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第五十四話~国境の街に到着しました~

 はい。翌日です。デボラの大きなお胸を満喫した翌日です。

 早起きした俺は準備万端、身支度を整えてマールの準備が終わるのを待っていた。本日のマールの出で立ちは柔らかい皮の鎧をベースにした旅装だった。

 動くのに邪魔にならない程度の大きさの肩掛けの旅行カバンに、柔らかく鞣された白い革のマント。腰には俺の贈ったミスリルの短剣と曲刀がキラリと輝きを放っている。

 実はあのカバンは空間拡張の魔法が付与された逸品で、見た目以上に物が入る。いわゆる魔法の鞄ってやつだ。魔導具作成スキルを試すために作ってみたら、うまい具合にできたのでプレゼントした。

 それよりも危険なのは実はあの革マントで、裏地に試験管を収めることのできるホルスターが多数付けてある。表側に衝撃吸収の魔法が、裏地には物品保護の魔法が付与されていて、衝撃で試験管が割れたりしないようになっている逸品だ。魔法の鞄で味を占めたマールさんに熱烈におねだりされて作ったのだが、少し早まったかもしれないと今になって思っている。

 この前、美しくも寒々しいチェレンコフ光みたいな青い輝きを放つ試験管とがマントの裏地に多数挿さっているのを見たのだ。コワイ!

「まずはテレスコに行くんですか?」

「うむ。そこから北東にあるガンディルって街に行こうかと思ってるぞ」

 カレンディル王国北部最大の街であるテレスコは大氾濫の際に俺が一番最後に解放した街である。確か悪人顏のゾンタークさんの妹君がテレスコの太守夫人だったかな。

 堅牢な城壁と効率的な大型兵器の運用で大氾濫の魔物を寄せ付けていなかった。

 ガンディルはそのさらに北東、カレンディル王国の中ではゲッペルス王国に一番近い街であるらしい。ゲッペルス王国との貿易が一番盛んな街で、ゲッペルス王国から色々なものが流入して発展している街なのだとか。

「領都の参考になりそうな街ですね」

「それもある。けどゲッペルス王国経由で第二大陸からの舶来品とか、ゲッペルス王国の特産物とかも集まって大規模なバザーが開かれているらしいぞ」

 俺としてはどちらかというとそっちの方が主目的だ。その他にもゲッペルス王国の料理が食える店とかもあるらしい。他の目論見としてはゲッペルス王国の情報とかも手に入れられないかと考えている。

 俺が聞いた話では大氾濫の魔物による襲撃がまだ続いているらしいし、ケンタウロス族をはじめとした亜人の部族と内戦状態にあるという話も聞いている。なんとか最新情報を入手したいところだな。

 さて、それはそれとして俺の格好はヒドラレザーならぬ八岐大蛇レザーのパンツとジャケットである。これに指抜きグローブがあればパーフェクトだが、そこまで勇者にはなれなかった。

 ちなみに八岐大蛇の皮は柔らかくなめされて黒く染められたものを使用している。柔軟性が高くて着心地が良く、それでいて生半可な刃を通さない優れものだ。

 耐衝撃魔法を付与してあるため、その防御力はミスリル製の全身鎧に匹敵する。

 魔法の付与はどうやったかって? これも魔導具作成スキルでやり方を覚えました。

 魔動具ではなく魔導具。声に出すと両方とも『まどうぐ』なんだが、この二つは似て非なるものだ。

 魔動具は使用者から直接、あるいは魔石などから魔力の供給を受けて様々な効力を発揮する道具であるが、魔導具はそういった仕掛けなしで自ら魔力を生成し、或いは周囲から魔力を吸い上げてなんらかの魔法効果を発揮し続ける。

 水生成施設や浄化施設もこれの応用で作った。何を素材にするかで付与できる魔法の方向性は大体決まるっぽい。まだ色々と未検証だが、そんな感じだ。

 例えば鉄製のヤカンに付与できたのは沸騰と冷蔵だけだったが、銀製やミスリル製だと清浄化の魔法効果を付与できた。黒鋼性だと何の付与もできなかった。この辺の法則性は今の所まだよくわからん。

 あと、武器にも付与することはできた。

 鍛冶スキルで習得した魔法刻印の方が効果は高いが、魔導具作成スキルで習得した魔法付与の方がお手軽に出来る。魔法刻印は刻印を彫りさえすればどんな素材のものにも同じ効果を付加出来るが、魔法付与は素材やその形状によって付与できる魔法が限られる。

