第135話
『グレートソードフィッシュ』の群れは『人魚の里』に留まっている。
とは言え、回遊魚であるカジキのモンスターだ。
その場で停止しているのではなく、『人魚の里』を中心にぐるぐると周り続けている。
「つまり、カジキの習性は持っている訳だ」
「『ゴブリン空軍』発艦しなさい」
ゴブリンの様な純正のファンタジー内の存在とは違い、『グレートソードフィッシュ』にはベースになる生き物がいる。
例えば、魚類の鋭い嗅覚。
ゴブリン達が空中からペースト状の物を撒き始める。
『あれはなんだ?』
フキが俺に聞いてきた。
『カースドソードフィッシュ』との戦闘での傷の為、今回は戦艦『天龍』の甲板に置いた桶の中で大人しくしている。
「あれは、魚粉を水で溶いたものだ」
『魚粉?』
人魚たちの話を聞いいた限りだと『グレートソードフィッシュ』も肉食魚だ。
その主食は、中型のモンスターや魚だろう。
思った通り、『グレートソードフィッシュ』達の隊列に乱れが生じ始めた。
思い思いに餌の匂いのする方向へと泳ぎだす。
『な、なにが?』
続いて、回遊魚の習性を利用する。
回遊魚は潮の境目に沿って進路変更をする。
【水魔法】で潮の流れを少しだけ操作し、手頃な群れを潮の流れで閉じ込める。
15匹程の群れが半径10mほどの円を描き続けている。
これで外から手を出さない限り回り続けるだろう
「よし、次だ」
『ゴブリン空軍』に指示を出し、別の群れの先に糸を垂らす。
糸の先には餌となる魚が取り付けられている。
『グレートソードフィッシュ』がその餌を追い始めると、ゴブリン達は戦艦『天龍』へと近づいていく。
【水魔法】と【操力魔法】を使って近づいてくる群れの正面に水のジャンプ台を作る。
後は流れに乗った『グレートソードフィッシュ』が海面から急に空中に飛び出してきたのを【風魔法】で優しくキャッチして甲板に設置した檻の中まで誘導してやればいい。
檻の上空にはソラ率いるハーピー達が舌なめずりして待っているので適当に放り込んでおけば勝手に処理してしまうだろう。
ここまで全て『グレートソードフィッシュ』が自ら動いているので異変に気付き辛いはずだ。
『君は妖術使いかなにかか?』
フキが真剣な顔で訪ねてきたので苦笑しながら首を横に振っておく。
「・・・餌に反応しない奴らがいるな」
『人魚の里』の中心に近い所を泳ぎ回っている群れからは一匹も餌に釣られて動きを乱す奴がいなかった。
つまり、あそこには餌を無視するほどに『グレートソードフィッシュ』を惹きつけるなにかがあるという事だ。
それが人魚の至宝か、
「あるいは群れのボスか」
とは言え外周を泳いでいた部隊はかなり削ることが出来た。
潮流の檻に確保している群れも50匹ほどになったのでここからは直接攻撃に移る。
『グレートソードフィッシュ』をたらふく食ってご機嫌なハーピー達に仕事を言いつける。
「ソラ、ハーピー達を連れて群れの中心に“アレ”を落として来てくれ」
「りょーかい、ゴシュジン」
ソラ達が持っている物は外見はただの木箱だが、中には魔鉱を利用した爆弾が入っている。
ハーピー達には操火の首輪+4を渡してあるので、水面に浮かぶ木箱に炎弾を打ち込んで爆発させると面白いように『グレートソードフィッシュ』が気絶して浮かんでくる。
「大漁だな」
この世界では発破漁は禁止されていないだろう。
そもそも、今まで一度も『爆弾』なんて見たことが無い気がする。
【火魔法】があれば事足りるだろうし、土木工事にも【土魔法】の方が活躍するので仕方ないかもしれないが。
これで、群れの殆どは行動不能に出来た。
残るは、
「群れのボス、かな?」
戦艦『天龍』を近づけていくと、衝撃波にも耐えて未だに『人魚の里』に居座り続けている魚影がひとつ見えた。
完全に姿が見えたわけではないがダメ元でステータスを確認しようとするとなんとか上手くいった。
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旗艦魚8歳 Lv.44
【指揮官】
自身より下位同種のモンスターを指揮することができる。
指揮範囲はレベル依存。
【水棲適応】
水中で生活が出来る。
【潮流操作】
任意の方向に潮の流れを操ることができる。
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どうやら、カジキの中でもバショウカジキのモンスターのようだ。
先ほどより近づいてきた奴の背には立派なヒレがあった。
しかも、しっかりと魔剣も装備しているようだ。
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リーダーフラグフィッシュの魔剣
効果
【防錆】
錆びにくくなる。
【貫通】
剣先での攻撃時、相手の防御を貫いてダメージを与える。
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中々手ごわそうだ。
とは言え、奴は水中だ。
戦艦『天龍』の甲板にいる俺に何か出来るとは思えない。
そう考えていた次の瞬間、船体が大きく揺れる。
