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第111話



 駆けつけた俺達が見たのは一方的な虐殺だった。

 一子乱れぬ人造人間ホムンクルス達の攻撃になす術もなく吹き飛ばされていく冒険者だったモノ。

 視界の端にうつった、地面に転がるソレはどこか見覚えがある顔をしていた気もする。

 どこかの酒場で乾杯を交わした相手だっただろうか、なにかの仕事でイチャモンをつけてきた相手だっただろうか。

 もう二度と物言わぬ彼に問いかけても答えは帰ってこない。


「ジーナ達は無事か?」


 冷静に状況を確認しようと努めるが焦っていたのだろう。ジルに確認もせず駆け出しそうになってしまった。


「御主人様、まずはジルに確認を」


 エミィの言葉を聞いて、一度深呼吸してジルに呼び掛ける。


「ジル、ギルドの前についたぞ。ジーナ達はどこだ?」


『ジーナなら主の指示通り戦闘には参加しておらん。少し離れたところにおるはずじゃ』


 そう言われて、始めて戦闘が行われている所以外にも目を向ける。

 どうも、人造人間ホムンクルスの強さと不気味さのせいで焦っていたようだ。

 少し探せばすぐにジーナを見つけることができた。


「ジーナ」


「おお、ご主人。後から来たあいつらは何者だ?冒険者達がまるで子供扱いだ」


 ジーナの話によると、冒険者達は俺達も受けた『いきなり炎弾』をもろに喰らったようだ。

 その後、人造人間ホムンクルス達が突撃し生き残った冒険者達に止めを指している所のようだ。

 

「ホムンクルスは剣も使うのか」


「ああ、魔法剣士のようだ」


 人造人間ホムンクルスは白いローブを着て標準的なロングソードを帯剣している。

 顔は、美形と言えるが同じ顔が30も並んでいれば整った顔は逆に不気味に感じる。

 感情もなく黙々と作業をこなすかのような戦闘が続いている。


 デモに参加していた冒険者は約50名ほど、それを押し止めていた支部長派も同数ほどだ。

 質はともかく、合わせて100名以上の冒険者を奇襲したとはいえ3分の1ほどの兵数で圧倒する人造人間ホムンクルスの性能に驚かされる。

 

 もちろん、冒険者達もやられてばかりではない。

 一人の剣士が、人造人間ホムンクルスを剣で打ち負かす。

 するとすぐに周りの人造人間ホムンクルスが炎弾で援護をしてくる。

 男は炎弾を捌ききれなくなりやられてしまった。


「恐ろしい連携だな」


 人造人間ホムンクルスをまともに相手にするのはやめておこう。

 とはいえこのままだと副支部長の思い通りになってしまうので放置もできない。


「人間には無害で人造人間ホムンクルスにだけ効く攻撃とかあればなぁ」


 被害を考えなければ奴等を全滅させることは難しくない。

 ゴブリン村総出でバリスタ連射でも良いし、火炎旋風でこんがり仕上げても良い。

 しかし、そうすると俺に同職殺しの汚名が掛かる事になりそうだ。

 冒険者ギルドを利用し辛くなるのは困る。


「ありますよ」


「だよなぁ、そんな都合の良い物、あるのっ!?」


 エミィの発言に思わずノリツッコミしてしまった。


「はい、相手の切り札が人造人間ホムンクルスだと判明した時点で対策をと思いまして」


 こんなこともあろうかと、と言いながらエミィが薬瓶を取り出す。

 エミィえもん、頼りになりすぎだ。


「これは、合成された人造人間ホムンクルスの肉体を分解する液体です。本来は、廃棄する人造人間ホムンクルスの処理用の薬液ですが」


 これを振りかければ人造人間ホムンクルスは泡となって消えるらしい。さながら人魚姫のように。

 しかし、


「その量じゃ『全滅』は無理か」


「申し訳ありません。ご主人様の身を守れれば良いと思ってそんなに量を準備しませんでした」


 こうなったら目立つのを覚悟で竜の戦士モードで無双するか。

 これなら時間はかかるが的確に人造人間ホムンクルスだけを倒せる。


「いや、倒す必要はないのか、全員無力化して後で分けても良いんだし」


 そこまで考えて、ある方法が思い浮かぶ。暴徒鎮圧といえばやはりこれだろう。

 俺は2つの魔法を乱戦のど真ん中に放つ。アイラ達には目と耳を塞ぐように指示をしてある。

 次の瞬間、一瞬で戦場を包み込む閃光と爆音。

 

 生物の防衛本能に従いうずくまり、身動きひとつ取れなくなった冒険者と人造人間ホムンクルス

 【光魔法】で作った閃光と【風魔法】で作った爆音を合わせた非致死性のいわゆるスタングレネードみたいなものだ。

 勿論、本物を見たこともない俺は星剣の力を借りて2つの魔法に目一杯魔力を注ぎ込んでやった。

 

 【光魔法】を人前で使ってしまったが使い捨てのアイテムを使ったんだと言い張ればなんとかなるだろう。

 御前試合の時に気がついだが、世間的に【光魔法】の知名度は低そうだ。

 恐らく、歴代の勇者が戦うときに【光魔法】を単体で使う事が少なかったからだろう。

 

