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第140話



「ルビー、【天龍】入るぞ~」


 アイラと一緒に【天龍】がいる部屋に行くと2匹でなにやら話し込んでいた。


「グルルッ」


 ぷるぷる。


「ガウ?」


 ビョ~ン。


「ガァルゥア」


 ぷよぷよ~。


 もっぱら声を出しているのは【天龍】の方だが、ルビーも身体を伸ばしたり縮めたりして意欲的に意見を交換しているようだ。


「何話してるんだ?」


「お魚とお肉どちらが美味しいか、ですね」


 ルビーが魚派のようだ。先日の『グレートソードフィッシュ』乱獲の時に魚の美味さに目覚めたらしい。


「君は魚の本当の美味さを知らないだけだ」


 アイラがリアルタイムでルビーの言葉を翻訳してくれる。

 もちろん、俺にもルビーが言いたい事は分かるが、ルビーを直接仲間にしたアイラならより正確に理解できるようだ。


「肉こそが至高だ。魚など肉が無い時に仕方なく食べるものだろう?」


 今度は俺が【天龍】の言葉を翻訳してやる。

 【天龍】はまだ支配状態ではないのでかなりの意訳になってしまうが間違ってはいないだろう。


「それは違う。そもそも魚を肉の代用品だと考えるのが間違いなんだ」


 ルビーは振動をより激しくして【天龍】の言葉を否定する。


「何が違うのだ?滴るような血や脂も食い出も肉が上であろう」


 【天龍】にとって食べ物の美味さの比重はそこにあるのだろう。

 『深海竜』も『堅牢珊瑚』の硬さを美味いと言っていたので竜と龍の違いはあっても好みは近いのだろう。


「【天龍】は魚は嫌いか?」


 2匹の言い争いに割って入る。2匹ともびっくりしている。どうやら俺達が部屋に入って来たことに気がついていなかったようだ。

 ルビーが勢いよく体当りしてくるので受け止めてやる。


「いい子にしてたかルビー?」


 撫でながら聞くとルビーは身体を震わせて肯定する。

 

「グルゥ~」


 【天龍】がこちらを見てひと鳴きする。


「肉を食わせろって? エミィの話だと昨日の昼に船の備蓄分は全部お前が食べちゃったんだろ」


 知ったことか、と言わんばかりにこちらを睨んでくる【天龍】。

 瞬時にアイラが俺と【天龍】の間に割って入ってくる。

 ルビーも俺の足元で全身に力を貯めて何時でも飛び出せるように身構えている。

 表面に徐々に『竜の鱗』が浮き出て来ている所からもルビーの本気度がうかがえる。


「アイラ、ルビーありがとう。でも【天龍】には不自由な生活を送って貰ってるから、出来るだけ要望は叶えてやりたいんだよ」


 両手でアイラとルビーを撫でながら緊張を解きほぐしてやる。


「【天龍】少しだけ待ってくれるか?明日には肉も準備させるし、近いうちにここからも出してやるから」


 【天龍】はモンスターの肉を食うことでどんどん強くなっている。

 見つけた時は眠ってばかりだったが、現在は日中はほとんど起きているので暇なのだろう。


 どうやら納得してくれたようで【天龍】は顔を伏せてガルガル言っている。

 【天龍】を船の外に出す日は一応考えている。

 できる限り神秘的に演出してやるつもりだ。


「じゃあ【天龍】、もうしばらくだけ大人しくしててくれよ」


 【天龍】の身体をひと撫でして部屋を後にする。

 ルビーはまだ【天龍】と話し足りないようで部屋に残った。

 日が落ち始めていたので甲板には戻らずに、アイラと俺の部屋に戻ることにした。

 昼間はたっぷり寝た為、眠気は全くないが2人でベッドで横になってゴロゴロ過ごすことにした。


 明日は、【天龍】の食料確保ともう一つの理由で一日中モンスター狩りを行うつもりだ。

 今日は英気を養う事に専念する事にした。






 次の日は朝から『天龍教』信者達の為の新しい街を建設する場所の下見をして回った。

 漁師として生計を立てていた亜人達が大半の為、海岸沿いに土地を探す。


「このあたりは、森に近いからモンスターも多そうだな」


 『亜人街』から徒歩で2週間ほどの距離に適当な広さの平地を海岸線に発見した。


「ですが、海岸線沿いに大きく拓けていて街を作るには最適です」

 

