第122話
大急ぎで『大砲肺魚』を支配して大渦へと向かう。
途中で『勇者』役だったリザードマンを拾ったので、二手に別れることにした。
「お前達は岸に戻ってグリフォンを用意しろ、ついでに彼を運んでやれ」
「主よ、無理はせんでくれよ、エミィがまだ戻っておらんのには理由があるはずだからのぅ」
「御主人様、やはり私も一緒に」
「『大砲肺魚』に2人は辛いだろ?」
俺とエミィの両方が心配なアイラが一緒に行きたがるが、大渦に『大砲肺魚』が飲み込まれずに動けるのは1人が限界だろう。
ただでさえ、『大砲肺魚』はポーションで傷を完治させたばかりであまり無理は出来ない状態だ。
「2人を回収したらすぐに戻るよ」
そう言いながら、『大砲肺魚』を大渦に向ける。
「なんだ、こりゃ」
大渦に近づくと水中から攻撃を受けた。
植物の蔦のようなものが『大砲肺魚』を襲うがダメージは無いようだ。絡み付いてくる蔦も鋭い歯で噛み千切ってむしゃむしゃ食べている。
頑丈な奴だ。
蔦に襲われ始めた頃に空中にグリフォンを発見した。
【光魔法】で合図を送るとこちらに気付いたようだが、グリフォンも蔦に襲われておりこちらに近づけないようだ。
蔦の数はこちらよりもグリフォンの方が多く、動きも活発だ。何か狙われる理由があるのだろうか。
状況は好転していないが、グリフォンの背にエミィとピノの姿を確認して少しホッとした。
「なんなんだこの蔦は!?」
次々と水中から顔を出す蔦に辟易しながら、炎弾と風の圧縮弾でグリフォンに襲い掛かっている蔦を蹴散らしていく。
そのおかげか、グリフォンが少しだけこちらに近づく隙が出来た。
「御主人様、こんなところまでいらっしゃるなんて」
「ヒビキさん『大砲肺魚』を配下にされたのですね」
色々と話をしたい所だが、また蔦が伸び始めている。あまり時間は無いようだ。
蔦がピノを狙っている事を手短に教えてもらう。
他に新しい情報が無いか訪ねてみる。
「この状況の原因は分かるか?」
2人が少し考えて大渦を指さした。
「渦の中心に人影が」
「あの人を止めればこの状況も沈静化するかもしれません」
大渦の中心に誰かいるようだ。もしかしたらまた魔王の配下かもしれない。
「分かった。これから大渦に向かってみる」
『大砲肺魚』なら、大渦に飲まれても溺れ死ぬことは無いだろう。
渦の原因さえ取り除けば、問題無いはずだ。
「危険です!!」
「そうですよ、応援を待ちましょう?」
エミィとピノが口々に大渦行きを止めようとするが、応援が来る前に何とかしたいのが事実だ。
「ここはピノの故郷なんだし、早く事件を解決しなきゃいけないだろ?」
もちろんこれも嘘ではない。
返事を待たずに進路を大渦の中心に向けさせる。
さすがこの湖のヌシと言うべきか、『大砲肺魚』は渦の流れを無視して直接中心へと向かいだした。
途中、蔦に足を取られたりしたが体を震わせてすぐに引き千切っていた。
あっけなく渦の中心へとたどり着くことが出来た。
「『大砲肺魚』、アレに砲弾を撃て!!」
水の無い渦の中心部分に勢い良く飛び出した『大砲肺魚』に指示をだし、渦の中心の人影を指さす。
すぐに、俺の足の近くにある『砲身』がうなりをあげて人影目掛けて水の砲弾が放たれる。
水の砲弾は人影に直撃し、人影が体を折る。
「これで、ただの逃げ遅れた人だったら最悪だな」
その時は気を失っている間にポーションを飲ませて何とかごまかさなければ。
しかし、
「人、じゃない?」
そこには、光り輝く『人間用』の装備と装備の中に群生して、遠目では人がいるようにしか見えない状態の蔦の集合体が存在していた。
