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29歳独身は異世界で自由に生きた…かった。  作者: リュート
目指せ、モフモフ王国。
43/134

第四十二話~朝起きたら詰んでいました~

第一巻、6/20に発売!(ステマ)

あっ、石投げないでくださいなんでもしますから!_(:3」∠)_(タイシが)

「なるほど……凄い波乱万丈な体験をしてきたんですね」


「そうよー、と言っても魔王に囚われている間の記憶は結構曖昧なんだけれどね。魔法で精神を操作されていたし、他の子と同じように魔力炉に繋がれていた時は半ば意識を失ってたからー」


 イルさんことイルオーネ=ブラン=ミスクロニアはそう言って苦笑いを浮かべた。ミスクロニア王国の現王妃で、マールのお母さんでもある。しかも永遠の十七歳。

 俺の様子見を兼ねたサプライズで貴賓室付きのメイドに扮していたのだが、早々に俺の鑑定眼でバレたため普通にお茶を共にしている。今はイルさんの思い出話を聞いている所だ。何故か服装は和装メイドのまま。

 魔王vs勇者の正に中心人物であったイルさんの話は実に興味深い。なんせ当事者だからな、臨場感がある。

 ハイパー名器に関しては全力でスルーした。流石に未来のお義母さんに振れる話題じゃない。男としては興味が湧くがね。


「それにしても死者の蘇生か……そんなことも可能なんですね」


「容易いことではないわよー。それに代償もあるしねー、内容は秘密だけど。でも、私は幸せよ」


 自分の頬に手を当てて朗らかに笑うイルさんからは確かに彼女の言葉通り幸せなオーラが出ているように思える。

 こうして幸せそうに笑う様は本当に母娘だな、マールにそっくりだ。

 しかし魔王、魔王ねぇ。魔王ってのはなんなんだろうな。俺も称号の中に魔王があったりするわけなんだが。


【称号】

 異邦人 魔術師 剣士 拳士 駆け出し冒険者 期待の星 純粋魔術師 武術士 トロール砕き 冒険者 勇者 中級魔術師 結界師

 ベテラン冒険者 尋問官 処刑者 カレンディル王国公認勇者 剣聖 拳聖 武聖 淫魔 駆け出し鍛冶師 鍛冶師 上級鍛冶師 鍛冶匠 至高の鍛冶匠

 神銀の創出者 魔剣匠 上級魔術師 破軍勇者 英雄 剣神 拳神 武神 殲滅者 極大魔術師 魔王 防波堤 魔王殺し 竜殺し 空間魔術師

 轟地の魔術師 煌水の魔術師 爆火の魔術師 豪風の魔術師 エレメントマスター 殺人拳の担い手 モフリスト 女殺し 奇跡の癒し手 お大尽 悪魔狩人 蛇龍殺し レアハンター 蜘蛛の主 音より疾き者 食道楽


 おい、なんか知らんうちに増えてる。女殺しとか全く身に覚えがないんだが。

 スキルポイントも200ポイント近く余ってるなぁ。スキルリセットも出来るし、色々ととってみるべきだろうか。


「どうしたのー? 急にぼうっとして」


「魔王って何なんだろうと思いまして。何をもって魔王と呼ぶのか、魔王の定義とは何か、と」


「数多の命と魂をその身に取り込んだ者、それが魔王よー。そういう意味では動物も、ただの魔物も、あるいはなんの変哲もない人間だって魔王にはなり得るわ。ただ、一般的には一定以上の人に魔王と認識されれば魔王ねー。過去には敵対国家同士がそれぞれお互いの国の王を魔王呼ばわりすることもあったみたいよー」


「なるほど」


 レベルアップ時の成長能力の多寡で勇者かどうか区別する世界だからな、そんなもんか。つまり勇者で魔王というのも普通にあり得るわけだ。


「勇者も似たようなものよー。今はステータスチェッカーで精度の高い判定ができるようになったけれど、やっぱり一般的には一定以上の人に勇者と認識されれば勇者だと思うわー。所詮は勇者も魔王も称号だもの。勿論、勇者にしろ魔王にしろそれに相応しい行動と思想を示してこそだと思うけれどね?」


「ごもっとも。しかし俺はどうかな」


 どっちかというと魔王寄りなんじゃないかと思う、自分では。

 確かに圧倒的な力を見せつけて、その結果として多くの人の命を救った。でもその圧倒的な力に対する危機感を持っている人間はかなり多いんじゃないだろうか。特にカレンディル王国の上層部には。

