第五十三話~嫁が不貞腐れたのでデートに誘いました~
大変お待たせしました。
三日連続で更新するでござる_(:3」∠)_
パルミアーノ雑貨店を後にした俺は次はどこに行こうかと少々考え込んだ。今の領都で他に見て回るところとなると、とりあえずの建設が終わった仮設住宅区、工事中の溜め池と運河、食料やその他資材を集積している集積場と、すぐ側に併設された作業場、後は領主館と俺達の邸宅――ああ、建設中の城壁外にある農地区画と訓練場もあるな。
うーん、そろそろ昼になるし領主館に行ってマール達と食事を取るか。その後で見回りを続けよう。昼時には他の嫁も集まってくるしね。
ふと我に帰ると俺の周りにちびっ子達が集まっていた。
半分はケモミミとか尻尾をはじめとした動物の特徴を持つ獣人の子供で、もう半分は様々な形状や模様の羽を背に持つ子供達だ。手のひらに乗るサイズから獣人の子供達と変わらないサイズまで様々な見た目の子達がいる。
後者のちびっ子達は妖精族だ。
本来の大きさは手のひらに乗っかるサイズだが、最大で身長140cmくらいまで大きくなれるらしい。ほぼ全員が複数属性の魔法を操る魔法使いで、かなりすばしっこく飛び回ることができる。それと透明化する能力がある。ガチの光学迷彩である。羨ましい。
そのすばしっこさと魔法を操る能力、透明化の能力を駆使して樹海で生き残ってきたらしい。魔物としても食いでが無い上に魔法も操る妖精族はあまり相手にしたいと思わないらしく、襲われることも殆ど無いそうな。
「にーちゃん今日はどかーんてしないの?」
「今日は予定ねぇなぁ。なんだ、どかーん見たいのか」
「「「「みたい!」」」」
ちなみにどかーんというのは俺が魔法で運河やら溜め池やらを作ることである。極大爆破でクレーターを量産したり魔砲で樹海を薙ぎ払ったりするのが見ていて楽しいらしい。
「でもな、どかーんするとそれだけそこにいる植物とか虫とか動物とかな、魔物以外の生き物も一緒にどかーんしちゃうんだよ。そんなの可哀想だろ? だから無意味にどかーんするのはあんまり良くないんだ」
俺の言葉にちびっ子達が不満げな表情をしたり、悲しい表情をしたりする。
思えば今のこの領都には子供が遊べる場所があまりないな。有り余る土地と水遊びできる水場はあるが、樹海は魔物が強すぎて危険だから子供達だけでは入れない。作業場や城壁は色々と危ないし、大人達に追い払われてしまう。
ふむ、昼まではまだ少しばかり時間があるな。
「よーし、パパ子供達の遊び場作っちゃうぞー」
俺の言葉に首を傾げる子供達を引き連れて住宅区画予定地へと移動する。
ここは仮設住宅区画からも近いし、見通しも良いので大人の目も届きやすい。立地としては最適と言えるだろう。
「ここを公園とする!」
「にーちゃん、こーえんってなに?」
「お前達のようなちびっこが思いっきり遊べる場所だ。ちょっと離れてろ」
そう言って俺は地面に手をつき、魔力を練って流し込む。そうすると俺の思い通りにズズズズ……と重い音を立てて真っ白い巨大な岩が地面からせり出してきた。高さは3メートル、横幅は20メートル近いだろう。
「こんなもんでいいかな」
ちびっこどもが後ろでキャッキャと騒いでいるのを聞きながら、俺は土魔法で岩を削り、くり抜いて階段や滑り台、斜面板などを複合した大型遊具を作り上げる。
他にも平均台や雲梯、鉄棒、ストレージからロープと木材を取り出してブランコなども作る。遊び方を教えてやるとちびっ子どもが思い思いに遊び始めた。妖精族は一緒に遊んでいるやつもいるが、単にニコニコしながら遊ぶちびっ子達を眺めている奴もいる。恐らく妖精族の中でも歳をとっている奴らだろう。見た目は変わらないから解りづらい。
「怪我に気をつけて遊べよー。あと見守ってる奴らはもし怪我したら面倒見てやってくれな」
「「「はーい!」」」
ちびっ子達の返事を聞いた俺はその場を後にする。滑車があればターザンロープも作れたんだがな。とりあえず重篤な怪我の防止用に遊具の周りの地面は柔らかい砂にしておいた。
まぁ大人の妖精族もいるし大丈夫だとは思うが、出来ることはしておいて損は無いだろう。それでも怪我する子供はまぁ居るだろうが、そこまでは知らん。何が危険で何が危険でないか怪我をして覚えるのも勉強だろう。
「もし怪我したらマールの作った超絶マズい魔法薬を飲んで治してもらうからな。気をつけて遊ぶように」
