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第14話



 俺は、冒険者ギルドでリリにエミィの近況を聞いて驚いてしまった。

 エミィには多額の借金があり、期日までにそれを支払わなければ奴隷の身分に落とされるらしい。

 しかも、支払いの期日は今日の昼まで。

 この1週間でエミィと仲良くなっていたリリはエミィがそんな状況であることも聞きだしていた。

 そこまで聞いてようやく俺は合点がいった。

 箱入り娘のように世間知らずなくせにみすぼらしい格好をしていたエミィ。

 ほとんど戦ったことも無いように見えたのに『ゴブリン』の討伐を受けていたエミィ 

 女性の冒険者は、嫌悪感や恐怖心から強くなっても『ゴブリン』の討伐は普通受けないのだ。

 そこまで聞いて俺は冒険者ギルドを飛び出した。今はお昼を少し回った頃だ。

 エミィは奴隷に落ちてすぐ発掘現場に送られると聞いた。おそらく東門の馬車乗り場にいるはずだ。

 幸い、ギルドの建物は東門のすぐ近くだ。全速力で向かい馬車乗り場にたどり着く。あたりを見渡すとエミィが馬車に乗ろうとしているのを見つけた。

 馬車乗り場に人が少なかったためにすぐに見つけられた幸運に感謝しつつ俺は大声で叫んだ。


「待ってくれ!!」


 奴隷商と思われる男がこっちを見る。

 エミィもこっちに気づいたようだ。びっくりしてこちらを見た後目を伏せてしまう。


「なんだい、あんた。」


 男がめんどくさそうに聞いてきた。


「その娘は、もう奴隷になってしまったのか?」


「あん?そうだが、こいつの知り合いか?」


 遅かった。もう少し早くここに来ていれば、エミィの借金を肩代わりするだけで済んだのだが仕方ない。


「なら、俺がこの娘を買いたい。」


 エミィが驚いた顔をしてる。俺も自分がなぜたった数回話をしただけの彼女にここまでするのか分からなかった。

 しかし、『錬金術師』に興味もあるし、なにより『呪い』持ちなら安くなるだろうし自分が治せる。

 そう考えて俺は彼女を購入することに決めた。


「買う?この娘をか?俺の店まで来てくれればもっといい奴隷を紹介するぞ?」


「いや、彼女がいいんだ!彼女でなきゃだめなんだ!」


 俺の気迫に押されたのか奴隷商は、後ずさりながらエミィの金額を教えてくれた。」


「こいつは借金持ちの奴隷だ。値がはるぜ。金貨11枚。そのくせ『呪い』持ちだぜ」


 男は、ため息混じりに答えた。値段を聞けばあきらめると思っているのだろう。

 金貨11枚は決して奴隷の金額では高いほうではない。しかし、同じ『呪い』持ちのアイラが金貨2枚をさらに値切れたのだ。

 つまり、金貨11枚はほとんどエミィの借金の金額ということだろう。


「分かった。」


 腰の袋から金貨を取り出し男に渡す。


「へぇ、驚いたな。こんな娘にここまで出すなんて。惚れたのかい?」


「そんなところだ。」


 奴隷商が羊皮紙を渡してくるので受け取った。


「これは?」


「それがそいつの誓約書だ。そこにサインしな。」


 アイラの時にはこんな誓約書は無かったのだが、エミィには誓約書があるようだ。言われたとおりサインするとエミィの手の甲になにやら模様が浮かんできた。


「これでそいつはあんたの奴隷だ。また、奴隷が入り用ならこの近くのアウラー商会に顔出しな。」


 男がそういって馬車を引いて街のほうへ歩いていく。奴隷商はみんな最後にあの捨て台詞を言う決まりなのか?少し笑ってしまった。


「あ、あの」


 振り向くとエミィが顔を真っ赤にしてこっちを見ていた。

 周りにいた奴らも俺たちを見てニヤニヤしている。


「にいちゃん!なかなか格好良かったぜ!」


 男が野次を飛ばす。何のことだ?

