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29歳独身は異世界で自由に生きた…かった。  作者: リュート
目指せ、モフモフ王国。
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第四十五話~嫁を隠れ里に連れて行きました~


 ペロンさんへのレクチャーを終え、その後商業ギルドや獣人の村で用を足してきた俺はさっさとミスクロニア王国へと戻ってきていた。ゾンタークやカリュネーラ王女に捕まると厄介だからな。

 何事も無く無事平穏に夕食を終えた今はだだっ広い寝室に置かれているソファで風呂上りの嫁三人とベタベタイチャイチャしている。

 ミスクロニア王国は水資源が豊富なので、普通に風呂に入る文化がある。魔動具の技術も高いので、湯沸かし器などもカレンディル王国に比べると大分普及しているらしい。

 無論、王城にも浴場が多数あったりする。いつでも風呂に入り放題だ。


「うーむ……」

 

「どうしたんですか?」


「いや、現状に対して色々と思うところがあってな」


 ソファに座った俺の股の間に座って俺の胸に体を預けているというベタベタ度MAXなマールさんが胸元から俺を見上げてくる。石鹸の香りがふわりと漂ってきたりもするし、実にあざとい。

 ポニーテールにしている髪の毛を下ろすといつもよりもよりコケティッシュな感じになる。濡れた髪の毛と少し上気したうなじが実に艶かしい。


「美少女の姉妹丼+αを食べ放題ですよ。なにか不満があるんですか?」


「お前あれだよな、自分で自分のこと本当に臆面も無く美少女って言うよな。まぁ事実だけれども」


「はい、事実ですから」


 ドヤァァァァと全力で主張するマールの鼻を軽く摘んでグリグリしてやる。ふははは、良い顔だ。それにしても鼻小さいな、ほっぺもすべすべだしやわらかいし。ぐりぐり。

 ちなみに+α扱いをされたフラムはというとあまり気にした様子はないようである。いいのかそれで。


「むにゅぉー」


 謎の奇声を発するマールを開放し、その頭をぐりぐりと撫でてやる。ふと隣を見るとティナーヴァ王女――ティナが羨ましそうな顔をしていた。や、君とフラムは髪の毛長いしこんなにグリグリしたら大変なことになるだろう。

 フラムの濡れ羽色の髪の毛も、ティナの鳶色の髪の毛も腰まで届く見事なロングヘアーだ。ケアするのは大変みたいだけども、俺は大好きだ。


「ええと、タイシ様は現状になにかご不満が?」


「いやいや、ご不満は無いよ。美味い飯、可愛い嫁、使いきれないほどの財貨、強大な力に比類なき名声、貴族としての地位に自分で自由にできる領地。これだけ満たされていて不満に感じるところなんて何も無い。ただなぁ」


 ティナの言葉にそう答えながら、俺は天井を見上げる。汚れ一つない白い天井と、魔動具を組み込まれて白い光を発するシャンデリアが目に入った。

 蛍光灯のような白い光が俺の目を灼き、自然と目が細まる。


「ただ、なんですか?」


「どうにもイルさんとアルバートの思惑が解せんのがなー……俺的にはありがとうございますなんだが、理解できなくてどうにも居心地が悪い」


 前にもイルさんに言ったが、マールと俺がくっついてる以上、俺とミスクロニア王国の繋がりは磐石であるはずだ。何故わざわざあんなことをしてまで俺とティナをくっつけたのかがわからん。


「またタイシさんも細かいことを気にしますねー。儲けものだと思ってケダモノのように腰を振っていれば良いじゃないですか」


「お前さぁ……もうちょっとこう、お上品な表現を心がけようぜ」


「考えておきます! しかしママの思惑を完全に理解するのは難しいと思いますよ。ぽやっとしてるように見えてえげつないことを考えてますから。この前も言いましたけど、ティナがそう望んだ、個人的にギムレットが嫌い、タイシさんを確実に取り込みたい、あとはうちの家訓を優先とかですかね」


