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29歳独身は異世界で自由に生きた…かった。  作者: リュート
目指せ、モフモフ王国。
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第四十九話~第一回開発会議を開始しました~

書き溜めしてました!

サボってません、サボってませんよ。腰が痛かったんです。

あっ、はいすみません踏んでください_(:3」∠)_

「これで良し」


 最後に仕上げたデボラの短剣――というにはあまりに見た目が分厚く重そうな剣鉈を仕上げて一つ息を吐く。

 ドラゴン革の鞘に収まった分厚い剣鉈の刀身には精緻な装飾を彫り込んである。鞘に収まったままでは一見無骨だが、抜けば白銀に輝く刀身と彫り込んだ装飾が映える逸品だ。捻りが無いが、これにも不朽の魔法刻印を施してある。ちなみに柄はしっかりと艶が出るまで磨いた木材だ。

 見た目無骨、中身乙女とか正にデボラって感じでピッタリだと思うんだがどうだろうか。

 フラムの次に作ったティナの短剣には魔法の発動体としての機能と鞘に収めたまま対象に触れさせることによって傷を回復し、浄化を行う魔法刻印を施した。無論普通に鞘から抜いて斬りつければ斬れる。

 鞘に収めないと効果が発揮されない理由は単純で、刀身と柄に彫り込んだ魔法刻印だけでは俺が満足できるだけの性能を発揮できなかったからである。

 ティナの短剣は鞘もミスリルで拵えてあり、魔法刻印が施されている。鞘に収めることによって鞘側の魔法刻印と短剣側の魔法刻印が接続され、一つとなることによって初めて効果が発揮されるのだ。

 この魔法刻印というのは以前クロスロード騎士団のトワニング団長が俺を追跡するために使った『秘印』と技術体系としてはかなり近い。というか魔法刻印を元に単純化したものが秘印だと思う。大幅にスペックダウンしてるけど。

 以前調べた所によるとこの魔法刻印というものは廃れて久しいものであるようだ。それもその筈で、ちょっとした構文の間違いで動作不良や暴発を起こしやがるのである。この辺は元の世界のプログラム言語に似ているかもしれない。

 刻印そのものも結構複雑で、彫るのに神経を使う。使いこなすのには知識だけでなく高い加工技術が必要であるため、失伝するのも止むなしといったところか。高精度の工作機械でもあればなんとかなるかもしれんけど。

 俺の場合は鍛冶スキル5とインフレしたステータスがあるからなんとでもなるんだけどな。見よ、この鍛造機械も真っ青の超高速ハンマー打ちを。マールに『手の動きが気持ち悪いです』って引かれるレベルなんだぞ!


 あれ、目から汗が。


 うむ、閑話休題。他の短剣の解説に移ろう。

 クスハの短剣は実の所一番の難産だった。デザインは守り刀を意識して鍔の無い短刀型ってことですぐ決まったんだが、追加効果を何にするかで相当悩んだ。

 結果、魔法の発動体としての機能と、納刀したまま魔力を篭める事によって強力な魔法障壁を展開できる機能をつけた。そこそこに魔力を食うが、かなり強力な魔法障壁を展開できる。クスハは魔力も高そうだし使いこなせるだろう。

 羊娘のカレンと狐娘のシェリーには機能的にお揃い、デザインは別で作らせてもらった。カレンのはシンプルなダガー型、シェリーにはクスハと似たような短刀型にした。

 二人は魔法を使うので、魔法の発動体としての機能を最大限に追い求めた品にしてある。柄の芯や装飾に極限まで精錬して真っ青になったクリスタルを併用することによって少ない魔力で高出力の魔法を使えるようにしてみたのだ。

 試しにファイアボルトを撃ってみたらファイアボルトというかファイヤレーザーになっていた。何かヤバいものを作ってしまった気がするので、こいつを初めて使うときは必ず俺が傍につくようにしようと心に誓った。

 あとはシータンとメルキナか。

 シータンは全くもって戦うとかそういうイメージが湧かないので、これもまたクスハとは違う意味で難航した。結局は普段使いも気兼ねなくできるように不朽の魔法刻印を施すことにしたけど。

 デザインはシンプルな諸刃のダガータイプだ。片側の刃は鋭利に、反対側の刃はノコギリ状にしてある。肉とかの柔らかいものを切るときは鋭利な方を、ロープや骨、木の枝とかを切る時にはノコギリ状の方を使うというように一本で二種類の使い方ができるように工夫した。

