第1話
多神の加護
神野 響はただの高校生だった。
成績はねらったように中の中。
運動も苦手ではないが得意でもない。
そんな彼が、それでも人より優れているところを探すとするならば『少しだけ運が良い事』だろうか
楽しみにしていた旅行の当日は雲一つない晴天であり、
アイスを買ったら5回に1回は当たる。
じゃんけんには最後まで勝ち残るが全勝というわけではない。
そんな程度の運の良さだ。
本人も、『あれ?俺って運よくない?』とひそかに思う程度のものだ。
そんな彼が今いるのは『異世界』だった。
響はその日いつもの帰り道で急に立ちくらみに襲われた。
目の前が暗転しまっすぐ立ってられないほどのめまいを感じた次の瞬間には、まったく知らない世界にいたのだ。
そこは一目見ればわかるような異世界だった。
まず空には太陽が二つあった。
周りにいる人の中には時折、獣耳を持つ人や二足歩行で歩いて話すトカゲのような人もいた。
「なんだ、ここ? 俺いつ寝たんだろ?」
響が辺りを見回すと建物や床は石造り、まさに中世ファンタジーの世界観のような町並みだ。
「おい、あんた!じゃまだよ。」
「えっ?」
後ろには馬車があり響が道を塞いでいたため前に進めなくなっていたようだ。
「す、すいません、今どきます。」
急に話しかけられてドキッとしながら響は道をゆずった。
「まったく、どこの田舎者だよ!」
馬車の御者は鼻を鳴らしながら馬車を進めて響の前を去っていく。
響はそれをほうけた顔で見ている事しかできなかった。
「いったいここはどこなんだ?」
ようやくその疑問にたどり着いた響はまず現状を確認する事にし、そのとき初めて自分の服が制服でないことに気づく。
「なんだよこの服は?」
一言で言えばゲームの冒険者のような格好だ。
服の上から皮製の胸当てが、頭にはこれまた皮製の額当て。
ご丁寧に腰には剣まである。
剣とは逆の腰には皮製の袋があり、中には数種類の硬貨が20枚ほど入っていた。
おそらくこの世界のお金であろう。
「とりあえず無一文じゃないのは助かるが、どうしたものかなぁ」