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第134話




『どうか、ソラ殿とお近づきになれるよう力添えを!!』


 フキ達の今の棲家である洞窟に案内されて客間に通されての第一声がこれだ。

 人魚の棲家である洞窟は8割が水没しており、客間として通された所も人魚たちが顔を出せるように一部が浜辺のようになっていた。


 陸地と水辺の間でフキが正座のように下半身を折りたたみ頭を下げて頼み込んできた。

 ソラは洞窟に入るのが難しそうだったので戦艦『天龍』で待機している。

 客間にいるのは俺、アイラ、エミィ、そしてセレンの4人だ。


「とは言ってもなぁ」


 フキは人魚でソラはハーピー。

 種族も違う。そもそも亜人とモンスターだ。

 子供が産まれるのだろうか?

 鳥も魚も卵から産まれはするが。


『彼女は女神だ。あれほどに美しく強い女性を見たことがない』


「でも、ソラはお前に興味無さそうだったぞ」


『ぐっ、』


 それどころか、他の人魚と見分けがついていないようだった。


「それでどうやって思いを告げるんだよ?」


『そ、それには考えがある。今晩、ソラ殿をある場所まで連れて来て欲しい。もちろん礼はする』

 

 そう言って彼が取り出したのは多数の大剣だ。


「これって、グレートソードフィッシュの大剣か?」


『そうだ、程度の良さそうな物を選んである。我々人魚は銛を使うので大剣は必要ないからな。人間は欲しがると聞いていたので集めておいた』

 

 差し出された大剣は20本以上ある。

 ウェフベルクで売ればいい金になるだろうし売らずにゴブリン達に配給してもいい。

 仕方がないのでソラをその場所まで連れて行くことだけは了承した。


『感謝する。では、もう一つの問題の方だが』


「問題?」


『『グレートソードフィッシュ』の群れの事だ』


「リーダーは倒してハーピー達とゴブリン達が食っちまったぞ」


 それが問題なのだろうか?確かに問題にしたいほど美味かったが。


『あれは、あの部隊のリーダーに過ぎない。本隊は別にいるのだ』


「・・・おい、ソラの事よりそっちを先に話すべきじゃないのか?」


『いや、その、すまん。君を前にしたらどうしても先にソラ殿の話をしなければならない様な気がしたんだ』


『フキは昔から一つの事に集中すると周りが見えなくなるのよ』


 先ほど倒した『カースドソードフィッシュ』は、どうやら偵察部隊の隊長だったらしい。

 『グレートソードフィッシュ』の本隊が居座っている地点こそ、フキ達の本来の棲家『人魚の里』だ。


『戦えない女子供を奴らが潜って来れない深海へと逃がし、我々人魚の精鋭部隊が奴らを撃破する予定だったのだが』

 