 はい、御察しの通りどっちの面を使っても普通の鉄剣程度ならスパスパ斬れます。意味ないですねこれ。デザインでしかないよ。

 メルキナの短剣は性能的にはマールの短剣の上位互換品のようなものだ。風属性を付与し、短剣の重量を軽減、使用者の敏捷性を向上、ついでに魔法の発動体にしてある。

 後発の作品の方が性能が良くなるというのは致し方ない。ただ、こういうものは性能ではなく贈った順番とか経緯が大切だろう。性能が一番低かろうがなんだろうが、一番はマールなのだ。

 まぁ、マールが今持っているミスリルの短剣も一度打ち直している物であるし、マールが希望すれば再び打ち直すという方法もあるだろう。一度も二度も同じと言えば同じだろうし。


「いや、久々にやるとなかなか疲れるな」


 ぐりぐりと肩と首を回しながらしっかりと鞘に収められたミスリルの短剣をストレージに回収していく。後は機を見てサクサクと渡していくとしよう。差し当たってはフラムとティナにだな。

 ああくそ、何故か気が重い。まさかこれがマリッジブルーとかいうものなんだろうか。


☆★☆


「フラムは遅くなってすまなかった。ティナもどうか受け取って欲しい。なんというか、俺の気持ちというか覚悟というか、そういうものだ」


 午後になって帰ってきたマール達を呼び止め、屋敷のリビングで早速午前中に打ったミスリルの短剣をフラムとティナに渡した。ムードとかそういうのはガン無視で、リビングに入るなりすぐに手渡した。

 だってこんな時にどんな話や顔をすればいいのかわからないんだよ。


「……ありがとうございます」

「あなた、ありがとうございます」


 それぞれフラム、ティナの言葉である。

 フラムはなんか泣きそうなくらい喜んでるし、ティナはニコニコと満面の笑みだ。というか俺の呼び方それで固定なのね。


「あー、とりあえず座ろう」


 言葉通りとりあえず席に着き、メイベルを呼んでお茶を用意してもらう。


「やっとですねー。てっきり忘れてるのかと思ってました」


 マールはやれやれといった表情で肩を竦めて見せた。すいません忘れてました。だって仕方ないじゃない、こっちの慣習的なものにはまだ不慣れなんだよ。


「いつだったかフラムさんに護身用に剣を持たせてましたよね? いっそミスリルの短剣にすれば良いのにって思ってましたよ。それから後は全然渡す気配も無かったですし」

「マール様、その辺りでどうか」

「むぅ……まぁタイシさんはフラムさんをデリケートに扱ってましたからね。主人の立場でそんなことしたら強制になるとかそんなことを考えていたんでしょうけど、やっぱり早く渡してあげれば良かったのに」

「マール様」

「はいはいわかりましたー」


 珍しくお小言を行ってくるマールをフラムが諌めてくれる。

 なんというか背中にじわりと汗が噴き出してきた。

 言えない、全く考えついてなかっただけだなんて絶対に言えない。これは墓まで持っていくとしよう。知られたら今渡した短剣で速攻で刺されそうな案件である。


「一休みしたらクスハのところに行くぞ。調べてきてくれた件に関してはクスハのところを経由して獣人の村に行った時に話してくれ」

「そうですねー、一度に説明した方が効率的ですし」


☆★☆


「ふん? 物騒なしきたりじゃの。でもまぁ、うむ。そういうことなら貢物を貰ってやるのは吝かではないぞ、うむ。なかなか美しい品ではないか」


 口ではこんなこと言ってますが隠しきれない喜びの感情が漏れてますよ五百年乙女さん。ほら、そのウキウキした感じでステップ踏んでる後ろ足のうちの二本とか、隠そうとして隠れてない口元の笑みとか。


「そうやって素直にならないから五百年経ってもおぼこなんですよ」

「嬢は結構辛辣じゃよな」


 マールの一言にクスハが口元を引き攣らせる。俺としては見え見えすぎて逆に可愛く思えるんだがな。


「さぁタイシさん、次に行きましょう。次です次!」


 なんかマールさんの機嫌が悪い。


☆★☆


「うぇるかーむ」


 微妙に機嫌の悪いマールさんに急かされて早々にアルケニアの里を後にした俺達は、獣人の村に着くなりいつも通りの眠たげな表情をしたカレンに出迎えられた。

 しかし問題はその場所というか格好だ。

 あれだ、これはあれだ。海水浴場の砂浜でライフセーバーの人が座ってるようなあの脚立みたいな高い椅子。土魔法で作ったらしいそれに座ってお出迎えである。

 しかも村の出入り口、道のど真ん中である。

 決して丈が長いわけではないワンピースの裾からスラリと伸びた足が妙に艶かしい。というか今気づいたんですけど足、蹄なんですね。顔は人間、羊耳に角、手は人間、足首から先は蹄……意見は別れるだろうがケモ度は2.5から3相当と言ったところだろう。

