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第18話



 街に戻り、アイラのカードの更新に少し時間がかかったがそのほかは特に何事も無くすんでしまった。

 ルビーを見た門番は、ルビーがスライムなのもあってたいした反応を見せなかった。

 普通の人の転職はある日突然起こり、確認手段がギルドカードのような『職種』が見れるアイテムが必要なため正確にいつ何の職種になったかを詳しく聞かれることは無いようだ。

 次にギルドに向かう。薬草採取の依頼を完了させるためと、アイラのギルドカード更新のためだ。


「おかえり、無事すんだようね、ヒビキ」


 俺たちがカウンターに行くとリリが受付をしていた。この人、朝依頼受けるときもいたのにまだいるのか。 


「そっちも、朝からずっとお疲れ様」


 冒険者達にねぎらってもらうことが珍しいのかリリが嬉しそうにしている。

 薬草を5個納品し、報酬を受け取る。素材の納品はいくらか余計に買い取ってもらえるが自分達でポーションを作るための分は確保しておかないと。


「なんだ、たかが薬草を一日かけてこれっぽっちしか取れなかったのか」


 振り返ると、ガラの悪そうな男がニヤニヤと笑いながらこちらを見ていた。後ろには仲間らしき男達が2人、やはりニヤニヤ笑っていた

 

「この前の商人の護衛もやっぱりたいしたこたぁ無かったてことだな」


 こいつ、護衛の事まで知っている。何者だ? ステータスをチェックしてみる。


******************************************

ガンヴォルデ・デルボ Lv.18

剣士 26歳


体力    

556(+50)

筋力

102(+5)

すばやさ

88(+5)

知能

79(+5)

90(+5)



『剣士の加護』  

効果 自身のステータスをプラスする(小)  

対象 本人


スキル

【ソード】★★

剣系統の武器を使いこなす。

*******************************************


 どうやら『加護』を持った冒険者のようだ。

 

「ヒビキ、あいつらはあの護衛依頼であなた達より先に紹介したパーティよ」


 リリが奴らの事を教えてくれた。なるほど、『加護』を持った少人数のパーティだ。

 自分達が不合格にされた依頼を俺みたいな若造が達成したのが気に食わないわけだ。

 確かにガンヴォルデは、『加護』を持っているようだがステータスの上昇はとても小さい。

 俺のステータス上昇は、元のステータスがあがれば上昇率も上がっていくものだが、奴のステータスからすると上昇する数値が固定されているようだ。

 

「うるせぇ!!あの守衛がいちゃもんつけてきやがったんだよ!!」


 聞こえていたのだろう、ガンヴォルデが叫んだ。

 守衛と口論になって不合格になった冒険者はお前だったか。

 

「あの守衛がいなきゃ俺らが依頼を受けてたんだ、おめえらがそれを横取りした」

 

「俺達はあの依頼を正式にギルドから受けたんだぞ つまり、ギルドのやり方に文句があるって事か?」


「なっ!? ギルドは関係ねぇだろ!!」


 ガンヴォルデはあわてて否定した。しかし俺は続けて言い放つ。


「だったら俺達とあんたらにも関係はないよな? だって、ギルドは関係ないんだろ?」


 チッと舌打ちをして俺達から離れていくガンヴォルデたち、ここで争いを続けるのが得策ではないと気づいたらしい。

 おそらく、俺の名前を聞いて反射的に絡んできたのだろう。たいした考えも無く短絡的な思考だ。

 そりゃ、あの守衛と揉め事を起こすだろうな。


「ヒビキ、ごめんなさいね ガンヴォルデは変にプライドが高いから」


 リリが申し訳なさそうにしている。

 それはそうだろう。ガンヴォルデが俺達の事を知っているのはリリを含むギルド員達から依頼達成の内容が漏れているからだ。

 おそらく、依頼成功の話を聞いて俺の事を知っていたか、クレストが護衛に『加護』持ちを望んでいることから『加護』持ちを調べて俺が依頼達成者であると当たりをつけたのだろう。

 

「ああ、気にしてない。こっちも勝手にギルドに問題を押し付けたからな」

 

