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第119話




 次の日、ザザに『儀式』への不参加を伝えるとあからさまにほっとしていた。

 あの後ピノに額飾りの事を伝えると、

 では今年も私が『賢者』を務めます。そうすればヒビキさんの元に額飾りがあるのと変わらないでしょう?

 父にも、額飾りがあればヒビキさんの寵愛を受けられると話せば許してくれるでしょう。


 と、全面的に協力してくれる事になった。




「ピノさんの匂いがします」


 アイラの一言から我が愛しの姫君達による、断罪裁判が朝食の席で行われた。

 タイミングの悪いことにザザやキロは朝食の席には座っていない。

 『儀式』の準備に追われているようだ。


「あら、昨日の残り香でしょうか」


 ピノは全く慌てることなくそう言ってのける。


「・・・なるほど、油断しました。昨日は族長殿と呑んでいらっしゃるとばかり思っていました」


 最初はそうだったよ。


「昨日は随分と熱心にトカゲ娘の鱗を撫でておったしのぅ」


 ジルはニタリと笑って俺に寄ってくる。

 そして体を傾けて頭を寄せる。この姿勢は『撫でろ』か?

 すかさずエミィとアイラが後ろに並ぶ。一拍遅れてピノまで並び出した。


 4人の頭を軽く撫でて朝食を再開する。

 今日はゲルブ湖周辺を調査したり、ここに常駐しているゴブリン達の様子を見たりと予定が詰まっている。


 それに明日には『賢者』の選出が行われるし、明後日には『儀式』を行うらしい。

 えらく急な話に思うが、『賢者』役を務める者の選出は済んでいる。

 誰が『賢者』役に選ばれても問題なくこなせる状態なので、後は星の巡りだけが問題らしい。


 そして、その巡りが良い日が明後日らしい。

 どうやら、『賢者』選出から直ぐに『儀式』を行うのはいつもの事らしい。

 

 なので明後日までゲルブ湖に滞在しろ。とザザから圧力をかけられてしまった。

 用意の良いことにすでに事情を説明しに村に向かってヤテルコがグリフォンで飛んでいるとのことだ。

 今朝ヤテルコに、

 ちょっとグリフォンをお借りします。

 と言われたのがこの為だとは気づかなかった。



 気を取り直して、まずはゴブリン達の様子を見に行く。

 とは言っても、昨日の時点で宴にゴブリン達の姿があったのでそれほど心配はしていないが。

 ゴブリン達の居住区へとたどり着くと、ゲルブ族と同じようなテントが並んでいた。

 

 テントの前で10匹ほどのゴブリンが並んで待っていたので、近況報告を聞く。

 すると、どうやら若いリザードマン達に連日の野球のお誘いを受けており体力が持たないとぼやかれてしまった。

 この件はザザに相談して駐在するゴブリンの数を少し増やしたいと伝えておこう。

 これからゲルブ湖の向かうと伝えるとお供をするというのでせっかくなので『テイマー』の才能のある個体を探した。

 運良く1匹に才能があったので今日の狩りの間に『ゴブリンテイマー』にしてやろう。


 


 ゲルブ湖につくと湖畔でリザードマンが数人作業をしていた。

 ゴブリン達に気さくに挨拶をして、ピノに気づいて慌てて頭を下げている。


「すごいな、さすが族長の娘さん」


「望むならいつでも族長の義息子になれますよ?」


「婿入りなどしなくても御主人様は私たちの村の主です」


 こんな軽口を言い合えるのは仲良くなった証拠、だろうか。


「ご主人様、何か来ます」


 アイラの言葉に皆気を引き締める。水辺のリザードマン達も異変に気づいて急いで湖からあがっている。

 次の瞬間、水面が膨らんだかと思うと周囲に大量の水を撒き散らしモンスターが現れる。


「まぁ、『グレートキングサーモン』ですわね」


 現れたのは確かに鮭の様な姿をしているがデカイ。

 おそらく、岸にいたリザードマン達を狙って出てきたのだろう。

 このモンスターも美味しいんですよ。と緊張感ゼロでピノがこのモンスターについて教えてくれる。

 数年に1人はこのモンスターに喰われて死ぬマヌケなリザードマンがいるんです。とこれまた笑いながら教えてくれた。

 このモンスターはデカイだけで陸にいれば何の脅威もない。しばらくこちらの様子をうかがって静かに湖に帰っていった。


 次に出てきたのは『ビッグデスフロッグ』。

 こいつは毒を持った巨大な蛙。

 水辺からいきなり飛びかかってきて焦ったが、俺には毒が効かないので冷静に返り討ちにした。

 『デスフロッグの毒袋(大)』は、利用価値があるそうなので回収しておいた。


 水辺に限界を感じたので小型のクルーザーぐらいのサイズの船で湖の真ん中辺りまで行ってみる。

 巨大な魚系のモンスターの影がうようよ見えたが、どれも船に襲いかかってこない。


「リザードマンの船に襲いかかるマヌケなモンスターはこの湖では生きていけません」


 少し誇らしげにその事を語るピノ。

 それは船に乗る前に教えて欲しかった。

 仕方がない。アプローチを変えてみよう。


 船から腕を伸ばし、水面に掌をつける。

 そして、魔力をありったけ注ぎ込んで【音魔法】で水に振動を与える。

 船が一瞬グラッと揺れて船を中心に大きな波紋が湖に広がっていく。

 ここから、波紋によって更に広がった俺の魔力を【水魔法】に変えていく。


 これで波紋の内側にいる生き物の位置がつかめた。

 まさにソナーを使っての探索だ。

 これならゲルブ湖に謎の生物『ゲッシー』がいても発見できる。


「あれ?」


 ソナーに感あり。湖底から真っ直ぐこの船に向かってくる物体がある。とてつもなくデカイ。


「ヤバい!!みんな何かに掴まれ!!」


 俺の叫びのすぐ後に船が大きく揺れた。

 水面から顔を出したのは、巨大な魚だ。


「リザードマンの船に襲いかかるマヌケなモンスターはいないんじゃなかったのか?」


「あれは、この湖のヌシ『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』です!?1週間に1回ほど水面に呼吸をしに出てくる以外は湖底に居るんですが」


