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第六十一話~再び鬼人族の里を訪れました~

ゲロ忙しいよぉ……書溜め分放出でござる(´・ω・` )

「さて、これから鬼人族の里に向かうわけだが……」


 そう言ってから集まった面子を見渡す。


「お姉様はクスハ様にお説教されているので」


 同行者の一人目はすました顔で俺の隣に立つティナだ。普段は室内での執務が多いためにいかにもお姫様といった感じのドレス姿でいることの多いティナだが、今日は鬼人の里との交渉に同行するということで、実用性もあるドラゴンレザー製のドレスアーマーである。見た目はドレス風なのだがドラゴンの皮革を用い、更に俺が攻撃を感知して自動的に防御障壁を展開するように魔法を付与しているためそこらの全身鎧よりもよほど強固な防御性能を有している。額を飾るティアラにも同様の処理を施しているので、戦闘能力のないティナでも安全に鬼人族の里に行けるというわけだ。


「別に戦いに行くわけでもないだろうに、ちょっと過保護すぎやしない?」


 デボラが苦笑いしてそう言うが、俺はそうは思わない。初見でいきなり右肩に重症を負わされたからな、用心しすぎて悪いことはないだろう。いや、あまり剣呑な印象を持たせるのはよくないんだろうけど。


「本当はお前にもその過保護な装備を着けてもらいたいだけどな」

「遠慮しておくよ。そういうドレスとか着ても似合わないし、何より落ち着かないからね」


 そう言って肩を竦めて見せるデボラだが、俺は知っているぞ。実はこっそりマールに体毛を薄くする薬とかもっと人間っぽい見た目になれる薬とかを作れないか相談しているのを。俺としてはデボラの見た目は個性だと思うから今のままでも良いと思うけどな。最初はちゃんと致せるか不安だったが、慣れると全然いけたし。我ながら自分の守備範囲の広さが怖い。


「俺までこんな立派な鎧をもらっちまって良いんですかい?」


 そう言いながらケイジェイが無表情で鎧の各部を調整している。ケイジェイに装備させたのはヒドラレザー製のソフトレザーアーマーにドラゴンの鱗を貼り付けたドラゴンスケイルメイルだ。作りは非常に簡素で、頭から被って脇のベルトと金具で留めるだけである。覆うのも上半身の胴体だけで、肩や腕は剥き出しだ。もっとも、腕や足に関しては同じく簡素な作りの籠手や脛当てを装備するわけだが。

 最も致命的な部分だけを防御する機動性重視の防具と言えるだろう。


「使い心地を報告してくれ。最近呼んできたドワーフの鎧職人はわかるな?」

「ええ、わかります」


 頷くケイジェイに俺も頷き返す。そう、実はもうリッツ氏とペロンさん夫妻をこの領都クローバーで暮らしている。オリハルコン-ミスリル合金である神銀の精製方法と引き換えに夫妻を招聘したのだ。リッツ氏は若干渋っていたが、奥さんであるペロンさんの強い希望に押し通された形だ。

 ペロンさん本人は俺の支援の下で神銀の精錬を好きなだけできるということで大層乗り気だったからな。大樹海で得られる未知の魔物素材にも惹かれたらしい。今は獣人やアルケニアの職人達の親方みたいな存在として働いてもらっている。

 彼女の専門は鎧や盾などの防具類だが、武器の製作や服飾もできるようだ。まぁドレスアーマーとか仕立てられるみたいだから、服飾はあんまり違和感無いな。


「軽くて良いですね、これは。動きにも違和感がない」


 手足だけでなく尻尾も使って飛んだり跳ねたりしながらケイジェイが感心したような声を上げる。ケイジェイの得物は魔物素材を流用した爪と投擲武器だ。

 戦闘スタイルが俺と被るところがあるから一度訓練がてら組手をしたことがあるのだが、素早さと力強さを両立したなかなかの手練だった。回し蹴りをやり過ごしたと思ったら尻尾で薙ぎ払ってきたり、尻尾で地面を蹴って跳んだり、空中でも尻尾を使ってトリッキーな姿勢制御をしたりとなかなか面白い戦い方だった。何発か避けきれずにガードさせられたくらいだ。

 流石に能力差がありすぎて俺が攻めに回ったらすぐに勝負が着いてしまったけどな。


「あなた、今回の訪問は私達四人で行くのですか?」

「ああ、そうなる。マールはクスハに説教されてるし、フラムはカレンディル王国に出張中、カレン達は危ないかもしれないから連れて行けないし、メルキナは所構わず俺に構ってくるから却下。となると、交渉をそつなくこなせるティナと常識人枠かつ獣人代表のデボラ、そして顔繋ぎ役のケイジェイとなるわけだ。ヤマトは馬車馬のように働いてるし、ソーンは街道敷設現場周辺の魔物退治という名の新型装備の運用試験をしてるしな」