急いでステータスを確認すると、
『ミスリルの兜』
『ミスリルの鎧』
『飛翔の靴』
『光輝の剣(ミスリル製)』
『不滅の腕輪』
そして、『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』というのが、この蔦の正体のようだ。
つまり、こいつはリザードマンの伝説の『勇者』の亡骸にモンスターが取り憑いた物ということだ。
ピノを狙ったのは、『賢者』の『正装』か、『星くず』のアイテムの放つ魔力のどちらかだろう。
毎年の恒例行事で今のような状況になっていない事から、『星くず』のアイテムの複数装備が原因のような気がする。
人では無いと分かったので、すぐに片付けることにした。
相手は植物のモンスターだ。『大砲肺魚』の砲弾は効果が薄いだろう。
すぐに炎弾を放ち、『大砲肺魚』の背から降りる。
炎弾を『勇者』の亡骸が剣で迎撃する。
思ったよりもすばやい動きだ。
大渦のより露出していた湖面はびっしりと蔦に覆われており、うねうねと動いている。
『大砲肺魚』は襲ってきた蔦をまたもむしゃむしゃと食べていた。
確かソナーで確認した時、『大砲肺魚』は湖底に潜んでいた。
もしかしたら『大砲肺魚』にとって『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』は餌だったのではないだろうか。
『奴隷宿木(スレイブミスルトゥ)』が『勇者』の亡骸を『大砲肺魚』にぶつけて来た。
さすがに『勇者』の剣だ。それなりに硬い『大砲肺魚』の横腹を深く切りつけた。
『大砲肺魚』の声にならない悲鳴があがる。
俺は、気付かれないように接近し『勇者』の亡骸の右腕の辺りを斬り落とした。
ボトリ、と剣と右腕の肘辺りまでが地面に落ちるが、すぐさま剣にこびり付いていた蔦と体側の斬りおとされた部分から蔦が伸び、絡まり合い元に戻ってしまった。
「剣を抱えたまま再生したか」
『大砲肺魚』に【回復魔法】をかけながら敵の再生を見届ける。
おそらく他の装備も本体から斬り離しても再生の起点となるのだろう。
そんな考察をしていると、『勇者』が襲いかかって来た。
「うわっ」
なんとか星剣で受け止めるが、今度は腕を人間ではありえない方向に曲げて星剣をかいくぐって攻撃してくる。
あれは、人の形をしているがただの植物だ。関節や中身があるわけではないのだからとうぜんだろう。
「ちょ、ちょっと!?」
それでも、人の形をした相手がそんな奇怪な動きで攻めて来ると咄嗟には人として対応してしまう。
剣技とも呼べない攻撃で次第に追い詰められてしまう。
そこに、傷を癒した『大砲肺魚』からの援護が来た。
『勇者』の横合いから水の砲弾を直撃させる。
亡骸が吹き飛び、四肢がばらばらに飛び散る。
「サンキュー、『大砲肺魚』」
この隙に体勢を整える。
『勇者』の亡骸は、また蔦が絡まりあい形を作り上げていく。
しかし、再生の度に人の形からかけ離れていく。
最初に斬り落とした右腕は、再生の際に剣を半ばまで飲み込みそのまま2mほどの長さで安定した。
先ほどの『大砲肺魚』の一撃を受け、再び再生を果たした姿は頭と両腕、両脚だった部分がそれぞれ10mほどの太い蔦となって思い思いに動いている。
「まるで、ヤマタノオロチだな」
数は足りないが、多頭の蛇の姿と言うのが最も近いだろう。
それぞれの頭に違う能力が宿っている所も似ている。
「あまり時間はかけたくないんだ。悪いな『勇者』様」
俺は、大渦の空白地帯を埋め尽くす程の『火炎旋風』を生み出した。