 そう言いながらマールはぐでーっと俺に体重を預けてきた。女の子特有の柔らかさと心地よい重みが俺の胸に乗っかってくる。

 ちなみにギムレットというのが例のゲッペルス王国の王子の名前らしい。


「一応うちの家って勇者の家系ですからね、可能な限り勇者の血を取り込むべしという家訓があります。それで必ずその子供が勇者になるってわけじゃないですけど、そうでない場合に比べて明らかに確率が高いですし、やはり有能な子に恵まれる場合が多いそうです」


「種馬扱いかよ……まぁ男としては願ったり叶ったりだが。うーむ、気にしすぎか?」


「タイシさんが本気になれば大概の障害は吹き飛ばせますし、何か問題が起こったらその時に対応すれば良いんじゃないでしょうか。あまり細かいことをウジウジ考えずにドンと構えていればいいんですよ、ドンと」


 ぺしぺしと俺の太ももを叩きながらマールはそう言うが、俺としては複雑だ。なんというか都合が良すぎてどうにも収まりが悪い。

 しかしまぁ確かにマールの言うようにウジウジ考えていても仕方ない。考えても結論が出ないのがわかっている問題に思考時間を割くのは無駄というものか。


「それよりもタイシさん、私としてはそろそろ獣人の村やアルケニアの里に案内して欲しいです」


「獣人の村……? なんの話ですか?」


 マールの申し出にフラムが怪訝な表情をした。そういえばフラムには領地関係の話を殆どしてなかったな。いつだったか獣人について話を聞いた時にもあまり獣人に良い印象を持っていなさそうだったから敢えて伝えてなかった。


「あー、すまん。フラムには話してなかったな。ティナも聞いてくれ」


 フラムに一言謝り、俺は構想中の領地運営について話し始めた。


☆★☆


「獣人達の国、ですか」


「あまり乗り気じゃなさそうだな」


 俺がそう言うとフラムはなんとも言えない複雑な表情をして黙ってしまった。ううむ、カレンディル王国における獣人差別の根は深いようだ。


「いえ、そういうわけではありません。ただ、何故わざわざ獣人やアルケニアといった存在を主な国民としようというのかが理解できません。他に『楽』な方法はいくらでもあるのでは?」


「モフモフしたいからだ」


「えっ」


「獣人の耳や尻尾のふっさふさの毛を思う存分モフりたい。モフモフしてクンカクンカしてペロペロしたい。流石にモグモグしたいとまでは言わないが」


「ええっと……?」


 フラムが困惑した顔でマールを見て、マールは何故か深刻な表情で首を振っている。ティナは何かポカンとした顔で俺を見ていた。一体なんなんだ、この反応は。


「えっと、タイシさんって実は獣人が好きなんですか?」


「モフモフは正義だ。サラサラなのもフワフワなのもちょっとゴワゴワするのも良い。程よい体温、匂い、肌触り、一つとして同じものがない上に、しかも日によって微細に変化すらする。こんな素晴らしいものが他にあるだろうか? いや、無……いや、おっぱいには通じるものがあるかもしれない。しかしだからと言ってモフモフの素晴らしさが減じることなど無い。無いんだ。わかるな?」


「は、はい」


 マールがドン引きしている。何故だ。


「領地獲得に関する俺の行動原理はそれが全てだ。俺は奴らをモフモフしたいから、奴らを保護する。奴らは俺の国民となり、庇護下に入る。そしてモフモフされる。ぶっちゃけアルケニアはついでだな。有能そうだし、言葉が通じるなら組み込んじまえってことで制圧した」


「今制圧とか不穏な台詞が聞こえませんでした?」


「森の中を走っていたら馬鹿でかい蜘蛛の巣で捕まえられて脅かされたのでついカッとなってやった。話を聞いてみると気の良い奴らだったし、奴ら自身は人間に対して敵意を持っていないどころか、むしろ森で死にかけていた人間を保護してるくらいだったから平和的に話しあったよ。結果として傘下に収まってくれることになったよ、やったね」


