第四十七話~SAN値がピンチになりかけました~
私は帰ってきた!_(:3」∠)_
「で、結局どうなったんだ? 当事者の俺が未だに開拓予定地の詳細を知らんのだが」
いつの間にか俺達だけでなく村人の獣人達も集まって半ば宴会のようになっていたが、今はそれも落ち着いて食料庫前の広場にはまったりとした雰囲気が流れている。宴会とは言っても流石に酒を呑んでる奴は――。
「んふー……」
駄エルフが美味しそうに酒瓶を抱えて寝ていた。駄エルフマジ駄エルフ。
とりあえず見なかったことにしてマールとクスハに視線をやるとクスハがそれに応えて話し始めた。
「我々の里から東南東に暫く行った場所じゃ。アンデッド――というかスケルトンの巣窟でな。かなりの広さの開けた場所じゃよ。近づくと大挙してスケルトンどもが押し寄せてくる厄介な場所じゃが、彼奴らさえ排除できれば色々と都合の良い場所じゃろ」
「スケルトン達がいるせいで近くには他の知的種族が集落を構えていないそうですし、通常の魔物の数も少ないらしいです」
「樹海のど真ん中になんだってそんな場所が……?」
「妾は知らん。あの樹海に移り住んだ時には既にあの場所は在ったからの」
肩を竦めるクスハに俺は首を傾げざるを得ない。クスハがいつ頃にあの樹海に入ったのかは知らないが、ここ数十年って話ではないだろう。
そうしているとフラムが控えめに手を挙げた。なんだろう、と視線を向けるとそれを発言の許可だと受け取ったのか口を開く。
「確証はありませんが、恐らくは樹海開拓のために組織されたカレンディル王国の征伐騎士団の成れの果てではないかと」
そう言われて思い出した。そういえばいつだったか、アルフェンの魔法学院の図書室でマールと一緒に勉強した時にそんな記述を見たような気がする。
確か樹海を開拓するために大量の兵を差し向けたはいいものの、大した成果も上げられずにズタボロにされたとかなんとか。あれって何年位前の話だったっけか?
「正確な年数は覚えていませんが、確か三百年ほど前だったと思います。五千の軍と数百の冒険者を送り込んで帰ってきたのはその一割にも満たなかったとか」
ティナがフラムの話をそう補足する。都合五千人くらいがあの樹海に飲まれたってわけか。胸は熱くならないな。酷く面倒な予感しかしない。
とりあえず場をお開きにしてサクッと現地に行ってみるとしよう。
☆★☆
クスハを里に送った後、俺達はカレンディル王国の王都アルフェンにある屋敷へと転移した。ティナが屋敷に行きたいと言ったのもそうだが、俺自身の準備をするためでもある。
「タイシさん、やっぱり一人で行くんですか?」
先日ペロンさんに作ってもらった竜革の鎧を俺に着せるのを手伝いながらマールはそんなことを聞いてきた。フラムとティナは屋敷の案内のために席を外している。
「うむ。というか大量のスケルトン相手なら一人の方が都合が良い。ぶっちゃけいざとなったら空中から極大爆破で吹き飛ばせばいいし」
「あまり慢心しすぎないで下さいね? タイシさんは強いですけど、完全無敵ってわけじゃないんですから」
「む……うん、そうだな。肝に銘じておく」
マールの真剣な表情に俺は素直に頷いておく。
確かに少々慢心していた感は否めない。スケルトンと言えば様々なゲームで雑魚の代名詞だし、今の俺の能力的に考えれば雑魚はどれだけ居ても相手にならない。一対一よりも一対多の方が得意なスキル構成だから。
細かいことを考えずに強力な範囲攻撃魔法で敵を吹っ飛ばすだけだと考えていたので、確かに緊張感に欠けていたかもしれない。
「とはいえ試したいことも色々あるんだよなぁ……」
自由に過ごしているように見えて、実のところ色々なものに追われて自分の持っているスキルの検証や研鑽に励む機会が少ない。
空いた時間を使って作成した新装備も試したい。新装備っつってもそんなに手の込んだものじゃないけど。
「ほどほどにしてくださいね」
「アイマム」
ピシッと背筋を伸ばしてそう答えると、マールは苦笑しながら竜革の鎧を身に着けた俺の胸を叩いた。
☆★☆
迫る剣閃。
ただこちらの命を奪うという殺意のみが乗せられたそれを魔力を纏わせた手刀で弾き、カウンターで胸骨のど真ん中――本来であれば心臓があるであろう部分に掌打を見舞う。
先ほどの手刀と同様に魔力を纏った一撃が肉の無い骨だけの肉体を文字通り木っ端微塵にして消し飛ばした。
「うーむ、こんなもんかね」
