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テスト返却、午後の部~勝者決定~
 国語のテスト返却が終わって、昼休み。

 次朗と幸平を含めた5人の男子グループは、いつものように次朗の席の周りに集まって、トランプに興じていた。テスト期間を境に、流行りのゲームはブラックジャックからポーカーに移っていた。大富豪という提案もなされたが、1ゲームに時間がかかる大富豪は賭けをするのに向かないということになり、ポーカーに落ち着いたのである。

(テストスコアでポーカーもできるな……)
 幸平がカードが配られるのを待ちながら、そんなことを考えていた時、次朗が話しかけてきた。他の3人はまた別の話題で盛り上がっている。
「幸平、今のところどんな感じ?」
「ん、かなりいい感じだよ。予想通り」
「俺も。でも、社会が返ってくるまでは、なんとも言えないよな」
「そうそう。結局、あれで計算が狂ってたら何の意味もない」
 シャッフルしていた友人が、話を続けながら、自分を含めた5人にカードを配り始める。
「由香、結構ねばってたな。国語の時」
 受け取ったカードを1枚1枚見て顔をしかめながら、次朗が言う。
「まぁ、由香の作戦が、なのとか国語英語で点数調整しよう、ってことなんだろ」
「でも、社会でのラグを英語一教科で取り返せるとは思えないんだけど。せいぜい2、3点だろ、調整がきくのは」
「だよな……」
 幸平は、5枚がそろってから全てを同時に見る。
(……わお)
 スペード、ダイヤ、ハートの10でスリーカードがそろっていた。

 ちなみに。
 テストの返却時、84点だった由香の国語の点数は、先生との話を終えた後、91点にまで跳ね上がっている。




       *
 どうも、作者winxです。
 次朗と幸平は一教科での上昇値は2、3点が限度と話していましたが、由香は国語だけで7点、点数を変動させることに成功したようです。ふむ、一体どうやって? というのは、英語の返却時、あるいはその後、由香が見せてくれるんじゃないかと思います。
 それだけの点数変動が可能なら、この勝負、もう由香のものであると、皆さんも予想しているかもしれません。
 自分は作者という立場上、社会の先生が3人した由香の得点、そして英語の結城先生が採点した3人の得点を、昼休みのうちに両先生から教えてもらっているので、もう3人の合計点数、ゲームの勝者も把握しています。
 まぁもちろん、誰が勝ったかは、ここでは言いませんけどね。ネタバレはしません。
 ではまた。 
       *




 社会の返却時、次朗と幸平はハラハラしていた。理由は言うまでもなく、その点数、スコアに、このゲーム勝敗の行方の全てがかかっているからである。配点の書いてあった数学とは違う。何点になっているか分からない、社会。
 
 先生から名前を呼ばれて、幸平は立ち上がった。机の間を歩いて、差しだされた解答用紙に手を伸ばすまでの時間が、いやに長い。この感覚は、テスト返却の時はいつも味わっているものであるが、今回のような場合で、しかも一番の問題となっている社会の点数。いつもよりも余計に、その感覚が濃かったように思う。
 自分の席に戻って、点数を確認する。
(…………あーらら)
 予想よりも2点高い、89点。
 英語では100点を狙っているのだから、幸平はもうこのゲームの勝者に案る確率は低いだろう。もちろん、数学と違って英語には、100点が100点であるという自信を、幸平も持っているわけではないが。1点のラグならばまだしも、2点。特に不安のなさそうだった由香が、2点以上のラグを出すとは思いにくいし、次朗だってそれなりに考えて解答をしているだろう。次朗には確率的に五分で勝つが、それは五分で負けるということだ。
(いや、引き分けの可能性もあるか)
 先生から配られた模範解答を見て、幸平は直しを始める。
 この時点で、幸平はゲームを諦めていた。

 同じく、次朗は。
 予想では41点。それを計算に入れたうえで、数学も解答した。
(…おっしぃー……)
 赤ペンで書かれ下線が引かれた数字は、予想とは一点違い、42点だった。
(まぁ……数学でミスってる可能性もあるからまだ分かんないな。1点くらいのラグなら、運よく調整されて足りするかも)
 次朗は次の数学に望みをつなぐ。
(っつぅか……)
 次朗は改めて、解答用紙を見る。次朗にしても、社会としては悪い方の点数だった。
(テスト直し、めんどくせー)

(お、いい感じじゃない?)
 英語で必要になる点数は、86点。ちょうどそれくらいだと予想していたし、数点のラグなら調整できる。
(これは、もしかしたら勝てるかもねー)
 そう考える由香の点数は、ゲームの勝利に大きく近づく、78点だった。
 