「明日アルケニアの里に連れて行ってくださいね、絶対にですよ」


「はい」


 マールさんが何か必死になってらっしゃるので素直に頷いておく。そういやアルケニアの里にはあれから一度も行っていないな、そろそろ顔を出しておくか。


「実はマールとの結婚を認めてもらうための実績作りにしようとも思ってたんだよな。なんか本末転倒な感じになったけど」


「そんなことを考えていたんですか。実績はカレンディル王国の大氾濫を跳ね返しただけでもお釣りが来ますよ」


「そうだったみたいだな、俺的には割と楽勝だったから今ひとつ実感が沸いてなかったのかもしれん」


「なるほど、ご主人様らしいですね」


 納得したように頷くフラム。

 一体どういう意味なんでしょうか、それは。俺が常識知らずということですかね。いや、実際そうなんだろうけども。


「あの、タイシ様。タイシ様は獣人の方を側室に取るのですか?」


「え? いや、今の所そのつもりは無いけど?」


「そうなんですか?」


 ティナと俺はお互いに首を傾げ合う。何故そうなる。

 ああいや、待てよ? モフモフしたいという欲求がそういう方向に結びつけられているのか。違う、それは違うんだ。

 そこにあるのは確かに一つの愛の形ではあるが、それは男と女のそれでは無い。モフモフに対する愛とはある意味それよりも高次なものだ。

 つまりこれはエロスではなくアガペー、肉体の愛ではなく魂の愛なのだ。


「タイシ様?」


「これは高尚なことを考えているように見えてその実とても下らないことを考えている顔です。空気でわかります」


「ああ、これはそうですね。私の胸とマール様の胸を見比べながらたまにこんな顔をしてます」


「そうですか……私ももう少し欲しいです」


「ちっぱいも好きです。ちっぱいも好きです。大事なことだから二回言いました」


 マールさんのおっぱいは少し育って微乳から美乳になりつつあるからね。ティナの微乳ポジは重要だ。フラムのおっぱい様は二人に比べるべくもないボリュームだ。大きくて形も良い素晴らしいおっぱい様です。

 やっぱ身体を鍛えているからかね、垂れることが想像できない美しさだ。仰向けに寝ても形が崩れないって凄いよな。


「で、気になってるんだが実際のところゲッペルス王国との関係は大丈夫なのか? ぶっちゃけ俺がゲッペルス王国の立場ならブチ切れてもおかしく無いと思うんだが」


「そうですねー、正直大問題です。既に正式な外交ルートで厳重な抗議を伝えて来ています。ゲッペルス王国はミスクロニア王国とカレンディル王国との貿易ルートでも有りますから、その貿易ルートに対する締め付けをちらつかせてきているようです」


 俺の質問にはマールが答えてくれた。しかしゲッペルス王国はまだ大氾濫の影響も残っているだろうに、そんな状況でもしっかり抗議してくるんだな。

 王族同士の婚姻の話だし、当たり前か。

 油断があったとは言え、俺も随分と大それたことをやらかしたもんだ。


「経済制裁かー。それってミスクロニア王国だけじゃなくカレンディル王国にも影響あるよな?」


「そうですね。ゲッペルス王国から見ればカレンディル王国とタイシさんは懇ろな関係と映っているでしょうし、何よりミスクロニア王国の有力な貿易相手国でもありますから。恐らくそちらからの圧力も期待しているのでは無いでしょうか?」


 ゲッペルス王国からもたらされた報せを聞いて叫びながら頭を抱えるゾンタークの姿が容易に想像できる。ほとぼりが冷めるまで絶対に会わないようにしよう。いよいよ持って刺されるか、あらゆる手を使ってカリュネーラ王女を側室にねじ込んできかねない。


