第113話
錬金術師ギルドの事件が解決した次の日から早速、戦力増強に努めることにした。
まずは、現状の把握だ。
現在の戦力は、
ゴブリン・・・・・・・・・約150匹(亜種、非戦闘員含む、実質的な戦力は100匹ほど)
シャープウルフ・・・・・・2頭、幼体4頭(およそ1ヶ月ほどで成体とほぼ同じ体格になるらしい)
アーマーマンティス・・・・1匹
グランタートル・・・・・・3匹(輸送荷台の牽引用モンスター)
グリフォン・・・・・・・・1羽?(召喚の書に登録済み)
ヴァンパイア・・・・・・・52人(10人ほどが冒険者登録済み)
スケルトン・・・・・・・・1~999体(ジルへの魔力供給によって変化する。無補給で標準タイプを60体ほどが上限)
ミノタウロス・・・・・・・1頭(ミノタロウ、【守護者】のスキル持ち)
アルラウネ・・・・・・・・1体
グルメスライム・・・・・・1匹
こんなものだろうか。リザードマン達は一応、賓客扱いなので戦力には含んでいない。
あと、高い頻度で来る引き籠り竜も戦力としては数えない。
これを見て思うことは、
「航空戦力が足りないな。グリフォンは人数分は欲しいし」
「そうじゃな、主と空の散歩もオツなものじゃ」
「わ、私は御主人様と一緒に乗りたいです。空は足がつきませんので」
ジルの軽口に真面目に要望を述べるアイラ。どうやら軽い高所恐怖症のようだ。
「グリフォンの調達ですか。セルヴァさんに、いえ、アイリーンさんに相談しましょうか」
エミィが具体的な案を出してくれる。セルヴァでは無くアイリーンをあげる辺りがとても現実的だ。
「譲ってくれなければ、迷宮を荒らすと伝えればきっと答えてくれます」
とてもいい笑顔でエミィが答える。エミィは考え方が俺に似てきた気がする。
「迷宮にいくのか?腕がなるな!!」
ジーナが嬉しそうにこちらを見るが、機会があればね、と答えて落ち着かせる。
蟲系のモンスターのほとんどは空を飛ぶ。
ウェフベルクがブレトのように蟲系のモンスターの大群に襲われたらこの村の防御力では持たないだろう。
蟲対策をすべきだ。
「鳥のモンスターとか居れば良いのにな」
「鳥、ですか?」
エミィが難しい顔をする。
「いけないか?」
「いえ、探すのが大変な上に、こちらの戦力が御主人様だけですから危険ではないかと」
確かに、空を飛ぶ戦力が足りないのに空を飛ぶモンスターに戦いを挑むのは無謀か。
「ゴブリン達を全員連れていければ、全然違うと思うんですけどね」
「それだ!!」
早速、久しぶりにゴブリン達の強化を進めることにした。
まずは、『ゴブリンヒーラー』への進化だ。
【選別】で魔術師の才能のあるゴブリンを10匹ほど選び、ウィキーの森で取れたプール草(光)を与えながら【調教】する。
すると、1時間ほどで5匹のゴブリンが『ゴブリンヒーラー』となった。
まだ小さな傷を癒すこと位しかできないがこれで俺が回復に掛かりきりになることは避けられる。
彼らにはこれから定期的にプール草(光)を与えることにした。
次は、ゴブリン達の攻撃力強化だ。
同じく【選別】で選び出した奴等で『魔物の荒野』で狩りを行わせる。
うちのゴブリン達は実践経験も豊富で連携も上手い。野良モンスターなどに負けはしない。
ギガバッファローやオーガなど本来なら格上のモンスターを次々と蹴散らしていく。
すると、倒されたモンスターの一部がゴブリンに従うようになった。
急いでステータスを確認すると、数体が『ゴブリンテイマー』になっていた。
あとで、『ゴブリンテイマー』になった個体を調べると、普段から畜舎でシャープウルフ達の世話をしていた個体だったようだ。
最後は、ある意味ダメ元の実験だ。
一応、この実験の素養がありそうなゴブリンを見繕ったが2匹しかいなかった。
いや、この場合2匹もいたと考えるべきか。
