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ニンゲン
作:水仙 嘉音












ニンゲン

























「アナタガ私ヲ生ミ出シタ人デスネ」




























"人"と同じ色と触感の肌を持った"ソレ"はただ静かに眼前に立つ人間を見上げた。
そこに立っているのは白衣に身を包んだ二人の少女達。
全く同じ蒼い髪と翠の瞳を持つ二人は、同じように首を傾げて言った。

「そうだと言えば確かにそうなる」
「人ではなく、人間と呼ぶといい」

同じ声で言った二人は左右に分かれて"ソレ"を見つめた。
首から下はまだ冷たい機械が剥き出しの状態になっている"ソレ"は、ただ二人を硝子の瞳で見ている。

「人類は間違いを犯した」
「人類は間違いを生んだ」
「だから、我々は解決を望む」
「だから、我々は解決を頼む」

左右から聞こえる同じ色を持つ声に、"ソレ"は静かに目を細めた。
それを見た瞬間、右にいた少女が微かに口元を歪め、左の少女が顔を顰めた。

「人間の振りはしなくてもいい」
「お前は人間ではないのだから」
「人々は望んだ。お前を道具として」
「我々は望んだ。お前を武器として」

少女はそれぞれまた同じ無表情を浮かべると、そっと"ソレ"の両肩にそれぞれの手を添えた。
そこにあるのは冷たい機械で、顔のような仮の皮膚すらない。
翠の瞳を静かに伏せた少女達はゆっくりと手を離してその身体にかけてあった布を取った。

「私ハ、アナタ方ノ道具デアリ武器デアリマスカ」
「人々はそれを望んだ」
「我々はそれを望んだ」
「そして、それがお前という存在だ」
「そして、それがお前という全てだ」

"ソレ"の言葉に答えた二人は二枚の布を畳ながら、再び"ソレ"の前へと移動した。
生命を育んだ海を思わせる蒼い髪と、生物を包む大自然を思わせる翠の双眸。
二人は互いの髪に手を伸ばして指先で弄りながら微笑んでみせた。

「人々は争い続ける。それこそが人類という存在の進む道」
「我々は生み続ける。それこそ、誰もが望む全ての存在を」
「人類が神を望んでその存在を信じたように」
「我々はただ生み続ける為だけに生み続ける」
「アナタ方、ニンゲントイウ生キ物ハ勝手ナノデスネ」

二人の言葉を理解したのか、それともただインプットされていたのか。
そんな小さな言葉を並べた"ソレ"は静かに硝子の目を二人へと向けた。
恐らく、今の人間にとって唯一の救いを生み出せる存在は彼女達だけなのだろう。
"ソレ"の言葉に二人はゆっくりと顔を合わせると、静かに微笑んだ。

「勝手だからこその人間だ」
「勝手でなければ滅ばない」

二人は静かに手を重ねて周囲を見回した。
少女達以外には誰もおらず、荒れ果てた部屋の中には"ソレ"以外に動く物すらいない。
天井に近い位置に窓があるのは、ここが地下に近い部屋だからだろうか。
そこから見えるものの殆どが廃墟で決して良い景色とは言えない。
建物以外には荒んだ煙と灰を吸った雲の隙間から紺碧の空が見えるだけで、他には何もない。

「……人類は、滅びゆく運命なのだろう」
「……我々は、滅び去るべきなのだろう」

外を眺めながら言った二人は少し寂しそうに"ソレ"を見遣った。
その翠の瞳にあるのは哀しさとほんの僅かな希望を見る光。
"ソレ"は、二人を硝子の瞳で見返すと内側からの光が宿らないままにただ言った。

「滅ビルツモリデスカ」
「……人々は望んでいない」
「……我々は望んでいるが」
「それでも人々は今から生きようとしている」
「それでも我々は今更希望を見出そうとする」
「滅びるべきだろう、このホシを思えば」
「滅びて当然だろう、このホシを見れば」
「枯れゆく地球を犠牲にして……」
「死にゆく生命を犠牲にして……」