「なるほど、んじゃあれか。俺に求められているのは早急な新貿易ルートの開拓ってことか」


「そうなりますね。とは言ってもミスクロニア王国は地力がありますからゲッペルス王国の経済制裁で直ぐに干上がるということはないですし、幸か不幸かカレンディル王国ではタイシさんの活躍によって物資が余り気味な状態ですから、そこまで早急にどうこうしなきゃいけない状況では無いですよ」


 俺に寄りかかってきているマールを軽く抱いたまま、現状でミスクロニア王国とカレンディル王国間のルートが開拓されたらどうなるかをシミュレーションしてみる。


「早い段階で交易路を作っちまえばゲッペルス王国の経済制裁を逆手に取れそうだな。既存のルートを締め付けてくれれば割とあっさり新規ルートに移行しようって商人も増えるだろ。逆にゲッペルス王国が干上がるんじゃないか?」


「……有り得る話ですね。もしかしたらそれを見越してゲッペルス王国を煽っているのかもしれません」


「まさかイルさんってゲッペルス王国を狙ってるのか?」


 ゲッペルス王国もそれなりの規模の国であるらしいので、その程度で潰れたりはしないだろう。しかし今までなんだかんだと言ってもミスクロニア王国とゲッペルス王国、カレンディル王国は持ちつ持たれつの関係でやってきた。

 それはミスクロニア王国とカレンディル王国の間が国境の大樹海によって阻まれ、安全な公益ルートがゲッペルス王国を介する形でしか確保できなかったからだ。

 だが、大樹海に交易ルートが確保されるということになればこの関係は大きく変わることとなる。ミスクロニア王国とカレンディル王国がゲッペルス王国の頭越しに物資や情報を自由にやり取りできるようになるということは、つまりゲッペルス王国の両国に対する影響力の低下に繋がるという事に他ならない。

 大氾濫、ケンタウロスとの内戦、交易の鈍化、三国間での影響力の低下、果たしてゲッペルス王国は今までの権勢を維持できるだろうか?

 そして弱り切ったゲッペルス王国にイルさんはきっとこう言うのではないだろうか。


『手伝ってあげましょうか? ただし国土が真っ二つよっ♪』


 脳裏に黒い笑顔であらあらうふふするイルさんの姿がよぎる。超怖い。


「それは……考えすぎでは?」

「流石にお母様もそこまでは……」

「真っ二つは無いんじゃないですか? 恐らく南部平原地帯くらいかと思います」


 俺の考えを聞いたフラム、ティナ、マールの弁である。マールさんの答えが具体的過ぎて怖い。俺はもしかしてとんでもない陰謀の片棒を担がされているのではないだろうか。

 とりあえず翌日はアルケニアの里を訪ねるということに決まり、今日のところはしっかりと体を休めることにした。


☆★☆



「というわけなんだよ」


「いつの世も人の世界はドロドロしておるのう。もちっとこう、ゆるりとできんのかお主らは」


「人間は短命だからな、お前さんたちのようにはいかんさ」


 ここ二週間の間にあったことをクスハに聞かせつつ、俺は味わい深い色合いの茶碗から緑色の液体を啜る。ううむ、苦い。だが香りは良いな、なんか落ち着く香りだ。俺は元の世界で本格的なお抹茶というのは飲んだことが無いのだが、こういうものなのだろうか。

 嫁三人を連れてアルケニアの里を訪れた俺はクスハの寝ぐらを訪れていた。嫁三人も一緒にお茶を啜っている。マールは気に入ったようだが、フラムとティナは今ひとつお茶の風味がお気に召さなかったようで、一口飲んでから手をつけていない。

