空虚を埋めて
空虚なんですね。私の言葉に、彼はさびしそうな顔をした。
「あぁ、空虚、だな。ここには悲しみも喜びも無い。それをもたらす存在がここには無いからな」
「ずっと一人で?」
「そうだ」
その人の悲しそうな笑みに、少し自分が重なった。
「それにしても呑気だな、お前は私を殺しに来たんじゃないのか?」
そう、彼―――魔王は言う。
その問いには、肩をすくめて返した。
「建前では。私の本当の目的はあなたがどんな人かを見ることですよ」
旅をする際、「魔王を見物しに行きたい」と言う理由では国の援助を受けられなかった。だから建前の理由をつけて支度金で装備を整え、のんびりとここまでやって来た。
「私、あなたとはとても分かり合えそうな気がするんです」
「分かり合う?」
「強くて、強くて、そのせいで孤独。あなたもそうでしょう?」
手を頭のほうにやろうとして、赤く濡れた袖口に気付き手を下ろす。危ない危ない、髪に血がついてしまうところだった。
魔王は玉座の上でゆっくりと首を回した。
あちらこちらに倒れているもの言わぬ死体は、私の造形物だ。人じゃなく、本能のままに動き回る魔物。本能のままに私に襲い掛かってきたので斬った。一瞬で壊れた。
小さい頃は魔力がコントロールできず、多くの人を傷つけた。それに対しては深く反省しているけれど、その後同じだけ傷付けられたため後悔はしてない。
羨まれたり、憎まれたり。肉体的に傷つけられる人間は私の周りにはいなかったけれど、精神的に傷つけられた人間は数知れず。
孤独だった。一人だった。さびしかった。だから強くなろうとした。きっと強くなればそんなもの感じなくなると。
嘘。
「私は強くなりました。どんな人間にも、どんな魔物にも、多分あなた以外、相手になるようなものは存在しないでしょう。そして、あなたを倒せばたぶん私はもっとも強くなれるでしょう。でも、その時私は寂しさを感じない人間になれるでしょうか」
「無理、だろうな。少なくとも私はなれなかった」
「ですよね。ですから」
私は魔王の赤い瞳を静かに見据えた。
「私とお付き合いを前提に結婚してください」
「…………」
「…………」
「…………ちなみに、何がですから、なのか聞いてもいいか?」
私は首をかしげた。
「理解できませんでしたか?」
「いやまったく」
「え、なんででしょうか。ええっと、私はさびしいです。でも私の周りに私と一緒にいられる人がいないんです。すぐ壊れちゃいますから。でも、あなたなら壊れないでしょう?だからお付き合いを前提に結婚してください、です」
「もう一つ、お付き合いを前提に結婚だと?」
「はい。一緒にいることを付き合うと言うのでしょう?ですが、私は魔王城に居場所がありませんから、それなら結婚して奥さんにしていただこう。こういうとき、人間が良く使う常套句なのでしょう?」
「いや違う。いろいろと違うぞ、順番とか、意味とか」
「えっ!?」
私はぱちぱちと瞬きをした。
「そうなのですか?」
魔王は、眉間を押さえて呻いていた。これは困った、まさか彼まで壊れてしまうのだろうか。
「とりあえず、お前がまともな勇者ではないことは分かった」
「私は勇者ではなく、魔王城を目的に旅をしていたしがない旅人ですよ」
「普通のしがない旅人は魔王城を旅の目的にしないぞ」
「どこかにいるかもしれないじゃないですか、私のように」
真剣な顔でそう言った私のどこが面白かったのか、魔王はクツクツと笑った。
「面白いやつだな。……面白くて笑ったのは何年ぶりか」
魔王は初めて玉座から立ち上がると、こっちに近付いて来た。
「お付き合いを前提に結婚、は一旦保留にさせてもらうが、この城への滞在を許す。せいぜい私を楽しませて見せろ」
「あなたも、私をさびしがらせないように壊れずにいてくれますか?」
「私はそう簡単には壊れないさ」
私はここに来て初めて、笑みを浮かべた。
「ありがとうございます」
処女作です。
魔王と勇者って言うキーワードが好き過ぎて短編を書いてみました。本当は長編も書きたいけれど持続力が無いので短編から。
気に入っていただけると幸いです。
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