 ああでも、どうかな。俺が魔物を倒すのを目にした一般人や冒険者、兵士なんかは単純に俺を勇者として見てくれているかもしれない。


「この先の行動次第ね? 私としては娘を嫁に出す以上は勇者で居て欲しいけれど」


「む……善処します」


 よろしい、とイルさんは微笑みながらティーカップを傾けた。

 しかし良かった、いきなり斬りかかってきたおっさんとは対照的にイルさんは俺とマールとの結婚に前向きのようだ。これはありがたい。


「でも良かったわー、料理はからきしですからねー、あの子は。だからこれという人を見つけたらしっかり銜え込んで離しちゃダメよって教育してたのよー。それで勇者の貴方を引っ掛けてきたんだから大したものだわー」


「ステータス見た時にそうじゃないかとは思ったけどやっぱアンタの仕業かっ!?」


 とんでもないことを言いながらコロコロと上品に笑う王妃様に思わず全力で突っ込んでしまった。マールが肉食系を通り越して猛獣系になっている元凶は間違いなくこの人の影響だろう。


「ええー? 何かあったの?」


「出会ったその日の晩にネクタル盛られて無理矢理……」


「……あー、うん。ごめんねー?」


  流石にそこまではこの私も予測できなかったわー、と言いながら汗を垂らして謝罪するイルさんであった。




「どうですかタイシさん! 似合いますか!」


「おう、マールもフラムも似合ってるぞ」


「あ、ありがとうございます……」


 俺が褒めるとマールは満面の笑みを浮かべて俺の腕に抱きつき、フラムは恐縮したかのように身体を小さくして俯いた。多分本人としては身分とか犯罪奴隷だからとかそういった類のしがらみがあって肩身が狭いんだろう。

 うーん、これは早いとこゾンタークにゴリ押しして特赦とかを強請ることにしようかね。フラムがどう考えていようが、今後のことを考えればマイナス面が大きい気がする。マールも交えて話し合った方が良さそうだな。

 因みにマールが着ているのはフリルをあしらった濃紺のドレスで、髪型はいつも通り。しかしこう、着こなしている感がある。やはり生粋のお姫様だからだろうか。色っぽさよりも可愛らしさを前面に押し出したドレスだ。

 対してフラムが身につけているのは薔薇をあしらった真紅のゴージャスなドレスで、彼女の魅力である艶のある長い黒髪は頭の上でまとめあげられていた。色っぽいうなじや背中を大きく露出していて、マールとは正反対に大人の女の魅力を全開にしているドレスだ。

 実は彼女の身体には長年の訓練でついた古傷なども幾つかあったのだが、関係するようになってから俺が毎晩丹念に回復魔法でケアを行ったので珠のような綺麗なお肌になっていたりする。

 俺としては構わなかったのだが、本人があまりにも気にするのでついやってしまいました。後悔も反省もしていないがな!


「タイシさん、フラムさんばかりじゃなくて私も見てくださいよぉー!」


 いつの間にか近寄ってきていたマールが膨れっ面で俺の腕をグイグイと引っ張る。はははこやつめ。


「よーしよしよしよし、マール可愛い、マール可愛い。マール世界一」


「ぐぬぬ、何故か扱いに差を感じます……っ!」


「盛大な気のせいだ、というかこの状況であまりダイレクトにイチャつくのは流石の俺も無理」


 そう言って俺はチラリととある方向に目を向ける。


「……」


 そこにはトロールくらいなら余裕で殺せそうな殺気の込められた眼をこちらに向けているおっさんことミスクロニア国王、エルヴィン=ブラン=ミスクロニアがいた。口元に張り付いたような笑みが浮かんでいるのが不気味である。

 彼の隣にイルさんがいなかったら今この瞬間的にも飛びかかってきそうだ。いや、飛びかかってくるだろう。確信できる。


「とりあえずイチャつくのもそれくらいにしてとっとと席に着きやがれくださいこのスケコマシ婿殿野郎」


 酷い言いようであるが、ここは素直にその言葉に従って席に着くことにした。

 家出娘が連れ帰ってきた男が娘だけでなく他所の娘さんを両方とも嫁にするとか抜かしている二股野郎だからね、俺。

 俺が父親の立場だったら余裕でぶっ殺してるね。自分の娘と他所の娘さんの双方が同意しているとしても絶対に許さない、絶対にだ。

 どうしてもと言うなら俺を倒していけ、うらやまけしからん! という気持ちになるに違いない。


「父上、いつまでもそんな態度を取るなんて大人気ないですよ。マーリエルが帰ってきて久々の一家揃っての食事ではないですか」


 マールと同じ鳶色の髪の毛を持つイケメンがそう言って未だに俺を睨みつけるおっさんを諌める。

 彼の名はアルバート=ブラン=ミスクロニア。マールの兄で、ミスクロニア王家の長子。いわゆる王太子殿下、次代のミスクロニア王国の王である。

 俺よりも若干背の高いイケメンで、先程握手をした感じではかなり鍛えていそうに感じた。

 それもそのはず、鑑定眼で見てみたところ彼のレベルは26で、剣術や格闘がレベル4、水魔法や魔力撃も修め、しかもレベル1ながらも俺以外では初めて見る身体強化のスキル持ちである。