 俺は嫌いじゃないけど、まぁ好みは別れるかもな。


「それで、今日は何の用じゃ? 茶飲み話をしにきたわけではあるまい。貢物を所望か?」


 蛍光灯のような白い魔力灯に照らされた室内でクスハの額にあるルビーのような三対の複眼がキラリと光を放った。うーむ、美人が凄むと迫力があるな。


「や、貰えるもんは貰うけど一方的に搾取するつもりは無いぞ。今日の用事は顔出しと、妻達を紹介しに来たのと、正式にミスクロニア王国からもカレンディル王国からも樹海の領有権を認められたから相談にな」


「相談、か。好きに支配すれば良いではないか、お主の力に抗える者などそういまいて」


 皮肉げな笑みを浮かべながらそう言ってクスハが肩を竦めた。


「そう卑屈にならんでくれよ。そりゃお前の言う通り力で支配することに違いはないが、それでも先にこの土地に住んでいるお前達を蔑ろにするつもりはないんだ。それにしてもどうしたんだ? 今日は随分と不機嫌だな」


「……ふん、三人も侍らせおって。不潔じゃ、ケダモノじゃ、変態じゃ。爆発しろ」


「いやいやいや、なんでそこに怒るんだよ」


 どんよりとした雰囲気を放ちながら呪詛のようなものを呟くクスハに辟易とせざるを得ない。なんでこいつ唐突に毒女オーラ出してるの。


「まぁ、まぁまぁまぁタイシさん。ここは一つ私達に任せてください。女同士の方が話しやすいこともありますし。その他の話も進めておきますから」


 なんだか妙にニコニコしてるなぁ。マールがこの顔をしている時は要注意だ、何かやらかそうと企んでいる。そういやなんか最近見たと思ったらイルさんの笑顔にそっくりじゃないですかやだー。

 企んでいることは想像がつくけどな。大方俺のハーレム増員でも企んでるんだろ。だがクスハは筋金入りの五百年乙女、そう簡単に籠絡されることはあるまい。

 え? アルケニアみたいな異形でも良いのかって? まぁ確かに人によっちゃ嫌悪感を抱くだろうし、蜘蛛は絶対にNO! って人も居るだろう。

 だが世の中には魔物娘萌えと言う概念もあるのだ。俺の海のように広く深いストライクゾーンの範疇である。何よりクスハは超がつくほどの美人だしな。


「まぁ……いいけどな。程々に頼むぞ」


 俺はこの場をマール達に任せてアルケニアの里を見て回ることにした。交渉に関してはマールに任せておけば間違いないし、フラムもいれば万一何かあったとしてもそうそう遅れをとったりはしないだろう。ティナは……まぁ可愛いからよし。

 しかしマールのあの悪癖はどうにかならないものか。


『タイシさんほどの立場と甲斐性を有する男性は多くの女を囲ってみんなを幸せにすべきです!』


 最近のマールはそのようなことを豪語して憚らない。

 や、赤ん坊の生存率とか男の死亡率とかそういうものを考慮してこの世界では一夫多妻制が一般的ってことはよく分かったよ。貴族のゾンタークやカレンディル王国の王様はもちろん複数の女性を伴侶にして居るし、一般家庭でも二人、三人奥さんがいる人というのも珍しくない。

 クロスロードのギルドのおっさんことウーツのおっさんにも実は奥さんが二人居るらしいし。ドワーフはそういう習慣がないみたいなんだけどな。

 おっと、話がそれた。

 俺としてはティナの件は俺にも非があったから何も言えないのだが、これ以上はあまり増やして欲しくないんだけどな。なんせ多くなれば多くなるほど一人一人との時間が減るわけだし。