「「「はい」」」
めっちゃはしゃいでたちびっ子達が凄い神妙な顔で頷いた。流石マールの薬。効果は抜群だ! この数週間でマールの回復薬のお世話になった住人の数はそれなりにいる。どの住人も五体満足だが、魔法薬が入っているようなガラスの瓶や魔法薬っぽい液体を見ると冷静さを欠くようになったそうだ。不思議だね。
☆★☆
「ところでタイシさん。折角整理した区画に計画外の建造物建てましたか?」
「建ててない」
「そうですかありがとう。子供達の憩い場凄いですね」
「それほどでもな――あ、勝手に建ててごめんなさい酢の物追加らめぇぇぇぇっ」
俺の目の前に海藻の酢の物が山盛りに盛られた皿が置かれる。なんということだ。俺の幸せな昼食タイムが死んでしまった……。基本的に好き嫌いは少ないんだけども、酢の物は駄目なんだよ。
「まったく……しっかりと計画を立てて区画を指定してるんですから、あまり勝手をしちゃダメですよ。それとその酢の物は残さず食べてくださいね」
「はい……」
やろうと思えば食べたふりをしてストレージに放り込むという手も使えるのだが、それをすると作ったデボラに失礼なので涙を呑んで食べることにする。
この場にいるのはマール、メルキナにクスハに俺の四人だ。フラムは私兵部隊に混ざって朝から周辺の魔物狩りに出征中。カレンとシェリーはお弁当を持って城壁外の農耕地で魔法を使って土いじり。シータンは外壁の炊き出しを手伝っている。ティナは領主館でミスクロニア王国とカレンディル王国から出向してきている人達と昼食。クマさんことデボラも一緒だ。
本日の昼食メニューは鶏卵とマッスルパイソンの蛇肉を使ったスープと、マッドボアのステーキ、海藻の酢の物に朝焼いたパンをトーストにしたものである。
鶏卵は領都開発初期に導入したもので、城壁内に鶏舎を作って管理している。朝産んだばかりの新鮮な卵だ。マッスルパイソンとマッドボアは周辺で狩られた魔物で、マッスルパイソンは全長15メートル以上の大蛇だ。
細い見た目以上に力が強く、人間くらいなら絞め潰す程の力がある。肉は意外と柔らかく、滋味溢れるので恐らく魔力で身体強化をしていると思われる。
マッドボアは牛くらいの大きさがあるでかいイノシシである。狂った(mad)イノシシではなく泥(mud)イノシシで、畜生の分際で土魔法を操って泥弾を放ってきたり、相手の逃げ道を泥状にして逃走を妨害したり、逆に自分が逃走する際に地面を泥状にして追跡者の妨害をしたりする。こいつも肉が美味い。
さて、現実逃避をやめて視線でマールに容赦を求めてみるが、無言で首を振られた。これはマールさん激おこですわ。観念して酢の物に箸をつけようとしたところで横から伸びてきたスプーンとフォークがごっそりと山盛りの酢の物を取って行った。
「別に良いじゃない、土地は余ってるんだし。子供達のために良かれと思って作ったのに、罰するなんてタイシが可哀想よ」
そう言っていつの間にか俺の隣に座っていたメルキナが俺にニコリと微笑む。
最近のメルキナは俺に対して終始こんな感じだ。もう徹底的に甘やかしてくる。母性が溢れすぎて眩しいレベルだ。出会った当初のツンデレ具合とか夢か何かだったんじゃないかと思うくらいにデレデレの甘々である。
「むー、ズルい! 私だってタイシさんを甘やかしたいのに! メルキナさんはずるいです!」
「マーリエルのやり方が稚拙なのよ。諫言を呈すだけでいいでしょう? 設置した意図も、設置した場所もちゃんと考えてあるみたいじゃない。こんな嫌がらせみたいな罰を与えようとするのが悪いわ」
「ぐぬぬ……ッ」
和気藹々とした雰囲気であったはずの食堂が険悪な雰囲気に塗り潰されていく。
「あいたぁ!?」
ここはひとつ俺がガツンと言うべきか、と声を上げようとしたところで。メルキナが悲鳴をあげた。
「お主が言うことも尤もじゃが、お主はお主で大人気ないわ。嬢が未熟な小娘なのは確かじゃが、それをわざわざ煽るお主も同レベルじゃ、たわけ」
いつの間にか音もなくメルキナに近寄っていたクスハがゲンコツを落としたらしい。序でに俺の皿に盛られた酢の物を更に半分自分の皿に移している。
「主殿を慕うのは当然じゃが、それで我らがいがみあって何とする」
「むー、だって可哀想じゃなーい。良かれと思って皆の為にやった事を責めて虐めるなんて酷いわ。わざわざ嫌いなものを山盛りにするのはやり過ぎよ」
