表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/181

第16話





 さて、夜の共同戦線を経て2人に多少の仲間意識が芽生えたまでは良かったがまだ問題があった。

 ベッドが狭いのだ。この世界のダブルベッドは元の世界の物と比べるとやや小さい気がした。

 まあ、元の世界でダブルベッドなど映像でしか見たことが無いが。

 俺を中心に2人を両側に侍らせてギリギリベッドから2人が落ちないくらいだ。

 早急に3人がゆったり眠れるベッドのある宿にうつるべきかもしれない。


「とはいえ、先立つものが無い。」


 現在の所持金は金貨1枚と少し。エミィの装備を買い揃えればこれが半分になるだろう。


「そうなのですか?」


 アイラが不思議そうに言った。


「あの、もしかして私のせいでしょうか?」


 エミィが申し訳なさそうにしている。


「いや、俺の甲斐性が無いせいだ」


 エミィの購入を無駄使いなどと誰にも言わせない。なに、またすぐに稼いでやるさ。

 最悪、『翡翠織物のローブ(無)』を売却すれば当座の資金は手に入るがそれは最後の手段だ。

 せっかく死ぬ思いをして手に入れた物だし、売りに出せばおそらくクレストの耳にそれが届くだろう。

 そうなると、不信感が生まれるかもしれない。それどころか懐事情までつかまれる恐れもある。

 まあ、たかが1回護衛任務を受けただけの冒険者の事などいつまでも覚えているとは限らないが。

 とりあえず、エミィの装備を整える。奴隷になった時に着ていた服だけがエミィの荷物のすべてだ。

 服屋と装備屋をはしごしてエミィの物を買い揃える。

 エミィの装備品は俺達と同じ『革の鎧』『革の靴』『革の篭手』を選んだ。

 ただし、『木の盾』は持たず『鉄の剣』ではなく、『ショートボウ』だ。

 これは、エミィを後衛として陣形を組むつもりだからだ。今のところ近くの森に俺達に致命傷を与えてくるようなモンスターはいないようだ。

 しかし、ミミックオークのような変種がこの森にいないとも限らないし、まだ出会ってないだけで強力なモンスターがいるかもしれない。

 何かあったときすぐにポーション等を使用できる人員が必要になってくるかもしれない。

 そのため今のうちから前衛と後衛を意識して戦っておくべきだろう。

 そういった思惑をアイラとエミィに説明する。アイラの役割は今までと変わらないし、エミィはこのパーティに参加したばかりだ。

 それほど混乱なく各々の役割を果たせるはずだ。

 装備も整ったので、冒険者ギルドに顔をだす。

 今日は森でスキルを試すつもりだ。ついでに達成できそうな依頼が良い。

 『薬草の採取×5』の依頼があった。これなら森にステータスチェックを行ってすぐに見つけることができるし、

 万が一見つけられなくても手持ちの薬草に余裕があるから依頼の達成だけなら簡単だ。


 「じゃあ、これを受けます。」

 

 リリに『薬草の採取×5』の依頼書とギルドカードを渡して依頼を受理してもらう。

 

 「はい、受理しました。 昨日は間に合ったようね。」


 リリはエミィをみてすこし微笑んでいた。

 結局エミィは奴隷になった。間に合ってはいない気がする。

 昨晩やることをやっておいてエミィを救えなかったと考えてる自分に自己嫌悪してしまう。


 「3人とも怪我しないようにね」


 リリに手を振ってギルドを後にする。

 エミィの事を言われるとなんだか責められているような気になるのだ。ただの被害妄想だとは分かっているが。

 いつもより若干早足になってしまっていたかもしれない。

 森の入り口に着くとエミィが話しかけてきた。


「あの、もしかして私のことで気に病んでらっしゃいます?」

 

 エミィに考えていたことをずばり当てられてドキリとした。

 そんなこと無いと答えそうになりそれがあまりいい意味で無い事に気付きだまってしまう。

 エミィの事を気に病んでいないという事は、エミィの境遇を肯定してしまうことになるからだ。


「私の事なら大丈夫です。今の状況に感謝すらしています。それに私の誓約書の条件に『借金返済完了後、自由』という項目もありますし。」


 奴隷身分からの解放が自身の購入のみの亜人と違って人の奴隷にはいくつか解放の条件が存在する。

 そのひとつが奴隷に落ちる前の借金を現在の主人に払い終えれば自由になれるという項目がある。

 奴隷は、主人の許しがあれば自分の財産を持つことができる。もっともあくまでもそういったこともできるというだけだ。

 奴隷にある程度の財産を貯めさせある日突然その財産を没収するひどい主人もいるとの事。


「ですので、ご主人様が許してくださるのなら今のままでもご主人様への借金を少しずつではありますがお返しすることも可能です。」


「ですが私はご主人様さえよろしければこのままでかまわないと思っています。」


「なぜだ?奴隷の身分なんて普通嫌だろ?」


「助けていただいたお礼も済んでいませんし、不敬ではありますがご主人様の事をお慕いしております。」


 まっすぐに向けられる好意にヒビキは顔を真っ赤にする。


「わ、わかった。ありがとう。」


 これ以上の言葉が出てこなかった。

 するとそこまで静かにしていたアイラも口を開く。


「私もご主人様の事大好きです。」


「そ、そうか アイラもありがとうな 」


「はい。」


 少し微妙になった空気をかえるため、ヒビキは今日の目的を話した。

 