 ここは男らしくはっきりとNOと言うべきだろうか。いやしかし、次々に新しい『自分の女』が増えて行くことに愉悦を感じている自分がいることも確かだ。

 結局のところ、今の俺を思い悩ませているのは約三十年に渡って元の世界で培ってきた倫理観や貞操観念だ。この世界では枷にしかならないものであるかもしれない。


「あー、やめやめ」


 思考がどツボに嵌りそうになっているのを自覚した俺は頭を振って頭の中身を一度空っぽにしようと試みる。マールのやることだ、ここは信用して任せるとしよう。

 さて、そうなると途端に暇を持て余すことになるわけだが、どうしたものか。村を見て回ろうとは思ったものの、案内もなく好き勝手にうろつき回るのも気が咎める。

 辺りを見回してみるとアルケニアの里の家屋、というか建物は実のところ片手に数える程しかない。殆どは半地下のシェルターのような住居のようだ。

 どうしたものかと考えていると視線を感じたのでそちらに目を向けてみる。


「……」


 あの建物は確か食料庫だったか。その影からこちらを覗く顔が幾つか見える。どうやらアルケニアの里の子供達らしい。微笑みながらちょいちょいと手招きすると向こうも笑みを浮かべながら物陰から出てきた。

 アルケニアの少女二人と少年が一人、人間の男の子と女の子が一人の合計五人だ。よく見るとアルケニアの少女のうち年嵩の子の背中には赤ん坊が背負われていた。子守もしているのか。


「こんにちは、この里の子達だな? 俺はタイシだ、よろしくな」


 ストレージから獣人の村で手に入れた丸太を切っただけの椅子や簡素なテーブルを取り出し、子供達とおしゃべりをする。アルケニアは椅子に座れないので藁束をクッション代わりに出してやった。

 子供達からはアルケニアの里の色々なことを聞き出すことができた。

 例えばアルケニアの一般家屋についての話。地面に穴を掘り、床や壁、天井に当たる部分はアルケニア達の粘着糸で固めているのだそうだ。冬は暖かく、夏は涼しいらしい。

 他にはこの里にいる人間のことだ。子供達の話を要約するに、彼らは元冒険者であり、大樹海を探索した末に魔物に敗北して死にかけているところを偶然アルケニア達に助けられた人々であるのだとか。

 親達のことを聞いてみると、アルケニアとの間に生まれる子供が必ずしもアルケニアになるわけではないということもわかった。実際、年嵩のアルケニアの女の子が背負っている人間の男の子は彼女の弟なのだという。


「俺は襲い来る蛇龍の頭をブン殴った! こうだ!」


 俺はそう言って魔力を込めた拳をアッパーカット気味に天に向かって振り抜いた。瞬間的に魔力が放出され、大気を割ってゴウン、と低い音が鳴る。子供達は発生する音と光にキャッキャと無邪気に喜んでいた。

 ちなみに今の一撃は寸分違わず八岐大蛇の頭部を一つ消し飛ばした一撃である。やはり臨場感を出すには本気でやるべきだろう。

 何をしているのかというと、村のことを教えてもらった代わりに子供達に強請られて冒険の話をしていたのだ。とりあえず外の世界の話をして無茶されると大変なので、大樹海の中で出会った八岐大蛇討伐の話をしている。


「これがその時に尻尾から出てきた剣だ、不思議な色をしてるだろ? おっと、刃の部分は触れるなよ、すぱっと指くらい簡単に落ちるぞ。そしてこっちが魔力を生み出し続ける蛇龍玉だ、触るとほんのり温かい」


 男の子達は大蛇龍の剣骨に、女の子達は不思議な光を放つ蛇龍玉に夢中だ。目が爛々と輝いている。

 というかいつの間にか大人まで集まってきていた。興味深げに蛇龍玉や大蛇龍の剣骨に視線を向けている。


「本当に貴方が一人で倒したのか?」


「ああ、本当だぞ。ほら、こいつが剥ぎ取った素材だ」


 八岐大蛇の皮革や牙、肉を取り出して見せると大人達の間でも驚嘆の声が漏れた。皮革や肉はまだまだ大量にあるので、少しお裾分けを……いや、良いこと思いついた。


「この皮革や肉、牙と何かを交換しないか? 樹海で取れる特産品や、あとは装身具やアルケニアの糸で作った服や布なんかが欲しいんだが」


 八岐大蛇の革や牙、肉をアルケニアの里の特産品と次々と交換して行く。食料庫の食料は里の共有財産で流石に持ち出しできないらしいが、各々蓄えている食料品やアルケニアの糸製の服や布、樹海の古木で作った杖や合成弓などが手に入った。