そこで二人はそっと口元で微笑んで、悲しそうに右手を相手の頬へと伸ばした。
左手はお互いの手を握り締めたまま離そうとはしていない。
そして、少女は二人でそれぞれの視線を相手に向けながら言い放った。

「生きるべき価値など今の人類にはもうない」
「生きるべき意味など今の人類にはもうない」

じっと相手を見据えたまま、二人はただそう言うと哀しげに相手の唇に指を這わせた。
紅い唇を撫でる細い指は、まだまだ幼い少女のもの。
二人の言葉に反応は返さず、"ソレ"は静かに硝子の瞳に全てを映していた。
暫くして二人はまるで"ソレ"に何かを求めるように視線を向けた。

「・・・・ナラバ、私ガ作ラレタ理由ハナンデスカ」
「小さく儚い希望の光」
「微かに輝く夢の限界」
「人々が生きようとし」
「我々が死を覚悟した」
「しかし、死は恐ろしい」
「しかし、生が愛おしい」
「滅びるべきだとの理性より」
「生きていたいという本能が」

"ソレ"の問いに二人は殆ど即答の早さで言葉を放つ。
まるで元々あった答えを述べているように、ただ二人は言い放つ。

「哀しきかな、勝っている」
「哀しきかな、勝っている」

今度こそは全く同じ言葉を同時に述べると、二人はそっと離れて中途半端にかけられていたカーテンを両側から引いた。
途端に直接入ってくる眩しい夕陽に目を細めながら少女達は静かに窓を見上げた。

「今、人類は争いの中にいる」
「今、人間は争いの中に在る」
「脊椎動物門哺乳綱霊長目ヒト科ハ殆ド生命反応ヲ・・・・」
「言わなくてもわかっている」
「言われなくても知っている」
「ほぼ全ての人類が死に絶えた」
「ほぼ全ての人間が消え失せた」

"ソレ"の言葉を遮ると、二人はゆっくりと振り返って向き直ると目を伏せた。
鏡のようにそっくりなその動きは完璧かと思えるほどに左右対称で、実は一人ではないのかと思ってしまう。
哀しげに伏せられた瞳は、ただ翠の色だけを宿しているワケではない。
太陽に照らされる蒼い髪は風によって波打つように揺れている。
二人はそっと目を閉じると、ただ静かに風を聞きながら揺れていく袖から微かに出た手を繋ぎあった。

「希望は痛み」
「絶望は永遠」
「哀しみは怒りへ」
「苦しみは憎しみ」
「愛は涙と化し」
「心は石となる」
「私達二人の魂は永久に共に在り続けたい」
「私達二人の心は安息と共で在り続けたい」

ぎゅっと強く手を握り合うと、右側の少女が瞳を開いて微笑んだ。
それはひどく哀しげで、年相応のものではない。

「私を殺して」

そっと相手を握っていない方の腕を広げ合うと、左側の少女が瞳を開いて微笑んだ。
それはひどく寂しげで、年相応のものではない。

「私を殺して」

同じ声で言った二人は再びその双眸から光を奪って静かに微笑みを消した。
そこに佇んでいる白衣の少女はまだまだ幼く、その姿は廃墟になど似合うはずもない。
温かい家庭で幸せそうに笑っているのが最もよく似合う年頃だろう。
愛すべき両親がいてその両親に愛される事こそが最も幸福だと思える年頃。

「そして、あなたは人間がいた事を記録しなさい」
「そして、私達という人間がいた事を残しなさい」
「愚かな人間のことを」
「哀しき人間のことを」
「愛を知る人々のことを」
「心を知る人々のことを」
「このまま残して」
「どうか記録して」
「争い続けた意味のない永過ぎた時の終わりを」
「戦い続けた価値のない遠過ぎた時の終わりを」

