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29歳独身は異世界で自由に生きた…かった。  作者: リュート
目指せ、モフモフ王国。
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第四十八話~色々覚悟を決めることにしました~

月一更新になってるじゃないですかやだー!_(:3」∠)_

少し余裕が出てきたのでペースを上げていきたいです。

『アレを撃破したでありますか。勇者というのはとんでもない存在なのでありますな』

「俺はちょっと規格外かもしれんけどな、ほれ」

『かたじけないであります』


 木製のタンブラーに蜂蜜水を注いで手渡すと、目の前の存在は恐縮したような声でそれを受け取り、一瞬触角を蜂蜜水につけてからタンブラーの中身に口をつけた。

 ちなみにこの声、あの駄神みたいに直接脳内に響いてくるような感じだ。念話とでも言えば良いのだろうか。


『キリングワスプの蜜ではないようでありますな。なかなかまろやかな甘味であります』

「ジャイアントホーネットの蜂蜜だ。肉はそれでいいか?」

『実に上質な肉であります。不満は無いであります』


 今、俺の目の前では人並みの大きさを誇るアリが少女のような甲高い声を響かせながら片手に蜂蜜水入りタンブラー、もう片手に生のドラゴン肉を持ってゴクゴクムシャムシャしている。なんというかシュール。この見た目と声のアンマッチっぷりが酷い。


「不慮の事故とは言え、お仲間を何人か殺っちまった件については本当にすまんかった」

『明確に悪意と敵意を持っての攻撃であれば話は別でありますが、そうでないなら十分な補償をしてくれればそれで良いでありますよ。別に我々のうちの十数人が死んでも我々全体が滅びるわけではないでありますから』


 そう、やっちまったのである。

 先ほど念入りに行った整地作業に目の前のアリ――アンティール族というらしい――の斥候十数人を巻き込んでしまっていたのだ。いや、まさか地中にそんなのが居るとは予想だにしてなかったんですよほんと。

 俺の行為に対する彼女等の要求は『損害分』を補填できるだけの食料、というか肉を提供することだった。幸い俺のストレージの中には大氾濫時に撃破したドラゴンの肉やらこの前倒したヒュドラ肉の余りやらがあったのでそいつを提供することにした。


「ちなみに必要量を提供できなかった場合はどういう対応になってたんだろうか」

『損害分を補填するか出涸らしになって死ぬまで色々搾り取らせてもらうだけであります』

「やだこわい!」


 何を絞られるんでしょうか。きっと性的な意味ではないと思うので怖いです、マジで震えてきやがります。血とかそういうのでしょうか。


「それにしても肉で済むとか命軽いな」

『そこは我々と貴方がたとの機能の違いでありますな』


 彼女(?)の話を聞く限りアンティール族というのは『個』という概念が酷く希薄な種族であるようだ。なんか生き物っていうより機械っぽい印象を受ける。彼女は決して自らのことを『私』とか『自分』とは言わず『我々』と呼称するのだ。『次のクローンは上手くやるでしょう』とかそういう類のアレなんだろうか。


『実際の所、アレを倒してくれたことは感謝に値するであります。アレは実に厄介なシロモノでありました。土壌は汚染するでありますし、肉に触れれば同化捕食をしてくるでありますし、その上精神侵食までしてくるでありますよ』