 そしてわざとらしく組み替えられる足、そのふともも、その奥に視線が誘導され……はっ!?


「待て、慌てるな、これは孔明の罠だ」

「やはり少女趣味でした!」

「違うロリコンじゃない! ロリも好きなだけだ!」

「私達相手にもちゃんと反応してくれますからね」

「別に孕めるなら歳とかどうでも良いじゃろ」

「流石五百年乙女は言うことが違いますね!」

「よし、その喧嘩買ったぞ小娘ェ!」


 正にカオス。眠たげな表情のままニヤニヤと俺を見下ろすカレン、俺の横で真面目な表情のまま頷いているフラム。ニコニコしながら俺の脇腹を抓っているティナ。そしてキシャーと奇声を上げながら取っ組み合いを始めるマールとクスハ。というかティナさん痛いんでそろそろ無言で抓り続けるの止めて頂けませんかね。


「何やってんだ」


 いつの間にか現れていたソーンが呆れたような声を上げる。こいつのケモ度は5相当。全身毛むくじゃらで顔もほぼ犬――本人曰く狼。ただし人間みたいに頭髪がある。足は一応獣足らしく、何度か本物の犬――じゃなくて狼のように四つ足で走る姿を見たことがある。


「なんだよ、ジロジロ見て」

「やっぱお前犬だよな」

「狼だ!」


 いつものように牙を剥いて怒ったので骨つき肉を叩き込んでおく。なんか仰向けに倒れて悶絶しているが気にしてはいけない。あれ、ティナさんなんでそんな物欲しそうな顔をしてらっしゃるんですか。さっきお昼ご飯食べたじゃないですか。

 とはいえこのまま脇腹を抓られているのも痛いので干し肉を一欠片ティナさんにあーんしてあげました。なんか嬉しそうにもぐもぐしてますね。脇腹も解放されました、やったね。

 しかしティナは実は腹ペコキャラだったんだろうか。いや。冒険者っぽいというか骨つき肉とか干し肉とかこういう粗野な食物に興味があるだけかな。ジャンクフードマニアみたいな。

 むむ、これはティナにもちゃんと運動をさせるべきか。いや、別に子供じゃないんだから自分のコンディション管理くらい自分で……いや、歳を考えると危ないのか?

 え? ティナの年齢は幾つかって? レディの年齢を尋ねるなんてそんな無粋な真似をするわけにはいかないじゃないかHAHAHA……俺より年下だよ、うん。元々の年齢から考えると今の関係が大変危険な香りがするのは否めない。認めよう。

 カレンやシェリー、シータンは? うむ、危険ってレベルじゃないな。

 だが手を出さなければいいのだ、俺の鋼の意思で。


 豆腐より脆いような気がしないでもないけど。


「ちなみに私は半年前に初物が来てる。ちゃんと妻の役目を果たせる」

「駄目です! 最初は絶対に私です!」

「そんなものは天からの授かり物であろうが。やることをやっていれば後は運じゃろ?」

「私とティナとフラムさんは魔法で止めてるからまだ出来ないんですよ!」


 流石のマールも単純な取っ組み合いではクスハに敵わなかったらしく、糸で梱包されてミノムシのようにされて村の入り口の門に吊るされている。マールさんの貴重な敗北シーンである。

 すっかり忘れていたけどマール達には避妊の魔法がかかっているんだった。お陰で月のモノが無いし、望まぬ妊娠をする事もない。

 街や村など文明のある所ではかなり普及率が高い魔法であるらしいが、逆に言えばその恩恵の無い未開の地に住んでいたクスハやカレン、シェリー達はそういった魔法を使っていないわけだ。というかクスハにその魔法効くんだろうか?

