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第153話





 『人魚』と『信者』達とのファーストコンタクトはなんとか無事に終了した。

 今は、お互いに今まであった誤解を解く為にお互いの事を理解しようとしていた。


「人を襲っていた『人魚』は、貴方たちとは違う生き物なのか!?」


『ああ、我々も奴らに襲われるので滅多に近づかん。それにしてもそちらには色々な姿の者がいるのだな』


「獣人のことか?ここには普通の人間の方が少ないが、確かに姿は多彩かもしれないな」


 フキと一番熱心に話しているのは医者のデトクだった。

 どうやら、『人魚』の鱗に薬になる物とならない物がある理由を知りたかったらしいが、どうやら薬になるのはモンスターの『人魚』のようだ。

 フキも人間と獣人の区別がついていなかったようだ。こうしてじっくり見比べれば区別がつくのだから興味が有るか無いかの違いかもしれない。

 興味の無い人にはガン○ムが全部同じに見えるのと同じ事だろう。


 周りでもいくつか『獣人』と『人魚』の集団が出来ていた。

 イヤリングはそれほど数も無くまだ『信者』達に公表するつもりも無かったのでお互いに会話も出来ない事が多いのだが、それなりに上手くいっているようだ。

 

「ははっ、なんだよ人魚さん。すっげぇ美人じゃないですか~」


『褒めてくれてるの?ありがと、あなたも素敵よ?』


 いつの間にかセレナも宴に参加していた。彼女はすでにかなり『人間』に慣れていた為、『信者』達も接しやすかったのだろう。

 しかし、言葉も通じないというのにいきなりナンパとは。ちょっと順応しすぎではないだろうか。


「主よ、アイラの方も準備が出来たようじゃぞ?」


「そうか、宴が一段落したら始めよう」



 これから『信者』達にテオのお披露目をする。

 アイラにはテオの準備を頼んであるのでここにはいない。






ーーーーーーーーーーーーーー



「うぅ、いたぁ~ぃ」



 テオは痛み止めを飲ませても痛みを訴え続けていた。

 痛み止めでは気休め程度にしかならないのだろう。

 暴れないだけマシになったと思うべきだろう。


「よしよし、ここが痛いの?」

 

 ミラがテオのお腹の辺りに触れながら【回復魔法】をかけ始めた。

 テオの顔から徐々に苦痛が取り除かれていく。

 とは言えやはり『完治』には至らないようでグスグスと鼻を鳴らしながら、


「かぁちゃん、かぁちゃ~ん」


 と泣き続けていた。


「大丈夫ですよ。私はここにいますから」


 ミラは【回復魔法】をかけながら別の手でテオの頭を優しく撫で続ける。

 すると意識は無いはずなのだが、テオがその手をギュッと掴んで離さない。


「なんとか落ち着いたな。さすが巫女殿だ」


 デトクも感心してミラとテオの様子を見ている。




「この子は我々がお預かりします」


 ミラが寝息を立てているテオを慈しみながらきっぱりと宣言した。


「巫女殿?」


 突然の発言にデトクも困惑ぎみのようだ。

 正直俺も驚いてしまったが、元々テオの身柄は確保するつもりだったので発言の内容は問題ない。


「ミラって結構、母性があるんだな」


「まぁ、ヴァンパイアは種族全体で情に厚いからのぅ」


 迫害の歴史を持つヴァンパイアならではなのだろうか。

 一度、身内だと判断すればどこまでも献身的になるようだ。


「そんな事はわらわを見れば一目瞭然だがのぅ」


 ジルのつぶやきは無視するとして、確かにリーダー格のヴェルゴードも仲間思いではある。


「この子には定期的な魔法での治療が必要です」


「それは、確かにそうだが」


 デトクとしても自分の患者を他の人間に丸投げする事が許せないのであって、ミラの言葉の正当性には頷いてる。

 そろそろ助け舟を出す頃合か。


「えっと、巫女殿がここまで頑ななのには訳があるんだよ」


「訳とはなんだい?」


「その子は『天龍教』にとって大切な子かも知れないんだよ」


 もちろんでっち上げだ。

 正しくは『天龍教』に、ではな無く『俺』にとって大切な子な訳だが。

 そんな話をしていると、当の本人が目を覚ましてしまった。

 