 情報なんてものはどこからでも漏れる。すこし周りに無関心すぎたのも問題だ。

 俺は周りから見れば年も若い『加護』を持ったそれなりの実力者だ。そんな奴にいい感情を持たない奴らも多いだろう。

 これからは積極的に周りと交流することを考えなければいけないかもしれない。

 しかし、あまり仲良くしすぎてもいけない。なにからボロが出るか分からないほどに俺はこの世界に疎いのだから。


「ただ、これからはできるだけああいう奴の事を教えてくれないか?」


「分かった。できるだけ教えてあげる。あんまり期待しないでね」


「いや、リリさんの助けがあると思うと安心するよ。こういうことで頼れるのはリリさんくらいしかいないから」


「・・・あんまり他の人にそんなこと言っちゃダメだよ。 ヒビキって結構ギルド員に人気あるから」


「俺にそんな人気があるわけ無いじゃん」


「そんなこと無いよ。ヒビキってギルド員にどなったり、無茶言ったりしないし、礼儀正しいじゃない。それにかなり強いみたいだし」


 早速情報収集できるかもしれない。リリとの会話を続け、他の冒険者について聞いてみる。


「そんな、暴れないだけで好印象って他の奴らはどんだけ荒くれ者なんだよ」


「なにいってるのよ、 冒険者なんて荒くれ者の集まりみたいなものじゃない」


 確かにギルドに来ると誰かしら騒いでいる奴がいたような気がする。トラブルに巻き込まれたくないからスルーしていたし、人の少ない早朝にギルドに行くようにもしていた。


「俺だって別に礼儀正しくしてたつもりは無いぞ、ギルド員と喧嘩してもいいこと無いのは分かってるからな」


「だから、そんな風に考えてくれてる人がすっごく貴重なのよ」


 どうやら俺の態度は冒険者としては信じられないくらい丁寧らしい。まあこれからも態度を変えるつもりは無いが。


「じゃあ、そんな気の弱い俺にこのギルドで気をつけるべき相手を教えてくれよ まあ、一ヶ月もここに通ってようやくそんな事を聞く俺もやっぱり短絡的な冒険者ってことだよな」


「気をつける相手を教えてくれって聞くだけでもかなりすごいけどね。他の奴らは、自分で痛い目を見てそんな相手を覚えていくから」


 冒険者は獣か何かなのか?


「でもこの街のギルドには今、筆頭もいないし特に気をつける相手はいないわね」


「筆頭?」


「そう、筆頭冒険者ね。知らないなら説明するけど」


「ああ、教えてくれ」


「筆頭冒険者っていうのは各街のギルドお抱えの冒険者の事よ。街ごとに1~2人はいるわね。仕事の内容は様々だけど共通してるのはギルドで雇っているところ」


「ギルド員なのか?月給で冒険者を雇うのか?」


「そうね、筆頭冒険者になるっていう依頼をずっと受注してる感じかしらね 街から長くは離れられなくなるし、ギルドで待機を命じられることもあるわね」


「なんで、この街に筆頭がいないんだ?」


「5年位前はいたんだけど、怪我で引退しちゃってその後から筆頭冒険者がいないのよ。 まあ、この街じゃあんまり筆頭冒険者が必要ないからそのままになってるの」


 どうも筆頭冒険者になると、色々しがらみも増えて大変らしい。強さはもちろん必要だし、ギルドの体裁を守るためにも変な奴を筆頭冒険者にするわけにもいかない。

 それならいっそ筆頭冒険者は空席のままのほうが都合がいいのかもしれない。馬鹿な奴らに筆頭冒険者の座をちらつかせるとかやっているのかもしれないな。


「生活が縛られる割にそんなに良いお給料じゃないからだれもやりたがらないのよ」


「給料が安いのか?」


「ええ、けして高くは無いわね」


 筆頭冒険者は不人気らしい。


「だからこのギルドに来る冒険者達にたいした差は無いわね。今までのヒビキの対応なら多分何の問題も無いわ」


「そうか、色々ありがとう」


「どういたしまして」

 

