

 俺はルクスの方を見てたずねた。


「それで、俺達はどうするんだ?」


「あの数に真正面からぶつかるのは無理だ」


「そりゃそうだろう ありゃ個人でどうにかできるレベルのものじゃない」


 俺達の会話を聞いてフェールが驚いた顔をしている。


「あんた達、あの群れに手を出そうってのかい?」


 ルクスが肩をすくめて答えた。こういうしぐさが絵になるやつだ。


「まさか、情報を集めるだけだよ そりゃ、ちょっとは近づくけどね」


「冗談じゃないよ!! こんなところにいて見つかりでもしたら骨も残らず食われちまうよ」


「分かった。これ以上は近づかないし、無理もしないよ」


 2人の口論を聞きながら眼前の景色を眺める。

 良く見ると別種族のモンスターのみならず同種族同士でも共食いが起こっている。

 

「ルクス、あのモンスターたちはいつもああやって食い合いながら同じところにいるのか?」


「え?いや、そんなこと無いよ。普通はそれぞれの縄張りに近づいたやつだけ襲うんだ。ショットビーなんて特に巣の周りからはあまり離れようとしない」


「じゃあ、あいつらなんで共食いまでして集まってるんだ」


「それは、・・・まさかブレインセクト!!」


「ブレインセクト?」


「魔族が大量のモンスターを操るときに使うモンスターの一種だよ。今回で言うと蟲系統のモンスターを統べるタイプのモンスターがブレインセクトて言うんだ」


 魔族とは、モンスターを統べる存在でありそのための能力をいくつも持っているらしい。ブレインセクトは“統括モンスター”と呼ばれる特殊なモンスターで、様々な命令を魔族から受信し、支配領域内のモンスターへ送信するようだ。

 魔族が直接支配し、群を操ることもあるようだが大体が“統括モンスター”にやらせるようだ。


「それがいるからこんなでっかい群れになっちまったのか」


「おそらくそうだ」


「じゃあ、魔族がこの群れを操っているんだよな」


 そこまで聞いてルクスは顔をこちらに向けて呟いた。


「もしかしたら、『魔王』が復活したのか?」


 この世界には魔王がいるらしい。というかルクスは色々詳しすぎる気がする。魔王は魔族を統べる存在との事、復活と表現しているが前回の魔王と同じ存在かどうかはその時によって違うようだ。

 封印を解いて復活した魔王もいれば、強力な魔族が進化して魔王になることもあるようだ。

 魔王があらわれれば、教会に神託があり勇者を探すそうだ。複数の有力な神官が思い思いに勇者に任命し、神へ報告する。そのものが真の勇者であれば『加護』が与えられる。

 勇者を見つけ出した神官はかなり優遇されるらしいので教会内でも色々な派閥が足を引っ張りあうのだとか。


「統率するモンスターがいるなら、この群れに手を出さない方がいいかもしれないな」


 ただの烏合の衆ならいいが、統率者のいる群れなら見つかればおそらく逃げられない。


「・・・そうだな、これは調査を打ち切ってウェフベルクへ急いだほうがいい」


「だから、あたしは最初から逃げようって言ってるじゃないか!」


 残ったパーティリーダー全員の意見が一致したため、モンスターの群れに気づかれないように迂回してウェフベルクへと向かった。



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