「なにそれ怖い。触手プレイとかそういう以前の話じゃねぇか」


 俺の能力値なら抵抗できてしまうのかもしれんが、あの駄神マジでいつかぶっ飛ばす。落ち着いたら神様をぶん殴る方法を探そう、本気で。


『初めて接触した時には我々もかなり危なかったであります。精神侵食のせいで我々のうちの三割ほどを処分せざるを得なかったでありますから』

「三割って凄いな……ってかなんでそんな相手のいるとこにお前さん達は居るわけだ? そんな危険な相手からは離れてた方が良いんじゃないか?」

『脅威だからこそ監視をしっかりしていたでありますよ。接触時の対処法は確立していたであります』


 命の軽さに突っ込む気も失せてきた。これまでの会話から『対処法』の内容も推し量れてしまうだけになんというかもうね。

 そうしているうちに穴から次々と量産型アリ子が這い出てきました。いや、量産型ってかどれも見分けつかないんだけども。


『肉を運ぶので出して欲しいであります』

「あいよ。つか地面に直接生肉を置くのは不味くないか」

『『『『問題無いであります。さぁさぁ』』』』

「うるせぇ!?」


 頭の中に多重に響く声に思わず顔を顰める。微妙に声質の違う少女の声がまるで合唱のように同時に響いてくるのだ。


『『『『ヒャッハー! 新鮮な肉であります!』』』』


 なんか肉を掲げて小躍りしてる。これは酷いカオス。

 想像して欲しい。人の背丈ほどもあるアリが所謂マンガ肉にしか見えないドラゴンの尻尾肉を神輿か何かのように担いでワッショイワッショイしている姿を。しかも頭にキンキン響く少女声で。もうシュール過ぎてコメントも出て来ない。

 

「あー、喜んでくれて何よりだ。あと、俺はこの更地に村というか街というか、国を作る予定だ。お互い様々な事故を減らすためにルール作りが必要だと思うんだが、どうだ?」

『少々待つであります』


 アリ子が黒い触覚をピコピコと動かす。見ようによってはその様子が可愛いような気がしてくるから不思議だ。無論愛玩動物的な意味で。

 ストライクゾーン広めと自負する俺でも流石に人間要素が欠片も無いデカいアリに欲情するのは不可能である。これが触覚付き黒髪美少女だったらなぁ。せめてアルケニアレベルだったらなんとか。

 まぁ嫁はもう十分なのでこれ以上はいらないけど。クマはともかくあれだけの美女、美少女を嫁にしてこれ以上増やそうとは思わない。というか今後のことを真面目に考えると既にキャパシティオーバーしている気がしてならない。

 ああ、皆にミスリルの短剣を作ってやらなきゃならん。


『了承であります。この穴に向かって声をかけてくれれば我々のうちの誰かがすぐ出てくるであります』

「わかった。一応整地した範囲には対魔物結界を構築してあるから、よほどヤバいのが来ない限りは安全な筈だ」

『了解であります。では肉を味わう仕事があるのでこれで』

「おう、明日か遅くとも明後日には来るわ」


 俺はアリ子にそう声をかけてから長距離転移を発動し、王都アルフェンの屋敷へと飛んだ。なんだかどっと疲れた。


☆★☆


「うーっす、ただいまー」

「あ、おかえりなさいタイシさん!」

「おかえりなさい。ご無事でなによりです」


 鎧を直接ストレージの中に収納しながら屋敷の扉を潜ると、丁度マール達が玄関ホールの階段を上がって二階へと移動しようとしている所だった。軽やかな身のこなしでマールが階段を駆け下り、そのままの勢いで抱きついてくる。


「無事で良かったです。怪我はありませんか?」

「見ての通りかすり傷一つ無い。ちょっと厄介なやつもいたけどな」


 正気度喪失必至の肉塊の姿を思い出して気分が悪くなりかけるが、抱きついているマールの体温と柔らかさのおかげで持ち直す。そうしているとティナとフラムもすぐ傍まで歩いてきた。


「ご無事でなによりです」


 ティナがそう声をかけてマールと同じように俺にそっと抱きついてくる一方、フラムはなにも言わずただ傍に寄り添っている。

 家に帰るなり美少女美少女美女の三人に囲まれるなんて俺も偉くなったもんだ。これがリア充ってやつか。今なら何でも出来る気がする。もう何も怖くないッ!

 いや、フラグを立てるのはやめておこう。今なら無理矢理へし折れる気がしないでもないが、死亡フラグさんは侮れないからな。


「首尾は上々だ、かなり広い土地を制圧できたぞ。簡易的にだが対魔物結界を施してきたし、土地の浄化も完了してる。あと、樹海の知的種族と接触した。デカいアリみたいな種族で、アンティール族って名乗ってた」

「おつかれさまです。でかいアリ、ですか。あの辺りには知的種族は居ないって話でしたよね?」

「地中で生活しているようだったしなぁ、見つけられなかったんじゃないか? それにあの樹海はヤバい魔物も多いし、いくらアルケニアが強力な種族だとしても気軽に情報収集もできないだろ」


 実際あの広大で見通しが悪い樹海を当てもなく彷徨って情報収集するとか苦行以外の何物でもないだろう。俺は空を飛べるから幾らかマシだろうが、徒歩でとか俺も遠慮したいレベルだ。