 どうやら奴はこの船を完全に狙っているようだ。大きく口を開けて空気を吸い込んでいる。


「大砲、か」


 確かに背鰭の左右に筒状の物がある。

 つまり次の攻撃は!? 


 急いで、【水魔法】で壁を作る。それと同時に大砲から大量の水がこちらに向かって放たれた。

 水の壁に水の砲弾が激突する瞬間に、水に流れを作って砲弾をそらす。


「ギリギリ、か?」


 俺の作った水の壁を根こそぎ取り込んで若干進路を変えた砲弾は威力を減じる事無く湖の端までたどり着き、近くにあった大岩を砕いて自らも弾けた。

 恐ろしい威力だ。直撃していればこんな船では持たないだろう。


「船を岸に戻してくれ。ここじゃ勝ち目がない」


 腕の召喚陣に魔力を込めてグリフォンを呼び出す。

 船が逃げる時間をなんとか稼がなくては。


 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』は空を飛ぶ俺を脅威と判断したのか水の砲弾を空に向かって放ち続ける。

 こっちも少しずつ岸に向かいながら、時折炎弾で挑発する。


 船が岸にたどり着いたのを確認してこちらも岸に急ぐ。

 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』はしつこく俺を追ってきた。

 陸の上まで。


「なんでも有りだな」


 意外とガッチリした四足を使ってズシン、ズシンと迫ってくる。


「『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』に足があるなんて知りませんでした」


 ピノも知らなかったらしい。

 しかも、【水魔法】が使えるおかげで陸上でもあの水の砲弾は健在である。


「まぁ、陸上なら負ける気はしないけど」


 アイラ達も戦闘の準備が整ったようで『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』に武器を向ける。


 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』は大きく息を吸った。また水の砲弾だろう。

 いくら威力があっても真っ直ぐにしか飛ばない砲弾だ。陸上なら避けるのは難しくない。


 しかし、放たれたのは水の砲弾ではなかった。


「きゃっ!?」


「う、動けません」


「これは、『拘束藻クランプアルジー』!?」


 『拘束藻クランプアルジー』は、近くにいる生き物を絡めとり拘束する藻のモンスターだ。

 それを弾として打ち出して動きを封じたようだ。

 しかし、


「ふむ、これではわらわを縛りきれんぞ?」


 吸血卿ヴァンパイアロードであるジルの膂力は、オーガと腕相撲をして楽勝するレベルだ。

 よいしょ、と掛け声をかけて体に絡んだ『拘束藻クランプアルジー』をブチブチと千切っていく。

 


「わらわを縛りたければもっと頑丈な縄か、主くらいの技が無くてはのぅ」


 普通の縄でも縛り方次第ではジルの動きを封じることもできる。

 手足を力が出ないような姿勢で固定してしまえばいくらジルでも動けなかった。

 ジルは縛られてもケラケラ笑って楽しんでいたが。

 

「さて、ルビーよアイラ達の事は任せるぞ」


 ジルが『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』に向かって歩いていく。

 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』はジルに向かって水の砲弾を放つが、全く当たらない。


「遅い、遅い、欠伸が出るのぅ」


 あっという間に手の届く距離に接近し無造作に大振りのパンチを繰り出す。

 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』の腹がボコッと凹み、一瞬遅れてその巨体が吹っ飛んでいく。


「あぁ、しまったのぅ」


 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』は水面を何度かバウンドしゆっくりと沈んでいった。

 沈む最中に体をくねらせ自ら湖底に向かったので生きてはいるようだ。


「湖に放り込んだら捕獲出来んではないか、すまん主よ」


 ジル達の頭上を旋回していた俺に謝るジル。


「いや、俺の方こそ助けるのが遅くなってすまない」


 すぐにグリフォンを地上に降ろしてアイラ達の体を拘束している『拘束藻クランプアルジー』を引き剥がす。


「あれ?まだ生きてるのか」


 かなり雑に引きちぎった筈だが『拘束藻クランプアルジー』はHPをかなり残していた。

 どうやら引きちぎってもダメージはあまり無いようだ。


「『拘束藻クランプアルジー』は、とても生命力の強いモンスターで、完全に倒すには燃やすしかありません」


 陸上で乾燥させても動かなくなるだけでまた水を与えれば元気に活動するらしい。

 せっかくなので『拘束藻クランプアルジー』を支配してみる。

 特に抵抗無く『拘束藻クランプアルジー』はこちらの言うことを聞くようになった。


 とはいえ触れた相手を拘束する『ハエトリグザ』の様な性質の為、『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』の様に丸めて打ち出す使い方が一番便利だろう。

 これがあればモンスター捕獲に便利かもしれない。



 『大砲肺魚キャノンラングフィッシュ』との戦闘が終わった頃には、日が傾き出したため探索を終了する。

 結局、今日の収穫は『拘束藻クランプアルジー』×10kg程と『デスフロッグの毒袋(大)』×5つだけだった。


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