第五十五話~久々のデートを堪能しました~
完結じゃないのおおおおぉぉ! 誤爆です許してください! 踏んでいいですから!_(:3」∠)_(腹見せ
「とりあえず宿とって、それから適当に見て回るか」
「そうですねー。朝ごはんもまだですし、適当に屋台でなにか摘みながら行きましょう」
そんなことを話し合いながら門番に教えられた宿を目指す。
ガンディルの街はカレンディル王国とゲッペルス王国との交易拠点である。
そのためか、メインストリートの道幅はかなり広い。馬車数台が余裕で行き交えるほどの広さがあり、このメインストリートはガンディルの街を一直線に貫いている。遠目にだが、ゲッペルス王国側に抜ける大きな門も見える。
「カレンディル王国じゃあんまり見かけない感じの建物が結構あるな」
「日干しレンガを使った建築ですね。カレンディル王国は石材が、ミスクロニア王国は木材が豊富なんですけど、ゲッペルス王国はそれらの資源が豊富ではないので。確か粘土とわらで作る日干しレンガをよく使うそうですよ」
「へぇ、国によって違うもんだな」
黄土色っぽい壁の建物が連なっているのを見て異国情緒を強く感じる。確か元の世界では中東辺りの建物がこんな感じだったような気がする。
道を行く人々も長いゆったりとした布を使った衣服を着ている人が多い。カレンディル王国の人は普通にシャツとパンツって感じの衣装の人が多いから、見分けが付きやすい。
「しかしなんだ、妙にピリピリしてないか」
「そうですねー。ゲッペルス王国の情勢が不安定ですから、その影響じゃないでしょうか」
「ああ、それにケンタウロスが目立つな」
そう、獣人に対する差別が強いカレンディル王国の街にしてはケンタウロスの数が多い。ただ、女子供や老人が多いような気がするな。戦火を逃れて来たのだろうか? だとしたらカレンディル王国に逃げてくるのは悪手だと思うんだが。
「それもピリピリしてる原因かもしれませんね。難民が増えているならトラブルもあちこちで起きているでしょうし」
「なるほどなぁ。施政者側としてはどうするのがベストかね」
「うーん、そうですねぇ」
そんな話をして歩いているうちに目的の宿に着いた。
宿の位置はガンディルの中心部に近く、人通りがかなり多い場所だ。しかし宿の建物そのものに減音の魔法でも施されているのか、外の喧騒は宿に入った途端ほぼ聞こえなくなった。まるでこの宿の中だけ別世界であるかのように錯覚しそうになる。
旅装ながらも小綺麗な格好をしている俺達を上客と見たのか、宿の主人は俺達を丁重に扱った。一泊一人大銀貨一枚で豪華なベッドと風呂付き。宿泊料金に含まれるのはディナーだけだが、この宿のレストランで贅を凝らした食事と酒を楽しめるとのことだ。
「二人で一泊金貨一枚ですか」
「まぁ、家具とか調度は灼熱の金床亭と比べるべくもないよな。部屋に金かかってるのは間違いない」
主人が言うには各国の貴族も利用する宿であるらしい。確かになんというかこう、いかにも貴族って感じの豪華な調度だとは思う。笑いながらこっそりと防音であることも伝えてきた。ああなるほど、密談にも使えるってことね、と思うほど初心でも鈍感でもないので、つまりはそういうことだろう。
近所迷惑になるのを心配しなくて良いってのはありがたいけどね。
特に置いていく荷物もないので軽く部屋を確認してから宿を出る。
「まずは市場ですね! 何処でしょうか」
「歩いてたらわかるんじゃないか。メインストリートからそう離れてはいないだろ」
メインストリートをゲッペルス王国門側に少し歩くとすぐに市場らしき場所を見つけることができた。らしき場所、である。
「なんか閑散としてませんか?」
「あー、ゲッペルス王国との交易がストップしてるんじゃないか。大氾濫と内乱のダブルパンチで」
「ケンタウロスが多いところを見ると交易路がケンタウロスに制圧されているんじゃないでしょうか」
マールの言葉にああなるほど、と得心がいく。本来であれば交易路の閉鎖なんてのはゲッペルス王国としては決して容認できないのであろうが、恐らくは封鎖を解くだけの戦力的な余裕が無いんじゃないだろうか。