次々に四方八方から剣で、槍で、斧で、終いには素手やその剥き出しの歯で攻撃しようと飛びかかってくる白骨死体。
その正体はスケルトン。
この世界では不死者――アンデッドと呼ばれる魔物の一種で、放置された死体に怨念と魔力が染み付いて発生するらしい。
所謂動く死体ことゾンビよりも強い怨念を宿していることが多く、魔力を持った武器か魔法でないと有効なダメージを与えられない。
この世界では厄介な部類の魔物であるらしい。まぁ確かに、単純な打撃だと粉々に骨を砕いても再生して襲いかかってくるので厄介と言えば厄介だろう。
「オラオラオラオラオラオラァッ!」
しかしその、豊富な魔力と高い魔力出力を持つ俺にしてみれば雑魚以外の何者でもないわけで。
片足を軸に独楽のように回りながら肘打ちや蹴り、膝蹴りに掌打、手刀を繰り出しているだけでスケルトン達は木っ端微塵になって吹っ飛んで行く。世紀末覇者に立ち向かう雑魚も真っ青のやられっぷりである。
え? 近接戦闘なんてしてないで魔法で吹き飛ばせって?
いやいや、確かにそれは楽だけども色々と試したいじゃないですか。素手での戦闘って意外とする機会が無いんだよ。まだ試してない装備もあるしね。
これは慢心ではない、研究なのだ。必要なものなのだ。
「ふーむ、しかしこれはあれかね。確定かね」
今しがた豪奢な感じのスケルトンから奪い取った盾を眺めつつ呟く。
そこに刻まれているのはカレンディル王国の王家の紋章。鎧もボッコボコにしてしまったが回収した。剣はどこかで無くしたのか素手で殴りかかってきていた。実に惜しい、きっと名のある宝剣だったろうに。
恐らくだが、フラムの予想通りこのスケルトンどもはカレンディル王国の征伐騎士団の成れの果てで間違い無いのだろう。
結果は見ての通り。
大森林に入った騎士達の多くは帰らぬ人となり、こうして三百年も樹海に囚われている。お勤めご苦労様というかなんというか、宮仕えは辛いな。
「夏草や、兵どもが夢の跡ってか。なんまんだぶなんまんだぶ」
とか言いつつ俺はその死体に鞭打ってるわけですがね。罰が当たるだろうか? いやいや、俺はこうして現世で彷徨っている人々を解き放っているのだ。うむ、そういうことにしよう。
なのでこの世に残った装備品の類は俺が有効活用してやるから速やかに成仏してくれ。なぁに、古ぼけてそのままじゃ使えない武器も鋳潰してインゴットにしてしまえばいいのさハッハッハ。
まさに外道。
でも三百年も経ってたら身元の確認もできないだろうし良いよね?
「ん?」
不意に働いた危険感知に従ってその場から飛び退く。
すると次の瞬間、俺が今まで立っていた場所をピンク色の細長い物体が貫いた。先端は杭のように鋭く、そのくせにゅるにゅると蠢いているそれはそう、アレだった。
アレだよアレ、絡みついたり締め上げたり出たり入ったりして哀れな犠牲者を凌辱するファンタジーには欠かせないアレだよ。
「俺の触手プレイとか誰得なんだよ!」
次々と襲い来る触手とスケルトン。
触手は飛び掛ってくるスケルトンをも容赦なく貫いているようだが、スケルトン達はまるで拘泥しない。そりゃそうだよね、アンデッドだし。
対して触手は的確に俺を狙ってきている。徐々に攻撃の精度が上がってきているし、退路を塞ぐかのように地面から突き出てくることすらあるのだ。
「魔力爆轟!」
圧縮された魔力が俺の全身から爆発的に噴出し、衝撃波となって周囲のスケルトンどもや触手を消し飛ばす。
やはり対多数戦ではこれが使いやすい。威力も高いし魔力効率も悪くないからな。問題は敵味方入り乱れる乱戦では少々使いにくいというところか。周りに敵しかいないなら気にする必要も無いけど。
「ちぃっ!」
周囲のスケルトンどもはあらかた吹き飛んだが、どういうわけか触手は一瞬動きを止めただけで、むしろより激しく数を増やして迫ってきた。もはや壁の如くだ。
危険察知がガンガンと警告を鳴らしまくる中、俺は全力で空に向かって跳ぶ。
今の俺のAGIは1500オーバー。一般人は大体二桁は越えないし、一流の冒険者でも400に届くかどうかであるらしい。
何が言いたいかというと、俺が全力で垂直に跳んだ場合それはちょっとした逆バンジージャンプになるということだ。
「うげぇ、まだ来るのかよ」
うぞぞぞぞ、と身の毛もよだつような音を立てながら触手が俺を追って伸びてくる。俺を捕らえて酷いことするつもりなんでしょう!? エロ同人みたいに! エロ同人みたいに!
