第六十六話〜意外な再会に驚きました〜
ミスクロニア王国に帰るというイヴァンから王都や主要な都市の位置を大まかに聞き、積荷で引き取れそうなものを引き取ってから別れることにした。積荷は魔導具と塩がメインで、ミスクロニア王国各地の地酒なども少々といったところだ。魔導具の内訳としてはコンロや着火具、照明など生活の便利家電みたいなものだった。
無断外泊すると怒られそうなのでできれば夜には帰りたい。いざとなればソーン辺りに伝言を押し付けて外泊してもいいけどね。
そんなわけでイヴァンから聞いた方向に向かって超音速で飛ぶ。目的地はゲッペルス王国の首都、ピドナだ。海に面した巨大都市で、人口は三十万を超えるらしい。カレンディル王国の首都であるアルフェンの人口が約十万人らしいから、単純にその三倍だ。
ゲッペルス王国には平地が多く、原因は不明だが魔物も強力なものは少なく、また数も少ないため食糧生産量はかなり多いらしい。ただ、国民数も多いのでそれほど食糧に余裕があるわけでもないとか。毎年それなりの量の食糧をカレンディル王国やミスクロニア王国から輸入しているそうだ。
「こりゃでけぇなぁ」
上空からピドナを見下ろし、思わず呟く。とはいえ前の世界で見慣れた摩天楼の並び立つ大都市に比べればなんてことはないのだが、面積がかなり広い。これ、ちゃんと隅々まで戸籍の管理とか徴税とかできてるんだろうか? できてなさそうだなぁ。
「さーて、どうすっかなぁ」
ピドナの上空でふわふわと浮いたまま眼下の町並みに目をやる。
まずは最終着地点を決めなければならないだろう。ベストなのは無駄な人死にを出さずに円満にゲッペルス王国に矛を収めてもらうことだ。そのためにはゲッペルス王国で俺の首を取ろうと画策している人物、或いは勢力をどうにかしなければならない。
え? 第一王子というか王太子じゃないのかって? いや、どうなんだろうなぁ。イヴァンの話を聞く限り、王太子のやり口から考えるとあんな正面切って俺の首を寄越せとか言ってくるか疑問なんだよな。
鮮やかな手並みで自分の敵対勢力を爆破し、その上で敵対貴族を根こそぎ処断する王太子とあんな手紙を送ってくる王太子の人物像がどうにも一致しない。
次点としてはゲッペルス王国軍をフルボッコにして二度と手を出せないようにさせるというところか。これで事前に情報収集を十分に行なって不意打ちだけは受けないようにしておけばいいだろう。
凄まじい大虐殺になるだろうが、まぁなんとかなる。俺だってぼけっとしていたわけではない。それなりに自重していない兵器も作ったからな。武器ではなく、兵器だ。それも大量破壊兵器とか言われる類のものだ。使わなくて済めばいいけどな。
俺の領地の全戦力を頼って泥沼の戦争という展開にはしたくないものだ。
さぁ、とりあえず第一着地点を目指して行動開始だが、残念ながら俺にはフォースの加護は無いし、行き先を教えてくれる妖精さんもいないし、微妙にムカつくキャラクターがマスコットの腕に装着するウェアラブルコンピュータも無い。ヒントをくれるゲームマスターもいな――
『呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん』
呼んでません。
邪神は帰って、どうぞ。
『とりあえずあの王城っぽい所を跡形もなく瓦礫の山にしたらどうかな?』
KA! E! RE! ゴーバックホーム、オーケー?
『だが断る。久々の出番を満喫するのだ』
なんだこいつうぜぇ……しかも頭の中で一方的に喋るから逃げることもできねぇ。まぁいいや、放っておこう。
最終的には王太子なり王様なりに接触しなきゃならん。いかにして王族に近づくかだが、多分楽なのは商業ギルド経由で金貨パゥワーを使う方法だろうな。王太子の隠し玉の情報を探るのにも良いだろう。
『無難やね。じゃあまずは商業ギルドかにゃあ?』
何がにゃあだよきめぇ。邪神は邪神らしくテケリリ言ってろ。
『それ邪神じゃなくて奉仕種族ですしおすし』
知ってる。奉仕しろよオラッ!
