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第五十六話~ケンタウロス達に喧嘩を売ってみました~

会話の前後を改行してみました_(:3」∠)_(試行錯誤中

 ガンディルはカレンディル王国とゲッペルス王国との国境に作られた街である。カレンディル王国側の街門から出た先はカレンディル王国の領土で、ゲッペルス王国側の街門から出た先はゲッペルス王国の領土だ。ではガンディルはどちらに所属する街なのか、と問うとある住民はカレンディル王国と言い、ある住民はゲッペルス王国と言う。

 なんていい加減な街なんだと思ったが、税金や統治に関しては商業ギルドの協力を受けて両国の役人がうまくやっているらしい。実質的に、この街は商業ギルドの支配する街といっても良いかもしれない。

 さぁ、そんなガンディルの街だが今は二つの問題に頭を悩ませている。

 一つは隊商が来ないということだ。

 これはゲッペルス王国の隊商が来ないというだけでなく、カレンディル王国からゲッペルス王国に行った隊商も戻ってこないという内容である。冒険者ギルドに馬鹿高い料金を払って確認したところ、戻ってこない隊商に関してはゲッペルス帝国によって足止めされていることがわかった。

 仕方ないので帰ってこれない隊商に関してはミスクロニア王国へと商いをしに行くように商業ギルドで指示を出したらしい。

 もう一つはケンタウロスの難民問題だ。

 これはゲッペルス王国とケンタウロス達が小競り合いを始めた頃から懸念されていた事態ではあったらしい。それが大氾濫が始まると同時に顕在化し始めた。

 今はガンディルの城壁の外、ゲッペルス王国側の土地に多くの天幕を立てて居座っているそうだ。しかしガンディル周辺は獲物となる魔物も少なく、隊商が来ないので仕事も少なく、かなり食い詰めているらしい。隊商が行き来できなくなってるのはケンタウロス達のせいだと吹聴する者もおり、お互いに鬱憤が募ってきているのかトラブルが絶えないという。


「まぁ、街の現状はそんなとこですわ」

「なるほど。ゲッペルス王国は結局のところどういう狙いがあってケンタウロスとやりあってるんだ?」

「流石にゲッペルス王国がどう考えているかまでは……私のようないち商人では計り知ることはできませんなぁ」

「追加でショートソードを二本」


 俺は嘆息しながらそう言って目の前のいやらしい笑みを浮かべる豚――じゃなくてガンディルの商人ギルド長に指を二本立てて見せる。

 さて、何故今ガンディル商業ギルドのギルド長と会談しているのか。

 あの後、ケンタウロス達のいる場所をティダに聞いてから彼らと別れた俺とマールはその足で商業ギルドを訪れていた。商人の多いこの街で確実な情報収集をするのであれば、その元締めに当たるのが一番だと考えたからだ。

 俺は商業ギルドの受付に俺が大氾濫の時に量産した新品のサーベルを見せ、商業ギルドのギルド長との面会を求めた。

 俺がカレンディル王国のゾンタークのおっさん経由で流通させた超越的品質の武器は、各地の商業ギルドでかなり話題になったらしいということはカレンディル王国の商業ギルドで聞いている。

 俺の要求によってあれらの武器はゲッペルス王国にも輸出されたはずだから、交易の要衝であるこの街も通っただろうと思ったわけだ。きっとどこの商業ギルドでも喉から手が出るほど手に入れたい商品に違いないだろう。そう考えて餌にしてみた結果は見ての通り、大正解だった。

 で、俺は在庫の融通を武器にして豚――ではなくギルド長から情報を引き出しているわけだが。


「ああ、でも噂話が……もう少しで思い出せそうなんですがねぇ」


 既に現時点で俺の作ったサーベル四振り、ショートソード四振りを供出している。市場価格は既に金貨50枚を超えているだろう。あまり大量に放出すると値崩れを起こすかもしれないので、これ以上の持ち出しは控えたい。というか、いくら情報が貴重なものといってもぼったくりすぎだろう。そろそろ締めておくか。