 この合成弓が正に逸品だった。

 樹海産の強靭な複数の木材と魔物素材、そしてアルケニアの強力な糸も用いた合成弓で、弦もアルケニアの強靭な糸をより合わせて作った強弓だ。

 見た目は取り回しの良さそうなただの短弓なのだが、驚くほどよく飛ぶ。鑑定してみると『アルケニアンボウ(優秀)』と表示された。鑑定眼で表示される品質ランクはなんでこんなに細かいのかと文句を言いたくなるほど細かいのだが、『優秀』となると経験則上はかなり上位の評価だ。

 大まかには品質が低い順に廃棄品、最低品質、低品質、通常、良質、上質、優秀、最高品質、超越的といったような感じだ。ただ、物によっては『粗製』とか『美品』とか『特上品』とか通常の表示方法に当てはまらない表示が出たりするのでなんとも言えない。


「これは良い弓だな。兵士でも冒険者でも狩人でも、欲しがる奴はいくらでも居そうだ」


 そう言うと弓を持ってきたアルケニアと人間の夫婦は純粋に嬉しそうな表情を見せた。

 妻の人間の女性は左足の膝から下を失っている。彼女は元冒険者の斥候で、樹海の探索に五人パーティーで訪れ、魔物に襲われたところを今の夫であるアルケニアに助けられたらしい。

 色々と大変だったが、今は弓職人としてこの村で過ごしているのだとか。ちなみに先ほどの赤ん坊を背負ったアルケニア少女の両親であるらしい。


「タイシさん」


 行商人の真似事をしながら里の話を興味深く聞いていると話し合いを終えたマール達が戻ってきた。クスハも一緒に現れたためか、周りの里の人間が頭を下げている。


「話し合いは終わったのか?」


「はい! 村作りに良さそうな場所も教えてもらえましたよ。あと、樹海に住む他の友好的な種族とも顔を繋いでくれるそうです」


 流石にマールさんは格が違った。割と頑なな態度だったクスハから穏便に様々なものを引き出してくれたようだ。無言で頭を撫でてやるとグリグリと頭を押し付けてきた、可愛いやつめ。

 クスハに視線を向けると何故か視線を逸らされた。なんか微妙に顔が赤くなっている上に目を逸らしたと思ったらチラチラと視線を向けてくるし、目が合うと凄い勢いで顔を逸らす。なんか反応が怪しいな……どんな話し合いが行われたんだ。ちょっと怖くなってきたぞ。

 フラムが何故か困惑したような表情をしているのがそれに拍車をかける。

 うん、マールのやることだから大丈夫だろう。少なくとも俺に対する悪意は絶対に無いと確信できる。それが俺に直接的間接的になんらかの被害が発生しないということではないけど。