マジでやめてくださいお願いします。というか本当に誰も得しないよ!
『触手プレイ、触手プレイはよ!』
「うるせぇ殺すぞ!? 久々に出てきて最初の発言がそれとかドン引きだわ!」
『●REC』
「UZEEEEEEEEEEEEEE!!!!」
突如聞こえてきた名状し難い存在の声に心の底から絶叫しながら風魔法で飛行を始める。マジでくたばりやがれください。
その間も触手どもは諦めずに追ってきた。ずいぶん伸びるなおい。
『へいへーい、ピッチャーびびってるー』
「びびってねぇよ!」
脳裏に響く名状し難い声に怒鳴り返しながら腰のホルダーから一本の金属の棒を取り出す。金属の棒、というか杭だ。直径25mm、長さ100mm――単二電池を二本繋げたくらいの太さと長さである。
材質は高い魔力抵抗を有し、硬く、重い黒鋼。それを振り向きざまに全力で投擲する。
「そぉぃっ!」
ドォン! とまるで投擲とは思えない音を立て、大気を砕きながら黒鋼の杭が殺到してくる触手の群れの先端へと到達する。その速度はいかほどか? 速度計があるわけではないので正確なところはわからない。
『弾け飛んだね』
「対物ライフルどころか戦車の主砲くらいの威力出てるかもしれんね」
直接的に黒鋼の杭と接触した部分は言うまでも無く、弾道の周囲の触手もまとめて弾け飛んでいた。投擲時の音からして衝撃波的なものが発生していたのかもしれない。
「追撃だおらぁ!」
黒鋼の杭の一撃で怯んだ触手どもに向かって純粋魔法レベル4の爆裂光弾を連続でお見舞いしてやる。爆発力、破壊力、連射力に優れるイカしたヤツで、飽和攻撃を行うのに非常に適したイカすやつだ。
某野菜の王子様がやると大体死亡フラグだけども、あれはあくまでもああいう演出であって実際にやるとこの『面制圧+飽和攻撃』というのは実に有効な手段だ。
『やったか!?』
「おま、わざとフラグ立てるんじゃうおわーッ!?」
多数の爆裂光弾の着弾により発生した粉塵、その中から一直線に伸びてくる最大級の危険を感じ、咄嗟に軸をずらして逃げる。
一拍遅れて粉塵の中から伸びた紫色に発光する帯が先ほどまで俺の居た空間を薙ぎ払った。紫色の帯の行く手にあった雲が真っ二つに裂け、霧散していく。
「おいおい……スケルトンを駆除する簡単なお仕事じゃなかったのかよ」
ずずずずず、じゅるじゅる、ぎゅるるるる、と妙に湿っぽい不快な音がスケルトンどもの跋扈していた開けた場所から聞こえてくる。それと同時にパキパキメキメキ、と乾いた音がしているのは恐らくスケルトン達の破壊音だろう。
粉塵の奥から再び這い出してきた触手に目を凝らす。
名前:受肉した意識集合体
レベル:76
スキル:捕食吸収(魔力) 捕食吸収(魂) 捕食吸収(肉体) 魔力眼 破壊光線(闇) 自己再生
称号:摂理に反するモノ 不死者 貪食者 魔王 神意の代行者
賞罰:なし
「これアカんやつや!」
『でしょ? ソレ、目覚めて周囲の魔力とか魂を食い始めると際限無く成長するんだよね。だからまぁ予備プランとして温存してあったんだ』
「予備プランってなんのだよ? ってか際限なく成長とか洒落にならねぇ」
『さぁ何のでしょう? 実は大氾濫と結構関係あったりなかったり?』
はぐらかす名状し難い声を聞き流しながら神銀棍をストレージから取り出し、間髪入れずに極大爆破を発動する。
今まであまり日の目を見なかった神銀棍だが、魔法主体で戦うのであればこちらが楽だということに最近気が付いた。
単純に接合剣よりも神銀の量が多いせいかより大量の魔力を纏わせる――充填することが可能で、しかも制御が容易なのだ。