「ところでギルド長。サイデン子爵をご存知かな?」

「ふむ? ミスクロニア王国のサイデン子爵ですかな? ええ、存じておりますよ。ゲッペルス王国との国境に近い領地を治められているお方ですな」

「そう、そのサイデン子爵が今行方不明になっていることは?」


 ずいっと身を乗り出し、にこやかな笑みを浮かべて見せる。決してニヤリではない。


「……それは、初耳ですな」

「この前彼の領地を訪れたんだが、逢えなくてね……なんでも一切の痕跡も残さずに忽然と消えたらしい。ご存知の通り彼は国境近くに領地を持っているからね。住居は紛争時にも立て篭もることができるように堅牢で、警備も厚かった。だが、誰にも気づかれることなく彼は忽然と消えた」

「そ、それは奇妙な話、ですな」


 青い顔で引きつった笑みを浮かべる豚――ギルド長の顔からは先ほどまでの意気揚々とした様子は消し飛んでいた。うん、あまり欲張るのは良くないな。出荷するぞこの豚めが。


「そうだろう? さて、ところで何の話だったかな? 確かケンタウロスに対するゲッペルス王国の狙いだったと思うが」

「そ、そうでしたな……その、噂に聞いた話では王太子の主導であると聞いとります。カレンディル王国や大森林の部族との交易する際にはどうしてもケンタウロス達の縄張りを通らなければなりません。実はその際、荷物の一割に当たる金額をゲッペルス王国がケンタウロス達に支払うという建国以来の約定があるのです。それを嫌った王太子がケンタウロス達の排除を画策したという噂ですな」

「それはなんとも……その約定ってのは一体どういう?」

「えー、確か五百年くらい前のゲッペルス王国建国時の話だったと思いますがね。色々端折りますが、早い話が建国時にゲッペルス王国はケンタウロスに対して大きな借りを作っとったというわけです。その対価としてゲッペルス王国の西部平原をケンタウロスの縄張りと認めて、交易等の際にはケンタウロス達が道中を護衛する、その対価としてゲッペルス王国はその交易で得られる利益の一割をケンタウロスに払う、そういう約定を交わしたんですな」


 ギルド長がすらすらと要点を纏めてくれる。こいつは欲の皮の突っ張った豚だが、できる豚だな。出荷は見送ってやろう。

 しかし一割、一割かぁ。一割はデカいなぁ。しかも建国時の約定かぁ。うーん。当時の建国王はよほどのパッパラパーだったのか、それともそれだけケンタウロスに恩義があったのか。


「道義的な問題は別としてケンタウロスを排除したい気持ちはわからんでもないなぁ。道義的な問題は別として」

「まぁ、そうですなぁ」

「ですね」


 俺とギルド長とマールがお互いに顔を見合わせて頷きあう。

 いやだってお前、護衛という任は負っているにせよミスクロニア王国以外への貿易利益の一割が五百年前のカビの生えたような約定で持っていかれるとかやってられんだろ。一体年間にしてどれだけの支出になるんだ?

 俺でも不義理とは思いつつもサックリとケンタウロスをいなかったことにしたくなるわ。むしろ五百年もの間それを守り続けてたゲッペルス王国の義理堅さに賞賛を贈るべきじゃないのか。

 いや、実際にケンタウロス達とゲッペルス王国との間でどんなやり取りが行われてきたのかはわからんけどさ。ゲッペルス王国は素直に払ってなかったのかもしれないし、ケンタウロス達は提示された金額に納得せず約定を盾に利益を毟り取ろうとしていたのかもしれない。

 歴代のゲッペルス王国の王や財政担当者はさぞこう思ったことだろう。


『どうしてそんな約定を交わした! 言え!』


 ってな。そして言いながら建国王の首を絞めたかったと思う。俺だってそう思う。どう考えても後の遺恨にしかならないし負担がデカ過ぎる。


「まぁ、やり方とか道義的にどうかというところは横に置いて、ゲッペルス王国――というか王太子がケンタウロスを消したい理由はよくわかった」


 そう言って俺は席を立つ。

 とりあえずゲッペルス王国側の事情はわかった。後はケンタウロス達をどうにかするだけだ。


 ☆★☆


 ケンタウロス達のキャンプは正に難民キャンプ、といった様相を呈していた。あり合わせの布や廃材で作った粗末なテント、空腹に耐えるためか固まってじっとしているケンタウロス達。全体的に活気がない。