 少し考えて、ようやく思い至る。さっきまでの流れではまるで惚れた女を私財を投げ打って身請けした男にしか見えない。


「い、いやそうじゃないんだ」


 周りに説明しようとするが、一体なんと言えばいいのか分からず結局エミィの手を引いて足早にその場を後にした。

 エミィの手を引いていて急に気づいた。アイラをギルドに置き去りにしてしまっていたのだ。

 そのまま急いでギルドに戻ると、そこには不安そうな顔をしたアイラがちゃんといた。

 こちらに気づいたアイラがなぜだか悲しそうな顔をしている。おいていった事に怒っているのだろうか?


「ご主人様、私はもういらなくなったんですか?」


 完全に涙声になっているアイラに面食らい何が原因かやっと気がついた。エミィの手を握ったままだった。


「い、いや、違うぞ。エミィは新しい仲間で、」


 何も違わない気がする。とりあえず、泣き出してしまったアイラを落ち着かせるため抱きしめて頭を撫でてやる。

 最近では減ってきたし、護衛中には一度も無かったがアイラは時々夜泣きをすることがあった。昔のつらい記憶がフラッシュバックするようだ。

 そんな時はこうやって抱きしめて頭を撫でて朝まで一緒に過ごすようにしている。


「俺がアイラを捨てるわけ無いだろ?それとももう俺と一緒にいるのが嫌になったか?」


「私はご主人様とずっと一緒にいたいです。」


「そうか、ならずっと一緒にいよう。」


「はい。」


 アイラは俺の胸に顔をうずめて頬ずりをはじめる。ようやく落ち着いてきたようだ。

 夜泣きの時もそうだがアイラは基本甘えん坊だ。二人でいるときなどは良く擦り寄ってくる。

 しかし、こんな人目のあるところでこんなに甘えてくるのは珍しい。それほど不安だったんだろう。


「あの~」


 一難さってまた一難である。今度はエミィがふてくされていた。


「別にいいですけど、ついさっき私じゃなきゃだめだって言ってくれた人が別の女性を抱きしめるのはさすがにつらいですよ」


 それを聞いたアイラも頬ずりをやめて不機嫌になる。

 俺の右腕にぎゅっと抱きついてエミィを睨む。

 エミィもアイラの視線に気づき左腕に抱きついてくる。二人が俺を挟んで火花を散らしていた。


「と、とりあえずみんなで食事しないか?お互いに自己紹介もまだだし。」


 へたれな俺は何とかこの状態を切り抜けるための案を口にした。



 食事は、やはりピリピリした空気の中で行われた。4人がけのテーブルに女性2人と対面で座る俺。何のいじめだこれ。

 この空気の中発言をしたのはエミィだった。


「えっと、まずはお礼を言わなければいけません。助けて頂きありがとうございました。このご恩はご主人様への働きでお返しします。」


 それを聞いてアイラが反応した。


「あなたもご主人様に助けていただいたのですか?」


「はい、私は借金持ちの奴隷です。それに『呪い』持ちですのでご主人様に買っていただかなければ発掘現場に送られていたところです。」


「わ、私はひとりでダンジョンに潜らされそうになっていたところをご主人様に買っていただきました。」


 おや、話がはずんでるな。少し様子を見るか。


「私は冒険者ギルドで親切にしてもらって、その後命まで助けていただいたんです。

 そしたら今度はその方が私のご主人様になってくださるなんて。 本当に感激です。これが運命という奴なのでしょうか。」


「わ、私は可愛いからつい買ってしまったと言っていただきました!」


「・・・私も助けて頂いたときに可愛いといわれてます。」


 あ、あれ?雲行きが怪しくなってきた。

 ついにアイラは椅子から立ち上がって熱弁し始めた。


「私は、戦闘で役に立つと褒めていただいてます。」


 モンスターに襲われていたところを助けられたエミィは少し悔しそうにしている。


「私だってきっとお役に立ちます。せ、戦闘では少し難しいかもしれませんが『錬金術』な、ら、」


 言いながら言葉が尻すぼみになるエミィ。何でだろ? ああ、『呪い』のせいか。


「さて、飯も食ったし宿に戻るか。」


 これ以上2人が言い合いを続ければ店にも迷惑になるだろう。

 2人をなだめて宿へと足を進める。



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