異世界で鑑定スキルを手に入れた僕は
16歳の秋、僕たちは異世界に召喚された。
30人でマラソンをしている最中だった。
グラウンドに奇しい魔法陣のような模様が浮き出たかと思った次の瞬間には、僕らは石畳の部屋にいた。
慌てた僕らの目に映ったのは、多分、本物の剣を持つ20人くらいの騎士達。それに、黒いローブを着た数人と綺麗なお姫様だった。
驚いている僕らにお姫様は、ここが異世界で僕らを召喚したこと、出来れば勇者になって欲しいことを説明してきた。でも、もし無理ならばすぐに帰してくれるって。
帰るのは二十四時間以内じゃないと元の世界には帰れないこと。ただ、もし帰ることを選択しても、帰る前に僕らの能力だけは鑑定の水晶で見せて欲しいって言った。
僕は、みんなを見回した。
隣にはいつの間にかタイチがいた。
タイチはいつもできるだけ僕の側を離れない。
いつも周りにビクビクと怯えている。
「大丈夫だよ、僕らは帰ろう」
そっとタイチに伝えた。
タイチは目だけで、「いいの?」と僕に聞いてきた。
「うん、僕らは帰った方がいい」
案の定、僕らのステータスは低かった。
他の人たちには、凄そうな魔法や剣術なんかのスキルまであったけど、僕のステータスは平均よりもずっと低い。持っているスキルも鑑定だけ。
鑑定は、人やモンスターのステータスがわかるスキル。レベルがあって、最高だと全部のステータスがわかる。
だけど僕の鑑定のレベルは最低だった。ステータスがわかってもせいぜい一種類だけ。
タイチも僕と似たようなステータスで、持っているスキルも隠蔽だけだった。
隠蔽は、存在感が薄くなるスキル。最高になると暗殺者になれるみたい。
けどやっぱりタイチのスキルはレベルが低くて、存在が気にならなくなるくらい。
「お前らやっぱ弱っちーのな」
みんなにそう言われた。
僕は、お姫様にお願いした。
「僕たち二人は、とても戦えません。できればすぐに元の世界に帰してください。お願いします」
僕たち以外に、元の世界に帰りたいっていう人はいなかった。
みんな、異世界にワクワクしてるみたいだった。
お姫様もローブの人たちも、僕ら二人があんまり役に立たなさそうだってことぐらいすぐにわかったんだと思う。
僕とタイチは、すぐに元の世界に送還された。
警察が捜査しているまっ最中のグラウンドに、いきなり僕とタイチが現れたからすごく驚かれた。
すぐに呼ばれた医者に問診されて、健康だってことがわかると取調べを受けた。
もちろん最初は信じてもらえなかった。
だけど、僕が鑑定を使うと警察も信じてくれた。
異世界から帰ってもスキルが使えることがわかった僕とタイチは、国家に保護されることになった。
僕もタイチも、いわゆる望まれない子供だった。ただの望まれない子供ならば、まだましだったかもしれない。僕らは権力者の、表社会には出せない望まれない子供だったから、山奥の全寮制の学校に放り込まれた。
ここはお金持ちの望まれない子共の廃棄場だった。
暴力、犯罪、麻薬。
そういったものに取り憑かれた子供達がここにはたくさんいた。
そんな中で僕とタイチは弱者だった。
僕は、いつも周囲の人がどんなことをする人か予測して逃げていた。
だから鑑定の能力がついたんだと思う。
ただ、僕が鑑定できるのはその人の犯罪歴だけだけど。
タイチはいつも隠れようとしてたから隠蔽がついたんだと思う。
本当はあの召喚された場で、僕はすぐに鑑定が使えたんだ。
見知らぬ人達が、何をしてくるのかって思ったらその人の頭上に幾つも文字が浮かび上がった。
それを見て、僕はすぐに帰ろうと思った。
騎士達の殆どが、殺人、殺人未遂、銃刀法違反、傷害、強盗、恐喝がついていた。
あ、銃刀法は帯剣してたから当然か。
でもまだ騎士達はましだった。
ローブの人たちには、たくさんの殺人と死体損壊がついていた。
そして、お姫様には殺人教唆がずらーっと並んでいた。
僕らのクラスメートにも、幾つか犯罪歴はあったけど、あそこまでではなかった。
僕らをひどく虐めたクラスメートだったけど、彼らに比べたらずっと可愛いものだった。
例え日本に帰っても、親からいらないと全寮制の学校に閉じ込められていたクラスメート達だから、異世界なら好き放題できると思っていたんだと思う。
できるかどうかは知らないけど。
僕は、多分もう大丈夫。
警察で働くことになると思う。
タイチも潜入捜査に適任らしい。
大人になるまでも、実家からも守ってもらえる。
僕らは、異世界に行ってよかった。