 負傷者や 病気の者は少ないようだが、見る限り病気が蔓延し始めるのも時間の問題のように思える。そんな状況でふらりと現れた二人のよそ者に視線が集まるのは当然のことだろう。しかも、二人とも腰には武器を帯びているのだから。


「待て、何の用だ人間。ここは我らケンタウロス達の縄張りだぞ」


 当然というかなんというか、すぐに武装したケンタウロス達が飛んできて誰何してきた。恐らく魔物の革でできているであろう鎧と、穂先だけでなく柄まで鉄製の槍だ。さぞ重く、また高価な武器だろうがケンタウロスは軽々とその鉄槍を扱っている。


「お前らに喧嘩を売りに来た」

「なんだと!?」


 武装したケンタウロスの中でも特に若く、血気盛んそうなやつが気色ばんで鬣のような髪の毛を逆立てる。他のケンタウロス達も怒りを滲ませて睨みつけてきたが、武装したケンタウロス達を率いている壮年のケンタウロスは槍を手にしていない片手を上げ、他のケンタウロス達を黙らせた。


「喧嘩を売りに来た、とは穏やかではないな。我々とお前は初対面の筈だ。何故我らと争うというのだ? ゲッペルス王国の命令を受けて我らケンタウロスを滅ぼしに来たとでも?」

「いんや。どっちかって言うと俺もゲッペルス王国からは嫌われてる身でな。横からいろいろ掻っ攫ってやろうと思ってるだけさ」


 そう言って俺は腕を振り『荷物』をストレージから取り出した。

 袋に入った小麦粉、焼き締めたパン、干し肉に干し野菜、ドライフルーツ、エールやワインや水の入った樽、燃料や大きな鍋、清潔な布や毛布、しっかりとしたテント……今、この難民キャンプに足りない全てがストレージから吐き出されて山のように積み上げられていく。


「腹が減っては戦はできぬって言うだろ。それに、腹を空かせた女子供が心配じゃ本来の力も出し切れないに違いない。まずは飢えと渇きと心を満たせ。喧嘩はそれからだ」


 壮年のケンタウロスは次々と湯水の如く湧いてくる物資を瞠目して見ていたが、俺の言葉にハッとして俺の目をじっと見てきた。俺の目から何を読み取ったのかわからないが、一瞬だけほんの僅かに頬を緩めたように見えた。


「……女達を集めろ、煮炊きの準備をするぞ」

「は? はっ!」


 壮年のケンタウロスの指示でこの場に集まっていたケンタウロス達が三々五々散っていく。キャンプが徐々に活気づいてきているようだ。


「かたじけない……私はシュメル族のペネロペ。この集団のリーダーを務めている」

「タイシ=ミツバだ。肩書きは色々だが……今は新米領主かな」

「マーリエル=ブラン=ミスクロニアです。結婚式はまだですが、タイシさんの妻です。マールと呼んでください」


 俺とマールの名乗りを聞いたペネロペの目が大きく見開かれた。驚かれる心当たりは幾つか考えられるが、まぁどれでも構わない。これからやる事に変わりはないからな。


「話し合いでどうにかできれば一番なんだがなぁ……なぁ、ペネロペ殿。ペネロペ殿はここのリーダーだろう。あんた達はゲッペルス王国への復讐を捨てられるか?」

「それは……難しいでしょうな。我も含め、ここに残る同族達はゲッペルス王国に多くの身内を殺されております」


 そうだよな……俺だって相手の一方的な都合で身内を殺されたら復讐を諦められるとは思えない。


「そうなる前に話し合いではどうにもならなかったんですか?」


 マールの言葉にペネロペは苦笑いを浮かべた。


「難しかったでしょうな……西部平原の土地は痩せていて雨も少なく、農耕に向かんのです。耕して土を作ってもたまに降る大雨で流されてしまうのですな。それに、最近はゲッペルス王国で家畜の生産が目覚ましい発展を遂げているようで、以前ほど家畜が売れなくなりました。一割の約定に関して譲歩することは、我らにはできなかったのです」


 俺は専門家ではないので、土壌の改良を行うのがどれくらい大変なのかはよくわからない。だが、土を掘り起こして肥料やら何やら色々混ぜて、大雨で土が流されないように工夫をして……そんな作業を手作業でやるのがどれくらい大変なことなのかはある程度想像できる。