「お主の言うことも尤もと言ったじゃろう。妾もそれには同意見じゃ。しかし、主殿が横紙破りをしたのもまた事実。それに対してちゃんと物申すのは伴侶たる者の務めじゃろう。それを悪し様に言って嬢を煽るのは大人気ないというものじゃぞ」
クスハはそう言って俺の皿から海藻の酢の物を一口分箸で取り、俺の口元に持ってくる。酢の匂いがツンと俺の鼻を突いた。
「それもこれも主殿が横紙破りをして嬢を怒らせたのが悪い。やったこと自体は良い事じゃし、ちゃんと考えてやったんじゃろう。だが主たる者が掟を破れば掟が掟として機能しなくなる。守られぬ掟に意味はないのじゃ。わかるな?」
「はい」
クスハにあーんされて酢の物を食べる。酸っぱくてやっぱり苦手だった。
「嬢に言うことは?」
「悪かった。いつもごめんな。それと注意してくれてありがとう。今度はちゃんと相談してからやるよ。それとメルキナも庇ってくれてありがとうな」
「うむ、主殿は素直で可愛いのう」
クスハが俺の頭を抱き寄せて頭を撫でてくる。お胸がふかふかですが、なんですかこの未だ嘗てない甘やかされっぷりは。何か企んでいるとかじゃないですかね、これ。
「ところでなんで俺はこんなに甘やかされているんだ?」
「これは異な事を言う。女房が亭主を甘やかすのに理由がいるのか?」
「いや、んなことはないと思うが……」
艶然とした表情で間近から見つめられて思わず顔を逸らす。クスハは下半身こそ蜘蛛みたいになっているが、そこから上は本当に美人なのである。艶のある黒髪はフラムに勝るとも劣らない輝きを放っているし、ふっくらとした唇や整った目鼻立ちもまるで名工の手がけた芸術作品のようだ。まぁ、普通の目の他に宝石みたいな赤い複眼が額にあるんだけども。
何が言いたいかというと、落ち着いて見つめ合うのが憚られるくらい美人なのだ。
「主殿が照れておる。夜は野獣なのに昼間は可愛いのう」
そう言いながらクスハはチラリとマールに視線を向ける。まるで挑発でもするかのよう――というか完全に挑発してますわ。これ。
しかしマールはそれに反応せず、知りませんと言わんばかりに溜め息を吐いて椅子に座り、チビチビとスープを口に運び始めた。あ、これアカンやつや。完全に不貞腐れてるぞこれ。
ここ二週間程を振り返ってみると、開発やら増えた嫁やらに対応するためにマールと接する時間が減っていたように思える。カレンやシェリーやシータンには流石に手を出してはいないが、クスハやメルキナ、デボラと早く打ち解けるために彼女らと多めに時間を取っていた感は否めない。
俺を抱擁しているクスハの手をやんわりと解き、席を立ってマールの隣の席に座る。ちらりとマールがこちらを見てくるが、直ぐに視線を逸らしてしまう。
「マールさん」
「なんですか」
「怒ってますか」
「怒ってません」
「そうですかありがとう。視線逸らし凄いですね」
「それほどでもありません」
マールはすました顔でスープを口に運び続ける。
ちょっとあれですよ? 私の悪戯心がそのすました顔を吹き飛ばしてやるって言ってますよ? さて、どうしてやるか。よし、ここは不意をついていくスタイルで行こう。
「マールさん」
「なんですか」
「デートしよう。明日から二泊三日くらいで」
「そうですか……え?」
俺の言葉を流しかけたマールが凄い勢いで隣に座っている俺の顔を凝視してくる。鳩が豆鉄砲食らったような顔とはまさにこのことか。目がまん丸だぜ。
「いやいやいや! 無理ですよ、やらなきゃいけないことが山積みですし……」
「色々と遅れが出ても俺が馬車馬のように働けばすぐに取り返せる。三日くらい何てことないさ。それよりも俺はマールを大切にしたいんだ。な? 頼むよ」
困った顔をするマールから視線を外し、クスハとメルキナにチラリと視線を送る。
「うむ、主殿と嬢の抜けた穴は妾達が埋めてみせよう。メルキナも協力してくれるじゃろうし、な?」
「……ま、仕方ないわね。ここは正妻に譲りましょうか」
俺の視線の意味を正しく汲んでくれたクスハがメルキナを上手く窘め、理想通りに事を運んでくれる。本当にいい女だ。これで夜の大暴れがなければ最高なんだけどな。
「というわけで決定。マールは今日の仕事は早めに切り上げて明日の用意をすること。いいな?」
「えっ、えぇっ!? いや、あの」
