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第155話






「我が名はテオ。我は『天龍』の『加護』を受けし者!!」


 宴の熱気すら吹き飛ばす程の声量で『信者』達の前に姿を現したテオ。

 彼の全身を包んでいるのはゲルブ湖の湖底に沈んでいた『勇者』のミイラが身につけていたものだ。


 ざわつく『信者』達の集団からサッと3つの人影が抜け出し、テオに負けない声量で言葉を紡ぎだした。



「『天龍』よ。我らが『勇者』に祝福を!!」


「我らの新たな門出に祝福を!!」


「新たな『友』との友好に祝福を!!」



 『三巫女』達の声に応じたかのように『天龍』の咆哮があがりその振動はまるで小さな地震のように地面を揺らしていた。



『汝らに祝福を』


 『天龍』は雲の切れ目から徐々に姿を現し一言そうつぶやいてまた雲海の中に消えていった。


 アイラと先行していた『天龍』は目的地であるここに到着してからと言うもの、日がな一日雲の上で日向ぼっこをしているか、近くにある山の頂上付近にとぐろを巻いてグースカ寝ているかだったらしい。

 山の上で寝ていた『天龍』を叩き起してなんとか格好がつくように雲の上に移動させておいて良かった。



「もう引っ込みおったか。『天龍あやつ』はモノグサじゃのう」


「あいつは『天龍教』にはそんなに興味がないからなぁ」


「今度、なにか美味しい物を持ってきて欲しい、と頼まれてしまいました」


 『天龍』の最近の関心事は食事だけのようだ。

 小腹がすいたら海に潜ってそこそこの大きさのモンスターをむしゃむしゃと食べている。

 そのうち、堅牢珊瑚ストロングコーラルでも食べさせてみよう。

 『深海竜シーサーペント』もおすすめの歯ごたえだ。きっと気に入るだろう。


「いたぁ!!ヒビキ兄さん!!いや、ヒビキ!!もう一度勝負だ!!」


 『加護』によるステータス向上と『勇者』の武具を装備した事による高揚感ですっかり態度がでかくなったテオが再戦を申し込んで来た。

 まぁ、一番こっぴどくやられた相手である俺に突っかかって来るのだけは褒めてやろう。

 しかし、ここでは人目が多すぎる。ここでテオを負かしてしまうと『信者』達に不信感を抱かせることになるかも知れない。

 仕方ないので、『アイツ』に登場してもらおう。


「俺と戦いたいのなら、ある男に勝ってからにしろ」


「ある男?」


「ついてこい」


 『信者』達の目の届かない所まで移動し、準備の為にさらにテオをその場で待機させておく。


「ルビー、頼む」


 物陰に隠れて待機していたルビーと合流し、謎の戦士『エコー』に変身しテオの前に颯爽と現れる。

 これでもし『信者』達に見られても『エコー』を『天龍教』の関係者と説明すれば済む。

 ようは、『俺』が『勇者』なみに強いことがバレなければいいのだ。


「な、なんだ!?お前は!?」


 ちゃっかり『星剣』まで装備して完全武装の俺を警戒するテオ。

 五感の鋭い『獣人』が相手なので声も極力出さない方がいいだろう。

 匂いの方は、ルビーが上手くごまかしてくれている。

 トーナメントの時にも誰にもバレていなかったので信じて大丈夫だろう。


 剣先をテオに向けて、“いいから、かかって来い”とアピールする。


「そうか、お前がヒビキ兄さんが言ってた奴だな。なら手加減はしないからな!!」


 そう言いながら弾丸のような速さで突っ込んでくるテオ。

 俺は、ルビーのアシストもあり紙一重でテオの突撃を躱すことができた。


「さすがにやるな」


 またも凄まじい速度でこちらに向かってくるテオに、今度はすれ違う瞬間を狙って剣で浅く切りつけた。


「あ、あつっ!?」


 切り傷の痛みを熱さと勘違いしたようだ。

 テオは切られた右腕の傷をまじまじと見つめて足を止めている。

 

「てぃ!!」


 そんなテオの背中に足の裏を押し付けるような、いわゆるヤクザキックをお見舞いする。


「うわっ!?」


 テオの実力は今や数値上では俺達と遜色ないレベルだ。

 ではなぜ全敗したのか?