 正直どっちも一長一短だ。ちなみに共存はできない。少なくとも今の所は。

 まぁ布や皮革製品に付与するなら魔法付与の方が遥かに便利で楽だ。魔法刻印は彫れる素材じゃないと施せないし、何より手間が半端ないからな。

「今日のタイシさんはいつにも増してお洒落ですね」

「そりゃデートだしな。あんまりそういうセンスに自信は無いけど、まぁ無難にな。お前は可愛いから何着ても似合うな。抱き締めたくなる可愛らしさだぞ」

 八岐大蛇レザーの上下を褒めてきたマールを褒め返す。これだけでデレデレしてくれるマールさんはほんとチョロいよな。子犬のように擦り寄ってくるマールを軽く抱き締めてその鳶色の髪の毛を触る。サラサラで手触りが良い。

 マールは最近胸も育ってきたので、セクシー系も似合うようになってきた。まさに隙が無い美少女である。それでいて子犬のように甘えてきたり、ちょっと抜けたところもあるので可愛くて仕方が無い。


 惚れた贔屓目があることは否定しない。


「じゃあササっとテレスコまで跳ぶか。準備はいいな?」

「はいっ! 部屋から跳ぶのも風情がないので、門を潜ってから跳びましょう」

「確かに。そうするか」

 マールの言葉に同意しながらドラゴン革の剣帯をストレージから取り出て装備し、神銀製の剣を差す。いつものミスリル製の長剣は私兵部隊を率いることになったソーンにくれてやったので、その後継だ。

 装飾なども特に派手な部分がない、ぱっと見ではどこにでも売っていそうな長剣である。俺の趣味と、仕込んだ仕掛けを有効利用するために柄だけは普通の長剣よりも少し長めだ。切っ先は鋭くしてあるが、刃はさほど鋭くない。斬るというよりは叩き潰すことを主体とした剣だ。切れないわけじゃないけど。

 この剣、実は本来はもっと長大な特大剣なのだ。それを魔法刻印によって縮小して通常の片手剣サイズにしてある。柄を捻る事によって魔法刻印の効果が変わり、縮小倍率を変更できる素敵武器だ。

 片手剣モードだと柄を含めた全長は80cm程度で、俺の腕の長さとほぼ同程度だ。イメージとしてはちょっと柄の長いショートソードで間違いないだろう。対人戦闘や小型の魔獣相手の戦闘を想定している。

 大剣モードだとその全長は一気に倍の160cm程度になる。一般的なツーハンテッドソードくらいの大きさだ。これはオークやトロール、いつぞやの竜魔人くらいの大きさの中型魔獣を相手に戦うことを想定した。俺の膂力だとまだ普通に片手で扱える長さだ。

 そして縮小倍率ゼロ、特大剣モードではその全長は320cmになる。これはドラゴンや巨人などの大型モンスターと戦うことを想定して作った。この前の気持ち悪い触手と脳みその融合体みたいなのもでかかったしな。流石にこの長さになると片手で振り回すのは辛い。重さと長さで体勢が崩れるのだ。俺の体重は変わらないからな。

 ベースはあくまでも特大剣なので、片手剣モードでも特大剣と同じ重量がある。俺以外の人間がこの剣を振るうのは実質的に不可能だろう。

 逆にこの重さと神銀の頑丈さが俺にとっては大きな武器になる。俺のお化けみたいなSTRの高さのおかげでこれくらいの長さなら小枝のように振り回せるからな。オリハルコン以外の素材の武具でこの剣での攻撃を受けたら折れるか砕けるか曲がるか……使い物にならなくなるのは避けられない。例外は魔法を付与されている武具くらいか。

 ちなみに、竜革の剣帯には重量軽減の魔法を付与している。じゃないと剣が重すぎて歩いているうちに剣帯ごと履いてるズボンがずり下がってくるんだよ……。


 ☆★☆


 居残り組の嫁達に挨拶し、屋敷を出る。テレスコからガンディルへは馬車で三時間程で着くらしい。歩くと一日で着かないくらいらしいから、距離はきっと40km前後ってところじゃないだろうか。