 正直そこらの近衛騎士より強い。レベルはマールの方が上だが、戦えば恐らくアルバートが勝つだろう。


「そうですよ、お父様。それにタイシ様はリュメールの近くにいた魔物を一掃してくれたという話ではないですか。しかもマーリエルお姉様を無事捕まえて戻ってきてくれたんですから、むしろ感謝するべきではないでしょうか?」


 アルバートの言葉に鈴の音のような凛とした声が追従する。

 声の主の名はティナーヴァ=ブラン=ミスクロニア。マールの妹で、ミスクロニア王国の第二王女。兄や姉と同じく鳶色の長い髪の毛をアップにまとめた美少女だ。若葉のような淡い色合いのドレスを着ている。

 本当に妹なのかと疑うくらいに落ち着いた物腰で、マールとよく似ている。背はマールと同じか、少し低いくらいか。かなり小柄だ。胸の方もマールとどっこいどっこいか。案外そんなに歳は離れていないのかもしれない。

 それにしてもなんだろう、この美男美女家族は。おっさんもなんだかんだ言ってダンディなイケメンだし。


「むむむ……」


「何がむむむですか。タイシさんごめんなさいねー、この人ったらいい歳になっても子離れができていないのよー」


「いえ、男親としてそういう気持ちになるのは理解できますから。流石に出会い頭に斬りつけられたのには参りましたけど」


 俺の言葉に場の雰囲気が凍りつく。

 あれ? 俺なんかやらかした?

 おっさんは恐怖に引きつった顔で口をパクパクと動かし、アルバートは額に手を当てて天井を仰いでいる。ティナーヴァは口に手を当てて驚いているようだ。


「?」


 フラムも俺と同じようにわけがわからないという表情だ。マールは……なんか憮然とした表情でおっさんを見てるな。で、イルさんは……?


「ひっ」


 思わず小さな悲鳴が口から漏れた。

 般若だ、そこに般若がいた。顔は笑っているんだ、すごいにこやかに。だが、発する雰囲気がヤバい。なんというか本能的な恐怖を揺さぶられる凄みのある笑みだ。

 見える、イルさんの背中に抜き身の刀を振り回している般若が見えるッ! あれアカンやつや!


「あなたー? どういうことかしらー? 丁重に迎え入れるという話だったはずよねー?」


「そ、それはだな」


「マールちゃん?」


「タイシさんじゃなかったら間違いなく真っ二つでした。ギルティです」


 マールの下した判決におっさんが涙目になる。

 はっはっは、ざまぁ! いきなり斬り殺されかけた身としては溜飲も下がるというもんだ。あの一撃に込められた魔力量は完全に殺しに来てたしな。

 確かに気持ちはわかる、気持ちは。俺だってどこぞの馬の骨に愛娘を誑かされた日には同じようになるかもしれないしな。だがそれとこれとは話は別だ。


「うふふ、ごめんねー。ちょーっと席を外すから、皆は気にせず食事を続けて?」


「ま、待て! 話せば、話せばわかる!」


「うふふ、あなた自身が行動でそんなものいらないと示しているじゃないですか。タイシ君に問答無用で斬りかかったんですものね? あなたも覚悟はできているはずですよ」


 突如発生した大量の水がおっさんを包み込み、水球となって宙に浮く。おっさんは水球に取り込まれてがぼがぼと半ば溺れながら暴れている。来客の前で王妃が王を水責めとかどうなってるのこの国怖い。