「よし、お前たちにこれから召喚の書のページを転写する」
召喚の書は、ぺーじごとの召喚の陣に魔力を通してその陣を描かれた対象を呼び出す仕組みだ。
つまり、陣を何かに写し取って魔力さえ通せば対象を呼び出せるはずだ。
これは『叡知の書』にも確認したので正しいはずだ。
問題は、転写先の材質にある。
『叡知の書』によると、魔力を通して使用する本は、内容と同じくらいページの材質が重要らしい。
一番大事なのは、魔力が通る材質でなければならない事。普通の羊皮紙では大量の魔力を通すと破損してしまう。
その為、魔力を持ったモンスターの皮が使用されるらしい。
それを踏まえて、目の前の2匹のゴブリンの腹の部分に召喚の陣を描いていく。
召喚対象のゴブリン達にも小さな召喚の陣を写していく。
あとは、彼らが陣に魔力を込めれば、召喚は成立するはずだ。
「ギィーー」
「グィーー」
2匹が吠えると腹の召喚陣がぼんやりと光る。
次の瞬間、武装したゴブリンの群れが突然姿を現した。
召喚に魔力を使いすぎたせいか召喚を行ったゴブリンは2匹とも気絶していた。
「成功、かな?」
倒れたゴブリンのステータスを確認すると『ゴブリンサモナー』と表示されていた。
あとは、消費する魔力を何とかすれば、いつでもゴブリン達を呼び出せるようになるはずだ。
俺も試しに右手の甲に召喚陣を描いて魔力を通してみる。
『召喚の書』の時と比べると魔力を喰うがしっかりとグリフォンを召喚できた。
次はゴブリンメイジの強化だが、手持ちのプール草では心もとなくなってきた。
俺はウィキーの森に向かうことにした。
「ウィキー、プール草を分けてくれ」
俺の呼び掛けに、植物でできた美女が答える。
「ヒビキ、ごはん」
見事に噛み合っていない。仕方がないので先にウィキーにごはんを与えることにする。
ウィキーの腹の辺りに手をかざし魔力を込める。込める魔力は日によって変えているがウィキーは水と土が好みのようだ。
やはり植物ということか。
「う、ん、あぁ、」
ウィキーは魔力を流し込むと色っぽい声をあげる。そのお陰でこちらも楽しく作業が行えるが、目と耳で楽しむ以上の事はできない。
一度、ウィキーの胸に触ったのだが当たり前だが固かった。
10分ほどしてウィキーが満足したので魔力を送るのをやめる。
ウィキーがモゾモゾと木と木を行ったり来たりして何かを集めている。
「ヒビキ、これあげる。ごはん美味しかったから」
どうやら食事のお礼のようだ。手に沢山持っているのは木の実のようだ。
俺は礼を言って木の実を受けとり、ステータスを見て驚く。
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精霊樹の実
効果
上級魔法薬の素材になる。
飲めば一時的に【植物操作】のスキルを得る。
モンスターにとって、このうえないご馳走のひとつでもある。
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「あと、これもあげる」
ウィキーは自らの体から生えた花をいくつか摘み取って俺に渡してくる。
花はとても大きく、中にはたっぷりと蜜が詰まっていた。
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精霊樹の蜜
効果
魔法薬の素材となる。
そのまま飲めば体力、魔力を大きく回復する。
モンスターにとって、このうえないご馳走のひとつでもある。
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これがエミィが言っていた『魔力回復ポーション』の材料になる樹液かな?
でもそのまま飲んでも効果があるみたいだが、わざわざ加工するのはなぜだろう?
