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第107話

 

「お兄ちゃん、あれ?あれがお兄ちゃんの村?」

 

 リーランがはしゃいで馬車かめしゃから身を乗り出す。

 目線の先には村の入り口が見えてきた。


「ああ、そうだ」


「リーラン、危ないからやめなさい」


 エミィが叱るとリーランはアイラの後ろに隠れてしまう。

 手にはパラとルビーをぬいぐるみのように抱き締めている。


「アイラ姉、エミ姉が苛める~」


 よしよし、とアイラが頭を撫でている。とはいえリーランも本気でエミィを怖がっているわけではない。

 最初あれだけ怖がっていたのに不思議と夜寝る時などはアイラよりエミィにひっついて眠っていることが多い事からも明白だ。

 

「おお、あれがご主人の村か」


 ジーナも身を乗り出して確認し始めると今度は馬車の荷台がバランスを崩して少し揺れた。


「ジーナ!!貴女まで子供みたいな事をしないで!!」


 またもエミィの叱責が飛ぶ。ジーナはシュンとしておとなしく荷台の端で小さくなる。


「まぁまぁ、二人には始めての土地だし、はしゃいでも仕方ないさ」


 俺はジーナの肩を手でポンポンと叩いて気にするなと慰める。

 エミィは、大女と幼女め、と小さく呟いていたが本気で嫌ってる訳では無いのは分かる。

 なにせ、荷台が揺れて一番最初にジーナを支えようとしたのはエミィだ。

 本人に言えば怒ると思うので言わないがエミィは面倒見が良いのでみんなの母親のような立場になっている気がする。


「ヒビキ殿、俺たちもこのまま村に入っても良いのか?」


 馬車に並走していたケンタウロスの夫婦の旦那、シロンが訪ねてきた。


「ああ、ずっと走らせてすまないな。村についたらすぐに休めるように手配するから」


「それは問題無い。ただの馬やそこらのモンスターに負けるほどやわじゃない」


 これは、走り続ける持久力もそうだが、戦闘力の事も言っている。

 ケンタウロスは走攻守揃ったマルチプレイヤーのようだ。

 ちなみにビルギットは寝ている。エルフは自分のが興味の無いことには途端に無関心になるようだ。

 同種族にすら無関心な為、種として緩やかに衰退していっているようだ。


 村に入るとすぐにみんなで出迎えてくれた。

 正面にはリザードマンのピノがシャーッと音のする笑顔で迎えてくれている。

 周りはゴブリンと吸血鬼の混成部隊が仕事を投げ出して来てくれたのだろう。鍬や鎌を持ったまま手を振っている。


「だ、騙されたんだ!?ホロン、君だけでも逃げるんだ!!」


 急に周りを囲まれて慌て出すシロン。妻のホロンも涙目でシロンにすがり付き嫌々と首を振る。


「私たちはいつも一緒よシロン!!」


「ホロン!!」


 ヒシッと抱き合う2人。完全に2人の世界に入っている。

 仕方ない、放っておこう。


「お帰りなさい。ヒビキさん」


 後ろから声がかかる。

 この声はラティアだ。


「お帰り、ヒビキ~」


 一緒にいるのはヤクゥか。


「二人ともただいま。俺のいなかった間、何かあったか?」


「え、えっと」


「あった!!」


 ラティアは言いにくそうに、ヤクゥは元気一杯に答えた。

 とりあえず急を要することではないようなのでみんなを休ませることにした。

 ケンタウロスの夫婦もなんとか正気に戻ったので部屋を準備して休ませる。


「ヒビキ、兄ちゃんは?」


 サイは納品の為、ウェフベルクによってからの帰宅だとヤクゥに伝えるとしょげてしまったので頭を撫でてやる。

 すると、


「あぁーーー!?」


 リーランがすごい勢いでこちらに向かってきた。


「ダメ!!」


 リーランはヤクゥを突飛ばし、俺の腕にしがみつく。


「お、おい、リーラン」


「お兄ちゃんは私のお兄ちゃんなの!!」


 ヤクゥはすぐに立ち上がりリーランに食って掛かる。


「なにすんだ!!」


 がぁ、とリーランに掴みかかり取っ組み合いの喧嘩を始める。


「ちょ、ちょっと、2人ともやめて~」


 ラティアが必死に止めようとするが止まらない。


「やめなさい、2人とも!!」


 ここでも、エミィ母さんが雷を落とす。


「リーラン、ご主人様の妹を名乗りたいならもっと上品になさい」


「はぃ」