それはともかくとして、極大爆破が粉塵の中に消えて炸裂した。ドン、と腹の底に響くような音と衝撃波が発生して粉塵を吹き飛ばす。
「効いてなくね?」
『ヒント:捕食吸収(魔力)』
「うげぇ」
純粋魔法というのはその名の通り純粋な魔力による攻撃魔法だ。多用している割に細かい理論はよく知らないが、その威力と汎用性の高さから属性魔法よりも上位の魔法と位置づけられている。
特にこれといって苦手な相手というものも少なく、威力も大きい上に誘導性能を持っていたりするんだからまぁそうだよな。
「そしてなんかキモいの出てきた」
『アレが本体でーす。まぁ、頑張れ?』
粉塵を突き破って現れたのはどう見てもSAN値直葬モノのグロい物体だった。
見た目は脳を連想させるような皺の寄ったピンク色の肉塊で、大きさは……恐らく三階建ての民家より少し大きいくらいだろうか?
所々に人間の顔のようなものが浮かんでは消え、中心に近い場所には巨大な目玉がついている。感情の欠片も感じられないその目玉はしっかりと俺の方を見据えていた。
肉塊からミチミチと嫌な音を立てて触手が発生し、その先端に中央にあるのと同じような目玉が現れる。
「もしかして、フルバーストですかぁ!?」
『Yes! Yes! Yes! Yes! Yes!』
「Yes! Yes! じゃねぇ馬鹿死ね!」
心の底から名状し難い神のような何かを罵倒しながら危険察知に従って回避行動に移る。
まさに飽和攻撃。
先ほどのお返しだと言わんばかりに避ける間もなく発射された紫色に発光する帯が俺を貫――かなかった。
「発動見てから回避余裕でした」
『転移で避けるとか美しくない!』
なんか騒いでいるが戦いに美しさなど要らない。勝てばよかろうなのだ。そして思った、純粋魔法が効きにくいなら属性魔法をぶっ放せば良いじゃない。
「土葬濫牙!」
「凍葬崩撃!」
「火葬轟炎!」
「風葬螺旋!」
ということで、属性最強魔法を立て続けにぶつけてみた。
無数の土の槍、というか太くて硬くて黒い土製の牙が肉塊を捕らえて咀嚼するように押し潰す。所々に穴が空いているが元々が軟体っぽいせいかあまり効いているようには見えない。
次に着弾した水球が一気に冷気を放出して肉塊をガッチリと凍りつかせる。触手の殆どがこれで凍りついて砕け散った。これはそこそこ効いてるっぽい。
次の瞬間には着弾した火球が大爆発を起こし、高熱の爆炎が視界を埋め尽くした。苦しげな呻き声が爆炎の中から聞こえてくる。これはかなり効いたらしく、肉塊の全身が焼け爛れ、一部が炭化した。
最後の風の螺旋撃はごっそりと肉塊の一部を削って挽肉にした。これは三つの中で一番ダメージを与えているように見える。
因みに魔法名は俺の趣味では無く技能取得で自然と脳裏に過ぎってきたものだ。俺にも中二病の気はあるが、このセンスは流石にちょっと。
『考えるのに苦労したよ。かっこいいでしょう?』
駄神がドヤ顔してるっぽい雰囲気だけは伝わってくる。どうでもいいけどもう少し短くしてくれ、唱えるのに舌がもつれそうになる。
それはそれとして肉塊の方がどうなっているのかというと。
「純粋魔法よか効いてるっぽいなぁ」
相変わらず紫色のビームっぽいものは撃ってきているが、弾幕と言えるほどの密度は既に無い。魔法でビームを撃つ触手の数が減っているのもあるだろうが、少なくとも純粋魔法の極大爆破を食らった直後のように激しく反撃してこない。
恐らくは純粋魔法と違って属性魔法は吸収できないんだろう。土は今ひとつ効きが悪いようだが。
『接近戦、接近戦はよ!』
しねぇよ馬鹿、どう考えても触手でネチョネチョ展開必至じゃねぇか。
『大好物だよ。今なら途中で理不尽な女体化サービスもつけるよ』