 今ソーン達実験部隊に運用させているのは使い捨ての対大型魔物用武器だったかな。

 爆発する投げ矢――大型のダーツみたいなもので、投げると同時に風の魔法を利用したロケット噴射で加速、対象に深く突き刺さってから爆発を起こすようになっている。

 苦労したのは炸薬及び推進剤として使うための魔力源の確保と、俺以外の人間でも容易に作れるように簡易化するという二点だ。使い捨て武器である以上一個一個俺が手作りで作るというのはナンセンスだし、量産性を考慮するならあまり高価な素材を使うのも良くない。

 なので、本体の素材は黒鋼と真鍮、そして少量のミスリルとなっている。炸薬兼推進剤である魔力源については魔物の魔核を魔晶石に加工する際に出る削りカスを流用している。取り敢えずはそれで上手くいっているが、威力のばらつきなんかが出るならちゃんと魔晶石を使うか、あるいは魔核を均一に砕くなどの処置が必要だろう。

 黒鋼と真鍮の加工は現状でも技術的に問題ないだろうが、ミスリルの加工は魔法文字の刻印などもあるので量産するなら専門の職人の養成か、刻印機の開発などが必要になるだろうな。

 おっと、話が逸れた。


「よし、さっさと行くか。奴らも首を長くして待っているだろうし」

「鬼人族か……どんな奴らか、少し楽しみだね」

「私は少し怖いです」


 デボラとティナのそんな会話を聞きながらメニューを開き、マップから鬼人族の里を指定して転移門を開く。さて、話し合うとは言っていたが、どうなっていることやら。


 ☆★☆


「ようやくか。忘れられたかと思い始めたところだったぞ」

「あまりせっつくのもどうかと思ってな。街の開発も忙しいし」


 鬼人族の里の入り口に突如出現した俺達はすぐに里の見張りに発見され、すぐに里の中へと招き入れられた。出入り口を守る鬼人族の番人達は魔物素材製のいかつい武具を装備していて物々しい雰囲気だったが、里の中の案内を引き継いだのは綺麗な着物を着た小鬼族の女性だった。

 大体二メートル以上の体躯である大鬼族に対して小鬼族の背丈は一メートルから一メートル五十くらい。正直言って童女にしか見えないのだが、門番の反応を見る限り相当な地位にあるのだろうということが察せられた。


「人間の女が着る服はどれもそんなに美しいものなのか?」

「どれも、というわけではありませんがこれは夫が私のために特別に仕立ててくれた品なので。貴女の着物も素敵ですね。生地の光沢も素敵ですし、色とりどりの糸が輝いているようです」

「そうだろう? 私のこの着物も私の旦那がとある御人に頼み込んで織ってもらったものでな。私のお気に入りだ。下手な鎧よりもよほど頑丈だしな」


 そしていつの間にかティナと打ち解けてガールズトークをしている。確かに小鬼族の女性の着物は美しい一品だった。漆黒の夜空をそのまま生地にしたような艶のある黒い生地に色とりどりの花が金糸や銀糸などで織り込まれている逸品だ。恐らくはアルケニアの糸で織られたものだろう。

 今はアルケニアの里との関係は良くないらしいから、そうなる前の交流が盛んだった頃に作られた着物なのかね?

 里の中心部へと案内されて歩く俺達とすれ違った里の鬼達は例外なく案内をしている小鬼族の女性に頭を深く下げている。この前話し合ったエンキが族長じゃなかったか? なんか敬いのレベルがこっちの方が上に思えるんだが。


「そういえば名乗っていなかったな。私の名はイロリ、エンキの妻だ」

「……えっ、マジで。あのデカいエンキのおっさんの奥さん?」

「うちの旦那は無駄にうすらでかいからな」


 ケイジェイに視線を向けると無言で頷いた。マジらしい。体格差凄いぞこれ。


「ちなみにエンキより私の方が強い」


 ケイジェイに視線を向けると無言で頷いた。マジらしい。どうなってるの。


「女が政に口を出すのは憚られたのだが、今回ばかりは男に任せておくわけにもいかなくてな」

「と言うと?」

「なに、簡単な話だ。どうやったかは知らんが、貴殿はあの亡霊どもの蔓延る地を浄化したのだろう? しかも外から塩や食料を調達するという話だと聞いた。この大樹海を切り拓いて都を作るともな。本来ならば馬鹿な話をと一笑に付すところなのだがな」