 『グレートソードフィッシュ』の圧倒的な数に押されて精鋭部隊は見るも無残な状態となってしまったようだ。

 元々は50人を超える部隊だったらしいが、今では半分以下の戦力しか残っていないようだ。


『先程の戦いで君たちの実力は分かった。不躾だが我々に力を貸してもらえないだろうか?』


「そりゃぁ、構わないけど」


 ちらり、と差し出された20本の大剣を見る。

 この大剣だけでは少々割に合わないかな。


『もちろん、別に謝礼も準備しよう』


 顔に出ていただろうか。

 しかし、謝礼はありがたく頂こう。


「それと、もうひとつ」


『なんだ?』


「『グレートソードフィッシュ』は生け捕りにしたい」


 あの速さと突進による攻撃力は魅力的だ。

 30~40匹ほど仲間にしてゴブリンを乗せれば『ゴブリン海軍』の出来上がるだろう。


『危険だ。いくら君たちが強くても水中戦が出来る戦力はないだろ?』


「そこは考えがある。人間の知恵を見せてやるよ」


 元々その為の装備を戦艦『天龍』には準備してある。

 フキと話し合い、明日の朝から『人魚の里』に向かう事にした。

 先鋒は戦艦『天龍』と『ゴブリン空軍』。人魚達は戦況を見て戦闘に参加してもらうことになった。


 さて、あとは今夜のフキとソラの合い挽き・・・ もとい、逢い引きが成功するかがうちの娘達の主な議題だった。


「フキさん、一体どんな告白をするんでしょうか」


『あいつ、案外乙女な一面があるから甘ったるい告白になるんじゃないかしら?』


「月夜に呼び出して告白、ですか。いいですねぇ」


 こんなガールズトークが行われている場所に俺がいるのは、セレンとアイラ達の通訳の為だ。

 晒し者になっているフキの事を思うと不憫だが、それでも男らしく告白するその姿は同じ男として尊敬にあたいする。


「ソラのほうはどうなんでしょうか?」


『あの大きい鳥は、私をかじろうとするからあんまり好きじゃないわ』


「フキさんの事もかじるんでしょうか?」


『あいつならかじられて喜ぶかもね』


 そんな物騒な話をしていると、フキの指定した時間になったので戦艦『天龍』に戻ってソラを連れ出す事にする。

 ソラは夜の行動を嫌うので連れ出すのに苦労したが、


「魚が待ってる」


 と伝えると嬉しそうについてきた。

 嘘は言っていないが罪悪感を覚えてしまう。

 すまんソラ。魚はあとで食わせてやるから。



 フキに指定されたのは、海面から頭を出した岩の上だった。

 到着するとそこには既にフキが待っていた。


「魚!!」


 どうやら、ソラにとっては人魚も魚の分類らしい。

 まあ、人間を餌にしていたのだからそれほど驚くことでもないような気もするが。


『ラ、ラ、ララ~♪』


 フキは、ソラが来たのを確認して男性としては高めのテーノルの歌声を披露し始めた。



『うわ、めちゃくちゃ真っ向勝負じゃない』

 

 空気を読んで少しソラ達から離れた場所にいくと勝手に着いてきたセレンが頭を抱える。


「人魚は、歌で愛を伝えるんですね」


『えぇ、そうよ。だからあの日、ヒビキが私と声を重ねて来た時にはビックリしたわ』


「御主人様はその事を知らなかったんですからね?」


 エミィが釘を刺すがさすがにセレンもその事には気づいている。


『分かってるわよ。でもフキは知ってるのかしら?』


 この前のセレンの様になられるのは確かに困る。




 固唾を飲んで見守っているとソラがフキの周りをうろうろしていた。

 おそらく、フキを食べていいか悩んでいるのだろう。


『ラララ~~♪』


 フキの歌声はさらに高まり観客に過ぎない俺の心まで揺さぶり出した。


「ぐっ、これが人魚の【音魔法】か!?」


『そりゃあ、好きな人に聞かせる為の歌だからね。少しでも好意があったらコロッと行っちゃうわよ?』


 全く平気そうなソラ。

 ますます声量をあげるフキ。

 歌も既に何度もも繰り返されている。


『ラ、ラ、ラ、ゴホッ』


 とうとうフキの喉に限界が訪れた。

 


 止まったはずの歌が途切れることなく紡がれ続ける。


「ラ、ラ、ララ~♪」


 ソラが両翼を広げて愛の歌を歌い上げる。


『お、おっ、おーー!!』


 すぐにフキが歌に参加する。

 2人の声が、静かな海辺に優しく響いていく。

 歌は途切れる事無く一晩中続くのだった。


 






『本当にありがとう!!』


 今日は朝から『グレートソードフィッシュ』狩りに出かけるのだがさっきからフキはずっとこの調子だった。


 結局ソラに確認してみるとフキの事は、ただの『魚』から『歌の上手い魚』になっていた。


 先程ソラのほうから挨拶をしたのがフキにとっては打ち震えるほど嬉しかったのだろう。


 ソラも昨日の合唱のお陰で【音魔法】を習得していた。

 なんだかフキに悪いような気もするが本人があれほど喜んでいるのでなにも言えない。

 

『もちろん、あれで思いを告げられたとは思っていないよ。歌に答えて貰えたがあれは歌うのが楽しかっただけだろうしね』


 フキが人魚以外の種族には歌による告白に馴染みがないのは知っている。と苦笑しながら答える。


 セレンはやはり世間知らずだったようだ。


『だが、少なくとも彼女は俺の歌に興味を持ってくれた。それだけで大進歩だ』


 なんともポジティブシンキングな男だ。

 少し見習いたいくらいだ。





 予定通り『人魚の里』に到着するとそこには数百匹の『グレートソードフィッシュ』の群れがいた。

 本来、回遊魚であるはずの『グレートソードフィッシュ』がここに居座るのは何か理由があるのではないだろうか。


『あそこには、我らの至宝がある』


 フキが俺の疑問に答えてくれた。


「至宝?」


『ああ、一族の至宝だ。奴らは真っ先に至宝のあった部屋を占拠していた』



「つまり、『グレートソードフィッシュ』の狙いはその至宝だって事か?」


『そうだ。あれは海に棲む全ての生き物に力を与える。その力が狙いだろう』


 フキ達の一族はそれを『深海竜シーサーペント』に管理を任されたらしい。

 一体どんなお宝なんだろう。




「御主人様、準備整いました。いつでも始められます」


 エミィが甲板から声を掛けてくる。

 それでは戦闘開始と行きますか。


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