「ヤクゥ、あなたがそんなではお兄さんががっかりしますよ」


「うぅ」


 見事なお裁きを見て、その場をエミィに任せて自宅に戻る。

 ラティアが風呂を入れてくれている間、ゆっくりと待つことにする。





「さて、じゃあ何があったか聞こうか」


 風呂にゆっくりとつかり、食事を済ませまったりとしていたところでラティアに何があったかを聞く。


「それがヒビキさんのプール草畑に」


 どうも俺たちの留守中に俺の作った光と闇のプール草畑に住み着いたモンスターがいるそうだ。

 ただ騒ぎを起こす様子も無く、ゴブリンたちにもあの畑は手を出さないでいいと伝えていたので今まで放置していたようだ。


「畑のお世話もしてくれてるみたいなので、無理に追い出すのは可哀想だと思って」


 ごめんなさい、と謝るラティア。


「まあ、本当に無害なら問題無いけど。一度確認しとこうか」


 俺達はプール草畑へ向かうことにした。





「どうなってんだこりゃ?」


 目の前に広がるのは明らかに周りの森とは植生の違う木々。

 元々実験用のこの畑はそれほど広い空間ではなかったが、魔力の偏りを意図的に作るために作ったすり鉢状の地形すら見当たらないと言うのはどういうことだろうか?

 目の前の木々をのステータスを確認すると、『ウィキーの森』と表示されている。


「ウィキーってこの木の事か?」


 葉を一枚千切ると『プール草(闇)』と表示される。

 

「やっぱり、これはプール草なんだな。じゃあウィキーって言うのはなんだ?」


 俺の声が聞こえたのか、葉を千切ったのが原因か目の前の木から全裸の美女が生えてきた。


「私がウィキー」


「アルラウネじゃない。こんな人里に近いところにいるなんて珍しいわね」


 ビルギットが彼女の正体を教えてくれた。

 ウィキーをよく見ればその姿は確かに美女だが植物でできている。

 一応話ができるようなのでどうしてここに来たのか聞いてみた。


「ウィキー、人間に捕まった」


 アルラウネの樹液は魔法薬の素材になる。恐らくそれが原因だろう。


「アルラウネを森から引き剥がすのは重罪です。恐らく密売品ではないでしょうか?」


 エミィが補足してくれる。


「檻壊れたから逃げた」


 檻が壊れて運良く逃げ出せた訳だ。


「でも、ウィキーお腹すいてた」


 森から引き剥がされて力を失ってたわけだ。


「ここに、美味しいごはんあった」


 ウィキーにとって魔力はエサな訳だ。で、畑に充満した魔力を食ったっと。


「ここのごはん、一番美味しい」


 それで、俺の魔力を気に入ったんだな。


「ここ、ウィキーの森」


 だから、ここは自分のものだと?ふざけんな。


「ここは、俺の畑なんだけど?」


「うん?」


 可愛く首をかしげられた。

 根気良く説明して、なんとか分かってもらうのに一時間ほどかかった。


「ごめんなさい。ごはん食べちゃった」


 とはいえ、理解してくれたのは魔力ごはんを用意したのが俺で、あれはこの草(今は木だが)のごはんだということくらいだが。


「いいじゃない。アルラウネがいる森の植物は良く育つのよ?」


 ビルギットの言う通り、プール草は樹木にまで成長しているし、ここにある葉が全てプール草なのだ。

 それにしても流石は植物の精、アルラウネ。光、闇関係なく樹木にしてしまうとは。


「そうだな。ここはウィキーに任せるか」


 俺達の言葉を理解しているのだろうぱぁと明るい顔をして両手を上げて万歳している。

 おかげでたわわに実った2つの果実もばるんばるんと、


「植物少女がお好みですか?」


 エミィさん、怖いです。

 こうしてまた、村の仲間が増えることになった。

 まあ、こいつはここに誰も近づかなければ問題無いだろう。

 それより一応、ウィキーの事をギーレンに伝えてておかなければ。

 もし密売の事を知らないのであれば教えてやれば恩を売れるし、知っているのであればそこはちょっとお話し合いをしなければならない。

 彼ばかりに旨い汁もとい、仕事を押し付けるわけにはいかない。


 

 こうしてはからずもプール草の量産に成功してしまったが、まさかこれが厄介の種になるとはこの時には思いもしなかった。

 


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