 そう言ってイロリと名乗った小鬼族の女性はチラリとこちらに視線を向けてくる。なんだよ。


「本当にあの不浄の地を浄化して街と城壁を築いているという確度の高い情報が入った。大規模な魔物避けの結界まで展開しているらしいという情報もな」

「情報?」

「妖精が出入りしているだろう? アレはまったくいたずら好きで困った連中だが、取引ができん相手でもない」


 oh……妖精をスパイにしてたのか。いや、スパイにしたというよりはうちに出入りした事のある妖精達から情報収集したんだな。あいつらが出入りしてても誰も気にしないもんなぁ。しかしそうなると妖精対策をしっかり考えなきゃならんな。機密情報を盗み出されたらかなわん。


「ふっ……そう心配するな。あれらは無邪気な存在だし、悪意には殊更敏感だ。貴殿の心配するようなことは起こらんよ。我らとて聞き出せた情報は人々の暮らしぶりや美味しい食べ物、面白おかしいいたずらの話などの当たり障りのない内容が中心だ」

「そりゃどうも」

「ちなみに貴殿へのいたずらが妖精の中で一番人気だそうだぞ。捕まる可能性が一番高くてスリリングだとか」

「あいつらマジで泣かす!」


 連日のように捕まえた妖精にお仕置きしてやっているんだが、これはお仕置きのレベルを上げるべき案件だな。全自動妖精虐げ装置でも作るか。拘束してくすぐるマシーン的な。


「ところで、私たちの目的地はもしかしてあそこかい?」

「うむ、我らの集会所だ。何か物事を決める時に集まって話し合うのだ。何かおかしいか?」


 デボラの言葉に小首を傾げて見せるイロリの態度に俺達は顔を見合わせる。


「いや、あれはなんか違くね?」


 俺の言葉にティナとデボラが頷く。

 そりゃそうだろう。どう見ても集会所というか野外特設リングにしか見えないし、行われているのは話し合いじゃなくて殴り合いだ。

 あれか、話し合い(物理)ってか。何それ怖い。


「話し合いというのは拳でするものだろう?」

「世間一般ではそれは話し合いじゃなくて殴り合いっていうんじゃねぇかな」

「そうなのか? とにかくああやって自分の意見を通すために連日話し合いが行われたのだ」

「そりゃ、さぞかし壮絶な光景だったろうねぇ……」


 今も大鬼族の男同士が石でできた舞台のようなリングで血と汗を飛び散らせながら互いに殴り合っている。互いに足を止めての打撃戦だ。一撃ごとに重い打撃音が鳴り、大鬼族の巨体がぐらりと揺れている。


「ちなみに今は何を話し合ってるんだ」

「春に美味い食材はキノコかタケノコかで揉めているようだな」

「キノコですよね」

「タケノコだろう?」

「おいやめろ馬鹿」


 キノコタケノコ紛争は異世界にまで波及しているらしい。ティナはキノコ派、デボラはタケノコ派のようだ。俺? 俺はどっちも好きだから優劣はつけない。日和見野郎とでもなんとでも言うが良い。争っている間に横から全部食ってやんよ。


「鬼人族の話し合いは鬼人族だけでやってくれよ。鬼人族の文化なのかもしれんが、鬼人族以外は話し合いっつうと基本的に言葉だけでやるもんだからな」

「当たり前だろう。そんなことは当然知っている」


 そう言ってイロリはニヤリと悪戯っぽい笑みを浮かべた。どうやらからかわれていたらしい。冗談に聞こえないから本当にやめてほしい。

 そんなやりとりをしていると話し合いという名の殴り合いをしていた鬼人族達がこちらに気づいた。殆ど男だが、中には女もいる。ウホッ、ちょっと露出度高くありませんかね。


「痛いです」

「あんまりジロジロ見るんじゃないよ」


 デボラに脇腹を抓られた。ティナにもジト目でこちらを睨んでいる。仕方ないじゃない、男の子だもの。ずどーんばきゅーんって感じのダイナマイトボディに目を奪われてしまうのは習性というか本能みたいなものなので許してほしい。


「ふっ、まだまだ青いな」

「いや、本当は見た目よりもずっとおっさんなんだけどね、俺。どうも身体に引っ張られるみたいでなぁ」


 あまり考えないようにしていたのだが、身体が若返って分不相応な力を手に入れたせいか思考や行動が身体にかなり引っ張られているように感じる。こっちの世界に来る前はもう少しこう、悪く言えば引きこもり体質というか自堕落な感じだったんだけどね。良く言えば安定思考で落ち着いた感じだったと思う。