 リリにお礼をいいつつ冒険者ギルドを後にする。

 ギルドを出て少し歩いたところでアイラが口を開いた。


「ご主人様、誰かに見られてます」


「そうか、多分ガンヴォルデだろうな」


 さっきの続きをしたいのだろう。さてどうするべきか、おそらく戦えばこちらが勝つだろう。

 しかし、冒険者ギルドに登録している冒険者同士の争いはどういう扱いなんだろう。リリに聞いおけばよかった。


「ギルド所属の冒険者同士の私闘は特に禁止されていません。ただ、正当な理由が無い場合は厳しく罰せらると気いた事があります」


 アイラと俺の言葉が聞こえたのだろう、エミィが俺が考えていることをずばりと言い当てた。


「ガンヴォルデの言いがかりは正当な理由か?」

 

 確認のためにエミィに聞く。


「あれは完全に不当です。ギルドの名前を出したときのうろたえぶりからあちらもそのことは分かっていると思います。 だから、不意打ちで私達を襲うつもりなんだと思います」


「ちなみに、俺達がそれを返り討ちにしたら問題になるか?」


「いえ、不当に仕掛けられた攻撃に対しての反撃なら問題ありません。先ほどのギルドでの諍いも私達の正当性を補強してくれるはずです」


 とりあえず返り討ちでも問題ないようなので、迎え撃つことにした。奴らに俺たちが泊まっている宿まで知られるのは困る。

 宿のある東門側に向かうが宿を通り過ぎて段々と人気の無いところまで行き、東門から出て5分ほど歩いた所で奴らに囲まれる。

 

「てめぇに恥をかかされたんだ。ぶっ殺さなきゃ気がすまねぇ」


 ガンヴォルデの後ろにギルドでも見た2人がいる。軽戦士と魔術師のようだ。ステータスはガンヴォルデよりも下。

 軽戦士は、戦士というより『盗賊』と呼んだほうが似合う気がするが、職種は軽戦士だ。 

 魔術師のスキルに【火魔法】★があった。【賢者の卵】が無い場合は属性ごとの魔法がスキルになるようだ。

 

「いいのか?このタイミングで俺達に何かあったら真っ先に疑われるのはお前達だぞ」


 それを聞いて3人が戸惑った。本当に何も考えていない奴らだ。冒険者の評判を下げているのは間違いなくこいつらのような奴らだ。

 俺はさらに追い討ちをかける。


「ついでに、俺達がお前らを倒しても多分ギルドは問題にしないぞ。俺達は遠慮なくお前らをヤれるわけだ」


 軽戦士と魔術師がガンヴォルデに詰め寄って言い争っている。話が違うだとか聞こえるが仲違いが始まったようだ。

 もちろん俺達がそれを悠長に聞いてやる必要はどこにも無い。アイラにアイコンタクトを送り、攻撃を仕掛ける。

 事前にエミィにも返り討ちの話はしてあるので、一瞬遅れたがショートボウを構える。狙いは魔術師だ。

 俺達の中で唯一、遠距離攻撃が可能なエミィが相手の攻撃の要である魔術師を攻撃し魔術への牽制にする。

 すでに奴らを攻撃範囲におさめた俺とアイラがガンヴォルデと軽戦士を後ろから切り捨てる。

 軽戦士は防御力の乏しい装備のためその一刀で絶命していた。ガンヴォルデは、うつぶせに倒れたがまだ息がある。

 魔術師は自分の胸に刺さった矢をぼんやりと見つめていたがすぐさま2本目の矢が胴体に刺さりそのまま後ろに倒れていった。

 まだ息のあるガンヴォルデに近づいていき、背中から剣を突き刺した。

 刺した剣を握る手が震えていた。これは俺がこの世界に来てはじめての『殺人』だった。

 ガンヴォルデは俺を殺す気だった。だから殺してもいい。

 そんな考えが平然と出てきた自分に恐怖する。俺はこの世界に来て何か変わってしまったのだろうか。

 それともはじめて他人に向けられた殺気に当てられてガンヴォルデを殺してしまったのだろうか。

 答えの出ないまま呆然としている俺にアイラが心配そうに近づいて声をかけてきた。


「ご主人様、顔色が優れませんがどこかお怪我をされたのですか?」


 それを聞いてあわててエミィが薬草を差し出してきた。


「大丈夫ですか?ポーションのほうが良いでしょうか?」


 俺は、近づいてきた二人を両腕で抱きしめてしばらくの間そのままでいた。

 2人は何も言わずそっと俺を抱き返してきてくれた。 




 

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