 一応貴族になって領地を得た以上、後継者の問題も出てくる。第一夫人であるマールを差し置いて先に他の嫁との間に子供が出来てしまうのは喜ばしくないことになるのかね。

 うーむ、養っていく自信はあるけどいきなり子供とか言われても覚悟が……いや、無いわけじゃないけども。普通はやることやってれば出来るものだしね。便利な魔法があるせいで忘れかけていたが、初めてマールと致した時に、というかそれが発覚した時に覚悟は完了している。

 その後で避妊魔法の存在を知って肩透かし食らったけど。


「ならとっとと解除してくるんじゃな。さもなくば先に我らが孕んでしまうぞ」


 俺が懊悩している間にもクスハは余裕の表情でマールを煽っていく。


「ふふふ、そんなこと言ってますが覚悟は完了しているんですか? タイシさんは初めてでもお構いなしに五回以上もぐぐ」

「やめなさい。やめてください」


 ミノムシマールさんの口を塞いで赤裸々な告白を食い止める。そこまで明け透けなのはどうかと思うよ、うん。

 しかしまぁ、マールを含めて今後、無理に嫁を冒険に連れ出して危険な目に遭わせる必要もない。地位も土地も金もコネも力も手に入れたんだからな。

 後は過ごしやすい環境を作りながら外敵から身内を守っていくだけだ。子供を作って余生をのんべんだらりと過ごしても良いんじゃないだろうか。

 冒険や旅は一人で時間を見つけてやってもいいしな。転移魔法もあるし日帰り冒険者稼業も悪くないだろう。


「じゃれるのはここまで。サクッと色々片付けていくぞ」


 そのためにもまずはしっかりと拠点を構築しないとな。


☆★☆


「はい、では第一回新天地への移住及び開発会議をはじめまーす。司会進行は私マールが務めます! 拍手!」


 突然の拍手要請だったが、意外と揃った調子で拍手が鳴る。

 場所は前回と同じく獣人の村の食料庫近くの広場である。簡素な木のテーブルを幾つか寄せて大きな卓を作り、そこに俺やマール、クスハやソーン、獣人の村の出来る馬ことヤマトや熊、じゃなくて嫁のデボラなど獣人の村の顔役とでも言うべき面子が席に着いている。

 ティナやフラム、カレンにシェリーを始めとしてその他の村人達も手を離せない仕事をしている人以外は広場に集まっている。やはり今後の自分達の生活がかかっているだけに関心は高いようだ。


「まずは現状の報告からですね。昨日、タイシさんの活躍によって相当な面積の土地の確保に成功しました。元々は不死者が蔓延る地だったそうですが、タイシさんがそれを排除、土地も浄化済みで今は簡易的な対魔物結界を張って現地を確保しているとのことです」

「どれくらいの広さなんだ?」

「昨日の今日なので正確な測量などはまだですが、タイシさんの話によるとクロスロードの街とほぼ同等程度の更地を確保しているとのことです。クロスロードの街の人口が約一万人だったはずなので、この村とアルケニアの里の全員が移住した上に農地を十分確保したとしてもまだ大幅に土地が余るでしょう」


 ソーンの質問に淀みなくマールが答える。

 正確な人数はわからんが、この獣人の村とアルケニアの里を合わせても二百人いるかどうかというところだろう。農地は別に確保するとしても、本来一万人が暮らせる土地というのは広すぎるくらいだろう。


「水源はあるのですか? 樹海のど真ん中という話ですが」

「掘ったら出るとは思うが、樹海で手に入れた蛇竜玉を使って水を生成する魔導具を作成する予定だ。最初は井戸を利用する形になるが、最終的にはその魔導具で上下水道と農業用水を確保する」


 そう言ってストレージから蛇竜玉を取り出し、皆に見えるように掲げて見せる。おー、と感心したような声が漏れ聞こえてくる。ふふ、解るかこの偉大さが。


「で、それ凄いのか?」

「凄いよ、超凄いんだよ! どういうわけか魔力が湯水のように湧いてくる超素敵なアイテムだよ! これを動力源にすれば夢の半永久機関が出来るんだよ!」


 全然伝わってなかった。そのものズバリ魔導具作成ってスキルが確かあったはずなので、取得して凄いのを作り上げてギャフンと言わせてやろうと思う。


「はい、水源についてはこういうことになっています。今後の大まかな行程としては――」


 悔しがる俺をよそにマールがスラスラと今後のおおまかな行程を説明していく。まずは作業小屋の作成や井戸掘りなどの初期準備、測量や区分けなどの開発準備、家屋や各施設、城壁の建設や道の敷設、畑の開墾、インフラ整備等の本開発、それに並行してミスクロニア王国とカレンディル王国間の交易路の開発、各種法整備、有事に備えた戦力の編成、各種人材の招聘に商人の誘致など領地としての発展を目指していく。