 とは言え、思い悩んでも仕方ないのも事実だ。考えても仕方ないことは考えない。その代わり、何か目に余ることがあればすぐに指摘するなり引っ叩くなりしてもらうように嫁達にはお願いしている。


「フン、やっと現れたか。待ちくたびれたぞ」

「そうですかありがとう。ところで顔のど真ん中の絆創膏凄いですね」

「……グヌゥ」


 俺の指摘にエンキが沈黙する。

 厳つい顔のど真ん中にでっかい絆創膏が貼られてるんだもの。突っ込むしかないよな。突っ込まれた本人はぐうの音も出な――いや、ぐうの音しか出ないらしい。


「で、道すがら聞いたが鬼人族の里は俺達が切り拓いた街と交易や人材交流を進めていくって方向で良いのか?」

「そういうことだ……だが、条件がある」

「条件?」


 ぐうの音しか出ないエンキに代わるイロリの言葉にさて、なんだろうかと俺は首を傾げる。飲める条件なら良いが、そうでないなら少しばかり暴れ――いや、話し合うのもアリだな。


「互いに交流することに関しては前向きに検討するが、物資のやりとりや人員のやりとり、万一罪人や諍いが起こった際などの約定は口約束ではなく、話し合いの上しっかりと証文を作ること。そして約定の内容を定期的に見直す機会を設けるということだ。我々は長らく外部の存在――特に人間とは関わってこなかった。こう言っては気を悪くするかもしれないが、我々にとって人間というのは狡賢い存在なのだ。気がついたら一方的に搾取されているなどという事態は避けたいのでな」

「なるほど、確かにそう考えるのは自然だろうな。俺だって鬼人族とはできるだけ末長くやっていきたいし、そのためにはお互いに利益がある関係を築いていきたいと思う」

「私もそう思います。どちらかだけが一方的に得をするという関係は長続きしませんから」


 俺が視線を向けると、ティナは俺の言葉に同意してそう言った。

 だよな、誰だって相手ばっかり得をするのは面白くない。誰だってそう思う。俺だってそう思う。鬼人族だってそう思うだろう。とはいえ、相手より得をしたいと思うのもまた人間の性質というものだ。鬼人族はどうだかわからんけど。


「つってもな、俺は正直あまり頭が良くない方だしそういった通商条約みたいなものに関してはど素人なんだよな。こういうのはどういう感じで決めたらいいんだ?」

「そうですね、国同士の通商条約となると両国国民の入国や居住、身体や財産の保護、商業活動の自由権、互いの国民が罪を犯した際の処遇、関税をはじめとした交易に関する事項の取り決めなどでしょうか」

「なるほど。よきにはからえでいいかな?」

「ダメです」

「ですよね」


 俺の面倒なことは丸投げ作戦はいきなり頓挫した。なんということだ。そういうのを考えるのは専門家に任せるべきだと思うんだけどなぁ。素人が考えてもロクなことにならないよ。

 専門家といえば法整備の専門家を手配しないといかんな。ああ、面倒臭い面倒臭い。あれだ、もう全部よきにはからえで任せてしまっても良いんじゃないだろうか? 俺はほら、指示通りに人を運んで土木工事してさ。俺頑張ったよね? ダメですかそうですか。


「とは言え、今日全てを決めるというのは無理があると思います。まずはおおまかな方針を決めて、詳細を詰めていってはどうでしょうか?」

「そうだな、俺が転移門使えば行き来はそんなに難しくないし」

「では、そのあたりも含めて話し合うとしようか」


 双方の同意を確認し、まずは今回の話し合いの進め方について議論をすることにする。今回はさすがにエンキも参加するようで、俺達三人の対面にエンキとイロリが並んで座った。ケイジェイはオブザーバーに徹するのか、俺たちを仲立ちするような位置に腰を下ろした。

 ちなみに座っているのは特設リング横に敷かれた茣蓙である。茣蓙の上には更に座布団も置かれており、その上に座った形になる。なんか花見でもするみたいだな。


「とりあえず、毎回こちらに来て話し合うというのはフェアじゃないと思うんだよな」

「そうは言ってもな。正直に言うとこちらからそちらの都まで行くのは骨が折れるぞ?」

「ああいや、そういう意味じゃなくてだな。俺が送迎するから、次回はクローバーで協議をしないか、ということだよ。あんた達鬼人族はまだ領都を直接目にしていないだろ? 実際に目で見て感じるものもあると思うんだよな」