もうやだこの邪神。
まぁ物理攻撃がどの程度効くかも試すか。再び腰から黒鋼製の杭を取り出す。ちなみにこれは結構前に殲滅したオークの黒鋼装備をいくつかちょろまかして鋳潰して作り上げた一品だ。
黒鋼は高い魔力抵抗を持つので純戦士の防具素材としても武器素材としても重宝される。これで武器を作ると魔法的な防御を容易に貫通する魔法使い殺しの武器になるのだ。重いし硬いので所謂脳筋ご用達。
魔力撃とは凄まじく相性が悪いから俺はあんまり使わんけど。
「ふんっ!」
全力で投げた黒鋼製の杭が再度大気を砕き、轟音を立てながら肉塊に突き刺さる。なかなか豪快に穴が開いた。
とりあえず大穴を穿たれた肉塊は苦しげな呻き声らしきものを上げているので、そこそこには効いていそうだ。
「うーん、延々とこれを投げつけてるだけでも倒せそうな気がせんでもないな」
『あっるぇー? 仕様的には物理的な攻撃はあんま効かないはずなんだけどなぁ?』
レベルを上げて物理が最強ってのが割とこの世界でも通じるってのがよくわかった。
というかてめぇ、そういう仕様だってわかってて接近戦を促してたのかこの邪神。
『触手プレイ、触手プレイはよ!』
だからしねぇっつーの!
☆★☆
「こんなもんかね」
『念入りに過ぎるくらいだと思うね』
徹底的にアウトレンジから肉塊を殲滅した俺は周囲一帯の土地を大規模な土魔法で攪拌し、新たに習得した光魔法で浄化し、また攪拌しては浄化しという感じで念入りに浄化した。
スケルトンが溢れていた呪われし土地が今では一等の聖地並みに神々しい雰囲気で満たされている。
「というかあの肉塊に光魔法使えば良かったんじゃね?」
『うん、多分遥かに楽に倒してただろうね』
おい、教えろよ。
『そういうタイプの縛りプレイ的な遊びなのかと思ってたよハハッ』
お前本当にいつか奥歯ガタガタ言わせてやるからな、マジで。
『え? ケツの穴に手を突っ込まれるの? ちょっとそういうハードなプレイは遠慮したいな』
うるせぇ! もう話しかけんな、シッシ!
『あっはっは、またねー』
奴が去って行ったような気配が伝わってくる。多分だけど。
さて、状況を整理するか。
まず眼下には神々しい雰囲気を放つ広大な土地が広がっている。きっちりと整地され、今すぐにでも建物の建築や農地の開発ができそうな土地だ。広さは……クロスロードの街くらいの大きさだろうか。
とりあえず土地の確保って意味では十全な結果だろう。後で簡易的にでも結界を張っておくとなお良いだろうな。
で、俺の今の状況。
身体的なダメージは無し、魔力は残り三割ってところか。今もぐんぐん回復してるし、いざとなればマール謹製の魔力回復薬もあるのでまぁなんとかなる。
投擲用の黒鋼の杭は残弾ゼロ、また作らなければ。というか杭の形に拘らなくても良いんじゃないかな、これ。むしろただの丸い鉄球とかのがいいかもしれん。
新しく取得したスキルは光魔法。これは一気に最大レベルまで獲得した。
レベル1で光輝と光矢の魔法、レベル2で光付与と拡散光弾、レベル3で光盾と光槍、レベル4で聖光と光条、レベル5で太陽聖槍と聖光波動を習得した。
光輝は生活魔法の照明の魔法と似ているが、青白い光で魔物やアンデッドの類を退ける効果がある。上位互換魔法みたいなもんだな。
光矢は射速が速く、貫通力が高い代わりに誘導性の無い魔矢みたいなものだ。ただしアンデッドと悪魔族系に特別効くらしい。
光付与は武器や防具に光属性を付与して威力を向上させる。常に魔力撃状態になるようなもので、これも特にアンデッドと悪魔族系に効果が高いようだ。
拡散光弾は短射程、貫通力低めの代わりに破壊力が高い。接近戦で使う分には使い勝手は悪くなさそうだ。