『しょうがないにゃあ……じゃあゲッペルス王国で新たなる嫁と出会えるフラグを立てて進ぜよう』
すいません勘弁してください。もう限界です。死んでしまいます。腎虚で。
というか話進まないからマジでやめてくれない? 俺忙しいからさ。夜までに帰らなきゃならないし。
『急に素に戻られた。死にたい……それにしても、もう少し私に構いたまえよ君。言うなれば私は君をこの世界に招いた恩人じゃあないか。わざわざメニューに神コールまで用意してるのに殆ど利用してくれていないだろう』
呼ばなくてもこうやってコンタクト取りに来るんだから呼ぶ必要無いだろ。
割と本気で感謝の念は抱いているけどな。こっちにきてから退屈することが無い日々だし、綺麗で可愛い嫁も沢山できたし。
『下半身直結厨乙』
出歯亀ストーカー乙。
もう構っていられないので俺は目的地に向けて降下を始めた。降下目標は王都のど真ん中、王城である。隠行を発動しながらなので俺に気づく奴はいないだろう。
『あれれー? なんか降下地点がマズいところになってない?』
ちまちまと下調べとか面倒臭いし時間の無駄だ。まずは第一王子、いや王太子を叩く――じゃなくて話し合う。それで決着がつけばそれで終わりじゃないか。流石俺、天才的。
『そう上手く行くかな? ここにはアレもいることだし楽しみに見させてもらおう』
ん? おい今なんつった。なんかヤバげなサムシングがいるみたいなニュアンスじゃなかったか。おいこら、吐けや!
あかん、黙りやがった。黙れと言っても黙らないのに喋れっつったら話さなくなるとかマジで鬱陶しい。まぁいい、極力目立たないように、しかしバレたら大胆に行こう。
☆★☆
「こちらタイシ、潜入に成功した」
特に誰かに聞かせるわけではないが、そう呟く。お約束だからな。
あの駄神が応答しやしないかと少しだけ期待したのだが、どうやら静観することを決め込んだらしい。こうなると神コールしようが何をしようが応答しそうにないので、こちらも無視を決め込むとしよう。
俺が降り立ったのは王城の奥まった場所にある庭のような場所だ。落ち着いた雰囲気の庭で、しっかりと手が入れられており、色とりどりの花が目を楽しませる。小さいながら噴水もあるようだ。庭に面した廊下は開放的な造りとなっており、幾つかの大きな石柱や手すりがあるばかりで、壁はない。扉も幾つか見て取れる。
気配察知を使ってみる限りでは周辺の人の気配はまばらだ。手をかけた庭園が存在し、それなりに奥まった場所にあり、昼間は人がまばら……客室か、王族に近しい身分の者、あるいは妾の寝室とかだろうか。まずは目標がどこにいるかを知らなきゃならないんだが、闇雲に探すのもな……どこかその辺で情報を持ってて、尚且つ簡単に折れそうな人員を捕まえたい所だ。
兵士はダメだな、こんな場所の警備を任されてるなら忠誠心も高いだろうしそう簡単に情報を吐いてくれるとは思えない。心は痛むが、狙い目は侍女か……うーん、気が進まないなぁ。こう、甚振るのに心が痛まなくて且つ都合の良い情報を持っていそうな奴はいないものか。
庭園に身を隠しながらそんなことを考えていると、こちらに近づいてくる気配を察知した。数は二人、気配の感じからすると二人とも若い女だ。二人か。殺すなら簡単だけど、尋問するとなると無理だな。やり過ごそう。
「父様は私達を見捨てたのでしょうか……」
「ネーラ様……そんなことはございません。きっと国王陛下には何かお考えがあるはずです」
ん……? どこかで聞いた声のような。
「お姉様はともかく、私は出来損ないの役立たずですものね。はぁ……」
「そんな事はございません。ネーラ様はお美しく、聡明です」
「いいのよ、ステラ。貴女まで巻き込んでしまってごめんなさいね。私はともかく、貴女は人質としての価値は薄いわ。王太子殿下に貴女だけでも国に返してもらえるよう直談判するから、もう少し辛抱していてね」
「私はネーラ様の側におります。ネーラ様を独りにはいたしません」
うむ、お涙頂戴。覚えのある声だと思ったら、カレンディル王国のカリュネーラ王女とその侍女じゃないか。
甚振らずに情報をゲットできそうな人達を見つけたが、相手が相手だけに顔を合わせるのが気まずいなぁ……なんでこんな所にいるのかは知らないが、娘をゲッペルス王国に置いたまま要求を突っ撥ねるとは恐れ入る。カレンディル王国の王様も侮れないな。
いや、そう簡単に王女に手は出せないだろうと見越しての事か? あの王様はある程度非情な決断もできるタイプの王様みたいだから、なんとも言えんけども。
とりあえず後を追うとしよう。声をかけるにもあまり目立たない所でするべきだし。
彼女らにも城の住人にも見つからないように後を尾ける。彼女達はすぐ近くの部屋に入ったようだ。やはりこの辺りは賓客用の部屋なのかもしれないな。