難民らしきケンタウロス達の様子を見る限り、ケンタウロス族の状況も良いようには見えない。そしてカレンディル王国の人間からすればケンタウロス達は交易路を封鎖している上に難民として流入してきている厄介な存在というわけだ。
「なんとなくピリピリしてる理由がわかってきた気がするな。わかったところでどうすることもできんが……おっちゃん、串焼きとジュースくれ」
閑散としているとは言っても営業している屋台や露店はそれなりにある。
俺が買ったのは何かの獣の肉をたっぷりの香辛料をかけて炙り焼きにしたものだ。食欲をそそるスパイスの香りとほのかな辛さがしっかりと下味をつけてる肉に実にマッチしている。この肉はあれだな、羊っぽいな。
「タイシさんならてっきりどうにかするかと思いました」
「どうにかって言ってもなぁ。そりゃ転移門で難民を領都に連れてくのは出来なくはないし、そりゃ養ってやることも可能だろうけども」
マールと二人で串焼きを齧りながら何かの実を絞ったジュースで喉を潤す。赤っぽい琵琶くらいの大きさの実で、ドライフルーツとしてよく食べられるらしい。ああ、そういやこのドライフルーツ見覚えあるわ。俺もこの世界来てから食ったことあるわ。
元の世界でも見たことある気がする。確かデーツとかいったか? ナツメヤシの実だったかな。
「なんだか煮え切らない感じですね」
「ぶっちゃけるとめんどい。あと、べつにケンタウロスってモフモフしてないし」
「えー……そんな理由ですか」
俺にとっては重要な要素です。
今言ったのも理由の一つではあるけど、まぁ細々と懸念事項はある。適当な場所に腰掛けつつ、俺の考えをマールに話す。
まず樹海の中という環境がゲッペルス王国のケンタウロス達に合うかどうかがわからない。広大な草原を走り回っているケンタウロスにとって鬱蒼とした樹海での生活はストレスになるんじゃないだろうか。
そもそもケンタウロス達が俺による救済を受け容れるかどうかもわからない。ゲッペルス王国との内戦を放り出して遠く離れた樹海に逃げることになるというのを受け容れられるだろうか? これまでにお互いに多くの命を奪いあってきただろうしね。俺は内戦の理由も知らない。ケンタウロスの難民を受け容れた結果、無駄にゲッペルス王国の機嫌を損ねるのも避けたい。
「ゲッペルス王国のご機嫌は今更じゃないですか?」
「それもそうだな」
マールの言葉に俺は素直に頷いた。二人連続で妃候補を横から掻っ攫ったわけだから、そこは確かに今更か。
さて、手元の食い物も無くなったし追加で何か買いに行くか。
「もう少しなんか食いたいな。何にする?」
「私は甘いものがいいです!」
「俺はもうちょっとガツンとしたものがいいな」
マールは多種類のナッツがぎっしりと入ったパイに甘いシロップをかけたようなものを買った。俺も一口食べさせてもらったがナッツの香ばしさにシロップの甘みがマッチしてて美味し。みんなも喜びそうなのでお土産に多めに買ってストレージに放り込む。
俺は俺で肉の塊を豪快に焼いて削ぎ切りにしたものを焼いた生地に挟んだものを買った。あれだな、これは知ってるぞ。ドネルケバブだ。元の世界でも何回か食べたことがある。ソースはヨーグルトベースのようで、サッパリしていた。
腹ごしらえを終えた俺とマールは市場を適当にブラブラする。
やはりゲッペルス王国から入ってきた様々な品がメインのようだ。主に香辛料なのだが、俺もよくわからないようなのが沢山ある。 俺のうろ覚えの元の世界の知識よりも錬金術士として勉強しているマールの方が遥かに詳しかった。
「香辛料は薬として錬金術の分野でもかなり研究が進んでますからね!」
ふふんって感じでドヤ顔しているのがちょっとイラっとしたので頬を伸ばしてやった。マールのくせに生意気な。
「いひゃいいひゃいれふ」
「あー、なんかこのやり取り久しぶりの気がするなぁ。なんかすげぇ落ち着く」
「人のほっぺたつねってなんて言い草ですか!? 私も同意はしますけど」
プリプリと怒るマールを笑って宥めながら香辛料を買い込んで行く。ちょっと高かったがバニラエッセンスのようなものも入手できた。これでプリンとかバニラアイスクリームとか作れるよ! やったね!