「目下の目標はミスクロニア王国とカレンディル王国を結ぶ交易路の開通ですね。最低限そこまではやらなきゃいけませんよ!」

「お、おう」


 見る限り、話についていけているのは獣人の村のメンツだとヤマトとパメラ、あと意外と駄エルフことメルキナ辺りか。カレンもなんとなくわかってそうだが……肉食系獣人はどうもこういう話は向かないらしい。マルクスは見た目じゃわからんってか起きてるのかあいつ。あと狐と狸系獣人はわかってるっぽい。

 フラムとティナ、クスハは問題なく理解できているようだ。


「次は樹海の知的種族との付き合いですね。現地でアンティール族と名乗る知的種族とタイシさんが接触したようです。クスハさん、現地には他の知的種族は近づかないという話でしたが、その辺りどうでしょうか?」

「妾達が樹海に棲み着いてから接触したことのない者達じゃな。言っていたようにあの付近は不死者どもが跳梁跋扈する場所であったから、それが判明してからはロクに近づいておらんかった。我らがその情報を伝えた故、我らと交流のある他の種族の者達も同様じゃろうから、恐らくその者達のことは知らぬじゃろうな。前情報と相違した件に関しては謝るしか無いの、済まぬ」

「ああいえ、責めているわけではないので! もし何かご存知だったらと思ったんですよ。ちなみにそのアンティール族に関してはカレンディル王国の首都でも色々と調べてみましたが、それらしい情報は見つかりませんでした」

「情報が全く無いというのは不気味ですね」


 そう言ってフラムが眉を顰める。それに関しては俺も同意だ。

 つか、あいつら蟻だからなぁ……実は共存できるかどうかはかなり不安だったりする。


「一応話し合いの場は設けてあるから、あとは実際に話し合ってみるしかないな。共存できるならよし、出来なさそうならその時は――仕方ないな」


 別に俺は博愛主義を掲げて国造りを試みているわけではない。話し合って共存出来る相手なら良い。相互互恵関係を作り出して共に歩んでいけば良い。

 共存とまでは行かずとも、不干渉を貫くというのならそれも良い。利害が対立しない限りはこちらからも関わらなければ良いし、外交努力を重ねれば互恵関係を築けるかもしれない。

 話し合いが通じない、あるいは話し合いができても共存ができないと判断した相手に関しては駄目だ。極端だとは思うが、綺麗サッパリ消えてもらう。

 俺は領地にマールをはじめとした嫁達を住まわせるつもりだし、領地に住む人々は俺にとって守るべき領民である。そういった俺の守るべき人々に危害を加える可能性のある勢力の存在を領地の近くに許すわけにはいかない。


「本音を言えば味方に引き入れたい相手ではある。蟻だけに土木工事はお手の物だろうし、数が多いなら戦力としても期待できる。これから街道を作ったりするから、今言ったどちらの面でも大きな力になるだろう」


 俺の言葉に一同も納得したように頷いている。


「ではアンティール族に対してはそういう方針で行きましょう。他の種族についてはクスハさん、教えてくれますか?」


「うむ。ではざっくりとじゃが説明するかの」


 クスハが語ったのはアルケニアと交流している他の四種族に関してだ。

 まず、一つ目は妖精一族。

 大きさはまちまちだが、大体手に乗るくらいの大きさから大きくても人間の赤ん坊くらいまでの大きさであるらしい。概ね若々しい男女の姿をしており、個体によって形などは多少異なるが透明な羽を背中に持っていて、自由自在に飛び回るのだそうな。

 全体的に天真爛漫で純真な者が多く、歌や踊りを好む。戦闘能力は低いものの、隠れるのが得意で樹海にある花畑やその近くの樹上に住んでいるのだそうだ。稀にアルケニアが獲物を捕らえるために張った蜘蛛の巣にかかることがあるとかなんとか。

 二つ目は川の民。

 川の民と一括りにしているが、実際には蜥蜴人間ことリザードマン、鰐人間ことアリゲーティアン、褐色肌の水棲エルフ、頭部に白い皿と黄色い嘴を持つサハギン、エラと鱗を持つ魚人のギルマン、上半身が人間、下半身が魚の人魚など水棲および半水棲の種族達が身を寄せ合って住んでいて、彼らをまとめて川の民と呼んでいるのだそうだ。

 今回開拓した拠点予定地は樹海の中央からやや東寄りの位置にあるのだが、その北にちょっとした小山がある。そこから流れ出た水流が北東方向に流れており、その源流から北東にかけて結構広い範囲に網の目状に川が流れている。

 彼ら川の民はその流域に幾つかの集落を作って暮らしているのだとか。

 さらっと流したけどその自称サハギンって河童じゃね?

