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第160話



「ではこれより『神の采配』を執り行います。見届け人はウェフベルク領主である私、ギーレンが行う」



 フレイとの決闘にも使った中庭に集まった俺達にギーレンが淀みなく『神の采配』について説明を開始した。


「まずは、この箱から『采配』の内容を決定する。『異議』を申し立てた冒険者、前に出なさい」


 ギーレンの前に置いてある箱まで進み出て、箱の上部に空いた穴に手を入れて中にある木札を一枚取り出す。


「『采配』の内容は『代理決闘』。各自は準備時間内に代理の決闘獣を選ぶこと。準備時間は明朝までとする」


 俺の引いた木札には、『代理決闘』、『準備時間:一晩』と書かれていたようだ。


「『即時開始』じゃないのは相手の優しさかね?」


 『審査官』の過去の『神の采配』にはそんな条件での『審議』もあったのですぐにでも闘えるように準備しておいたのだが。


「さすがに露骨すぎる、と考えたのじゃろうな。とは言え、内容は予想通りか」


 あの『審査官』の『神の采配』はなぜか(・・・)かなりの確率で『代理決闘』が行われる。


 そしてなぜか(・・・)近くにいた強い代理獣を運良く手に入れて勝利をおさめている。


 この世界の情報伝達速度では『審査官』の悪行がその街に届く前に『審議』は終わってしまうため、誰も『審査官』を怪しむ事が出来ない、と言うことらしい。

 俺達もギーレンからの情報が無ければ対策を考える時間は無かっただろう。

 先程からそのギーレンがこちらをチラチラ見てくるのでにっこりと笑顔を返してやったら慌てて顔をそらしやがった。


 せっかく感謝していると言うのに失礼な奴だ。

 まあ、この『審議』の見届け人を買って出た手前、俺と話していては周りに示しがつかないと考えているのだろう。

 その上で、俺に対して無視してるわけではないぞ、とアピールしているのであんな挙動不審になっているのだろう。


 

「主よ、エミィの居場所じゃが」


 屋敷の中をゴースト達で探索していたジルが体を寄せて俺に耳打ちしてくる。


「居たのか!?」


「落ち着け。情熱的なのは良いが、理由が他の女と言うのが悔しいわ」


 顔と顔がくっつくほどに近づいていた俺をぐいっと引き離してジルがやれやれと肩をすくめる。


「すまん」


「かまわんよ。それでエミィの居所の事じゃがな」


 結局、ゴースト達はエミィを見つけられなかったらしい。


「まぁ、これは前にも一度調べて貰ってるしな」


「うむ。しかし、やはりいくつかゴーストが入れん部屋があるのも変わらんぞ」


 そういうアイテムの効果なのか、元々領主の屋敷としての機能なのか分からないがゴースト達が侵入出来ない部屋がいくつかあるようだ。


「その辺の事をギーレンに聞ければ、絞り込めそうだけどな」


 屋敷の機能ならばギーレンは把握しているだろう。

 ギーレンの知らない『秘密の部屋』が存在するのなら、高確率でその部屋にエミィがいるはずだ。


「とは言え奴は今、表面上は中立の立場を貫いておる。さすがに今日、明日は面会を申し出ても取り合ってはくれんじゃろうな」


「そう、だよな」


 手紙で確認するにしても、今日の手紙を回収に来るのは明日になる。

 それでは間に合わない。


 いつの間にか『審査官』もギーレンもいなくなりすでに中庭には俺とジルしか残っていない。

 これ以上ここにいても仕方が無いので、別行動中のアイラと合流する事にした。





「ご主人様」


 屋敷を出てすぐアイラが俺達に駆け寄ってきた。


「アイラ、どうだった?」


「はい。ご主人様のおっしゃる通り、誰かがずっとあとをつけて来るんです」


 今回、俺がアイラと別行動を取ったのは相手の動きを探る為だ。

 俺とアイラが別行動を取った時に相手がどう動くかが知りたかった。


 結果は、俺達にもアイラにも尾行がついた。


「それで、これでなにが分かるんじゃ?」


 ジルが俺に小声で確認してくる。アイラも気になっているようだ。


「相手がどこまで俺達の事を知っているかが分かるんだよ」


 現在の潜伏先であるフレイの家には、奴らの監視の目は無かった。

 つまりフレイや数人のヴァンパイア、街にいたゴブリン達の事を『審査官』の奴らは把握していない、もしくは重要視していないという事だ。


「で、この数日で俺達が街に戻ったことに気がついた教会の連中が俺達に尾行をつけただろ?」


「うむ、のしてやろうと思ったことは一度や二度では無いぞ」


 短気なジルはともかく普段は大人しいアイラまで少々ストレスを感じていたようで2人を宥めるのに苦労した。


「主はよくあんな視線に耐えておったな」


「お前達をなだめるのに必死だったんだよ」


 この2人は特に視線に敏感なのだろう。しかも今回は敵意が込められた視線だ。

 そうとう堪えたのだろう。

 視線に鈍感だと言われているようで少しへこむが気を取り直して今後の作戦を2人に伝える。


「とりあえず、最優先の目標はエミィの救出だ」


 これには異論が無いようで二人はしっかりと頷いてくれる。


「次に村の連中と設備の安全の確保。もちろん人命優先だ」


 この場合は、ゴブリン達よりもヴァンパイアを優先しろ、と言う意味ではなく村人全員の命を村の設備の保護よりも優先しろ、と言う意味だ。


「それで、どんな方法をとるのじゃ?」


 村の周りには今も魔術師の部隊が巡回している。

 下手に動けば簡単に村中に火の手が上がるだろう。そうなれば少なからず人命に被害が出る。


「まずは部隊を無力化する」


「はい、お任せください」


 アイラが大きく頷き、了承の意を示すが俺は首を横に振る。


「いや、これには俺が行く」


「えっ!?しかし、」


 アイラの困惑ももちろん理解している。

 部隊の連携を少しでも遅らせる為には、部隊への襲撃を『代理決闘』中に行うのがベストだ。

 つまり、『俺』は『決闘』に参加しなければいけない。

 もちろん『代理人』をたてる事は可能だろうが、そんな事をすればおそらく今日以上の警戒網が敷かれてしまうだろう。


 それでは意味が無い。


「ああ、『決闘』にも俺が行くよ」


「それは、どういうことですか?」



「つまり、こういうことさ」


 俺はこの作戦の要となるある物をアイラ達に見せた。


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