 キョロキョロと周りを見回しわずかに俺たちに警戒する。

 しかし、ミラの手を放すつもりは無いようだ。

 これはチャンスだ。


「テオ。君さえ良ければそこのお姉さんとずっと一緒に暮らさないか?」


 そう言われて始めてテオがミラを直視する。


「グァゥゥ!?」


 手を繋いでいた事にも気がついていなかったようで弾かれたようにミラから距離を取るテオ。

 あの巨体でこれほど速く動くとは。


「テオ、どうしたの?さぁ、いらっしゃい」


 ミラが慈愛に満ちた笑顔でテオを呼ぶ。

 テオは少し躊躇った後、ゆっくりとミラに近づいて来てくれた。   


「きまり、だな」


 俺の言葉にデトクもしぶしぶだが頷いてくれた。


 テオの身柄を確保出来た俺は、早速テオを俺の思い通りにするための教育を施していった。

 基本は『飴と鞭』で鍛えていく事にする。





 予想外の(ミラ)が手に入ったので俺は鞭に徹すればいい。

 早速、翌朝からテオに訓練を行った。


「さて、まずは強くなってもらわないとな」


「ふんっ」


 俺の言葉が不服なようでテオが鼻で笑った。


「何かおかしいか?」


「別に~」


 明らかに俺を見下した態度を取っている。

 おそらく強さに自信があるのだろう。

 とりあえずその自信を粉々に砕く所から始めよう。


「そうか、ならまずはお前の力を見せてもらおうかな。俺達の中から好きな相手を選んでいいぞ」


 訓練のパートナー候補は、俺、アイラ、ジル、ルビーだ。


「選んでいい、って女とかスライムなんて相手になるわけないじゃないか」


「そう思うなら俺を選べばいい。ちなみに俺のオススメはアイラだな」


 アイラはテオの方を向いてにっこりと笑顔を浮かべている。

 テオは恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしてそっぽを向いてしまった。

 まあ、半分は『虎獣人』の血をひくテオにしてみれば『虎獣人』のアイラは他の奴より親しみが持てるのだろう。

 そのせいで見つめられると照れてしまうようだ。


「ついでに教えておくと、ジルはやめておいたほうが良いぞ。容赦ないからな」


「おいおい、主よ。それではわらわが加減の出来ない阿呆のようではないか」


 テオの視線を受けてニタリと笑うジル。

 同じ笑顔なのにどうしてこうも違うのだろうか。


「わらわはミラとは同郷じゃぞ?あやつの大事な子を苛めたりはせんわぃ」


 テオが『ミラ』と言う単語に反応する。少しジルに興味が出てきたようだ。


「最後はルビーだが。まぁ、ルビーに勝て、とは言わないから安心しろ」


 ルビーの方はやる気満々のようで準備体操のつもりか縦、横への伸縮を繰り返してかかってこい。とアピールしている。


「この僕ががスライムなんかに負けるかぁ!!」


 ルビーの挑発に乗ったテオが素晴らしい速さで突進していく。


「あ~、まぁ頑張れよ」


 一応、最初なので俺かアイラが相手をするつもりだったのだが、こうなっては仕方がない。

 ケガだけはしないように祈っておこう。





 30分後、目の前には疲労から一歩も動けなくなって横たわっているテオと、その上で勝利の伸縮運動を行っているルビーの姿があった。


「な、なんで、スライムなんかに!?」


 大人にだって負けたこと無いのに!!と泣きながら叫ぶテオを慰めてやる。


「だから言っただろ?まあ、気にするな」


「も、もう一回!!もう一回だ!!」


 こちらとしては望むところだ。今度は相手を変えてもう一戦することにした。


 テオが次の相手に選んだのはアイラだった。

 これに勝ってルビーとの再戦に弾みをつけるつもりで一番弱そうなアイラを選んだようだが、世の中はそんなに甘くはない。


「テオ、こっち」


「ぐぅ!?」


「いい反応ね。今度はこっちよ」


「そんな!?さっきまで右にいたのに!?」


 アイラは当初の予定通り優しくテオを痛めつけている。

 具体的に言えば、段違いのスピードでテオの視界に一度も入らずに攻撃を続けている。

 打つ前に声をかけているのはしっかりとガードさせるためのようだが、それでも時々テオのガードが間に合わない。


「くそっ!!」


 テオもけして遅いわけではない。むしろあんな巨体でよく動いている。

 おそらく速さを競って負けたこともないのだろう。

 半べそをかきながら必死にアイラに喰らいつこうとしている。

 しかし、


「そろそろおしまいにしましょうか」


 そう言ってアイラがテオにトドメの一撃を浴びせ、気絶させてしまった。







「はっ!?」


「おぉ、ようやく起きたか?今度はわらわの番だからのぅ」


 気絶していたテオに【水魔法】で大量の水を浴びせかけて意識を取り戻させてすぐにジルと戦わせる。


「ぐぅぅぅぅぅ!!」


「ほれ、どうした?こんな細腕の女の力に負けるとは情けないのぅ」


 ジルはテオと正面から力比べを行いねじ伏せている。

 力にも自信があったテオは血管が切れそうなほどいきんでいたが、結局ジルを一歩も動かすことなく地に伏せてしまった。






「さて、今日はここまでにしようか?」


 俺は、三連敗中のテオを慮ってそう提案する。

 しかし、テオは涙と鼻水で顔をぐしゃぐしゃにしながらも首を横にブンブンと振って俺に向かって来た。


「いい根性だ」


 俺は持てる力の全てでテオを打ち負かすことにした。




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