 そして、現実的に勝者の決まる。テスト返却最終教科。英語。
 とはいっても、ゲームの参加者であり提案者、幸平はすでに勝利を諦めているようだけれど。
(順当にいけば由香だけど、次朗もまだ、可能性あるって言ってたしな……)
 休み時間に次朗と話した会話内容を思い出して、右手でペンを回しながら、幸平は考える。
(っていうか、由香だって、そんなにうまく調整ができるとも限らない。社会の結果がどうだったかは知らないけれど、うーん。英語っていう不安定な教科で、果たしてどこまで倍数調整ができるものかな)
「いや……」
 不安定な教科だからこそ、調整がきく、っていうのも事実なんだけれど。
 由香が、国語一教科で7点調整に成功しているということを知らない幸平にしてみれば、次朗と由香の勝敗確率は、6対4、ともすると五分五分かもしれないと、そう思えた。
 果たして。
 返ってきた英語の答案に書かれた点数を幸平は確認した。
(喜ぶべきか悲しむべきか……)
 当初の計画、狙い、予想通りに、100点だった。
(3教科100点、喜ぶべきところだな。確実に)
 ゲームのことを無しに考えて、社会の難しささえなければ、初の、夢の490点台も見えていたであろう、ハイスコアだった。
(でも…)
 幸平は思う。
 果たして、ブラックジャック・ゲームを自分が提案しなかった場合、ここまでの高得点を自分は取れていたのだろうかと。

 由香。
 自分の名前を呼ばれて立ち上がり、答案用紙を取りに行く。
 自分の席に戻って点数を見、驚く。
(んー、あれ)
 高すぎる。
 必要な点数、86点に対して、予想を裏切った由香の英語のスコアは、91点だった。
 現時点で、404点。最も近い21の倍数、399点からは5点のラグがあった。

(おしいなー)
 75点という自分のスコアを確認し、次朗は悔しがる。
 必要であった点数は74点。わずか1点。1点高いラグだった。
 
 教科は国語である。前々からの話があったように、英語国語では1、2点のラグは調整が可能である。だが果たして。
 必要とする自分の点数よりも実際のスコアが高かった場合、そのラグの調整は可能だろうか。
 ☓、あるいは△がつけられた解答については、何かしら自分の考えを述べ、それを先生が認めれば、それが△に、あるいは〇に、点数が上がることはあるであろう。採点基準というものが設けられているとはいえ、抗議の何ものをも受付けないのでは、それはそういう時間がとられている意味がない。
 しかし、点数を下げるとなると話は別である。
 既に〇として採点している解答方法を☓にするとなると、他の同じ解答をした生徒に対しても☓をつけなければならないということになる。他の生徒がその解答をしていない場合、という可能性もなくはないが、そこまで少数派の解答を、採点する側が用意しているとは考えにくいし、逆に採点側が用意しているほどの解答ならば、他にも同じ答え方をした生徒がいるのが普通であろう。
 そもそも。
『今考えたら、この解答は間違ってると思うんですけど……』
 わざわざこんなことを申告する生徒は少ない。
 例えそのような生徒がいたとしても、他に同じ解答をした生徒がいた場合、その申告を受け入れて☓にするわけにはいかないだろう。
 つまり、点数を上げるラグ調整は可能でも、下げるラグ調整は非常に難しいのだ。

 この時点で。
 幸平。485点。ラグは2点。
 由香。404点。ラグは5点。
 次朗。316点。ラグは1点。

 倍数に合わせるというルールの関係上、バースト(トランプで行うブラックジャックでの、21という数字を超えた時点で無条件敗北、というルール)は存在しない。つまり、ラグが最も小さい者が勝者、となる。
 この場合は、もちろん、次朗。
 学力に関わらず、平等に戦えるブラックジャック・ゲーム。
 3人の中でも最も合計スコアの悪い次朗が、奇しくも、このゲームの勝者となる。

 3人のまだ知りあわせない授業時間中に、勝負はこのように決した。
 
……ように見えたのだが。
 
 テスト時間の終了前、もちろん、先生が抗議を受け付けている時間中に。
 由香が教卓まで答案用紙を持っていき、こう申告したのだった。

「私、"understand"のスペル、間違って"understund"にしちゃってて、英作とかで何回も使ってるから、結構点数下がっちゃいそうなんですけど。たぶん、5点くらい……」
 



       *
 どうも、作者winxです。
 勝者はやはりというか、なんというか、由香でした。実は、作者である自分にも予想外です。
 昼休みに、採点者の先生に答案を見せてもらった時点では、勝者は次朗になると思っていましたから。上記のような理由で。まさか、点数を上げるだけでなく、下げるラグ調整をも由香がコントロールするとは思いませんでした。最後の由香の言葉には、自分も絶句です。たぶん由香は、恋愛においては小悪魔キャラでしょう。余談にも程がありますが。
 しかし、昼過ぎの時点で『勝者は次朗』と、ネタバレをしなくて良かった。作者が嘘をつくわけにはいきますまい。
 さて、時間軸は次の土曜日の午前中。3人とも部活が午後からで、ちょうど同じ時間が空いたようですね。3人で、あるデパートのスイーツ店に来ています。エピローグと、銘打ちましょう。
 こんな世間話にお付き合い下って、本当にありがとうございました。
 ではまた、どこかで。
       *