 ただ、以前に樹海上空を飛んだ時にいくつか遺跡っぽいものを発見したのでいつか暇ができたら調査してみたいとは思う。クスハの言っていた他の知的種族とやらにも接触したいな。ああ、やる事というかやりたい事が尽きない。


「あなた、明日は少し休まれた方がよろしいのではありませんか? どうしました?」

「いや、あなたって……」

「私達は夫婦になるのですからこう呼んだ方が良いかと思ったのですが……お嫌でしたか?」


 華やかな笑顔を浮かべながらそう言ってティナが首を傾げてみせる。な、なんということでしょう。なんだ、なんだこの、この……破壊力は。不意打ちは卑怯でしょう。ときめいてしまうじゃないか。


「ティナ……おそろしい子!」

「ふむ、なるほど」


 ティナの言動にマールが白目蒼白のとても他人には見せられない顔になり、少し離れた所に立つフラムは感心したように頷いている。

 これはフラムさんの不意打ちにも注意した方が良いようですな。いや、もう何というか不意打ち上等ですがね。

 それにしてもあなた、あなたか……胸が熱くなるな。早く色々と片付けて甘い新婚生活というものを体験してみたいものだ。いや、八人も嫁が居たら酸いも甘いも無いかもしれんが。


「いや、全然嫌じゃない。ドキッとした」


 そう言って額にキスをしてティナを抱きしめる。マールとはまた違った抱き心地だ。本当にこう、儚くて折れてしまいそうとでも言えばいいのか。マールは柔らかさの奥にしなやかな芯があるというか、寄りかかれる安心感があるんだよな。


「ちょっと!  ちょっとタイシさん! 私を差し置いてそんな無体な!」

「あーはいはい、わかってるって。マールが一番だ」


 ティナを解放してから涙目になっているマールを抱いてクルクルと回る。あーやっぱマールを抱くと安心するなぁ。回転するのを止めて大きく息を吸い、吐き出す。別に匂いフェチってわけじゃないが、少し甘い匂いに薬草の匂いが混じったマールの匂いを嗅ぐと安心する。

 ひとしきり堪能してから解放すると、つい先程まで涙目だったマールがとても機嫌の良さそうな笑顔になっていた。うむ、ちょろ可愛い。


「さぁ、フラムもカモン!」

「えっと……では、お言葉に甘えて」


 少し離れた所に立っていたフラムに向かって両腕を広げてみせると少し戸惑いながらも胸に飛び込んできた。正面から抱き合うとフラムの豊かなおっぱいが胸にむにゅりと押し付けられて実に幸福な気分である。

 背丈が同じくらいなので顔が近いのも良い。フラムの端正な顔つきと、黒曜石のような黒い瞳をじっと見つめていると、不意にその顔が視界いっぱいに広がった。柔らかいフラムの唇が俺の唇に押し付けられる。


「「あーっ!?」」


 何やら横でマールとティナが騒いでいる。

 しっかりと長い時間唇を合わせてからフラムはそっと顔を離し、少し赤い顔で微笑みを浮かべて見せた。


☆★☆


 戦争が、起こった。

 豊かさを誇るカレンディル王国と、勇者の血をその身に宿し優れた技術と魔力を誇るミスクロニア王国との間にである。

 いくらカレンディル王国が豊かさを誇るとは言えその兵数には二倍の開きがあり、技術と魔力、そして経験に優れるミスクロニア王国に負けはないかと思われた。

 しかし勇者の介入によって戦況は覆されることになる。

 勇者の奇襲によって後方支援を担当していたミスクロニア王国第二軍団軍は撃破され、前衛を務めていたミスクロニア王国第一軍団はカレンディル王国軍と勇者に挟撃を受ける形となった。

