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第125話






「『全滅』殿、無事だったか!?」


 岸に着くとすぐにザザが駆け寄って来た。


「はい、ご心配をおかけして申し訳ありません」


「いや、流されたピノまで救って貰って感謝している」


 ゲルブの民が湖に流されるとは情けない。とピノや自分達を責めだした。


「いえ、俺達はグリフォンがありましたしピノは俺達にとっても家族ですから」


「そう言ってくれるか」


 ザザがほっとした顔をしている。

 彼は未だに俺に恐怖心があるようだ。


「お父様、感謝すべきはヒビキさんだけではありませんよ。エミィさんは大渦に飲まれそうになっていた私を命懸けで助けてくれました」


 ピノがエミィをぐいっと引っ張りながら前に出る。


「そうか。エミィ殿、本当にありがとう」


 ザザはエミィの両手を取ってブンブン振って感謝している。

 

「い、いえ、御主人様の家族は私にとっても家族ですから」


「ならば、私にとってもあなた方は家族だ。生還を共に喜ぼう」


 『儀式』の最中にアクシデントが起こるのも良くある事らしい。

 天候が急に乱れたり、モンスターが異常発生したりはみんな慣れっこのようだ。


 すぐに切り替えて宴の準備が始まった。





「あ、頭が痛いです」


 翌朝、珍しくエミィが二日酔いに苦しんでいた。

 俺が触れば簡単に治るのだが、ピノが甲斐甲斐しく世話をしており近づけない。


「大丈夫、エミィ?」


 アイラがエミィを気遣う。


「精進が足らんのぅ」


 ジルはエミィを冷やかす。


「うぅ、二人とも同じ位呑んでたのになぜ私だけ~」


 昨晩はアイラ、エミィ、ジルの部屋にピノが酒樽を持って遊びに行っていた。

 お陰で昨日の夜は非常に静かな夜だった。

 ホッとした反面、どこか寂しく感じてしまった。


 朝食をザザと一緒に食べながら常駐ゴブリンの増員の許可を貰い『マナカープ』などの魚介類を定期的に購入したいとお願いした。


「『マナカープ』を気に入ってくれたのか」


 ザザが嬉しそうに許可してくれた。

 かわりに『ギガバッファローの肉』の販売を求められた。


「若い衆があの肉を気に入っていてね、特にあの『燻製』とか言う肉が歯ごたえがあって味が濃くて最高だ、と言っていた」


 ゲルブ族には燻製という調理法が無いようなので、燻製の簡単なやり方と魚介類でも出来る事を教えておいた。


 あとは自分達で研究するだろう。

 必要な資材があれば、『ゴブリン運送』をご利用ください、と宣伝しておいた。


 

 朝食後、グリフォンに乗って村に戻るとすぐにサイにゲルブ湖への輸送経路の相談をした。

 ゲルブ湖で食料を補給出来ればそれだけ商品を積み込める。

 ゲルブ湖に特産品が産まれれば、さらにそれを補充してブレトやウェフベルクで販売出来る。


 さらにその特産品が燻製した物なら保存も効くので管理もしやすい。

 

「・・・馬車が足りなくなりそうだな」


「こっちも忙しくなりそうなんだ。ある程度の資金を預けるから増やして返してくれ」


 金貨数十枚が入った皮袋をサイに渡す。


「おいおい。信用してくれるのは嬉しいが、これは多すぎだろ?」


 袋の中身が銀貨や銅貨ではなく金貨であることを確認してサイが皮袋をつき返してくる。


「馬車だけじゃなく、必要な物があればここから出してくれ。帳簿はつけてくれよ」


 サイは算術は出来ないらしいので補佐をする奴等が必要だ。


「ケンタウルスの夫婦をサイの下につけるよ」


 確か、ホロンは算術が出来たはずだ。

 元々ケンタウルスの夫婦は『ゴブリン運送』に組み入れる為にスカウトした人材だ。


「あと、人手が要るなら吸血鬼の連中に頼んでみるぞ」


 この場合の人手とは、労働力ではなく交渉役や現地滞在者の事だ。

 運送会社らしく街ごとに倉庫のひとつも欲しい所だろう。


「あぁ、そりゃありがたいな」


 毎回、到着した街で食料などの消耗品を1から集めるのも大変だっただろう。

 『白磁器』の定期便のついでの品が毎回全部捌けるとも限らない。

 魔王(ユウキ)の事を考えてもこの村に物資や資金の全てを集約させるのは危険だ。

 