まあ、後でエミィに聞けばいいか。
「ありがとう」
「食べて食べて?飲んで飲んで?」
ウィキーがこの場で食べろと笑顔で言ってくるので、木の実をひとつ食べて、花をコップのように口に傾けて蜜を飲み干す。
木の実は、甘酸っぱくさっぱりした味わいで食べると意識がしゃっきりする。
蜜は、これでもかと言うくらいに甘いのに、ベタベタと口に残らず後味も素晴らしい。
どちらもこのままで立派に甘味として通用する程に完成された物だった。
「で、【植物操作】のスキルは」
ステータスを確認する,
【植物操作】29:42:56 と時間制限まで表示されていた。
ひとつの実で30分、【植物操作】のスキルを得るようだ。
他にも一時的にスキルを入手できるアイテムがあるかも知れない。
ヴァンパイアの冒険者達にそういうアイテムを優先的に集めるように指示してみるか。
「美味しい?美味しい?」
ワクワクした顔で感想を求めるウィキーに笑顔で答えてやる。
「ああ、美味しかったよ。また、貰えるか?」
俺は、味もそうだがアイテムとしての価値が高そうだ。と少しだけ計算して答える。
「うん、美味しいごはんのお礼だから」
美味しいごはんをくれたから、美味しい物を返す。
ウィキーの考えはとても分かりやすく好感が持てる。この新たな家族を守るためにも一層頑張らねば。
「どこでこんなものを!?」
ウィキーに貰った木の実と花をエミィに渡すとすごく驚かれた。
ウィキーに貰ったと正直に話すと、納得したのかおそるおそる木の実に触れた。
「どちらも英雄譚に出てくるような品です。ひとつでも売れば平民が一生遊んで暮らせる位の額になります」
ただ、売れば出所を探られると思います。と捕捉してくれた。
「でも、アルラウネの樹液は『魔力が回復するポーション』の材料なんだろ?」
そんな伝説の素材で作っていたら、一般には出回らないだろう。
「違いますよ。これはアルラウネの蜜です。『魔力回復ポーション』に必要なのは樹液です」
樹液は、アルラウネが生息する領域の木から採取するらしい。
勿論領域を侵されたアルラウネは怒り狂って襲って来るが、次回の為にも殺すわけにはいかない(依頼を受ける時にアルラウネを殺したら違約金を支払うと契約させられる)ので中々の難易度だそうだ。
「蜜からは魅了薬や蘇生薬が出来ます。この薬もお話の中でしか聞いたことがありません」
魅了薬は香水のように体に吹き掛けるだけで、匂いの届く範囲の異性(別種族含む。特に蟲系のモンスター、亜人に効果がある)を虜にする薬らしい。
エミィに、絶対作りませんが、と言われてしまった。
蘇生薬は高位の神官や聖女が使用することで、死体さえあれば完全に蘇生することができる。
その為、勝手に作ることが禁じられている薬らしい。
「それに、他にも必要な素材があってそれを手に入れるのも大変なんです」
大変もったいないが、精霊樹の蜜は大事に保管することになった。
「木の実の方は、万能薬や若返り薬、変身薬が作れます」
万能薬はその名の通り、あらゆる状態異常を治す薬。
若返り薬も、体を若返らせる薬のようだ。
そして、変身薬は、
「一時的に【変身】することができるようになります」
自分の望んだ姿になれる薬のようだ。
飲めば姿はもちろん、性別まで【変身】できるらしい。
「潜入調査とかで活躍しそうだな」
ゴブリンに飲ませて人間に【変身】することもできるらしい。
「早速、作りますか?」
とりあえず木の実をひとつ使って作って貰うと、万能薬、若返り薬、変身薬が山となって出来てしまった。
「これさえあれば、巨乳にもなれます」
エミィが薬を袋にしまいながら呟く。今手にしているのは変身薬か。
「これで幼女にも負けません」
次は、若返り薬。
「・・・・」
万能薬には無反応だった。黙々と片付けている。
「お薬の管理はやはり私がするべきでしょう」
もちろん最初はそのつもりだったが、なぜか不安になってしまった。
「しっかりと管理いたしますのでお任せください」
結局、エミィに押しきられて薬の管理を一任することにした。
その晩、俺の寝室の近くでエミィに似た巨乳の女性を見かけた、と目撃情報が多数寄せられた。
どうでもいいが、みんな俺の寝室の近くでなにしてたんだ?