 後が無いと悟ったミスクロニア王国第一軍団も激しく抵抗したものの、豊富な物量を誇るカレンディル王国軍と圧倒的な力を誇る勇者の前に敗北を喫することとなる。


「はぁんっ! わ、わらしをたおひれもらいに、らいさんのわらひが……!」

「往生際が悪いぞ、マール。さぁフラムさん、ヤっておしまいなさい」

「ごめんなさいね?」

「あぁんっ!? ら、らめっ! そこ……!?」


 引きつった声にならない叫び声をあげながら小刻みに震え、マールがぐったりと幸せそうな表情で動かなくなる。蕩けたような表情が実に良い。


「うむ、では次はフラムだな」

「えっ?」

「騙して悪いが二人きりのこの状況を作る為だったんでな……とりゃー!」

「あーれー、ふふっ」


 ノリの良い反応を返しながら両手を広げて微笑むフラムの大きな胸に飛び込む。夜はまだまだ長い。


☆★☆


「お館さま、お顔が優れないようですけど、だいじょうぶですか? マッサージ、しますか?」

「うん、大丈夫。大丈夫だけど後で頼もうかな、腰を重点的に」

「はいっ」


 嬉しそうに弾んだ声でそう言いながら少女メイドのメイベルが俺の前に次々と朝食を並べていく。

 あの後、フラムとゆっくりねっとりと過ごした後に眠りに就いた俺は復活したミスクロニア王国軍に朝駆けを受けた。それはもう完全な負け戦である。復讐は実に苛烈だった。

 しかも後半になって起き出してきたフラムまで何故かミスクロニア王国軍に加勢したのである。まさかの連合軍結成である。

 どこから取り出したのか怪しげな薬品まで投与されて絞り尽くされた。何故マールの作る薬は俺の毒物耐性を貫通してくるのだろうか。ギャグ補正とかそういう類いの神の見えざる手のようなものを感じる。

 あ、嫌な予感がしてきた。出てくるな、出てくるなよ? よし。


「タイシさん、今日はどうするんですか?」


 妙につやつやとした肌のマールがにこやかに俺に問いかけてくる。ちなみにマールだけでなくティナもフラムもつやつやお肌である。もう三人ともつやっつやである。煤けているのは俺だけだ。解せぬ。


「午前中は鍛冶工房だな。午後になったら里を回ってみんな連れて現地入りかな」

「わかりました。じゃあ私達は例のアンティール族について調べてみますね」

「わかった。ああ、ついでにちょっと頼まれてくれるか? 昨日現地で討伐騎士団のスケルトンから手に入れたカレンディル王国の紋章入りの盾があるんだが、これを王城かゾンタークのとこに届けてくれ」


 ストレージからカレンディル王国の紋章入りの盾を取り出し、マールに見せる。マールはそれを受け取り、ひっくり返したりしながら仔細にその盾を眺める。


「わかりました、王城に届けておきます!」

「ああ、頼むよ」


 こうして朝のミーティングを終え、出かけるマール達を見送った俺は鍛冶工房に直行……する前に居間でメイベルに踏まれ、いやマッサージをされていた。


「ここですか? ここが気持ち良いんですか?」

「そ、そこ、そこぉ、おあぁぁぁぁー……」

「うふふ、気持ち良いんですね。勇者のお館さまがしがないメイドの私に足蹴にされて気持ち良いんですね?」

「メイベルのあんよで踏み踏みされて気持ち良い、あぁぁしゅごいのぉー」

「……御館様、姪に変なことを仕込むのは止めて頂けませんか」


 流石に看過出来なかったのか普段は何も言わないジャック氏が苦々しい声で俺とメイベルの戯れを咎めてくる。


「ちょっとした遊び心じゃないか」

「そうですよおじ様」

「もう少し健全なものになさって下さい」


 疲れたような声でそう漏らし、ジャック氏がメイベルをヒョイと抱え上げてソファへと放り投げる。そして絨毯に寝そべっている俺のすぐ傍に屈み込んだ。


「マッサージというものはこうやるのです。ただ踏むだけなど文字通り児戯ですな」


 ジャック氏の手がスルリと俺の太腿に巻きつき、腰に手が添えられる。そして、ギリギリと力が込められ始めた。


「えちょ、何を」

「体から力を抜き、楽になさってください。ふんっ」


 グキィッ。


「アオォッー!?」


 予想外の衝撃に思わず変な声が出る。


「こ、これが本当のマッサージ……」


 メイベルが目を輝かせてジャック氏に尊敬の眼差しを送る。おいやめろ、これを覚えるつもりか。


「私のマッサージ術は百八式までございます。ご堪能ください」

「ま、待って! アバーッ!?」


☆★☆


「げ、解せぬ……」


 労られている筈なのに何か酷い目に遭っている気がする。なんというか皆様にはもう少しソフトにして接して欲しいと願わざるを得ない。切実に。

 というか明日は休めとか言いながら朝駆けしてくるティナさんも侮れぬ。やはりイルさんの血族にしてマールの妹であった。

 さて、それはそれとして久々の本格的な鍛冶作業だ。

 嫁も一気に増えたのでこれを機にミスリルの短剣を人数分作ってしまおうと思う。ティナが来るまではマールとフラムだけだったのでなぁなぁにしていたのだが、ティナに続いて次々と嫁が増えたのでここらで俺の態度をしっかりと示す必要があるだろう。