 どう転んでも一番重くて同じベッドの中で過ごす人数が増えるだけだろう。いや、クスハがベッドで寝るかどうかは知らんが。そもそも寝る時ってどうしてるんだろうか。


「よし、俺はこれから獣人の村に行ってマール達の入村許可を取ってくる。すまんがここで待っててくれ」


「わかりました、クスハさんと一緒にお茶でも飲んでいますね」


 マールの言葉に片手を上げて応え、フラムやティナとも視線を交わしてから俺は獣人の村へと長距離転移を行った。


☆★☆


 一瞬の視界のブレと浮遊感の後、辺りの景色が一瞬で切り替わって獣人の村へと到着する。転移場所はいつも通り、村の入り口付近だ。


「おぉ」


 見えた光景に思わず驚きの声を上げる。

 半壊したり全壊したりしていた建物の修理は全て終わったようで、その上荒れていた道や柵、畑などの補修も完了したらしい。見違えるように整った村の様子に思わず見惚れる。

 そうしていると村の広場の方からソーンが現れた。匂いで気づいたのだろうか? 犬みたいな奴だな。いや、犬だったか。


「おう……ってなんだよ、妙な目で見やがって」


「いや、犬だなと」


 不思議と主が帰ってくると出迎えてくれるんだよな、犬って。自動車で移動してるから匂いとかもわからないはずなのに、帰ってくる少し前に玄関口に移動して待ち構えたりするし。


「犬じゃねぇよ、失礼なやつだな。匂いでわかっただけだ」


「お、おう。ヤマトとかデボラはいるか?」


 内心『犬じゃん!』と思ったが口に出すと話が進まないのでここはぐっと堪えて話を進めることに邁進する。どうやら出来る馬男ことヤマトと声だけセクシー熊さんことデボラは村の中央広場にいるらしい。

 ソーンに案内されて中央広場に行くと、そこには村人達が集まっていた。男女は問わず大人達が集まっているようだ。菓子好き駄エルフとお子様達は見当たらない。俺の癒しであるシータンがいないとかテンション下がるわー、モフモフしたいわー。


「あら、良いところに来たわね」


 デボラが俺とソーンに気がつき、声をかけてくる。それに反応して獣人達が俺の方を向いた。その視線は概ね友好的で中には手を振ってくる者もいる。誰かと思ったらウサギ獣人のパメラだった。いつかあの長い耳をモフモフさせていただけないだろうか。


「なんの会合だ?」


「新しい村を作ることになりますからな。それに向けて人でをやりくりする必要がありますので、その話し合いです。とは言っても今は支援物資のおかげで無理に狩りに出なくとも食い繋げることができますし、結界のおかげで夜間警備の人員を減らすことができているので、問題はないでしょう」


 ヤマトが何か細かく字が書き込まれた紙束を見ながら報告してくれる。


「そうか。今日は朝から現地のアルケニアの里で開拓に良さそうな場所の情報や、他に手を組めそうな友好的な種族の情報を得てきた所だ」


「まだ現地には行って無いのね?」


「ああ、これからだな。午後には現地に行って地均しとかしてくる予定だが。ああ、それと嫁達をこの村に連れてきてもいいか? 紹介しておきたいんだ」


 俺が伺いを立てると満場一致でOKが出た。今までの俺の行動と経た時間を鑑みて、当初心配したような獣人狩りの恐れはないだろうと信じてくれたらしい。

 長い時間をかけて信頼を勝ち取った甲斐があるというものだな。最近は犬娘のシータンだけでなく狐娘のシェリーと羊娘のカレンもモフらせてくれるようになったし。

 この調子で村人達の信頼を勝ち取り、行く行くは全ての獣人を好きな時に好きなだけモフモフできる立場となるのだ。俺の野望はとどまる所を知らない。

 全てのモフモフをこの手に! フフフ、ハーッハッハッハ!


「おい、いきなり笑い出したぞあいつ。大丈夫か」


「そっとしておいてあげなさい」


 なんだか気の毒なモノを見る目とか異様に慈愛に満ち溢れた目で見られた気がするが、そうとなれば善は急げだ。早速嫁達を連れてくるとしよう。


「では今から連れて来るので、盛大に出迎えてくれ。行ってくる」

すいません長らくお待たせしました。どうぞお踏みください_(:3」∠)_(五体投地

仕事が忙しかったり色々ありましてなかなか更新できず……許してください! なんでもしますから!(いつもどおりタイシが

少しだけ書き溜めできたので、明日も投下していきたいと思います。

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[良い点] 頭(オハナバタケ)勇者(笑)
[良い点] さすがイル様、素晴らしい人 指パッチンしてる姿が見えますな
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