「今日は、『スキル』を試そうか。」


 昨日のうちに『スキル』がどんな風に認識されているかをアイラとエミィに聞いてみると、ある職種がある作業を行うときに効果を発揮する何かという認識のようだった。

 たとえばエミィの『錬金術師』はアイテムを作成するときや効果の付与を行うときに頭の中でアイテム作成や効果付与を意識すると、不思議な力におおわれてるのだそうだ。

 つまり大雑把にでも“したいこと”を頭の中で意識すれば『スキル』が発動するようだ。

 確かに、【転職者】は使おうと意識したら使えたし。


「ここで、アイテムを作るのですか?」


 エミィが少し変な顔をした。そうか、この3人で『スキル』を試すというと『錬金術師』の『スキル』になるか。


「そうだな、最初はエミィから行くか。何か簡単に作れるアイテムってあるか?」


「材料があるなら大抵のものは作れますけど」


「そうだな、なら『ポーション』を作ってくれないか?」


 魔法薬の代表のポーション。これが自給できるようになるのは大きい。


「はい、材料は『スライムの肝』と『薬草』です。今、お持ちですか?」


「ああ、どっちもあるな」


 薬草は常備してるし『スライムの肝』もいくつかなら袋に入っている。肝というがほとんど石のような感触のものだ。

 持ち歩くのもそんなに不便ではない。モンスターは死後ある程度したら解けるように消えるのだ。

 その後に素材がその場に残されている。『ミミックオークの血液』は、血液とあるがぶよぶよした皮袋のような何かの中にちゃぷちゃぷと液体が入っている状態だった。 

 便利なのだが、なんとも不思議だ。

 それによく討伐依頼が出るようなモンスターの素材はいくつかストックがある。

 すぐに数を増やす『ゴブリン』、大きな群れになったら厄介な『シャープウルフ』は一週間に1度は討伐依頼がでる。

 『スライムの肝』の納品の依頼も良く出ていたが、なるほど『ポーション』の材料になるならうなずける。

 二つの素材をエミィに渡すと両手でそれぞれ素材を持って胸の前で合わせる


 「【アイテム作成】」


 ぱっと光ったと思ったらすぐ光は消えた。『呪い』を解いたときのような光だったが、同じ光だろうか。


 「できました。」

 

 「ご苦労様。」

 

 『ポーション』を受け取りステータスをチェックする。


******************************************


『ポーション+4』


効果 

体力をある程度回復する。


*******************************************


 名前の横に+4という表示があった。RPGなどで良くある表現でおそらくアイテムの効果が通常のものより高いのだろう。

 何度か装備屋に行っても“+”なんて表示は無かった気がするからあまり出回っていないのだろう。

 ゲーム的な感覚で言えば+4なんて大したことなく感じてしまうがこちらの常識的にはどうだろうか。


「エミィ、アイテムにプラスと表示されているものをしってるか?」


「プラス?よくわかりません。効果の高いポーションの事ならハイポーションなどありますが」


「そうか、同じポーションでも効果の強いものや弱いものはあるのか?」


「はい、熟練の錬金術師が作成したポーションは新人の作成したポーションより効果が強くなります。」


 作るのがうまい人が作ればいいものができる。ある意味当たり前だが、“+”の表示は出回っていない概念なんだろう。


 「同じく錬金術師の話ですが、効果付与も熟練した錬金術師は効果が強くなるようです。」


 「なるほど、分かった。 すまないがもうひとつポーションを作ってくれ」

 

 「はい。分かりました。」

 

 エミィにもう一度ポーションを作らせるとやはり『ポーション+4』ができた。

 ポーション作りが得意かをたずねても普通だと言っていた。

 一応確認のために手持ちの『ポーション』をみるがやはり“+”の表示は無かった。

 その後、予備の『鉄の剣』に【効果付与】を試してみた。

 錬金術師の『スキル』だけで付与できる効果は、その武器の本来持っている性能の強化だけらしい。

 『鉄の剣』で言えば、切れ味強化、耐久性強化、重量軽減といったところらしい。

 これも【効果付与】するものを持てばなんとなく分かるようだ。

 魔法属性の効果を付与することもできるらしいが、そのためには別にアイテムが必要だそうだ。

 とりあえず、『鉄の剣』には重量軽減を付与してもらった。

 ステータスのチェックをすると


******************************************


『鉄の剣』


筋力+15

【効果】重量軽減(中)


*******************************************


 と書いてある。

 手に持って振ってみるがやや軽いかもしれないと感じ程度だ。

 しかし、“+”の概念が無い以上この世界の人たちにはアイテムや装備品のステータスチェックはできないはずだ。どうやって、【効果付与】を見分けているのだろうか。

 エミィに聞くと、一人前の『商人』には分かるらしい。おそらく『スキル』なんだろう。

 装備屋に【効果付与】の装備が置いていなかったのは、今エミィがおこなった【効果付与】くらいなら『錬金術師』は誰でも使えるため、

 装備屋では低級な【付与】のついた装備をわざわざ置かないからのようだ。

 必要なら知り合いの『錬金術師』に格安で頼むし、大きな効果の【付与】はほとんど出回っていないし、伝があれば実力のある『鍛冶師』に直接依頼する。

 おそらくこの剣の【効果付与】は、【効果付与補正】によって効果があがってるのだろうし、これでも『錬金術師』の施す【効果付与】としても破格なのだろう。

 えらく【アイテム作成】と差があるように感じるが、装備品への効果の付与は 『鍛冶師』こそが本職なのだろう。

 “+”のついた装備品は『鍛冶師』によって作られるんじゃないだろうか。

 ポーションの“+4”は『匠神の加護』の効果だろう。ステータス上昇とあるが『スキル』にまで有効ということか、

 しかし、すべてに有効ではないということだろう。もしかしたら『職種』に依存するのかもしれない。

 その辺の検証は『鍛冶師』がいない今のままでは不可能なので今回は行わない。

 

「さて、次は【魔物使い】か。」






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