細い細い秋の雨が、少し冷えた空気を濡らす。色付いたイチョウの下で、通り過ぎる人達を見ていた。
――うつむいて歩いていく小学生、ランドセルに負けそうな背丈は低学年かな?
黄色いカッパが微笑ましい。けれどその手元には、今話題の携帯ゲーム機が。
「生意気!」
ツイっと私は指先の雨水を、その子の頬に向かって飛ばした。
「ヒッ!つめ…」
その子は辺りをグルッと見回してから、ゲーム機をポケットにしまって今度は注意深く歩き出した。
「ふふふ、そんなのしながら歩いていると危ないよ」
その背中に、ちょっと意地悪に私は声を投げ掛けた。
私の待ち人は、もう三日近く遅刻している。
「待つのは嫌いじゃないけど……」
正直退屈だった、それに雨の日は人通りも少ない。
「ん?」
――何だろう?風の中に甘い香りが混じっている。
辺りを見渡すけれど、誰も来そうにない。ちょっとだけ雨の中を歩き出した。香水を付けている人が多いからかな、今日になって香りに気が付いたのは。静かな雨の中、ゆっくりと歩を進める。すると公園に植えられている一本の木に、小さなオレンジの星型の花がたくさん咲いていた。どうやらこの花から、漂ってくるみたい。
「キンモクセイ」
近くの立て札に説明が在った。
「雌雄異株のため開花しても実を付ける事は稀」
――そうだね植物は動けないし、なんか可哀想かも。なーんて言って、今の私も似た様なモノか。
ふらふらしながら、元のイチョウの下まで来ると誰か居るみたい。
真っ黒な傘、趣味が変わっていないね。遠目には何か縁起が悪そうに見えるかな。
「済まん遅れた。ま、春と盆にはちゃんと来たんだ大目に見てくれ」
今日は秋分の日の三日後、相変わらず砕けている様で真面目ぶった愛想の無い口調。
「文句は、俺がそっちに逝った時に聞くよ」
彼は、ふわりと一輪のコスモスを投げてから元来た道を戻って行った。 |