「よし、そうと決まれば俺も用意しないとな。ちょっと各方面に話を通してくるわ」
俺の分の昼食をストレージに収納し、さっさとその場から退散する。酢の物の入った皿はついうっかり収納し忘れた。ついうっかりだから許して欲しい。ついうっかりだから。
☆★☆
「それで今日はあっちこっち飛び回ってたわけね」
「うむ。そういうわけですまんが明日から二泊三日で空ける」
あの後はそこそこ大変だった。
まずは時間を見てティナに接触し、なんとか許可を得た。
交換条件として一ヶ月以内にマールと同様のお泊まりデートを要求された。こちらとしてもそれは望むところだし、今回一番負担が大きいのは間違いなくティナなので即決でOKを出しておいた。
次に大樹海の中で魔物の掃討を行っていた私兵部隊の直上にダイナミックにエントリーしてフラム以外の私兵を魔物ごと吹き飛ばし、邪魔者を排除した上でフラムから許可を得た。フラムが混乱している間に俺がいない間は出撃を控えることも約束させた。
あと、怒り狂ったソーン他私兵部隊の隊員達に本気にかなり近い殺意を持って攻撃された。支給した防具の性能チェックがてらちょっとしたお茶目をしただけなのに。やはりあの『ごっめーん☆ テヘペロ☆』が良くなかったのだろうか。場を和ませるつもりだったんだけどなぁ、ハハハ。
樹海から帰ってきたら郊外にいるカレンとシェリー、城壁にいたシータンを回収して屋敷に帰還。カレンにかなり駄々を捏ねられたが、粘り強く交渉した結果、夕食後に一緒にお風呂に入って洗いっこをするという条件で妥結した。
なんとか理性は保ったが、獣人三人娘による攻勢は日々激しさを増している。不屈の心で立ち向かいたいとは思うが、俺の鉄壁の理性が突き崩される日はそう遠くない予感がする。
「で、私は一番最後?」
「デボラなら許してくれるかなって。こうして夜にゆっくり話せるのは決まってたしな」
今日の夜のお相手はデボラだというのは決まっていた。嫁達の協議により、俺の毎晩の夜伽の相手はローテーションが組まれているのである。
基本はマールから順にフラム、ティナ、クスハ、メルキナ、デボラの順番でローテーションが組まれており、不定期に『お休み』の日が入る。
お休みの日は俺がお相手を決めるのだ。ぐひょひょ。
ああ、デボラとの夜の生活に関しては心配のしすぎだったと言っておく。確かに顔とか手足はモフモフでクマそのものなのだが、意外とイケました。何と言ってもおっぱい様は普通の人間とそんなに変わらないし、身体の方は毛も薄くてちゃんと色々柔らかい。
俺より身体が大きいから、抱き締められると包容力が凄いです。幼児退行しそう。
「仕方ないわね……留守はちゃんと守っておくから、しっかりと羽を伸ばしてきなさい。マールちゃんはちょっと無理し過ぎだからね」
「ん、やっぱそう思うか」
「まぁ、そうね。なんというか、貴方を無理に立てすぎというかなんというか……上手く言えないけど、自分よりも貴方を大事にし過ぎているみたいに感じるわね。もう少しマールちゃんは我儘になっても良いと思ってるわ。私が言うのも変な話だけどね」
デボラの言わんとするところは俺もわかる。なんというかマールは『理想の正妻』であろうと無理をしているように感じるのだ。
「うん、それに乗っかってやりたい放題の俺だよね。ははは……」
「それは私としては何とも言えないわねぇ……そのお陰でこうしていられるわけだし」
デボラが苦笑しながら子供をあやすかのように俺の頭をその豊満な胸に掻き抱く。
あー、このボリュームはアカン。アカンて。自己嫌悪に陥ってだだ下がりだったテンションが上向いてくる。おっぱいで元気になってしまうのは男の性だね。
「あんっ。もう、随分でっかい赤ちゃんね?」
うん。俺が基本的に駄目人間なのは今に始まったことじゃない。アニメや漫画や小説の主人公じゃあるまいし、清廉潔白な完璧超人になんてなれっこないんだよな。元々はただの三十路近いおっさんだぞ。しかもモテなんてのとは無縁の。溺れるのも仕方ない。だって男の子だもの。
それを自覚した上で俺の出来る範囲で出来ることをやっていこう。まずは目の前のおっぱいを攻略することに専念すべきだ。一意専心、じっくりねっとりと。
いつも8000〜10000文字くらいなんですが、試験的に6000文字前後にしてみました。
どうですかね?_(:3」∠)_