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第124話






 『奴隷宿木スレイブミスルトゥ』で出来た戦艦の中、最も奥まった所にある部屋に、『勇者』の亡骸はあった。


「あれだけ攻撃して、傷つけたはずなんだが」


 『勇者』の亡骸は、ミイラ化はしていたが人の形を保っていた。

 戦闘中のダメージは『奴隷宿木スレイブミスルトゥ』が亡骸を解放する時に復元したのかもしれない。

 もしくは、『不滅の腕輪』のお陰かもしれない。

 そもそも、湖の中にあった死体が分解もされずにミイラ化したのも『不滅の指輪』が原因ではないだろうか。


「装備を回収に来たんだが、これじゃ無理か」


 装備は完全に亡骸と一体化しており、引き剥がせばおそらく亡骸はバラバラになるだろう。

 『勇者』の装備は魅力的だが別にすぐ必要と言う訳ではない。それに、この亡骸にはまだ利用価値がある様に思えるのだ。


「それを確かめる為にも見せてもらうぞ」


 右手を『勇者』の頭に置き【寄生】する。

 これで、彼の事が少しは分かるはずだ。




 浮かび上がってくる断片的だった記憶が徐々にまとまりを持っていく。

 始めに浮かんだのは、絶望。

 次に浮かんだのは、諦めと決意。

 そして最後に、復讐。


 

 友人と知らぬ間にやって来ていた“異世界”。

 

 モンスターの襲撃に怯える日々。

 ある日突然、『教会』の聖女と名乗る女性に『勇者』と認定され、友人も無理矢理『賢者』として『魔王』討伐を命じられた。

 与えられた多数の『加護』とこの世界で出会った“仲間”に支えられ約5年をかけて『魔王』を討ち取る。

 

 しかし、待っていたのは迫害の日々だった。

 『魔王』を倒せば元の世界に帰すと約束した『聖女』は『魔王』討伐の栄誉を自らの物として、『魔王』討伐の後は一度も姿を見せなかった。

 風の噂では、大司教や枢機卿になったらしいと耳にした。


 その時に、彼らは元の世界に戻るのを諦めた。

 正確には、『聖女』が彼らを元の世界に帰す方法を知らないのだと確信しただけだが。

 彼らは、前向きにこの世界で生きることを決意した。


 そんな彼らを“仲間”達が襲った。


 気さくで人の良い『騎士』。

 ぶっきらぼうだが誰よりも“仲間”を大切にする『魔法使い』。

 酒癖が悪いがどこか憎めない『拳法家』。


 

 『騎士』にとって優しくするべき者は“自国の民”であり彼らはそこに含まれなかった。ただ、義務として一緒にいたのだ。

 

 『魔法使い』にとって、彼らは“仲間”では無かった。“仲間”と旅を共にしているから一緒にいたのだ。


 『拳法家』にとって彼らはただの金ヅルで、金さえ手に入れば彼らと一緒にいる理由は無かった。


 そんな“仲間”達にとって、他人である彼らより教会内でも屈指の権力を持つようになった『聖女』の“依頼”の方が優先順位が高くなるのは当然だった。

 “仲間”に後ろから斬りかかられ、火を放たれ、拳で殴られながらも『勇者』と『賢者』は逃げ延びた。

 人族の街では追っ手が掛かるだろうと、誰も住んでいない荒野を潜伏先に選んだ。


 彼らの頭の中には“仲間”達への恨みだけになっていた。

 いつか復讐を。

 傷が癒えるとすぐに行動を開始した。

 なにをするかは療養中に散々考えていた。


 自分達を裏切った『教会』への復讐。

 出来るだけ多くの人を巻き込んで、『教会』へ復讐を果たす。


 その為に『勇者』達は、とんでもないモノを生み出そうと決意した。





『・・・・・・まだ孵らない』


 ソレ・・を生み育む為のはらとして、湖を作った。


『・・・・・まだ孵らない』


 湖に多様な生き物を放ち、川と繋げ望む生態系を作り上げた。


『・・・・まだ孵らない』


 成長の促進の為に、毎日のように大量の魔力を注ぎこんだ。


『・・・まだ孵らない』


 ソレ・・は思惑通りの成長を続けたがどうやら時間が掛かるようだ。

 