 3人のブラックジャック・ゲームの賭けの賞品は、特別なものではなく、敗者2人が勝者1人に食べ物をおごるという、中学生にありがちなものだった。由香の希望で、おいしいと評判のデパートのスイーツ店に場所が決まり、3人はもうすぐ、絶品であったパフェを食べ終わる頃である。
 結局、由香の申告はストレートに受け入れられ、英語の点数がマイナス5点。需要通りに86点をとり、最終スコアは21の19倍、399点に調整された。これは別に、由香の運が良かったという話ではない。
 4点であれ、3点であれ、由香はそれを上手く調整するだけの仕込みを、解答用紙の端々に準備しておいたらしい。それは、点数を上げるための調整も同様である。国語で7点ものラグ調整が可能だったのは、ラグ調整をすることを前提とした解答用紙を、由香が作っていたからに他ならない。
 しかし、その調整用の仕込みで、点数が激減してはならない。例えば英語でのスペルミスだが、気付かれにくい"u"と"a"をミスする文字に選んだのはそういう理由である。"like"と"rike"といった間違いではあからさま過ぎて、採点の時点で先生に気づかれてしまうだろう。

「種明かしはこれくらいでいいでしょ? 細かい所は自分で想像してくださいませ」
 由香はそういって、水の入ったグラスに手を伸ばした。

 その後3人で話したのは、テストに関する他愛もない話。3人がそれぞれに秘密にしていた、今回のゲームに対する作戦を、由香に続いて幸平と次朗も披露した。他にも社会の難しさを嘆いたこと。幸平が3教科で100という、ばかみたいなスコアをとったこと。様々に、どうでもいい話を、である。
 
 例えば、珍しく、次朗が由香に点数で勝る教科があったこと。数学。
「ま、数学は一番勉強したからなー」
 例えば、ラグ調整をしたりしなければ、由香を含め3人とも、過去最高得点をとれていたこと。
「勝つためとは言っても、自分から英語の点を下げにいくのはちょっと、惜しかったなー」
 例えば、こうやってゲームにしたら結局のところ、3人とも普段以上の努力をしていたこと。
「ほら、おれが提案したゲームに間違いはなかった」

 まぁ、そんな色々、どうでもいい話を。


◎全7部。連載としては、短いにもほどがあるかもしれませんが、しかしまぁ、これくらいで終わるつもりでしたし、続編を考えてもいません。ちょうどいい感じになったんじゃないかな、と。   

◎なんでも楽しめば上手くいく、というメッセージ性を持ってしまっているかもしれませんが、実際にそんなことはないですよね。正確にいえば、楽しめない、っていうことが往々にしてある。だから、次朗達3人のように、テストをゲームにして遊ぶ、っていうことは普通やりにくいんですけれど、いや、やったとしても由香のように、自分の点数を下げてまでゲームを優先するようなことはないでしょう。その辺、彼らには『ゲーム|《楽しむ》』を徹底させましたが、現実にはそうもいきません。それが、楽しめない、でもありますし。その辺の見極めであったり境界線は、人によって違うんでしょうけど。
   
◎さて、初の連載モノをやってみたんですけれども。だめですね。ある程度の長期間で書くものであるから必然、キャラクターの設定、一人称表記、その他もろもろの色々を自然と覚えるわけなんですが。このサイト以外で書いている、率直に言えば、出版社への投稿用に書いている長編の方のキャラ設定がこっちとかぶってしまったり、どちらかを忘れてしまったり。同時進行で二つの長編を書けないというのは、もちろん自分の能力の貧弱さ、努力の微小さに起因するんでしょうけれど、とにかく今のところはできませんです。
しばらく、こっちの方では連載は書けないかな。
書くとしても更新頻度は激遅でしょうね。こっちではとにかく、色んな書き方や表現を遊んでみたいと思っているので、短編で出来るものは短編でやっていった方が良いかなと。連載にして、ツジツマ合わなくなったりと、そういう弊害の可能性を孕むよりは。  
  
◎『色んな書き方や表現』と申しましたが。今回は作中に作者を出す。という遊びをしてみました。あくまで、世界の外の作者ではなく、世界の中にいる作者を目指して。というか、世界の外の作者であれば、あとがきとかで書けばいい話かな、と思い。
読む方々にどんな効果があるかは分かりませんが、書く側としては、節々に作者による、いわば『解説』を入れることで、物語をスムーズに進めることができたように思います。そのスムーズさが、読んでくださる方々の読みやすさに繋がればと、祈るばかりです。    

◎こんな自分の文章を、一文でも読んで下さった、そんなあなたに感謝します。
ありがとうございました。
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