レシピはうろ覚えだが、プリンなら多分作れる。アイスクリームもまぁ大丈夫だろう。
スパイスいっぱいあるけどカレー粉とかは無理。配合とかわからん。ホットケーキはトライしたけど膨らまなかった。多分ベーキングパウダーが必要なんだろうけどベーキングパウダーのつくりかたがわからん。重曹を使うんだろうってことだけはわかるんだけどね。今度重曹でチャレンジしてみるかな?
「ずいぶん買い込みましたね」
「おう。まぁデボラとかシータンがスパイスに関しては研究してくれるんじゃないかな。このバニラエッセンス使って俺もデザート作れるぞ、多分」
「それは楽しみです! 絶対私にも食べさせてください」
「勿論だ」
その他にも色々と珍しいものを買い込む。ナツメヤシのドライフルーツが安くて大量にあったので買い込んでおいた。ストレージに入れておけば絶対に腐らないし、そもそも保存食として結構な長期保存ができるらしい。パルミアーノ雑貨店に卸してもいいな。
そうして買い物をしていると、先ほどの食い物屋台の辺りに戻ってきた。
「ちょっと飲み物でも、と思ったんだが」
「どうもそれどころじゃないみたいですね」
どうやら決定的な事態が起こってしまった後らしい。すりこぎみたいな棍棒を手にしたいかつい顔の屋台の店主と、頭を殴られて怪我をしたらしいケンタウロスの子供、それを支える何人かのケンタウロスの子供と、少し年嵩のケンタウロスの少年が対峙して睨み合っている。
「そんな棍棒で殴ることはないだろ! まだ子供なんだぞ!」
「盗っ人に子供も大人もあるか。むしろ子供だからぶん殴るだけで済ましてやってんだ。本当なら衛兵に突き出してるとこだ」
歯を剥いて怒鳴るケンタウロスの少年に対し、いかつい顔のおっさんは棍棒を手にあくまで冷静に対応していた。
この世界の刑罰に関してはその街や或いは衛兵の裁量によって大きく変わるんだが、基本的に少額の盗みは罰金刑だ。もし払えなかった場合は犯罪奴隷落ちで、犯罪奴隷は基本的に過酷な労働で使い潰されるので、罰金を払えない場合はほぼ死刑みたいなものだ。基本的に盗みを働く人間が罰金を払えるわけがないので、盗みで捕まるとその後どうなるかはお察しである。
「どうするんですか?」
「どうするもこうするもなぁ……別に積極的に関わる理由もないんだが」
頭を掻きながら緊迫感の漂う両者の間に進み出る。両者の視線だけでなく、周りの野次馬の視線までもが俺に集まった。そんなに見るなよ、穴が空いたらどうするんだ。
俺はケンタウロスの少年を一瞥し、彼が怯んだところでいかついおっさんに視線を向ける。おっさんが棍棒を握りしめ、緊張した様子でゴクリと喉を鳴らした。
「冷たい飲み物を要求する」
努めてキリッと表情を維持したまま銅貨をおっさんに差し出す。
「……まいど」
おっさんは一瞬怪訝な表情を浮かべたが、すぐに気を取り直して自分の屋台に戻って飲み物を用意し始めた。
「あ、二つね」
「はいよ」
後ろを振り返ると、ケンタウロスの少年がポカンと惚けた表情で俺を眺めていた。棍棒で殴られた子供やそれを支えている子達も同じような表情だ。周りの野次馬の達はいつの間にかやれやれといった感じで解散し始めていた。
「ま、待て! いきなり来てなんだよお前! そいつとまだ話が――!」
「見てわからんのか。お客様だよお客様。せっかく見逃してくれてるんだから素直に従っとけって。商売の邪魔ってもんだぞ。あ、おっちゃん注文追加で。肉串くれ、肉串。これで」
