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第123話

 




 地面の蔦に燃え移った炎が空白地帯を埋め尽くす。

 蔦はまるで蛇のようにのたうちまわり、火を消そうとするが風に煽られた火は衰えない。

 この空間を維持していたのであろう蔦が空白地帯から湖へと避難を始めると徐々に地面の露出していた部分が狭まってきた。


 俺は『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』に飛び乗り、水に押し潰される前に空白地帯から脱出する事にした。

 しかし燃え上がる炎を纏ったまま、『勇者』の亡骸がこちらに襲いかかってきた。

 脚だった蔦が地面を叩くと、大質量のはずの『勇者』の亡骸が空高く飛び上がる。

 『飛翔の靴』の効果だろうか。


 蔦が燃える速さと再生する速さが拮抗しているようでボロボロと燃えカスを落としながらも大きさに変化はない。

 これは『不滅の腕輪』の効果のおかげだろう。

 『勇者』の亡骸が腕だった蔦を伸ばしてきた。

 剣は柄の部分が完全に蔦に埋まっており『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』は、剣で突き刺す攻撃しかしてこない。


 しかし、それでも『光輝の剣』は驚異的な威力を誇っていた。

 剣の切っ先が地面に突き刺さると次の瞬間には刀身の周りの土が消失していた。


 土が消失した事によって姿を現す刀身は、キラキラと光の粒子を纏っていた。


 あれが、リザードマンの伝説で湖を作ったとされる『勇者の剣』の実力か。

 さっき『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』も剣で斬られたが、光の粒子は出ていなかった。

 発動の条件があるのか、それとも『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』が本気になったのか。


「とりあえず、ここから離れるぞ」


 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』が牽制に砲弾を撃ち込む。

 砲弾が蔦に当たると炎が大きく燃え盛った。

 今打ち出した砲弾は『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』に飲ませた油を打ち出したものだ。


 治療のついでに口の中に油の入った皮袋を放り込んで置いたものだが、上手く打ち出せたようだ。

 しかし、口や砲身までの間に油が着いている様で、『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』は気持ちの悪そうな顔をして泳ぎながら大量の水を飲み込み砲身から水を垂れ流しにしている。

 どうやら、水で洗浄しているようだ。


「悪かったよ、今度からは別の方法を考えよう」


 ぺしぺしと、『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』の鱗を軽く撫で叩きしながら謝る。

 大渦は完全に姿を消したがまだ湖面は波が荒い。


 前からグリフォンと先程とは別の『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』が現れた。

 

「御主人様、ご無事ですか!!」


 どうやらエミィが俺に気がついてグリフォンの高度を下げた為、『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』の標的にされてしまっているようだ。

 首長竜のような姿をした『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』に炎弾を打ち込む。


「まさか本当にゲッシーが出るとは」


 ゲッシーは引火した体を湖に沈めて姿を消す。

 

「ゲッシー、ですか?」


 ピノが首をかしげて訪ねてくる。

 まあ、自分の住んでいた湖に自分の知らない生き物がいて、その生き物の名前を俺のようなよそ者が知っているのは確かに妙だろう。


「ああ、俺の知っている生き物に似てたんで勝手に名前をつけたんだ」


「あの『竜』のようなモンスターをご存知なんですか?」


「うん?エミィは知らないのか?水辺に住む『竜』の仲間だと思うんだが」


 もちろん、そいつらの体は蔦ではないが。


「やはり『竜』なのですか?」


「首長竜とか水竜とかいないのか?」


 あれ?首長竜は恐竜だっけ?


「えっと、どちらも聞いた事がありません」


 エミィがピノに、あなたは?と問いかける。


「そうですね、漁師達の信じる深海竜シーサーペントという海に住む竜がいると聞いた事があります」


 灼熱竜とは違い滅多に人前にはでませんが、

 とピノが教えてくれる。

 深海竜シーサーペントは知名度が低く、しかも蛇のような姿をしているらしい。


「・・・じゃあ、あの首長竜の姿はどこから出てきたんだ?」

 

 そうつぶやいた瞬間に後ろから大きな波が押し寄せてきた。

 そこには、『勇者』の亡骸だった物とゲッシーだったものがそろっていた。


 2体は絡み合い、新たな形を成していく。

 すでに元の形とは似ても似つかないそれは、湖全体から蔦を集めている。

 どんどんと大きくなるそれを前に俺達は逃げることすら忘れてそれの変化を見つめていた。


「これは、戦艦?」


 戦艦といえば『大和』が有名だが、目の前にあるのはまさに『大和』のような戦艦を模した物だった。

 もちろん、蔦で編んだ船体は良く燃えそうだし、甲板上に複数ある大砲も形だけで砲弾を打つことはできないだろう。

 それでも圧倒的な存在感で『そいつ』は存在している。


 『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』のステータスを改めて確認すると【寄生】というスキルがある。

 【寄生】は、宿主の経験や能力を使用できるスキルのようだ。

 大渦の中心に居た『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』には無かったスキルだ。

 

 『首長竜(ゲッシー)』だった『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』が持っていたスキルと言うことだろうか。

 『拘束藻』の時もそうだったが、植物系のモンスターの中には一定の距離に存在する同一のモンスターのステータスやHP、MPが共有される種族がいるようだ。


 『首長竜(ゲッシー)』もこの『戦艦』も寄生されていた『勇者』と『賢者』の記憶を元に形を得ているのだろう。

 どちらも“湖”や“水上戦”から浮かび上がった記憶ということだ。

  

 つまり、


「『勇者』と『賢者』も俺の世界の出身者?」


 『まだ、帰らない』なのか?『帰れない』ではなく?


 『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』の動きも沈静化し、戦艦が完成する。

 これは、彼らの中にあった“水上で最も強い物”のイメージなのかもしれない。 

 しかし、


「・・・動かないな」


「動きませんね」


「全く動きませんね」


 『首長竜(ゲッシー)』なら、形を真似ただけでも効果はあっただろう。

 しかし、『戦艦』はただ形を真似ただけではハリボテと変わらない。

 一応、船の形を取っていることで浮力は得ているようだがそこまでだ。

 回らないスクリューに動かない舵では、どこにもいけない。


「乗っても平気かな?」


 近くによって船体に触れてみる。

 どうやら、戦艦の形になった所で魔力が底をついたようだ。

 触れた部分から魔力を奪おうとしてきた。

 【選別】で【寄生】を持つ『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』の部分を探すと、ちょうど甲板上に居たのでグリフォンに連れて行ってもらう。

 他と区別はつかないが【選別】のおかげですぐに見つけることが出来た。


 『拘束藻』の時と同じように『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』を支配しようとすると、少しの抵抗と大量の魔力を引き換えに上手く行った。

 あとは、ルビーの中にまるごと【保管】してもらえばいつでも『戦艦』を使うことが出来るだろう。 


「ふぅ、これで事件も解決かな」


 ふと、『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』が使っていた『勇者』の亡骸の事を思い出した。

 正確には『勇者』の装備が気になる。

 【選別】で探すと、船の中の一室に亡骸ごと装備一式が揃っているようだ。

 アイラ達の到着までもう少し時間がかかりそうなので、先に回収しておこう。




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