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第97話



「若い娘がお好みなんですか?」


 本日分の試合が終わり、リーランを連れて観戦組と合流したと時のエミィの第一声がこれだった。

 ニコニコと笑顔でこちらを見ているエミィは、とても怖い。

 ジルが黒髪化した時にも似たプレッシャーを感じた。


「いや、違うんだ、話を聞いてくれエミィ」


 なんだか、浮気男の言い訳のように聞こえてしまう。


「おばちゃん、怖い」


 そこにリーランが爆弾を投下した。


「お、おばちゃん?ソレハワタシノコトデスカ?」


 エミィが視線で殺しにかかっている。

 リーランはすぐに俺の背中に隠れてしまう。


「ずいぶん、仲良くなったわね」


 バーラが感心したようにこちらを見てくる。


「この子、なかなか才能が有りそう。私の孫弟子にふさわしい」


 クェスはすでにリーランの才能を見抜き、俺の弟子として育てさせるつもりのようだ。

 別に鍛えなくても今のままでリーランは十分に強いが。


 

 

 全員で食事を取り、明日も試合があるから、と早めに宿に戻る。

 部屋に入って一息つくと、早速サイから報告があった。


「キメラのパルが捕らえられてた建物なんだが、あれはかなりの金が動いている」


 つまり、教会だけではなく国まで関係している可能性があるわけだ。


「なら、これ以上の潜入は無しにしよう。日没になったらゴブリン達を引き上げてくれ」


「ほっとくのか?」


 サイが少し不安そうな顔をする。サイは直接その施設を襲撃している。

 もちろん変装はしていただろうが、顔が割れている可能性がある。


「いや、建物ごと攻撃する」




 

 その日の夜。

 すでに街の灯りも減り始めた頃、パルが捕まっていた建物から約100mほど離れた位置にある場所に俺とジル、ルビー、そしてサイは潜んでいる。

 アイラとエミィは疲れて寝てしまったリーランを見ていてもらっている。

 もしかしたら連中がリーランを取り返しに来る可能性もあるので用心のためだ。

 ちらり、と建物の方に目を向ける。灯りが不十分なこの状況でも建物を視認することが出来るほどの距離だ。


「本当に建物ごと壊すのか?」


「いや、建物ごと攻撃を仕掛けるだけで建物は丸々残ると思う」


 そう言いながらジルにスケルトンを呼び出してもらう。

 近くの道から規則正しく3列に並んだスケルトンがエスカレーターにでも乗っているかのようにスッと現れ続ける。

 100体を越える数が現れても物音ひとつしない。


「ふう、やれば出来るもんじゃな。スケルトンの忍び足」


 忍び足と言っているがスケルトンは全く動いていない。そもそも歩いていないのだ。

 文字通り、地面を滑るように移動するスケルトンからは足音も骨の音も聞こえない。

 これだけの数のスケルトンをジルは魔力で包んでまとめて動かしているようだ。


「しかし、結構つかれるのぅ。主よ、帰ったらたっぷりと褒美を貰うからのぅ」


「ああ、分かってる」


 サイレント・スケルトン部隊はそのままスッーと施設まで移動を開始した。

 スケルトンが現れた道をひたすらまっすぐ進めば建物へと到着する。


「主よ、スケルトン達は配置についたぞ」


 ジルに侵攻を指示して、建物全体をゆるい風の結界でおおう。

 風の結界の内側に炎を起こしてぐんぐんと建物内の温度を上昇させる。

 最後に【水魔法】で湿度を上げて、この建物全体を蒸し焼きにしていく。


 この状況はスケルトン達には何の影響も無い為、建物の中を元気に暴れまわっている。

 なぜ普通に火を放たずに、蒸し焼きにしているのか?

 火を放てば、放火した犯人がいるとすぐに分かってしまう。

 国すらグルの相手を敵に回したくは無い。

 しかし、蒸し焼きならこの世界に検死など無いだろうから外傷もないし不審死扱いになるだろう。

 そうなれば、もしかしたら非人道的な研究をしている負い目から『死者の呪い』を疑うものも出るかもしれない。

 実際にアンデットやゴーストがおり、さらに『呪い』が本当にあるこの世界なら、恐怖も大きいだろう。



 スケルトンたちにも積極的に人間を襲わず、逃げ道を塞ぐことに尽力してもらっている。

 すでに中は、気温よりも体温のほうが低い状態だろう。

 あと数時間、この状態を保てば建物の中に生きた人間はいなくなるだろう。

 この攻撃のいやらしいところは、高温多湿の状態を作っているのは魔法の力だが、魔法でこの状況を打開するのは難しいということだ。

 中にいる優秀な魔術師は100体のスケルトンへの対応に追われる為、気温を下げたり湿度を調整したりする暇は無いだろう。



 こうして、俺達は夜が明けるギリギリまで『建物茹で』を念入りに仕上げた。

 思ったより時間がかかってしまい、ジルへのご褒美は大会が終わり次第果たすと約束させられた。





「おはよう、ヒビキ。眠そうだね。なにかあった?」


「ああ、昨日はアイラたちが寝かせてくれなかったんだよ」


 なかなか鋭いルクスの追及をかわし、リングに向かう。

 本日の3回戦。

 第1試合は、エリート魔術師VS俺の戦いだ。



 エリート魔術師はすばやく距離を取り大量の水を空中に呼び出した。

 その水塊から攻撃用の水弾を作り、水の影に隠れながら攻撃を仕掛けてきた。攻防一体の技だ。


 何度か接近しようと試みたが無数の水弾と次々と形を変える水の壁に阻まれて魔術師まで攻撃が届かない。

 そんな攻防を繰り返していると水弾を一撃、右肩に喰らってしまい体勢を崩す。

 エリート魔術師はその隙を見逃さない。水弾ではなく水の壁自体を攻撃に使って俺を追い詰めようとする。


 急な展開に俺は左腕に取り付けた篭手をエリート魔術師に向けて、篭手に【電撃魔法】を込める。

 すると、篭手に仕込んだ自作のスピーカーもどきから高い音がけたたましく鳴り響く。

 エリート魔術師はビクッと一瞬反応し、集中力を切らしたのか水が形を失ってリングを濡らしてしまう。


 その隙を逃さず、エリート魔術師に肉薄し刀を突きつける。

 エリート魔術師は悔しそうな顔をしたが素直に敗北を認めた。



「ふう、危なかった」


 自作のスピーカーは、磁石と金属の線で作ったコイル、メガホンのような形に張られたモンスターの薄くて丈夫な皮で作られている。

 そのスピーカーに電流を流して、極端に高い音か極端に低い音の2種類の音が出せる。

 威嚇くらいにはなるかと思って準備したのだが、こちらの人間はああいったビィーとなるブザーのような音になじみが無い為か、かなり驚いた顔をしていた。


 観客席も一瞬、シーンとなっていたのでこれからも初聞きなら有効かもしれない。



 俺と入れ替わりにリングに向かうルクスが色々聞きたそうな顔をしながら俺とすれ違った。

 次はルクスVSエルフの対決だ。

 この試合の勝者が俺の次の対戦相手になるのだから、多少はしっかり見ておかなければ。




 

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