「なにがあった!?」
「み、右側から攻撃を受けました」
エミィが報告してくれる。
確認すると戦艦『天龍』の横っ腹に『グレートソードフィッシュ』達が深々と剣を突き刺していた。
「一体どこから。・・・そうか、生け捕りにした奴らを解放したのか」
『グレートソードフィッシュ』を生け捕りにする為に【水魔法】と【操力魔法】で潮流を操っていたが、奴の【潮流操作】によって流れを変えられたのだろう。
しかし、
「『奴隷宿木』、そのまま取り込んでやれ」
穴だらけにされた船体を埋めるように枝を伸ばしていた『奴隷宿木』に命令して、未だに船体に刺さったままの『グレートソードフィッシュ』を絡め取らせる。
俺は、ソラを呼び戻し背に乗せてもらって、旗艦魚の近くまで運んでもらう。
「結構、手ごわそうだからな。コレで動きを封じさせてもらう」
『旗艦魚』の真上から『拘束藻』を乾燥、圧縮した塊を放り投げる。
『拘束藻』は水面に触れるやいなや数倍の大きさに膨張して一番身近な旗艦魚《獲物》に襲いかかる。
海水でも問題なく働くかの実験になってしまったが問題ないようだ。
旗艦魚に出来るだけ接近し、支配下に置く。
どうやら旗艦魚は、先程の衝撃波でかなり弱っていたようだ。あまり抵抗も無く支配する事ができた。
『あっという間に倒してしまったな』
フキが複雑そうな顔でこちらを見ている。
旗艦魚を回復して早速『人魚の里』に入れてもらう。
今回の戦闘では使いどころが無かったが、【水棲適応】を『大砲肺魚』を支配した時に得ているので水中にある『人魚の里』に行くのになんら問題はない。
いっしょに『人魚の里』に行くのは、同じく【水棲適応】を得たアイラと、元々里に住んでいたセレンだ。
「・・・私はお留守番ですか」
戦艦『天龍』の甲板で恨めしそうな顔でこちらを見ているエミィ。
「行く時よりも人数が増えないか不安です」
エミィの中で俺は、どこまでも節操無しのようだ。
『大丈夫!!私とアイラでガードするから!!』
セレンがドンッと胸を叩いてエミィにウィンクする。
アイラもエミィとアイコンタクトで何かを確認し合っている。
というか君達、言葉通じてないはずだよね?
『ようこそ、『人魚の里』へ』
フキが先導して案内してくれた『人魚の里』は住人が避難しているせいか、ひどく物寂しい。
『すまんな。今、迎えの者をやっている。すぐに賑やかになると思う』
先程までいたフキの部下たちは深海に避難させていた女、子供、老人たちを呼び戻しに行かせているようだ。
『懐かしい。けど、ちょっと壊されちゃってるね』
セレンが里の様子を見渡して少し沈んだ顔をする。
「セレン、大丈夫?」
『慰めてくれるの?アイラ!!』
アイラの胸に飛び込むセレン。
さっきもそうだが、言葉は通じていないはずなのに彼女たちは分かり合えている。
『亜人と人魚、言葉も通じないと言うのにこうも通じ合えるものか』
フキが彼女たちの様子を見て嬉しそうにしている。
「ハーピーと人魚にも可能性が有るかもしれないな」
何を考えているか丸分かりなのでからかってやった。
『そうだ。俺と彼女は言葉も通じるのだ!!やってやれないことはない!!』
その後しばらくはテンションの高いフキに付き合って里の中を見て回った。
『ここが、至宝の収められている祠だ』
ようやくフキが落ち着いた頃に人魚の至宝のある場所までたどり着いた。
「随分入り組んだところにあるんだな」
『人魚の里』は水深30mほどにある平坦な海底にある。
なかでもこの祠は複雑に入り組んだ珊瑚礁の迷路の先にあり、『グレートソードフィッシュ』の大きさでは迷路に入り込む事すら出来なかったのだろう。
『海のモンスターは巨大なものが多い。そいつらから至宝を守るための知恵だよ』
事実、今回の相手には有効に作用した訳だ。
この珊瑚もステータスを確認すれば、モンスターであることが分かった。
堅牢珊瑚と表示されている。
人魚は単体ではけして強い種族ではないのだろう。だから仲間の、家族の絆を大切にする。
1人ではけして生きていけないのだから。
フキが一礼しゆっくりと祠に近づき扉を開ける。
『これが、我らの至宝『海神の心臓』だ』
心臓、と言うが目の前にあるのは宝玉だ。
深い藍色でありながら向こう側が透けて見える。
そして、宝玉の中を赤い光の筋が幾重も飛び回っている。
これが『心臓』ならば、中のあの光は『血液』なのだろうか。
『元々、『深海竜』様が『海神』様より海の管理の為に授かった物らしいが、『深海竜』様はあまり俗世に興味を持たぬ方でな』
100年程前から我らの一族がこれを管理しているのだ。とフキが少し誇らしげに語っている。
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海神の心臓
効果
【海の理】
『海』フィールドのあらゆるパラメーターを設定出来る。
設定には代償が必要である。
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これは『神』の持ち物。
俺に『加護』を授け、ユウキを魔王に仕立て上げた『神』。