第10話
次の日の朝、集合場所の東門近くの広場にはすでに、クレストともう一人旅支度を済ませた女性が待っていた。
「おはようございます。 お待たせして申し訳ありません。」
早朝とだけ決めていたため、正確な時間での待ち合わせではない。そもそも時計はとても高価なものなので、
一部の貴族や商人くらいしか持っていない。
クレストは笑顔を向けて答えてきた。
「いえ、こちらもつい先ほど到着したところです。問題ありません。本日よりよろしくお願いいたします。」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「それと、今回の道中の案内人をいたします。ポーロイアです。」
「ポーロイアと申します。」
「はい、冒険者のヒビキです。よろしくお願いします。 こっちはパーティメンバーのアイラです。」
「よ、よろしくお願いいたします。」
言葉少なに挨拶を終えるアイラ。他人とのコミュニケーションがまだ苦手のようだ。
俺との会話にはだいぶ慣れてきているし、リリともそれなりに話せている。
しかしやはり初対面の相手には緊張してしまう。
「では、そろそろ出発しましょうか。 馬車を東門の外に待たせてあります。」
東門にいた馬車には御者がいなかった。なんとクレストが御者もするそうだ。
「ウェレオ村での取引は私が直接出向くのが条件に入っていますし、
できるだけウェレオ村に他人を近づけたくないのですよ。」
『翡翠織物』は巨万の富を生む。だからこそこれほどまでの情報統制を行っているのだ。
これは、依頼が無事終わった後も少し気をつけておかなければならないかもしれない。
前任者達が全員死亡しているというのもこうなってくると怪しく感じてしまう。
「なるほど、今回の依頼も苦肉の策といったところですか。
私のような実績もない冒険者などを護衛に雇ってよかったのでしょうか。」
すこしクレストを牽制してみる。
「いえ。あなたは先にいらっしゃった方々とは違って信用できますから。」
「どうして、そのように思われるのです?」
「商人の勘です。と言いたいところですが、
あなたには、『翡翠織物』への欲望がほとんど感じられなかった。
普通、そんな奴は目先の利益だけを見ている馬鹿くらいです。
しかし、あなたが聡明なのはすでにお話しして分かっております。
あなたのような方を紹介していただいて本当に冒険者ギルドには感謝しているのですよ」
「過大な評価にお答えできるように努力いたします。」
別に『翡翠織物』が欲しくないわけではない。なんだか物の価値が分かっていない奴と言われたような気がするのは気のせいだろうか。
街から出てしばらくすると、いつも通っている森に差し掛かってきた。
自分達の知っている場所もそろそろ終わりそうになった時、アイラが口を開いた。
「ご主人様、この先で誰かがモンスターに襲われています。」
「なに?」
話を聞くと、進路の先にモンスターがいるとの事。
襲われているのは、旅人か商人か分からないが1人とのこと。
クレストにそのことを話して、指示を仰ぐ。
「進路上では仕方ありませんね。
早速で申し訳ありませんが、モンスターの撃退をお願いいたします。」
「よろしいのですか?」
普通、他人が襲われていようが自分の身を危険にさらしてまで助けようとはしない。
商人が自分のために雇った護衛がわざわざ他人を助けるのにいい顔をしないのもギルドで聞いていた。
「あなた達の実力を見るのにちょうどいい機会だと思います。もちろん、戦闘時の追加報酬も支払いますよ。」
「分かりました。アイラ、敵の数は分かるか?」
「多分、5匹ほどだと思います。」
「そうか、ならお前はここで馬車の護衛をしててくれ。俺はモンスターを片付けてくる。」
「かしこまりました。」
馬車の護衛をアイラに任せて一人で向かう。馬車には速度を落としてついてきてもらう。
いくら依頼人の許可があったといっても馬車の護衛をゼロにするのはまずい。
アイラがいれば、戦闘の推移もある程度把握できるはずだ。近づいてまだ戦闘中ならその場で止まればいい。
馬車に先行して少し行った所でモンスターの集団を発見した。
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ゴブリン Lv.4
標準種 1歳
体力
120
筋力
45
すばやさ
55
知能
25
運
20
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『ゴブリン』だ。この森でも良く見かけるそいつらに襲われているのは、一人のようだ。
装備のいたるところがボロボロになっている。
ゴブリン5匹に囲まれて逃げ出すことすらできない状況におちいっているようだ。なるほど、女性か。