「……何本買うつもりだ」
「それで焼けるだけ適当に頼むわ」
ジュース二杯と引き換えに俺から更に銀貨三枚を追加で受け取ったおっさんが短く溜息を吐いて肉串を大量に焼き始める。俺に適当ケンタウロスの少年の背中を軽く叩いて宥めながらマールの待っている場所へと導いた。市場の一角に古くなった木箱や樽を利用して飲食できるスペースが設けられているのだ。
ケンタウロスの少年は憮然とした表情だったが、素直に従った。他のケンタウロスの子供達も手招きすると同じように寄ってきた。男の俺一人ならついてこなかっただろうが、行き先にマールがいたから警戒心が薄れたんだろう。
「まぁなんだ、あんまり騒がしくするとおっかないのが飛んでくるからな。ほどほどにしとけ。それと殴られた子はこっちにこい」
素直に俺の目の前まで歩いてきた子供の頭に回復魔法をかけてやる。ちょっとたんこぶになってるだけだからなんてことない傷だ。あのおっちゃんも手加減したんだろう。
急に殴られたところが痛くなくなってびっくりしたのか、子供のケンタウロスが目をぱちくりさせて驚いている。
「おらチビッコども、お駄賃やるからこの兄ちゃんとお前達の分の飲み物も買ってこい」
人数分の飲み物を買って少し余るだけの銅貨を子供達に握らせて飲み物を買いに行かせる。関わった以上は色々と聞き出しておいた方が無駄が無い。ゲッペルス王国の情報はあんまり聞いたことが無いからな。特にケンタウロスとの内戦に関しては殆ど情報が入ってこない。
マールに任せようと顔を向けるが、マールはジュースを受け取ってニコニコとこちらを見るだけだ。どうやら徹底して俺にやらせるつもりらしい。なんなんだよもう。
「あー、そのなんだ。余計な事だったかもしれんが気になってな。まぁ変わり者のお節介だ。犬に噛まれたとでも思って諦めてくれ」
「……いや」
ケンタウロスの少年は言葉少なに返事をして俯いた。よく見れば頰が少しこけているし、どこか疲れ切ったような雰囲気だ。まだ十五かそこらだろうに、相当苦労しているらしい。
「タイシだ、こっちはマール。まぁ、冒険者かな。他にも色々肩書きはあるけど」
「マールです。タイシさんの妻です」
「……イニン族のティダ。あんた達、何が目的だ? 俺みたいなケンタウロスを助けてもいい事なんて一つもないぞ」
ティダと名乗ったケンタウロスの少年は疲労の滲む目で俺達を軽く睨みつけてきた。今は薄汚れているが、肩の後ろまで伸ばしている髪の毛は俺と同じく黒い。きっと綺麗にすればフラムのように艶のある美しい黒髪であることだろう。顔つきも俺から見るとなかなかのイケメンである。少しこけた頰と疲れた目がが本来ならば少年らしい顔つきであろう彼を青年のように見せている。
「さっきも言ったがただのお節介だよ。ついでにゲッペルス王国というか、ケンタウロス達の事情を聞きたいと思っただけさ。旅行の土産話にね」
そうして話していると子供のケンタウロス達が飲み物を持って戻ってきた。流石に下半身が馬なだけあって早いな。
「次はさっきのおっさんのとこ行って串焼きを貰ってこい。金は払ってある。ちゃんと謝るんだぞ。さぁ行け! ほら駆け足だ!」
☆★☆
「ふーむ、なるほどなぁ」
子供達が確保してきた串焼きを摘みながらティダから話を聞く。
俺もマールもさっき朝ご飯を食べた所なので、本当につまむ程度だ。大半は子供達とティダが平らげた。久々にお腹がいっぱいになって眠くなったのか、子供達が身を寄せ合ってうつらうつらし始めていた。