光盾は展開したまま移動可能なバリアみたいなものだ。純粋魔法の障壁は移動不能だったので、上位互換と言えるかもしれない。
光槍は魔力で光り輝く武器を作り出す魔法だ。別に槍以外でも作れるが、ストレージのある俺にはぶっちゃけ無用の魔法だな。
聖光は眩く輝く球体を発生させる魔法で、この光は強力な浄化作用を持つ。この土地を浄化したのもこの魔法だ。スケルトン程度ならこの光に晒されるだけで一瞬で灰になるらしい。邪神が言うにはだが。
聖光はアンデッドや悪魔族以外には攻撃能力が無いので、誤射の心配がないというのは素晴らしい。
光条は純粋魔法の魔砲の光属性版だな。若干攻撃範囲が狭い代わりに貫通力は高いように思える。
太陽聖槍はあれだ、サテライトレーザー的な。空から極太の光の帯が降り注いできて広範囲を爆撃する。ただし日中しか使えないようだ。
聖光波動は身体に光属性の魔力を纏った上に身体能力が向上する魔法だ。 身体能力の強化魔法ってゲームとかではよくあるんだがこの世界ではまだこれにしかお目にかかってないな。まぁ魔闘術で似たようなことができるけども。
しかしこの魔法、強力ではあるが魔力が垂れ流し状態なのでお世辞にも魔力効率が良いとは言えない。俺はあんまり価値を見出せない。魔闘術で瞬間的に強化した方がよほど効率的だ。
「うむ、よし」
一通り魔法を試射して感覚を掴んだ。光魔法の総評としては素直で使いやすいといったところだろうか。
ただ、爆発力が足りない。やっぱ魔法はこう、チュドーン、ドカーンみたいな感じで爆発しないといかんと思うわけですよ。今回は今ひとつだったが、やっぱ俺には純粋魔法が合ってる気はするな。
え? あの肉塊からのドロップ品? ヤツの消滅した跡地に魂魄結晶とかいうヤバげなアイテムがありましたよ。なんかこの前八岐大蛇から剥ぎ取った蛇龍玉よりも遥かに強い力を感じる逸品です。
何に使えばいいんだろうね、これ。まぁあの肉塊から謎肉とか剥ぎ取れても困るけどさ。食ったら絶対侵されるよね、なんか肉体とか魂とか。
それはそれとして、数日ここを空ける間にまた妙なものに棲みつかれても困るので、簡易的な対魔物結界を張っておく。空から結界魔法を込めたミスリルの剣を投げるだけの簡単なお仕事です。
そうしている間に日が傾いてきた。
結構長い時間をここで過ごしてしまったな。そろそろカレンディル王国の屋敷に戻るか、と思ったその時だった。
「ん?」
視界の隅で地面が盛り上がったような気がした。
よくよくその地面を観察してみると、やはり徐々に盛り上がってきている気がする。なんだ?
見ていると殆ど無音で地面が盛り上がり、陥没して地面に穴が空いた。人一人が通れるくらいの大きさの穴だ。その中からひょこっと黒いものが顔を出す。
つぶらな複眼、強靭そうな顎、ピコピコと動く黒い触角、ここから見える四本の手には鈍く輝くスコップのような道具。
アレは、そう。元の世界でも見覚えのあるアレだ。となると、様式美としてこう叫ばざるを得まい。
「アリだー!!」
『ぴゃあぁぁぁぁ!?』
俺の叫び声にビビったのか人間サイズのアリらしき生物は目にも止まらぬ……こともない速さで穴の中に引っ込んでいった。
今のアリ、明らかに悲鳴あげてたよな。しかも甲高い女の子の声。可愛い女の子の声で喋るでかいアリとか誰得なんだよ。流石の俺もアリはちょっと無理だわ。
【暫定魔法名】
極大爆破
魔力爆轟
爆裂光弾
土葬濫牙
凍葬崩撃
火葬轟炎
風葬螺旋
光輝
光矢
光付与
拡散光弾
光盾
光槍
聖光
光条
太陽聖槍
聖光波動
魔矢
魔砲
暫定なので変わるかもしれません(´゜ω゜`)