 素材であるがここは素直にミスリルにしておこうと思う。神銀を使っても良いのだが、マールの分をミスリルで作っているのでここは公平にミスリルにする。

 ミスリルは経年による劣化が少ない上に錆びないし、またそれなりに丈夫で更に美しく色褪せることのない金属だ。無論頑強さでは黒鋼に劣るし、魔力増幅効率ではクリスタルに敵わない。総合性で言えば全てにおいてオリハルコンの方が性能は上だ。

 逆に言えばミスリルはオリハルコンより入手しやすく加工が容易で、黒鋼より遥かに美しくまたクリスタルよりも強靭だ。実用性と装飾性を兼ね備えるという意味では最適な素材だろう。


「よっしゃ、んじゃどんなのにすっかな」


 ミスリルのインゴットを用意した俺は石版にデザイン案を消しては書き、消しては書きを繰り返して全員分の短剣のイメージを固めていく。

 この世界では紙と言えば羊皮紙とパピルスっぽい感じの二種なのだが、どちらも消しては書きということがし辛いし、かといって量を揃えるとなると中々にしんどい。こういうトライアンドエラーの繰り返しをする場合は石版に蝋石でやるのが便利だ。

 ちなみにこれで地面に名前を書いても異なる世界に召喚されたりはしない。ちっとも残念ではないけども。


「フラムのはー、うーん」


 戦闘技能を有しているフラムは実際に貞操の剣を振るう機会もあるかもしれない。となると、マールと同様に実用性を重視した方が良いだろう。

 どちらかと言えば控え目な性格だしあまり派手なのは合わない気がする。かといって地味にしすぎるのもよろしくない。貞操の剣とは即ち婚約指輪のようなものでもあるらしいので、一目で見てそれとわかるようなものが好ましいそうだ。


「うむ、こんなものか」


 出来上がったのはシンプルな両刃の短剣だ。切っ先は鋭く、刀身は厚め。

 斬撃よりも刺突を主眼に置いた品で、魔法刻印を施すことによって折れず、欠けず、曲がらず、血や脂によって切れ味が鈍らないという特性を付与している。

 鍛冶のスキルをレベル5にした時に得た知識を最大限活用して打ったこの品は周囲の魔力を自動的に吸引して半永久的に効果が持続できるようになっている。魔剣と称しても良い逸品だ。

 刃物としての性能を最大限に活かす、その一点に比重を置いた品と言える。


「理想のキッチンナイフ……いや、これ以上考えてはいけない」


 見てください、凍ったお肉も固い根菜も楽々! 魚だって骨ごと行けます! しかもお手入れ不要、水でさっと流すだけで清潔にお使いいただけます!

 妙に甲高い声の派手な格好をしたおっさんが脳内で宣伝を始める。いけない、これ以上いけない。考えないようにしよう。

 なめしてあるドラゴンの革を使って鞘を拵えれば完成だ。


 名称:ミスリルダガー

 品質:超越的

 特殊効果:不朽


 鑑定眼で見てみるとこんな感じ。それにしても不朽とは大きく出たな。

 まぁ作り手としては魔法刻印の効果が発揮されれば鑑定の通りほぼ不朽なのは保証するところではある。魔力供給を断って魔法刻印の効果を無効化してからなら破壊はできると思うが、今の状態だと俺でも力づくで破壊するのは難しいと思う。

 ちなみにこの不朽の魔法刻印は刀剣類にしか付与できない上に、他の特殊効果と共存ができない仕様である。いいとこ取りは出来ないし、また防具や刃物以外の武器には使えないわけだ。いつか克服してやろうとは思うが、緊急性は低いので後回しだ。

 さぁ、次にかかろう。

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