 俺が土魔法使ってズルをしたとしても、大変な労力だろう。それを専門知識もないであろうケンタウロス達が独力でやり遂げるのは……。


「うーん、難しいだろうなぁ。まぁ過去のことをうだうだ言っても仕方ないか。これからのことを考えよう」

「そうですね、これからどうするかが重要です。ペネロペさん、貴方達は老若男女全て合わせて全部で今何人いるのですか?」

「ゲッペルス王国と大氾濫の魔物の影響で、戦える者は男女問わず多くが命を落としてしまいました。今は戦士が六十程、経験の浅い見習いや年老いたが戦える者が九十ほど。身重であったり、年老いて戦えぬ者が八十ほど。まだ戦うこともできぬ子供が四十ほど。合わせて二百七十ほどですな」


 多い――が、思ったより少ない。地図を見る限りかなりの広範囲がケンタウロスの縄張りであったようだから、いくら戦闘で損耗したとはいっても軽く五百は超えてくるかと思ってた。

 ちなみに今の領都の人口は獣人達が百ほど、アルケニアやその配偶者が二十名弱、水の民が四十名ほど、妖精族は……あいつらはよくわかんね。多分三十くらいだろうけど、見るたび大きさが違ったりずっとステルスしてるやつとかいるし。その他、よそから引き抜いてきた普通の人間の商人とか職人が二十名ほど。後は半人半蛇のラミアや半人半鳥のハーピィ、体の一部に魔力結晶を持つ晶人族、捻れた角と腰に小さな蝙蝠のような羽、鏃みたいに先端が尖った細い尻尾を持つ夜魔族やドワーフなどの女性達――例のサイデン子爵が隠し地下室に監禁していた違法奴隷の女性達だ――が十二名。合わせておよそ二百二十名程だ。

 一気に人口が二倍以上に膨らむな。

 やったねヤマトちゃん! 仲間が増えるよ!

 マールやティナの補佐について様々な物資や住居、人員などを主に差配している出来る馬ことヤマトが歓喜のあまり血涙を流す姿が脳裏に浮かぶ。大丈夫だヤマト、上手くいった暁にはケンタウロスの中からいい感じの奴を見繕って同僚にしてやるからな。

 我が領都は文字通り馬車馬のように働くウマ達によって回っていくのだ。


「わかった。まぁなんとか上手くやろう」


 既に血が流れすぎているし、そもそも俺は当事者ですらない。当事者同士を話し合わせる権限も持ち合わせていない。

 説得をすることができないのであれば、直接交渉するしかないだろう。自分の命とか、大量の物資とか、金貨とか、そういったものをベットしてな。

 それで主導権を握って、あとはこっちの土俵に引き込んでやればいい。


 ☆★☆


 マールと手分けして難民キャンプを回り、負傷者や病人を診ていく。意外なことに、怪我人はそれなりにいたが病人はいなかった。ケンタウロス達の強靭な体力によるものだろうか。治療のついでに話を聞いてみると、どうやら家畜はかなり数を減らしたものの、まだそれなりの数がいるらしい。

 餌が確保できず、やむを得ず潰した分に関してはケンタウロス達の貴重な食料になったそうだ。それなりの数の家畜も手に入るかもしれないと思うと心が躍る。畜産に関して知識のあるケンタウロス達も手に入ると考えればこれは思ったよりやって良かったのではないだろうか?

 え? もうケンタウロス達が俺に従うと思っているのかって?

 そりゃそうさ。確信がなければこんなことをしようと思うものかよ。それに自分を信じないと出来ることも出来なくなるもんだしね


「さて……そろそろ良いかな」


 色々と見て回ったり炊き出しをしたり物資の分配をしたりとやっているうちに昼過ぎになっていた。日の傾きから見るに、午後二時から三時ってところだろうか。俺とマールは怪我人を治した後はケンタウロス達の邪魔にならなさそうな所に椅子とテーブルを出して、俺のストレージから取り出したサンドイッチやらを食ったり久々に異世界風チェスのブリッツをやったりして時間を潰していた。

 まだ一回も勝ててない。マールさん強すぎでしょう?