『・・まだ孵らない』


 湖の周辺に住み着くようになったリザードマンにこの役目を継いでもらうことにした。


『・まだ孵らない』


 魔力の乏しいリザードマン達でもあと50年ほど『儀式』を続けてくれればソレ・・は産声をあげるだろう。


『まだ孵らない』


 その時まで、湖底には誰も近づけさせない。この身を捧げてソレ・・を守ろう。


『やっと、』





「アレとか、ソレとか訳が分からん」


 そう言いつつ、暗い船内にようやく目が慣れてきた。

 『勇者』の亡骸の後ろに、何か巨大なモノがいる。

 すやすやと寝息をたてて眠るソレを見て、やはり彼らが自分と同じ世界から来たのだと確信する。


「これ、『龍』だよな」


 西洋のトカゲのような『竜』ではなく、東洋の蛇のような『龍』。

 深海竜シーサーペントも蛇のような姿だと言っていたが、おそらく水を掻くヒレがあるのだろう。

 この『龍』には、ヒレではなく3本指の鉤爪があった。

 それが、この体育館ほどの大きさの部屋一杯にとぐろを巻いて眠っている。



 おそらくこれが、『勇者』達が復讐の為に創ったモノなのだろう。

 しかし、なぜこれが『教会』への復讐になるのか。


 ステータスを確認して納得した。


******************************************

天龍  Lv.1  0歳




スキル

【天龍の象徴】

 集団の象徴となり、心の拠り所となる。


【天龍の声】

 【天龍の象徴】の効果対象に対して天龍の声を届ける。 


竜殺しドラゴンスレーヤー】★★★★

 ドラゴンの持つあらゆる守りを貫く。


******************************************




 コレは『教会』の力を削ぐための手段。

 

「新しい宗教を創るつもりだったのか」


 リザードマンたちが『儀式』を続けていけばいつかこの『天龍』が姿を現す。

 そうなれば、リザードマンたちが勝手に『天龍』を崇め始めるだろう。


 現在の『教会』の教えは亜人には冷ややかだ。

 さすがに亜人を滅ぼせ、と言った過激な物ではないが『教会』の上層部は人族だけで埋まっているし、亜人の入会はあまり喜ばれない。


 つまり亜人の多くは無宗教か、『教会』からの嫌がらせによる『ソーラ教』嫌いが多い。

 亜人であるリザードマン達が興す『天龍教』は亜人たちに流行るだろう。

 また、人族達の中にも『天龍教』の信者は生まれるだろう。


 『天龍』に与えられたスキルはそのための物だ。

 そしてスキルに【竜殺しドラゴンスレーヤー】が存在するのは灼熱竜対策としてだろう。

 セルヴァの話では、灼熱竜は『教会』に興味は無いらしいが、『天龍教』の象徴が【竜殺しドラゴンスレーヤー】を持っているという事実は民衆に『教会』よりも『天龍教』の方が上だというイメージを持たれてしまうだろう。


 

「そうして『教会』が力を失った所に『魔王』が攻め込んでくるわけだ」


 そうすればこの世界は大きな被害を受けるだろう。

 それが『教会』への、そして『この世界』への復讐の到達点。



「申し訳ないが、俺はあんたらほどこの世界を憎んじゃいない」


 なので、これらは全て俺の為に使わせてもらう。


「とはいえ、『天龍』は目を覚ます気配が無いな」


 Lv.1とはいえこれほどの巨体だ。おそるおそる手を伸ばし鱗に触れてみる。

 ピノ鱗より目の荒いそれは、程よい感じで手のひらを刺激する。

 そして、


「うわ!?」


 思わず鱗から手を離す。


「魔力を、持っていかれた?」


 たったあれだけの接触でMPを根こそぎ奪われてしまった。

 まあすぐに回復するのだが。

 ステータスを見ると、『天龍』のMPが数ドットだけ増えたような気がする。

 数値で確認すると、吸収効率は90%以上だろうか。どこまで底なしなんだこいつは。

 

 現在、『天龍』のHPとMPは、残り一割ほどだ。

 それでも俺の数十倍の数値なのだが。

 状態異常【癒しの眠り】となっているし、少しずつ回復しているようだ。

 

 全快するのにどれだけかかるか分からないが。


「御主人様、アイラ達が来ました。甲板までいらして、く、だ、さ」


 エミィが呼びに来てくれたようだ。『天龍』を見て固まっている。


「分かった。すぐにこの『戦艦』を片付けよう」


「こ、これはこのままでよろしいのですか?」


「ああ、大丈夫だ」


 意識を回復するのに早くても数日は掛かるだろう。

 エミィと一緒に甲板に上がり、早速ルビーにこの『戦艦』を【保管】してもらう。


「中に巨大生物が居るから、暴れたらすぐに出していいからなルビー」


 了承の意をプルプル震えて伝えてから甲板上でどんどんと広がっていくルビー。


 俺達はアイラ達が連れてきてくれたグリフォンに乗って、『戦艦』が赤く染まっていくのを眺めている。

 さすがにこれほど大きいと時間が掛かるようで、全てを飲み込むのに15分ほど掛かった。


 全体を覆った赤い粘液の塊が段々と小さくなっていき、最終的にいつものルビーの大きさまで戻る。

 水面にプカプカ浮いているルビーを回収し、ザザ達のいる岸に向かうことにした。



 さて、ザザ達はどこまで見ていただろうか。




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