鍵をかける音は聞こえなかったので、不躾だとは思いつつも無言で入室する。いくら人がまばらとは言っても扉の前で問答なんてしていたら見つかりかねないからな。
「なっ、何者!? 無礼ですよ!」
「いや、申し訳ない。見つかるわけにはいかなくてね」
扉を閉めて二人へと振り返り、口元に指を一本立ててみせる。
ざっと見てみると、室内には高級そうなソファとテーブルのセットをはじめとした調度品が多数、他の部屋へと続く扉が二つ。
そしてソファから立ち上がったカリュネーラ王女と、その前に彼女を守るように両腕を広げて立ちはだかる侍女が一人。ははは、俺の顔を見て鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔してるぞ。
「あ、あなっ、あなたっ!? なんでこんなところにいるんですの!?」
「シッ、見つかったら不味いんだから落ち着いてくれ。ちょっとここの王太子にOHANASHIをしようと思って忍び込んだらあんたらを見つけたから声をかけようと思ってな」
「……そう、そうですわよね」
俺の返事を聞いたカリュネーラ王女は急に意気消沈してソファに倒れこむようにして座ってしまった。おい、だらしないぞ王女。
いや、俺もニブチンじゃないから意気消沈した理由はなんとなく察しはつくけどな。残念ながらカレンディル王国の王様に言われて救出しに来たわけでも、個人的にカリュネーラ王女を心配して訪ねて来たわけでもない。
「悪いな、希望してたような答えじゃなくて」
「察しがつくなら気を利かせてもバチはあたりませんわよ。もう少し乙女心に気を遣ってくれても良いのではなくて?」
「嘘で築いたハリボテの好意や信頼なんてバレれば脆く崩れ去るだろ」
「はぁ……不器用ですのね。ステラ、お茶を用意して」
カリュネーラ王女は俺を見て溜息を吐き、しっかりと姿勢を正した。今更取り繕ってもなぁ、と思うんだが。
カリュネーラ王女が視線で着席を促してきたので、それに甘えてソファに腰掛ける事にする。おお、なかなか良いソファだ。柔らかさと座り心地が絶妙にマッチしている。沈み込むような柔らかすぎるソファはあんまり好きじゃないんだよね。
「あまりゆっくりしている時間はないんだけどな」
「王太子とお話をしたいのでしょう? なら、あと半刻ほどは待ったほうが良いですわよ。昼食の後、約一刻ほどの間は後宮に篭って『食後の運動』の時間らしいですから」
「昼間からお盛んだねぇ……」
「貴方も他人の事が言えまして? 十人以上も娶っているのでしょう?」
「誤解だ。娶ってるのは九人だし、その中で手を出してるのはまだ六人だけだ」
「貴方、五十歩百歩という言葉をご存知かしら?」
カリュネーラ王女がジト目で睨んでくる。美少女にジト目で見られるとかご褒美ですね、わかります。
しかし、こうして見るとカリュネーラ王女も凄い美女というか美少女だよな。輝くような長い金髪は綺麗の一言だし、顔のパーツも全体的に整ってる。何より空のように澄んだ青い瞳が綺麗だ。表情も豊かで可愛らしいし、出るとこ出ていて引っ込むべきところは引っ込んでる。
「な、なんですの? 急にジッと見つめたりして」
「いや、改めて美人だなと」
「あら、ありがとう。でもそんな賛辞は聞き飽きていますわ。これでもカレンディル王国の宝石と呼ばれるほどなのですから」
「うーん、まぁ確かに黙っていればカレンディル王国の宝石というのも頷ける」
「黙っていれば、は余計ですわ!」
ムキーとか言って地団駄踏みながら怒っても可愛いんだから美人ってのは得だよな。侍女が淹れてくれたお茶を飲みながら何かキャンキャンと騒ぐ王女を眺める。こうやって余裕を持てるのも嫁が居るからだろうなぁ。
やがて落ち着いたのか、それとも単に疲れたのか彼女は脱力してソファに腰掛けた。
「はぁ……もう、貴方と関わってからロクなことがありませんわ。貴方、自分がカレンディル王国の貴族の間でどんな噂を立てられているかちゃんと知っていて?」
「いや、知らんね。興味もないし」
「だと思いましたわ。貴方、マーリエル王女やティナーヴァ王女だけでなく亜人や人型の魔物まで閨に招いているのでしょう? 女と見ればなんでも食べる悪食の好色勇者って噂されているんですのよ。他にも何処かの防具屋の人妻を寝取って自分の領地に連れ去ったとか、自分の屋敷の幼げなメイドを調教しているとかも聞きましたわね」
「あ、悪食……流石にその評価には遺憾の意を表明する。防具屋の夫妻を領地に迎え入れたのは事実だが、寝取ったとかいうのは事実無根だ。メイドの件もな」
ペロンさんは俺が寝とったんじゃなく神銀に魅入られたんだ。俺は悪くねぇ!