「そうですねぇ。あ、それチェックですよ」


 気がついたら外堀を埋められて身動きが取れなくなっていた。いつもこのパターンだよ! 毎回俺も考えて打ってるんだけどなぁ。俺がワンパターン過ぎるのかマールが型に嵌めるのが上手いのか……両方か。

 眺める先にケンタウロス達が集まってくる。老若男女問わず、難民キャンプにいる全てのケンタウロス達が集まってきたようだ。

 リーダーであるペネロペは勿論のこと、先ほど激昂していた若いケンタウロスやティダの姿もある。あの時のちびっ子達は無邪気にこちらに手を振っていた。

 俺とマールは席を立ち、テーブルやら何やらをストレージに放り込んでケンタウロス達と向き合う。


「落ち着いたかな、色々と」

「配慮痛み入る。女子供に満足に飯も食わせられず、誠に恥ずかしい限りだ。我ら一同、この恩は決して忘れない」


 そう言ってペネロペが胸の前で手を組んで頭を下げると、他のケンタウロス達も同じように胸の前に手を組んで頭を下げた。


「なに、今から俺が言うことを聞けばそんなもん吹き飛ぶさ……さて、俺はここに来てお前達にこう言ったな。喧嘩を売りに来た、と」


 ケンタウロス達の視線が集まる。厳しい表情の者、怒りを露わにする者、施しを受けた手前、怒っていいものかどうか困惑する者、不安げな表情をする者、無表情の者、キョトンとする者、その表情は様々だ。


「歯に衣着せず言うが、有り体に言ってお前達は詰んでる。獲物の少ない地域に追い込まれ自活はできず、カレンディル王国はお前達を受け容れない。ミスクロニア王国への道はゲッペルス王国軍が展開しているだろう。大森林は知っての通り余所者を受け容れないし、あっちの方はまだ大氾濫の魔物の勢力が強い。そもそも、長距離を移動するだけの体力も物資もない。ここで緩慢に死んでいくか、ゲッペルス王国に降伏するか、この二つしかお前達には道が無い」


 ティダのような子供はともかく、ある程度以上の年齢のケンタウロスはその事実に気づいていたらしい。思ったよりも動揺は少なかった。


「俺が第三の選択肢を用意してやる! お前達に新天地を与えよう。安心して眠れる安全な寝床を与えよう。生きていく糧を得るための仕事を与えよう! 俺についてこい、そうすれば今言った全てを俺が用意しよう!」


 手を翳し、俺のすぐ横に大量の物資を吐き出す。切り詰めればケンタウロス達が一ヶ月は過ごせるほどの量だ。荷物がどんどん山のように積み上がる。

 最後に鉄枠で補強された木箱を出し、その蓋をマールに開けさせてケンタウロス達に中身を見せつける。箱の中身は大量の金貨。その数、五千枚。

 輝く黄金を見たケンタウロス達にどよめきが広がり、場に興奮と熱狂が広がっていく。オーケーオーケー、掴みは悪くないな。俺がやっていることは大衆扇動そのものだ。


「もちろん美味い話だけじゃない。お前達が一方的に得をするだなんて、胡散臭い話だろう? まず、お前達には故郷を捨ててもらうことになる。新天地からこの広大な草原に戻ってくることは難しいだろう。更に、お前達にはゲッペルス王国への復讐心を捨ててもらうことになる。まぁなに、こいつに関しては俺が全てを受け継ぐさ。俺はお前達を嵌めた王太子に嫁ぐ予定だったミスクロニア王国の姫を二人、横から掻っ攫ってるからな! そして最後に俺をお前達の王として認めてもらう。お前達は俺に奉仕する義務を負い、俺はお前達をゲッペルス王国や、飢えや、寒さから守る義務を負う」


 俺の言葉にケンタウロス達がざわざわと騒ぎ始めた。故郷も恨みも捨てるのは難しい。何より今日出会ったばかりの俺を王としろというのは無茶苦茶な話だろう。それはもちろん俺だってわかっている。


「そこで最初の話に戻る。そう簡単にこんな提案飲めやしないだろう? だから喧嘩を売りに来た。お前達はお前達自身を賭ける。俺は俺の命と大量の物資、そしてこの金貨五千枚を賭ける。どうだ?」


 そう言って俺は獰猛な笑みを浮かべて見せた。

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