「ゲッペルス王国西部が今の主戦場で、ゲッペルス王国と大氾濫の魔物に挟撃される形となったケンタウロス達は勢力を大きく削られながらカレンディル王国との国境付近である南西部に後退を余儀なくされた、と。大氾濫が来るのはわかってたはずですよね? 一時停戦の交渉などはなかったのですか?」
「詳しくはわからないけど、あったみたいだ。でも誰も戻ってこなかったって。俺の兄貴達――若い戦士がすごく怒ってた」
戦況やゲッペルス王国との交渉に関する話はティダも基本的に又聞きであるため情報の確度は高くはなさそうだが、逆にそういったことに関わっていないケンタウロス達の一般的な認識であろうと思われるためそれなりに有用な情報だ。
逆に、ガンディル周辺にいるケンタウロス達の生活や状況に関しては生の情報を得られた。ガンディルの領主の厚意でケンタウロス達の滞在は半ば黙認されているが、そんなに働き口があるわけではないので生活はかなり苦しいらしい。
元々遊牧民であるケンタウロス達は半ば自給自足に近い形で生活してきたのもあり、現金などの蓄えはあまり多くない。そのため家畜が主な財産なのだが、その家畜も大氾濫の魔物にやられたり、移動時の食料として消費されたりであまり数が残っていないそうだ。
しかもゲッペルス王国との停戦交渉に赴いた各部族の有力者が誰一人して帰還しなかったのも痛い。無論、すべての有力者が出払ったわけではないので集団としての統率は取れているのだが、抜けた穴が大きくそこもまた苦労の元となっているようだ。
「この辺りは獲物となる魔物が少ないんだ。それに、俺達ケンタウロスは隊商の人間を襲ったりしないのに、俺たちがいるのを理由にしてゲッペルス王国から隊商が来ないって。カレンディル王国から出て行った隊商も戻ってこないって……俺達は何もしてないのに!」
無実の罪を着せられて遣る瀬無い気持ちで一杯なんだろう。ティダは悔しげにそう言ってテーブル代わりにしている空の樽に握った手を叩きつけた。
「うーん、なるほどなぁ」
もしケンタウロス達が隊商を襲っているならもう少し楽な生活をしているだろうと思う。今、カレンディル王国からゲッペルス王国に輸出しているのは主に食料や医薬品、武器なんかの軍事物資だと思われる。大氾濫と戦うゲッペルス王国を支援するためだ。
本当にそういった軍事物資を運んでいる隊商を襲って物資を略奪しているのなら、わざわざこのガンディルに留まる必要はないはずだ。
どうにもきな臭い感じしかしない。
「どう思う? マール」
「大氾濫の魔物を利用してケンタウロスの力を限界まで削ぎ落とすつもりでしょうねー。隊商に関してはゲッペルス王国側からは出さなければ良いだけですし、カレンディル王国から来た分に関しては帰り道の安全を保障できないとでも言って留め置くか、ミスクロニア王国側に抜けられる優先通行権や交易に有利な伝手でも紹介してカレンディル王国に帰さないようにしているんでしょう。流石に殺してるってことはないと思います。国際問題になりますから」
「その上で交易が止まった理由をケンタウロス達に押し付けてるってわけだな。そうなりゃ今のガンディルみたいに住民はピリピリするし、ケンタウロス達を助けようと思う人間もあまり出ない。そもそもカレンディル王国は亜人に対して厳しいしな。真綿で首を絞めるようにケンタウロス達を追い詰められるって算段か。陰険だなぁ」