メイベルに関してはあれだ、踏まれて気持ち良いなんて悔しいっ、でもビクンビクンとかやってるけど、あれマッサージですから。誰がなんと言おうとマッサージですから。ちょっと悪ノリしてるだけですから。というか調教されてるのはむしろ俺じゃないかな?
「そうなのですね。貴方との諍いの件もあって、私は悪食の好色勇者ですら食わない毒物扱いですから。その弁明を私がカレンディル王国の貴族に伝える術はありませんけれど」
「おめでとう! わがままひめは どくぶつひめに しんかした!」
「おめでたくありませんわよ!」
「ネ、ネーラ様、余り興奮されませんように」
「そうだそうだ、お肌に悪いぞ」
「ゆ、勇者様も煽らないでくださいぃッ!」
流石に見かねたのか侍女が涙目で王女と俺を窘めてくる。そういえばこの侍女は髪の毛の色といい顔立ちといいカリュネーラ王女にどこか雰囲気が似てるんだよな。親戚か何かなんだろうか。
しかしあれだな、カリュネーラ王女とこうして面と向かってじっくりと話し合うのは初めてだが、なかなかどうして楽しいお嬢さんだ。しかしちょっとからかいすぎたかな。
「申し訳ない、少し調子に乗りすぎた。話しているとどうにも楽しくてね、ついつい羽目を外してしまった。そろそろ真面目に情報交換しようか」
「いきなり真面目になって気持ち悪いですわね……情報交換といっても、私自身よく状況がわかっていないのですわ。三日前に私が滞在していたお姉さまの嫁ぎ先に急に王城からの使いと兵士達ががやってきて、半ば強制的に城に召し上げられてきたのですもの」
「なるほど……というか、なんでゲッペルス王国に? ケンタウロスと内戦しているとか、大氾濫の魔物とまだ戦っているとか危険な情報だらけだった筈だろ」
「その情報は古いですわね。二週間ほど前にゲッペルス王国でも大氾濫の終息宣言が出されていますわ。私はその報を聞いてすぐにお姉さまの元を訪れましたのよ」
「なんだって? 二週間前?」
二週間前に大氾濫の終息宣言が出されていたなら、俺はともかくイルさんがそれを知らないのは不自然じゃないか? やはりミスクロニア王国の諜報網が乗っ取られているのか、それとも……?
「何か気になることでもありましたの?」
「少しだけな。それは判ったが、そもそもなんでゲッペルス王国に君らがいるんだ? 修道院かどこかに入れられて半ば軟禁状態だって聞いていた気がするんだが」
「一ヶ月くらい前に急に還俗させられたのです。やっと日々のお務めやお祈りも板についてきた頃だったのに……還俗したら還俗したであちこちで陰口を叩かれるし、それが鬱陶しくてお姉さまの所に遊びに来たら人質になるし、最悪ですわ。いっそあのまま静かにシスターとして暮らしていた方が幸せだったのかもしれません」
ソファに深く身を沈めて溜息を吐く様からはとてもじゃないが敬虔なシスター姿を想像できない。まぁどうだろな、こんな子がシスター服で物静かに祈っているとことか目撃したら一目で恋に落ちてしまう男は多いんじゃないだろうか?