 それは、戦闘経験が無さ過ぎるせいだ。

 異世界出身の俺が言うのもなんだが、いくらなんでもひどすぎる。


 彼は『喧嘩』には慣れていたが『戦闘』には慣れていなかった。

 だから、何も考えずに力任せに突撃してくる。

 『喧嘩』では負った事のない『怪我』に驚き足を止めてしまう。


 街での『喧嘩』ならそれでも十分に勝てていたのだ。

 今も『聖剣』は彼の腰にぶら下がったままで自らの爪でこちらに攻撃を仕掛けてきていた。

 

 宝の持ち腐れもいいところである。

 しゃべれない俺はテオの『聖剣』の鞘を『星剣』でかるく数回小突き、“剣を抜け”とアピールする。


「この剣?あぁ、そうか。『聖剣』だもんね」


 ようやく気がついたようで『聖剣』を鞘から抜き放つ。


「さぁ、これで互角になったぞ」


 『聖剣』を大上段に構えてこちらに構えたテオは、

 はっきり言って隙だらけだった。


「しっ!!」


 斧でも振り下ろすかのように両手で握った剣を地面に向かって振り下ろすテオ。

 当然、そんな大ぶりが当たるはずも無く簡単に避ける。

 これなら爪での攻撃の方が何倍も鋭かった。


 しかし、威力は絶大だ。

 振り下ろした剣先は地面に触れるや否や直径1m、深さ50cmほどのクレーターを出現させていた。

 

「く、そっ」


 周りに飛び散る土塊を全て躱す事は難しく、咄嗟に鎧に守られていない目元の部分を腕で庇う。

 

「もういっちょ!!」


 今度はやはり両手で握った剣を真横に振り切り攻撃してくる。

 しかし、振り切ったあとにその場で体勢を崩してそれ以上の追撃は無かった。

 土塊が飛んでこない分、横薙ぎの方がマシだが当たれば身体が吹き飛んでしまうのは変わらないだろう。

 【灼熱竜の鱗】があるとは言えアレを喰らって無傷でいられるとは思えない。


 未だに体勢を崩したままのテオに遠距離から【火魔法】で作った炎弾を打ち込んでいく。


「うわ、うわぁぁっぁ」


 テオは炎に大げさに驚いて着弾点から大きく逃げ出した。

 火が怖い、って動物かっ!?って半分は動物か。


 しかし、アイラを始めとした『獣人』達が火を怖がっている所なんて見たことがないが。

 この反応はテオだけだろうか?


 続けて【水魔法】で水弾を放つ。もちろん狙いはテオの逃げた先だ。

 

「うわっぷ」


 テオは大勢を崩した状態でさらに無理やりジャンプして逃げたため、水弾をよけられずにモロに顔面に喰らった。

 鼻に水が入ったのだろう。その場で大きく咳き込み始めてまた動きが止まってしまっていた。

 その背中に容赦なくヤクザキックをお見舞いする。


「うげっ!?」


 地面に顔からつんのめったテオ。

 周辺の地面は先ほどの【水魔法】が原因で泥と化していたので泥が口に入って気持ち悪いのだろう。

 すぐに起き上がってぺっ、ぺっ、と口の中の泥を吐き出そうとしていた。

 

 成長の無い彼にその後数えるのも馬鹿らしいほどのヤクザキックをお見舞いする事になってしまった。






「もう、『勇者』やめるっ!!」


 テオはとうとう癇癪を起こして地面に寝そべり駄々をこね始めてしまった。

 声を出すことの出来ない俺はテオを慰める事も出来ないので仕方なくジッとテオを見つめ続ける事にした。

 すると、


「テオ?どうかしたの?」


「全く、情けないね。男の子だろ?」


「ヒ、じゃなくて『エコー』さん、申し訳ありませんがもう少し手加減していただけませんか?」 


 『三巫女』達が現れテオを慰め始めるのだった。




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