 周りで乱戦を見守っていた一般人にも倒れている奴もいたが、野次馬根性のバチが当たったと思って欲しい。


「ジル、ゴブリン達に指示してこいつらみんな縛り上げさせてくれ」


『お、おう、分かった。それにしてもすごい光じゃったのぅ。近くにいたゴーストが何体か消し飛んだぞ』


 実体の無いゴーストには影響があったようだ。

 ゴブリン達はすぐにやって来てテキパキと全員を縛り上げていった。




「さて、とりあえず鎮圧完了っと。あとは黒幕の締め上げだな」


 今回の黒幕は、副支部長と、元勇者候補の『惨殺セロ』。

 その両方が目の前で転がっている。さっきの光で二人とも気絶してしまったらしい。

 そして、新たな事実が判明した。『惨殺セロ』は『加護』の持ち主だった。


******************

セロ 26歳  魔法剣士(人間)



『狩猟神の加護』

効果 狩りを行っている間、誰も対象を発見できない。対象が集団の長である時、効果対象にその集団を加える。


******************


 なるほど、ジルのゴーストがこいつを見失うのはこの『加護』のせいだったのか。

 元々山の中で凄腕の狩人として生活していたのを教会にスカウトされたらしい。

 初撃を確実に当てられる『加護』に頼って馬鹿でかい剣で一撃必殺を繰り返していたらしいが、そのスタイルを教会の連中に否定されてブチュっとやってしまったらしい。

 一対一では戦いたく相手だ。

 さて、そんな短気な奴にそそのかされた副支部長だが、長身だが病的な痩せぎす。見ただけで偏屈そうな男だった。


 フランクも交えてこの騒動の顛末について尋問すると、セロは何も話さなかったが副支部長が全て吐いた。

 支部長になりたかった。

 街であった冒険者が自分を馬鹿にした。

 もっと上等な物を作成してみたかった。

 どうも副支部長は本当にこれだけしか知らないようだ。


 ひとつだけ重要な事を教えてくれた。

 

「セロとは最近知り合ったんだ。ジムの知り合いだから、と聞いている。横流し品は全部ジョンが処理してくれたんだ」


 どうやらまだ事件は終わっていないようだ。



 急いでジルに連絡する。人造人間ホムンクルスと一緒に縛っておいた冒険者達は、身元が確認でき次第、解放されている。

 今ならまだ、ジムの解放を阻止出来るかもしれない。

 次の瞬間、近くで爆発音がした。


『おわっ、なんじゃ!? 主よ、スマキにした奴らの収容所が爆発したぞ!!』


「ジムも主犯の1人だ。あと、ジョンもそうらしい」


『なんじゃ、またフリダシか!?』


 いや、結局ジョンは1度も発見できてない。フリダシ以下のマイナススタートだ。


「とりあえず、ジムだけでも捕まえよう。もしかしたらジョンの手がかりもあるかもしれない」


『うむ、分かった。ゴブリン共とゴーストを総動員して探させる』


「頼む」



 今回のデモの原因のモンスターの不猟もセロの妨害のせいだったようだ。

 セロと数人がパーティーを組んで他の冒険者が弱らせたモンスターを横取りしていたようだ。

 そうしてストレスを溜めていた冒険者をジムが扇動して今回の騒動を引き起こしたのが真相らしい。

 そして、その計画を立てたのがいまだに顔を見せぬジョンという人物だ。


「結局、怪しい奴全員が犯人かよ」


 全員が無関係というのは考えていたが、その逆は考えていなかった。

 とりあえず、セロの元に向かう。他の二人がセロを取り戻しに来る可能性があるからだ。

 尋問の時にセロが口を割らなかった事からも仲間意識がある事がうかがえる。


 俺がセロの元に駆け付けるとすでに奴は拘束を解かれ、馬鹿でかい剣を持っていた。

 近くに圧殺死体と普通の死体が転がっていることから、協力者によって自由になったセロはその協力者すら殺してしまったのだろう。


「ギャハッ」


 こちらを見ながら不敵に笑うセロ。俺もぜつむを構えて戦闘体勢に入る。

 セロはいきなり大剣を降り下ろす。しかし、『加護』の補助もなくこんな大振りの一撃が当たるわけもなく剣は地面に叩きつけられた。

 奴の攻撃の隙をついて刀を振るが、セロは大剣をそのままに出口へと走る。


「ここで逃げの一手だと!?」


 完全に虚を付かれ出遅れつつ奴のあとを追うが、すでに『加護』によって姿を隠したセロを発見することはできなかった。

 まさか味方すら殺す戦闘狂が逃げるとは思わなかったが、どうも今回の事件では何度も出し抜かれている気がする。


「ジョンって奴はよっぽど頭がキレる奴なんだな」


 俺は、まだ見ぬ首謀者の一人に空恐ろしい物を感じながら、フランクにセロを逃がしてしまったことを伝えに戻った。


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