ぐでーっとした今の姿を見たら千年の恋も冷めるだろうけど。
「急に還俗って何があったんだ? 俺との経緯を考えると、余程のことだよな」
「私もよくは知りませんけれど、婚姻が決まったとか。顔を見たこともないどころか名前も知らない相手ですけれど。この旅行から帰ったら程なくして式を挙げる事になっていたのですが……」
この状況ではそれも流れてしまうかもしれませんわね、と言ってカリュネーラ王女は皮肉げに笑みを浮かべた。
うん? そのタイミングの結婚相手って、まさかね? 夫の俺はそんな事聞いてないし、あり得んよね? まさかのサプライズ? いやいやいや、そんなサプライズは流石に無いだろう。無いよな? 無いと信じたいなぁ……娶っても他の嫁と同等に扱う自信が無いぞ、俺。
「どうしたんですの? なんだか愉快なお顔になっていますわよ?」
「……なんでもありませんのことよ? とりあえず、事情はそれなりにわかった。ありがとう。その上で聞きたいんだが、ここから連れ出して欲しいか? 俺なら今すぐにでもあんた達二人を外に連れ出すことができるぞ」
「それは願ってもない事ですけれど、一つ聞いても良いかしら? 何故貴方は私達のことを気にかけるのです? 貴方にとって私は、私達は顔も合わせたくない存在なのでは?」
「質問を質問で返すなよ……顔を見知った相手が困っていて、自分にとってそんなに負担でもないことなら助けるのは当たり前じゃないか? 少なくとも俺はそうだ。あんまり面倒くさかったら知り合い程度なら放置だけど」
俺は聖人君子でも正義の味方でもないので。
ちょっとの親切で誰かのためになるなら特にしない理由はないよな。例えそれが自己満足だとしてもだ。俺スーパーで会計終わって帰る時に放置されてる買い物カートとか見ると、ついでに自分の分と合わせてカート置き場に戻したりするタイプなんだよね。
流石に三台も四台もあったら全部はやらないけどさ。
今の俺にとってカリュネーラ王女とその侍女をこの城から連れ出すというーのはそれくらいの感覚できることだ。朝飯前ってことだな。
「貴方に睡眠薬とその……お、オークのアレを盛った事には怒っていませんの?」
「あー……まぁ今更って感じかな。アレの件で何ヶ月も謹慎させられたって話だし、もう怒ってはいないな。あの時は色々な要因が重なって激昂したけど」
あの頃は暗殺者につけ狙われてたりでピリピリしてたし、よりによって王族に嵌められかけたわけだからな。安全宣言出された後に。
「むぅ……じゃあ許してくれますの?」
「今しがた俺もあんたをおちょくったし、水に流すって事にしてくれ」
ちょっと俯いて上目遣い気味に見てくるとか流石カレンディル王国の宝石あざとい。マール達で美少女耐性ができてなかったら落とされてるところだったね。間違いない。
「それじゃあ今後のお話をしましょう」
「おう」
「子供は何人にしましょうか?」
「はい?」
「私は男の子二人に女の子一人が良いですわ」
「お前は一体何を言っているんだ」
いやいや、なんでお前こそ何言ってるんだみたいな顔でこっち見てるんですか。小首を傾げてもダメです。あざと可愛いですけど先生はそんなので騙されませんよ。
「囚われた姫が勇者に救出されて結婚するのは物語のお約束ですわ。この世界には勇者はお姫様を救ったら結婚しなければならないという仕来りがあるんですのよ?」
「またまた、ご冗談を」
「本当ですわ」
「本当ですよ?」
「マジでッ!?」
残念王女だけでなくメイドまで本当とか言い始めたので流石に仰天である。そんな理不尽な仕来りが実在するというのか? いやいや、あり得ないだろう。いや、しかしここは異世界。元の世界の常識に縛られてはいけないのかもしれない。郷に入っては郷に従うという言葉もある。
考えろ、考えるんだ。たった一つのクールな答えがあるはずだ。考えるんだタイシ……ッ!
「よし、お前らを見なかった事にして帰ろう」
「ちょっ、それは流石に勇者としてというより人としてどうかと思いますわっ!」
「勇者様に見捨てられたらネーラ様も私もあの冷血王子の慰み者にされてしまいます」
「……くっ」
この残念王女を助けて理不尽にも嫁に取らなければならないのと、見捨てた結果まだ見ぬ王太子の手に落ちるのを天秤にかけると、流石に助ける方に天秤が傾く。カリュネーラ王女を嫁にするとかそういう話とは別に、鬼畜イケメンとして有名な王太子にわざわざ餌を与えるのは些か面白くない。ストライクゾーンの広いタイシさんにも流石にNTR属性は無いんだよ。
NTRとかよく考えれば俺自身が盛大にやらかしている気がするけど自分のことは棚にあげよう。自覚してやったわけじゃ無いからきっと許される。いや、かえってもっと酷いか?
過ぎた事は気にしてはいけない。今更譲る気は毛頭無いし。
「とりあえずその件はマールに話を通してからな。うん、そうしよう」
「先送りにしましたわね」
「往生際が悪いですね」
「ええい、うるさいわ。とにかくそうと決まったらとっとと行動だ!」
今回の更新は3回だと言ったな……? あれは嘘だ_(:3」∠)_(もう一話あるんじゃよ