 三つ目が鬼人族。大柄の大鬼族と小柄な小鬼族をまとめて鬼人族と言うらしい。

 あっちの世界における鬼のイメージと違わず、フィジカル面で大層強力な能力を持つ種族だそうだ。小柄な小鬼族でも人間とは比べものにならない剛力を誇るらしい。

 その分魔法を扱う才能は殆ど無いのだとか。稀に魔法に似た特殊な力を持つ鬼が生まれる事もあるらしいけど。そういう鬼が里の長に収まることが多いらしい。

 単純にフィジカルが強い彼らは樹海で最も繁栄している種族だということだ。クスハは当代の里の長とは反りが合わず、最近は疎遠になっているそうだ。

 最後の四つ目、クスハ達が守人(モリビト)と呼んでいる存在だ。

 白っぽい石のような金属のような肌を持ち、赤く光る一つ目を持つ球体状の種族で、必要に応じてその球体が変形して足だの手だのが生えてくるとか。普段はどういう原理なのか浮遊して移動し、緊急時は身体の各所に穴が開いてそこから火を吹いて高速移動する。


「ロボットみたいだな」

「ろぼっと?」

「ああ、簡単に言うと高度な魔導具とからくりでできた人形だな。自分の意思を持ってるならむしろアンドロイドとでも呼んだ方が良いのかもしれないが」

「その二つの違いは何なんじゃ?」

「それは哲学的な問いだな。話すと長くなりそうだから今夜か明日にでもベッドの中で教えてやろう」

「なっ!? ばっ!?」


 顔を真っ赤にして慌てるクスハをニヤニヤして眺めながら先を促す。

 守人は樹海北西部の古代遺跡を根城としているらしい。内部への侵入を頑なに拒否する一方、娯楽に飢えているのか話好きで古代遺跡に侵入しようとさえしなければ訪れた者を歓待し、もてなしてくれるのだとか。


「そ、そそ、その、本当に、今夜……か?」

「うん、その話は後でゆっくりしような。な?」


 頭から湯気でも吹くんじゃないかってくらい顔を真っ赤にしたままのクスハを適当にあしらう。だって周りの視線の生温さが半端じゃないんですよ。まさかここまで初心だとはこの勇者の目でも見抜けなんだ。


「う、うむ……」


 そう言ってクスハは顔を赤くしたまま黙り込んでしまった。目を閉じて深呼吸を繰り返しているあたり意外と冷静である。


「むぅ……とりあえず話を進めましょう。とりあえず妖精と水の民とはできるだけ早い段階で接触しましょう。鬼人族と遺跡の守人は後回しです。特に遺跡の守人は話を聞いた限りでは遺跡の外に出てきそうに無いですし、ある程度村の態勢が整ってからで良いでしょう」


 クスハと俺のやりとりを見てマールさんの機嫌が急降下であります。いやいや、マールさん自分でけしかけといて嫉妬……するのは仕方ないよね。立場が逆だったら居ても立っても居られんよ、俺。でもうん、不謹慎ながら嫉妬してくれるのは嬉しい。

 これはまさかあれか、ある意味でのライバルを置くことによって夫婦生活のマンネリ化を防ぐためのマールなりの策なのだろうか。


「食料に関しては最終的には自給自足できるだけの生産力をつける予定ですが、しばらくの間は領主であるタイシさんが持ちます。もちろん領地周辺の探索や狩り、採集でもある程度は集めますけど。交易が始まれば樹海産の素材や資源でミスクロニア王国やカレンディル王国から仕入れることもできるでしょう。とりあえずは以上です、質問などありましたらどうぞ!」


次回は12日の19時更新です_(:3」∠)_

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[気になる点] いる種族の説明で名前が川の民なのにマールのセリフが水の民って言ってて今更過ぎると思うけど気になった。
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