「ガンディルまではどうするんですか?」

「馬車が出てるんじゃねぇかなぁと思ってる。出てなかったら俺がマールを抱っこして走るけど」

「じゃあそっちで行きましょう」

「まぁじでぇ。まぁそっちのが間違いなく早いけどさ」

 三時間もガタガタ揺れる馬車に乗っていたらケツが痛くなること請け合いなので、まぁ走った方が良いか。問題は物凄い目立つこと間違いなしってとこなんだが。

「いっそ飛ぶか」

 どうせ目立つなら走っても飛んでも大差あるまい。

「えっ?」

 惚けた声を出すマールをお姫様抱っこして長距離転移でテレスコへと跳ぶ。

「わぁっ、も、もう跳んだんですか?」

「跳んだよ。これから飛ぶけど」

「へっ? あ、あれ? なんだか地面が遠のいてませんか?」

「はっはっは。行くぞー」

 風圧を減殺するためにウィンドシールドを展開し、一気に加速を始める。

「ひゃあああぁぁぁっ!? と、飛んでるぅぅぅぅっ!?」

「そう驚くなって、絶対に離したりしないから。下を見るのもいいけど、先を見てみ? あそこにあるのがガンディルじゃないか?」

「そ、そんなこと言われてもいきなり飛んだら怖いですよ!?」

 俺の首に手を回したマールがぎゅっと力一杯抱きついてくる。最近育ってきているお胸様が俺の頰に押し付けられて幸せである。なんまんだぶなんまんだぶ。

 下を見てみると道はテレスコとガンディルの間にある大きな丘というか小さな山を迂回するために大きく曲がりくねっている。歩いて一日かと思って身構えていたが、空を飛んで直線距離でいけばすぐについてしまいそうな距離しかなかった。

「ほら、速度を落とすからよく見てみろ。空を飛んだりする機会なんてあんまりありもんじゃないぞ」

「ちょ、ちょっと怖いですけど確かに良い眺めですね」

 恐る恐るといった感じでマールが眼下の景色を眺めている。確かに良い眺めだ。足元にはテレスコ、遠くにはガンディルの街が見えるし、街道を行く人々の姿もちらほらと見える。

「なんで山を切り開いて道を作らないんだろうな。 行き来がずっと楽になるだろうに」

「うーん、景観の問題、古くからの言い伝えか何かがあってできない、強力な魔物が住んでいる、整備費用と比べて費用対効果が低い、領主同士の仲が悪い……色々と理由は考えられますね」

「ああ、俺基準で考えてたわ。そうだよな、手作業であの山ぶち抜いて道を作るってなるとすげぇめんどくさそうだよな」

 そんなことをしなくても徒歩一日、馬車で三時間で移動できるならわざわざ山を切り拓いたりなんかしないか。

 実際に人力で木の生い茂っている山を崩そうとしたらまず藪を払って木を引っこ抜きながら土掘って、岩石が出てきたらどかすか砕くかして、出た土砂や岩石を廃棄して……気が遠くなってくるな。魔法があるこの世界なら土魔法の使い手が建設重機並みの働きをするんだろうけども。魔法使いを雇うのは高くつくらしいしな。

「タイシさん基準で物事を図ると色々ととんでもないことになりますね。この山を切り拓くのだって一時間もかからないんじゃないですか?」

「何の邪魔もなければそれくらいで済むだろうなぁ」

 土魔法使って山を割るか、純粋魔法を使って不要な部分を消し飛ばすか。休火山とかだったりしたらいきなりマグマが噴き出してきて大惨事とかもあるかもしれないけど。

 今思うと俺も随分人間離れしたもんだ。今自覚して急に怖くなってきたぞ。

「空の散歩はこれくらいにして降りるか。ガンディルの近くに降りるぞー」

「ぎゃー!? タイシさんゆっくり! ゆっくり降りてください! 落ちるぅー!」

「落ちてない落ちてない」

 騒ぐマールを宥めながらガンディルへと降下していく。


 ☆★☆


「身分証を提示してくれ」

「ああ……身分証、身分証ね」

 はい、すっかりこれ忘れてました。いや、身分証はあるよ? 冒険者カードがね?

 ただ、この身分証は勿論正式なものだからさ、俺の名前がモロに載ってるわけよ。カレンディル王国の大氾濫を跳ね返した勇者、タイシ=ミツバさんの名前がね?

 今回は完全にプライベートで来てるわけだし、ネームバリュー故の厄介ごとはあんまり嬉しくないわけだ。俺はマールの分の冒険者カードも受け取り、まとめて門番の兵士に渡す。冒険者カードを受け取った門番は一瞬目を見開き、俺達の顔をガン見してきた。

 俺とマールは人差し指を唇の前に立て、静かにするようにジェスチャーで伝える。門番がガクガクと首を縦に振るのを見てから俺は口を開く。

「今回はごく個人的な用事でこの街に観光に来たんだ。余計な厄介ごとはできるだけ避けたい。できるだけな。門番さんも余計な厄介ごとは抱えたくない、だろ?」

 困惑する門番に上官には俺達がこの街を訪れていることを報告しないように要請し、ついでに一番上等な宿を聞き出して何枚か銀貨を握らせておく。

 賄賂はまずいと困っていたが、良い宿を教えてくれた情報量で正当な対価だと言って押し付けておいた。

「タイシさんも小悪党っぷりが手慣れてますよね」

「小悪党ってなんか違わね?」

 確かに口止め料の意味も込めて多めに銀貨を握らせたが、情報に対して対価を払ったというのは建前ではあるが、別に嘘というわけでもない。もし咎められたとしても情報なんてのは時価だ。俺がそれだけの価値を見出したと 言えばそれまでである。

 若干ダーティな香りがするのは否定できないが。

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