3.自殺か家出か、とばっちりを受けたのは友人
深桜が目覚めると部屋は暗かった。時計の針は三時十五分を示していた。
どうにもスッキリしない。
『お義父さんと関係を持った事がある』
その世胡の言葉が頭の中で渦巻いていた。
それはあまりに衝撃的で、最悪極まりないものだった。そんな事実は誰であってもヘコんでしまう。下手したらヘコむどころか死ぬか生きるかの問題になりかねない。
実際、深桜の視線は机の上のカッターと窓をさまよっていた。
自殺、か……。
そして、深桜が出した答えは――
まだ薄暗い神社は静かだった。不気味にすら感じられるが今の深桜に取ってこの静けさは心地良かった。
やはり自殺なんて馬鹿馬鹿しい。でもあの家には居たくない。
結局身支度をして深桜はいつも来ている神社へとやって来たのだった。
ここ、晴憐神社は旦御町でも一番高い所にありそこから町を一望でき、何かある度に深桜はここに来ていた。
深桜は何をするわけでもなく、神社にある大きめの岩に腰掛けてただただボーッとしていた。
どれくらいそうしていたのか、気が付くとすっかり太陽が登っていた。
携帯電話で時間を確認。時刻は八時。
「……四時間もボーッとしてたのか」
溜め息を吐くと聞き慣れた声が深桜を呼んだ。
「あれ、お前こんなところで何してんだ?」
「ほんとだ。深桜くん、おはよ」
そこにいたのは中学からの親友の圭次と同じく中学からの友人でこの神社の娘でなぜか巫女服姿の季明だった。
カップルを見て余計鬱な気分になって来た深桜は投げやりに質問した。
「お前らこそ何してんだよ……」
その問いに季明は首を傾げ、圭次が深桜に近付き耳打ちした。
「いやな、ちょっとそこでコスプレ野外プレイをしようと思ってな。そういう訳だから帰ってくれると助かるよ」
そのどうしようも無い内容に無意識の内に現実から逃避していた深桜の思考が一気に引き戻された。
それは『恋するあの子が兄と結婚する上に自分の父親と関係を持っていた』という悲惨極まりない現実。その哀しさと切なさは他の追随を許さずに、深桜の心を席巻し、深桜に多大なる悪影響――世胡と璃桜と桜弥が繰り広げる自主規制な妄想――を与えた。
「…………」
「……深桜?」
「深桜くんどうしたの?」
様子がおかしくなった深桜に二人は首を傾げる。その間も深桜の妄想は進み、妄想の中の三人が《自主規制》になだれ込んだところで何かの糸がプッツリと深桜の中で切れた。
「……ひっく、ぁぅ、えっぐ……」
「「え"?」」
ブワッと涙が零れだし、とうとう深桜は泣き出した。
「ぅえぇぇえぇぇえぇえぇぇえぇぇんっ!」
「ちょっ、深桜っ、え、えぇっ!?」
困惑する圭次に季明は眉を吊り上げて問い詰める。
「ちょっと圭次っ! 深桜くんに何言ったのよっ!」
突然の事に混乱をしていた圭次は思わず口を滑らせた。
「べ、別に何もしてねぇってっ! ただ季明と今からここ辺りでヤルから帰って……くれって……」
言ってる内に大変な事に気付き圭次は顔を青ざめる。そんな圭次に修羅のごとき威圧感を纏った季明が立ち塞がった。圭次の脳裏に今までの思い出が走馬灯の様に浮かんでは消えていく。
あ、これは死んだな。
「このっ、ド変態っ!!」
深桜の男子高校生とは思えない泣き声と何かを殴打する鈍く重い音が、いつまでも、いつまでも、晴憐神社に響いていた。
「うわぁぁぁあぁんっ」
ここは神社の裏手にある季明の家のリビング。顔を腫らした圭次とどこかスッキリとしている季明は泣き続ける深桜の向かいに座り、尋ねる。
「なぁ、深桜どうしたんだよ」
「えぐ、ひっく、ぁぅ、ひっく……ぅえぇぇえぇぇえぇえぇぇえぇぇんっ!」
深桜は涙が止まらず、どうしても答える事が出来ない。その様子に圭次と季明は顔を見合わせて溜め息を吐いた。
「こりゃ、ダメだ」
「どうしよっか?」
「分からん。取りあえず泣きやむまで待つか」
「それもそ――」
そこまで言いかけてリビングのドアが開き、そこから大きめのワイシャツ一枚だけというなまめかしい姿の女性が入って来た。
「あ、」
「さ、咲さん……」
季明の姉である咲は目を擦りながらリビングを見渡し、驚きに目を見開いた。
「深桜くんっ!」
咲は心配そうな顔で泣きじゃくる深桜の肩を掴んだ。
「ど、どうしたの? 誰にやられたのっ?」
「ひっ、えっく、けい、えっく、けいじ、が、ぼ、ぼぐに……」
先ほどよりは落ち着いたらしく、なんとかそこまで言うと咲が顔色を変えて圭次の方を振り向き、
「天誅っ!」
「咲さぶっ!」
「あっ」
咲の振り向きざまのハイキックが圭次の首を刈り取った。
それから一時間、咲と季明が着替え、圭次が意識を取り戻し、それからようやく深桜は泣きやんだ。
「はい、水」
「ぐす、ありがと」
深桜は季明から水を受け取り一気にあおると、圭次が尋ねようとしたのだが、
「なぁ、深
「ねぇ、深桜くんはどうして泣いてたのかな? もし良かったらお姉さんに教えて欲しいな」…………」
あえなく咲に取られてしまった。
朝からツイてないと嘆き、季明にドンマイと慰められる圭次を尻目に『あのね、』ととても男子高校生とは思えない口調でポツリポツリと語り始めた。
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