120cmほどの身長に緑色の表皮。ぼろぼろの布を腰にまいている。ごくスタンダードな個体のようだ。
ファンタジーものでは、スライムと並んでの知名度ではないだろうか。
ゴブリンは決して強いモンスターではない。単独で戦うならおそらく冒険者でなくても勝てるだろう。
しかし、ゴブリンは侮れないモンスターだ。
ほぼ単独では動かないし、集団での戦闘では囮や挟撃などの戦略じみた行動を行うこともあるようだ。
また、多くの物語でそうであるように他種族のメス、特に人間の女性を好む性質を持っている。
繁殖力も高く、成長も早い。生後2週間ほどで成体となるらしい。
そんな、女性冒険者にもっとも嫌われているモンスターであるゴブリンの一匹を後ろから袈裟懸けに切り伏せる。
ようやく他のゴブリンが俺に気づくがもう遅い。そのまま、直線状にいたもう1匹を剣を切り上げて始末する。
「危ない!!」
俺の後ろから残った3匹がそれぞれ持った武器で切りかかってくる。
もちろん気づいていたためその場にとどまらず。2匹目のゴブリンがいた位置よりさらに突き進む。
攻撃をはずされやや体勢を崩したゴブリンたちの隙を逃さずさらに1匹を切り捨てる。
これで残り2匹。数の上では2対2だが、襲われていた女性にすぐに戦えというのは酷だろう。
戦力としてはかぞえないでおこう。すでに、奇襲による動揺からは立ち直っているゴブリンたちがこちらの様子をうかがっている。
「アイラ!今だ!」
「ギギッ!?」
大声あげながらゴブリンたちの後ろを見る。
つられて2匹が後ろをむく。そんな隙を見逃すはずがない。
一瞬で間合いをつめた俺は剣を横薙ぎにふるっていっぺんにゴブリンたちの首を落とす。
ステータスに頼った強引な戦い方だが、森でモンスターと戦ううちに身につけた戦い方だ。
ゴブリンなどある程度の知能があるモンスターにはこういったフェイントが有効だった。
アイラがいれば連携をとって少しはマシな戦い方もできるのだが。
「大丈夫か?」
「は、はい。危ないところをありがとうございます。 あれっ、あなたは!?」
「うん? あれ昨日のれん、いや昨日、冒険者ギルドにいた娘だな。」
おっと、危ない錬金術師だと知っているのは俺のステータスチェックのおかげだ。
余計なことは言わないようにしないと。
「は、はい。覚えててくれたんですね。」
「可愛い娘だったからな。無理はするなと忠告したはずだが?」
エミィは顔を真っ赤にしながら釈明しだした。
「か、かわいいとか!? あ、すっ、すみません。どうしてもお金が必要で・・・」
「とりあえず、馬車に戻るか。」
そんな話をしているとちょうど馬車が追いついてくる。
「ご主人様 大丈夫ですか?」
「ああ、ゴブリンが5匹いた。アイラの言ったとおりだな。」
アイラの気配を探る力は気配の数と大まかな種族を割り出せる。
まあ、数には多少の誤差があるし、モンスターか亜人を含んだ人間かくらいの違いしか分からないらしいが。
森の探索ではとても重宝している。
「ゴブリン5匹をあっという間に倒すとは。いやはや、すばらしい技量ですな」
クレストが感心したように言った。
「彼女が襲われていたので、後ろから奇襲をかけることができましたから。」
できるだけ、なんでもないことのようにつげる。
「彼女は?」
ポーロイアは、同じ女性として襲われていたエミィが気になったようだ。
「あ、あの 私は大丈夫です。 助けていただきありがとうございます。」
そういって頭を下げるエミィ。
その後、自分達が商人の護衛の任務中であることを告げエミィを街まで送ることを話あっていると
「そこまでしていただくわけにはいきません。私なら大丈夫です。」
そういって、一人で街まで戻るといいだした。
確かに、エミィは大きな怪我もないしここから街まで歩いて1時間といったところだろう。
危険な森を抜けるまでに15分といったところか。
森さえ出てしまえばあとは街道であり、モンスターもめったに出なくなる。
エミィの装備を確認すると使っていたショートソードがボロボロになっていた。
どうもエミィは剣での戦いに慣れていないのだろう。
丸腰というのも危ないので、俺の予備の剣を渡した。遠慮してなかなか受け取ろうとしなかったが。
「ここまでしてもらうわけにはいきません」
「じゃあ、これは貸しだ。剣は消耗品だから別にそいつを返してくれなくてもいい。
何か別のことで俺に返してくれ。俺は、冒険者のヒビキだ。大体、ギルドには毎日顔を出してる。
借りが返せそうなら連絡してくれ。」
錬金術師に恩を売っておくことは長い目でみてプラスになるだろう。
「わかりました。 必ずお返しします。」
そういって、街の方へ向かっていくエミィ。
「では、出発しましょうか。」
クレストの号令で馬車が進み始めた。