 俺とアイラはグリフォンに乗って上空から平地をぐるりと見渡していく。

 森の切れ目から時折小型のモンスターが姿を見せているのを見かけての発言だったのだが、アイラの言うとおりこの平地は魅力的だ。

 平地の真ん中に流れる大きな河と河口も港町としては優良な点だ。


「人数もそれなりにいるし、自分たちの身は自分たちに守ってもらうか」


「それがいいと思います」


 今は、街外から物資を補給してなんとか持っているが『亜人街』での生活には近い将来限界が来る。

 しかし、あの港街に住んでいる限り亜人達は飼い殺しの状態が続く。

 それなら、あんな街から出て『亜人』の街、いや『天龍教』信者の街を作ってしまえばいい。


 彼ら『亜人街』の住人が他の街に移れないのは、食料不足による物が大きい。

 大人数での移動でもハーピー達の輸送で食糧を随時運んできてもらえば行軍速度は上がるだろう。

 

 行軍のあいだ『ゴブリン聖歌隊』に行軍歌でも流して貰えば道のりは更に楽になるはずだ。


「それともうひと押し、かな」


 俺たちは、スムーズな出発の為の準備をする為に『亜人街』へ戻ることにした。

 





「おぉ、誰かと思えば懐かしき我が主ではないか。わらわの事などもう忘れてしまったのだと思っておったぞ」


 久しぶりに『亜人街』の『奇跡の家』に戻るといきなりジルに嫌味を言われてしまった。


「悪かったよ、ジル。ほら、約束通りお土産もある」


「ふん、そんなものでわらわの怒りが静まるとでも ・・・おぉ、見事な『真珠』じゃのぅ」


 ジルは手渡した『真珠』を手のひらで転がしてうっとりと眺めている。


「美しいのぅ。うん? むぅ」


 俺とアイラが苦笑しているのに気が付いたようですぐに緩んだ顔を引き締めた。


「こほん。まぁ、主にしてはなかなか洒落た土産じゃのぅ」


 いそいそと懐に『真珠』を仕舞うジル。


「で、どうかしたのか?」


「あぁ。そろそろこの街とお別れしようと思ってね」


「そうか、でいつ出るんじゃ?」


「とりあえず、下準備に一週間かけてあとは天気を見て出発の日を決める」


 一週間かけて『巫女』に自分達がこの街を離れると吹聴してもらう。

 そうして、亜人たちに引越しの準備を進めさせおく。


 あとは、新天地へ『希望』を抱けるような演出を行うのに都合がいい天気を待って出発する。


「天気?あぁ、長旅をするのに旅立ちが雨では気が滅入るしのぅ」


「そうだな、でも晴天も困るんだ」


 とりあえず、明日から炊き出しの時に『巫女』達に『予言』でもしてもらおう。





「近い将来、この街に『災い』が訪れる」


 そんな噂が蔓延するのに1週間はかからなかった。

 同時に流れた、


「『天龍教』は『災い』を避けて新天地を目指すらしい」


 という噂に浮き足立つ亜人達が連日『奇跡の家』に押しかけてきた。



「『巫女』様!!いつ旅立つのですか!?私もお供いたします!!」


「『巫女』様!!俺も連れて行ってくれ!!」


 そんな彼らに『巫女』役のヴァンパイアの美女達は笑顔で対応していった。


「旅立ちの日が来れば皆さんにお伝えいたします。私たちは同胞を見捨てません」


 すっかり『巫女』が板について来ている。

 ステータスで確認すると、いつの間にか3人とも『天龍の巫女』と言う職種になっていた。


「で、先遣隊の方はどうなった?」


 噂を流し始めてすぐに『信者』の中でも特に熱心な、者を十数人選び建設予定地に派遣して受け入れの準備を進めてもらっている。


「フキさん達も協力してくれているので予定通り、いえ予定よりやや早いくらいですね」


 この一週間のうちにウェフベルクから戻ったエミィが進捗状況を教えてくれる。


「『真珠』『珊瑚』の対価としてお渡しした『松明水晶』のお礼だといってかなりの労働力を提供してくれているようです」


 人魚の持っていた『松明水晶』は言わば、電池の切れかけた懐中電灯のような物だ。

 新たに作成した新品の『松明水晶』の輝きはフキ達の想像を超えるものだったようだ。

 結局、新品の『松明水晶』は里の各家庭に提供し、元々あった『壊れかけの松明水晶』を復興用の資材の購入に充てるようだ。


『里が一日中明るくて眠れない、という苦情が来ている』


 フキがそんな新たな悩みの種をあげていたので黒塗りの布を数枚渡してやったら喜んでいた。


「じゃあ、後は旅立ちの演出だけだな」

 


 

 出発にふさわしい天気はそれから3日後にやってきた。



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