「フン、そう言って交渉に赴いた者を人質にするのではないか?」

「んだとコラ」

「大将、落ち着いてください。エンキの旦那もやめてください。旦那が危惧するのは当然ですが、大将はそんな事は絶対にしませんよ。川の民代表のこの俺が保証します。もしこの約定を違えた場合は俺の事を煮るなり焼くなり自由にしてくださって結構です」


 険悪になりかけた俺とエンキの間にケイジェイが割って入ってくる。

 そうだそうだ、もっと言ってやれ。そもそもやろうと思えば五分もかからずこの里くらい更地にできるってのに、人質を取ったからってなんだってんだよ。脅迫するなら交渉に来た人員を人質にするなんてショボいことしないでこの里そのものを人質に取るわ。


「こっち側の私が言うのも変な話だけど、タイシはそんなことはしやしないよ。私達獣人の村に初めて来た時だって、ボロボロの私達をほとんど見返りもなしに助けてくれたんだ。カレンディル王国では私達みたいな獣人は捕らえて奴隷にすれば大金が手に入るんだよ。それでもタイシはそんなことはしなかったし、それどころか新天地を用意してくれた。なんというか、悪ぶることが多いんだけど根がお人好しなのさ。だからそういう『後味の悪くなること』はしないと思ってもらっていいよ」

「ちょ、おま」

「そういえば先日、うちの旦那が怪我を負わせた時にも死ぬような攻撃はしてこなったな。いや、あれはあれでえげつない攻撃ではあったが」


 イロリが苦笑いを浮かべる。最臭兵器シュールストレミングさん半端ないからな。


「ぶっとい矢を撃ち込んでくれたお礼に魚の塩漬けをプレゼントしただけなのにナー。そういやさっきも気になったんだが、初見殺しの一撃ってのはなんだ?」

「それは言えんな」


 そう言ってニタリと笑うイロリにイラっとしたので鑑定眼でエンキを見ようとしたのだが、何故か何も見えなかった。いつもなら鑑定結果を表示するウィンドウが出てくるのだが、それすらも出てこない。ただ、チリチリと目の奥が痒くなるような不快感がある。


「無駄だ、覗き見の対策をしてあるのでな」


 ニタニタと笑い続けるイロリに思わず舌打ちをする。笑ってやがったのはこういうわけか。どうにもこの娘さんは苦手だな。娘さんっつっても俺よりも年上なのかもしれんけど。


「それよりも話を進めよう。私としてはタイシ殿の案は賛成だ、実際にこの目でクローバーとやらを見てみたいしな。人数は今日の貴殿らと同じく四人か五人くらいがいいか?」

「俺としては別に何人でもいいけどな。まぁ応対の人員とか考えると最大でも十人くらいかな」


 それなりに自由に見て回ってもらうつもりだが、危険な場所やプライベートな場所に立ち入らないように人もつけなきゃならんしな。あまり多いと困る。


「それくらいが妥当ではないかと思います。イロリ様とエンキ様はどうでしょうか?」

「フム、良いのではないか。十人もいればそうそう無様なことにはなるまい」

「そうだな。試しにこちらの産物も持ち込んでみるか?」

「ならそういう方向で調整しましょう。大将、クローバーからの人員も嬢ちゃん達や川の民、あと大将の愛人達も連れて来てみたら良いんじゃないですかい」

「愛人はやめろ。別に彼女らはそういうのじゃない」


 何笑ってんだこのトカゲ野郎、皮剥いで財布にしてやろうか。

 ケイジェイが俺の愛人と言っているのはいつぞやのイルさんの使いっ走りの時にクソ貴族――なんて言ったっけ、そうサイデン子爵から助け出した亜人奴隷達の事だ。どうもサイデン子爵は亜人の娘をいたぶるのが趣味だったようで、彼に行方不明になってもらう序でに彼女達を救出したのだ。

 行く当てが無い者が多かったので、紆余曲折の末に開発中だった領都クローバーに住まわせる事にしたんだが……まぁなんだ、いたく気に入られてしまったわけだ。状況的に俺が白馬の王子様か何かに見えても仕方ないのはわかる。


「認知して差し上げたら良いのに」

「認知も何も子供とか作ってないからね? 認知も何も無いよね?」

「はっはっは、英雄色を好むというが貴殿はそれを地で行っているのだな。うちの里からも何人か嫁にやろうか? ん?」

「そういうの返答に困るんで勘弁してくれませんかねぇ……」


 受けても断っても角が立つじゃねぇか。

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