争いというものに奪われていった数々のものを思い出しながら、二人はただ手を強く握った。
戦いで失われていった多くの生命を思いながら、二人はただ静かに時を待った。
父や母、姉や妹、兄や弟、祖父や祖母、友人も、赤ん坊も少年も少女も青年も老人も関係なく。
炎の中で消えていった悲鳴。
瓦礫の下で泣き叫ぶ声。
人の身体をなんでもないモノのように貫いてゆく弾丸。
軽々と生命を切り裂いていく刃物。
人形のように宙を舞い、吹き飛んでいく姿。
足元を転がる人々の激痛と恐怖に見開かれたままの双眸。
耳に残って消えてくれない人々の絶望の言葉たち。
砕かれた骨の音、千切れた肉の断片。
痛みも悲しみも全て吸収して飲み込んでいく戦いの炎。
激しさを増していく戦いを終わらせることは出来ない。
人類は滅びる道を選択してしまった。
その進みは加速する一方で、引き返すことなど出来ない。
人類の最後の敵が自らが作り出した人工生命体だったというのは、当然の流れだったのかもしれない。

「・・・・・悲シイデス」

"ソレ"は静かにそう言うと、涙を宿すことのない瞳で静かに少女たち二人を見つめた。
元々は子供たちが遊んでいたビー玉で作られたかのような丸い硝子の瞳がそっと少女たちを見た。
そして、ギィィ…と音を立てながらきごちなく動いた両腕がそっと二人に向けられた。
少女達は互いに手を握り合ったまま、ただ瞳を閉じて待つだけで何もしない。

「悲シイデス・・悲シイデス・・・」

"ソレ"は静かにそう言うと、二人に向けた両手を動かしてその心臓に狙いを定めた。
二人はそれを知っていても何も言わず、何をしようともしない。
蒼く細い光線が空気を焦がしたのもただ一瞬のこと。
次の瞬間、二人の少女は握り合った手に向き合うように倒れこんだ。
唇から小さな音が洩れ、微かに残っていた小さな吐息も消える。

「・・・アマリニ悲シイデス・・・オ二人トモ」

悲しいなどと思う心がないとしても、"ソレ"はただ「悲シイ」と繰り返した。
動かなくなった少女二人はもう答えない。
ただ強く手を握り合った二人の姿を、沈みゆく夕陽が照らし出すだけ。
そろそろ闇が周囲を支配していくのだろう。
そして、このまま時が流れればいつかは全てが風化していくのだろう。














「・・・記録ナド・・・イツカハ消エテシマウトイウノニ・・・・」

















「全テノ終ワリマデ、アト・・・・・」




















人の思いも
気持ちも
心も
その存在さえも




















「・・・・ゼロ」



























人類の歴史を刻む者は誰一人としていない。

ただ存在するのは、二人の少女が残した歩行すらできぬ、意思を持った"生命体"















後書き

何となく、世界というか、人類最後の瞬間みたいな。
アンドロイドと白衣の双子、しかも少女というアンバランスさがいいかなと(何)
最後に生き残るのが、恋人同士でも夫婦でも親子でもなく、姉妹。
しかも、双子の女の子というとなかなかないような気がして。 とか言っててあったらどうしようか(滅)
この結末は色々と想像してみて下さい。
彼女達は同時に死にたいがために"ソレ"を作ったのかもしれません。
若しくは、ある程度の希望を持っていたのかもしれません。
それともただ自分たちを殺すためだけに作ったのかもしれません。 と、色々な感じにご自由に。
何にしても、やはり人類にも最期というものがあるんだろうなーと。
それが今の自分達に関係ない、どんなに遠い未来であったとしてもやはりそれは自分達と繋がっている人類の最期なんだなと。
創り上げてきた物は全て失われて、また零の状態に戻って、そこからまた命が生まれ、そして発達して……を繰り返して。
それでも、いつかは終わりというものがあって。
始まりがあったからこその終わりだとしても、人類はきっと自分たちで滅ぶような気が。
人間同士で仲良く出来ないんですから、当然かもなー……みたいな。
どうして争うのか、どうして嫌うのか、どうして憎むのか、どうして死ぬのか。
色んな「どうして?」を抱いたまま、子供達は死ぬんだろうなと。
だけどそんな問いに答えなんかなくて、ただそうするために続いているだけだと知ったら、それは絶望という言葉が一番似合う状態なのかもなぁと。
そんな気持ちになったので、一気に書き上げてみました。
取り敢えず、少しでも何かを思ったりしてもらえると嬉しいです。
こんなところまで読んで下さり、ありがとうございました。













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