「と言う訳で、次回の定期便の時にでも倉庫にめぼしを着けて来てくれ。なんなら購入までしてくれてもいい」


「相変わらず、人使いが荒いな」


 サイはひとつため息をついて頷いてくれた。





「ヒビキ」


 サイとの話し合いを済ませて村を歩いているとビルギットがゴブリン達をぞろぞろ連れて声をかけてきた。


「また、えらく大所帯だな」


 10匹を超える数のゴブリンが手に思い思いの手作り楽器を持っている。

 『ゴブリン音楽隊』と言った所だろうか。


「ここにはいないけどハーピーの中にも楽器をやりたいって仔がいるのよ?」


 手先が器用ではないハーピーにも演奏出来る楽器を作って欲しくて探していたらしい。


「そうだな」


 始めに思い付いたのはやはり太鼓などの打楽器だ。

 なかでも、木琴などなら旋律を奏でる事も出来るだろう。


 早速、太鼓モドキと木琴モドキを作成して使い方を教える。


「すごいね、タイコならエルフの集落にもあったけどモッキンは無かったよ」


 ハーピー達が不器用にスティックを握って楽しそうに木琴モドキを叩いている。


「そうだ、ビルギット。もうひとつ楽器を作るから演奏をマスターしておいてくれ」


「うん?いいけど、どんな楽器?」


「大きな楽器だよ。俺の知ってる楽器の中では多分一番大きい」


 大量の資材を消費して俺はそれ(・・)を完成させた。


 



 さて、次は村の郊外に池を作る事にした。

 新しい仲間の『拘束藻クランプアルジー』と『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』の為の物だ。

 大きさはとりあえず100m×100m×10m程だ。野球広場に次ぐ巨大施設だが、街から最も離れた所に作ったので大丈夫だろう。

 餌はどちらも雑食なのでその辺のモンスターを与えている。

 そのうちどこかの川と繋げてゲルブ湖のようにしていきたいと考えている。


 『拘束藻クランプアルジー』はともかく『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』はもう何匹か欲しいが、湖のヌシと言っていたのでそれほど数は居ないかもしれない。

 

 近くにもうひとつ池を作る。こちらは長方形で150m×30m×10m程だ。

 ここには戦艦『天龍』を配置する。

 現在、『天龍』はただの『戦艦』の形をしたハリボテなので全面改修が必要だ。


 まずは動力。

 とりあえず『奴隷宿木スレイブミスルトゥ』に魔力を流してスクリューの形をした部分を動かしてみるがほとんど進まない。

 少し考えて『グルスア港』に行って海の大型モンスターを『奴隷宿木スレイブミスルトゥ』で取り込んで『エンジン』に代わりにするという方法が思いついた。

 とりあえず、これは『グルスア港』に行って本当に可能か試してみよう。


 次は内装だ。

 短い時間の航海なら問題ないだろうがこの船には生活環境が整っていない。

 暇なゴブリン達を駆り出して内装を整えさせる事にする。

 凝り性なゴブリンがいたようで時間は掛かったがなかなかすばらしい出来栄えになった。


 中でも周りに大量にあるはずの水を利用した『水洗トイレ』は、ウォシュレットなどの電装機器を除けばほぼ俺の世界のトイレと変わらない出来だ。

 こんなことにエミィの弟子の『アーティストゴブリン』を使ったのがばれたら、無言の抗議を受けてしまう。

 しかし、まさか『陶器製』の便器を前にして自分が涙ぐむとは思わなかった。


 あとは水や食料を積み込み、ルビーに【保管】して貰えば準備は完了だ。

 せっかくの海だ。少しは羽を伸ばせればいいが。




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