この策のいやらしいところは別にゲッペルス王国は非難されるようなことをしていないというところか。大氾濫の魔物の侵攻があり、敵対状態にあるケンタウロスの支配領域で隊商の安全を確保できるだけの護衛戦力を抽出する余裕がない。そう言ってしまえばカレンディル王国もミスクロニア王国も納得さざるを得ない。
その話がガンディルに滞在しているゲッペルス王国の商人に伝われば、特にこれといった工作活動をするまでもなくケンタウロス達の悪評がガンディルやその周辺の国境の街に伝わり、広がっていくわけだ。
「ど、どうしたらいいんだよそんなの……」
ケンタウロスの少年が縋るような目でこちらを見つめてくる。俺とマールはどちからとも無く顔を見合わせた。
「選択肢その一、カレンディル王国に亡命する」
「ゲッペルス王国との関係を悪化させてまでケンタウロスを受け容れることにメリットを見出せるとは思えませんね。そもそも、カレンディル王国は人間至上主義な国ですから。ケンタウロスを受け容れるとは思えません」
うん、俺もそう思う。
「選択肢その二、ミスクロニア王国に亡命する」
「亡命を受け容れる可能性は無いこともありませんが、まぁ難しいのではないでしょうか。ケンタウロス達がカレンディル王国とミスクロニア王国間の交易ルートを完全に掌握して、交易ルートごと支配下に入る。それくらいのことをすればミスクロニア王国だけでなくカレンディル王国も喜んで受け容れると思いますけどね。ただ、ゲッペルス王国もそれを許すはずはありませんから、防備を固めてくるでしょう。不可能だと思います」
「そもそもミスクロニア王国まで踏破できるか? 落伍者が続出しそうに思えるな」
俺とマールの言葉にケンタウロスの少年が顔を俯かせる。子供達にさえ満足に食わせてやれない状況で大氾濫の魔物とゲッペルス王国軍を突破してミスクロニア王国に辿り着くのはまぁ、無理だろう。下手すると全滅するんじゃないだろうか。
「同様の理由でマウントバスに行くのも大森林に落ち延びるのも難しいでしょうね。両方ともミスクロニア王国より遠いですし」
まぁなんだ、口に出しては言わないが、ケンタウロス達はほぼ詰んでると言って良い状況だろう。他に彼らに取れる選択肢は一つしかない。
「第三の選択肢、ゲッペルス王国に降伏する」
「降伏は受け容れられるでしょうが、ケンタウロスの指導者に連なる人達は処刑でしょうね。生き残った人達は……まぁ、子々孫々まで奴隷落ちか、それとも土地を持たぬ流民となるか」
マールの言葉を最後に場に重い沈黙が訪れる。
第四の選択肢として俺の領都に招くというものがあるが、先ほどもマールに言ったように俺はあまり乗り気ではない。『使い道』が無いわけでもないが、それを彼らが受け容れるかはわからないしな。
というかもう一度言うがぶっちゃけめんどい。俺はマールとイチャコラしにきたんだよ! ケンタウロスを救うために来たわけじゃないんだよ!
俺は自由に面白おかしく生きたいんだよ! しがらみに縛られず、好きな時に女を抱いて、好きなもん飲み食いして、気まぐれに他人を助けて自己満足して、好きな時に好きなだけ暴れて、綺麗な景色や宝物を眺めて過ごしたいんだよ!
だってのに。
「ああ、くそっ。これで見捨てたら寝覚めが悪いったらないじゃないか。それじゃこれからの楽しみが半減だ」
俺がぼそりとそう呟くと、マールはよくできましたとでも言うように笑みを浮かべた。
文章量的にどうでしょうか?
個人的には6000文字前後くらいも楽かなとは思うんですが_(:3」∠)_