「貴方達は気にせず食事を続けていてねー」


 イルさんは般若の微笑のまま自分の夫が溺れている水球を従えて食堂から出て行ってしまった。

 食堂に気まずい空気が流れる。


「食べましょうか」


「だな」


 アルバートの提案に俺は素直に応じ、それによって場の空気が再び動き始めた。配膳担当の和装メイド達がテキパキと料理を出し始める。

 刺身を中心に焼き物や天ぷらのような揚げ物も出てきた。和食だ、和食だよ。こっちに来て食うことを半ば諦めていた和食だよ! 少し涙が出そうになってきた。


「タイシ様は本当に美味しそうに食事をなされますね」


「んぐっ、む。すまない、故郷の味に似ててな。ついつい夢中になった」


 ティナーヴァ王女に言われて思わず箸を止める。余りにも美味しかったので感動のあまりがっついてしまった。一応王族の前であるし、少々見苦しかったか。恥ずかしいぜ。

 しかし彼女は少し困ったような表情だ。


「ああいえ、そういうことではなくて……すみません。こう言ってしまっては失礼だと思いますが、なんだか可愛いというか、見てて気持ち良いと言いますか」


「確かにタイシさんって食事をしている時だけ少しだけ幼く見えるというか、無邪気なんですよねー。美味しそうによく食べますから、見てて気持ち良いです」


「確かにご主人様は食道楽ですね。美味しいお菓子とかが手に入るとすごく嬉しそうな顔をされますし」


 マールとフラムも会話に参加し始める。なんですかこれ、皆に注目されてなんか食べづらいじゃないですかやだー!


「こらこら、そんなにジロジロと見るのはマナー違反だろう。タイシ君、酒はいける口かい?」


「そんなに強くは無いが……」


「そうか、では」


 アルバートが給仕に指示を出し、一抱えほどの大きさの壺……というか甕を持ってこさせた。見事な切子細工の施された綺麗な酒器に透明の液体が注がれる。

 アルバートは女性達にも勧めたが、彼女達は断ったので酒を手にしたのは俺とアルバートだけだ。


「今日は……そうだな、うん。義弟と義妹との出会いに乾杯」


「乾杯」


 アルバートが酒器を掲げたのに合わせて俺も酒器を掲げ、注がれた酒らしきものをぐいっと飲み干す。

 よく冷えた液体が喉を通り、爽やかでフルーティーな匂いが鼻を抜けて行く。後味もその香りと同じく爽やかで、微かな甘さが舌に残る。そしてその爽やかさとは裏腹に腹の奥がカッと熱くなる感覚が走った。


「吞みやすいな……でもこれ、結構強くないか?」


「あはは、これくらい水みたいなものだよ。強く感じるかもしれないけど、意外とそうでもないのさ。まぁもう一献、駆けつけ三杯って言うしね」


 給仕が再び酒器に酒を注いできたので、俺は再びそれを飲み干す。

 うーむ、この腹の奥がカッとする感じはかなり強そうなんだけどなぁ。でも確かにそんなに酔った感じもしない。

 再び注がれた酒をまた飲み干す。うむ、癖になるなこの酒は。

 皆と雑談しながら食事を続け、全部で五杯程も飲み干した頃だろうか? 急に酩酊感が襲いかかってきた。


「おや、いつの間にかタイシ君はグロッキーのようだね。旅の疲れもあるだろうし、今日の所はこれでお開きかな」


 世界がぐるぐると回る。返事をするのも億劫だ。

 誰かが俺を席から立たせて、肩を貸してくれる。鳶色の髪の毛、嗅ぎ慣れた匂い。マールだろう。


「すまん、きゅうにこんな……」


「あはは、大丈夫ですよ。相変わらずタイシさんはお酒に弱いですねー。毒は効かないんじゃなかったですか?」


 確かに毒は効かないんだが、酒には普通に酔っ払うらしい。毒耐性と酒精に対する耐性は別なのかもしれない。今度調べてみるか。

 どこをどう歩いたかは全く覚えていないが、気がついたら薄暗い部屋の中でベッドが目の前にあった。俺はそれに迷いなく倒れこみ、息を吐く。

 うつ伏せに、仰向けにと何度か転がされて服を剥ぎ取られる。スースーして寒いので、マールを捕まえる。


「あっ、んっ……ダメですよタイシさん、私は着替えてこないといけないですから。少し待っててくださいね、着替えたら戻ってきますから」


 腕の中に捕らえた温もりはそう言って風か何かのようにスルリと俺の腕から抜け出し、頬に柔らかい感触を一つ残して部屋から出て行ってしまった。

 仕方がないのでベッドに潜り込み、戻ってくるのを待つことにした。


 少しして、ドアを開ける音の後に人の気配が近づいてくる。

 ベッドの傍まで近づいてきた気配はなかなかベッドに入ってこようとしない。


「あっ……」


 なかなか入ってこないので腕を伸ばしてベッドに引きずりこんでやる。

 抱きしめてその体温を素肌で味わい、胸いっぱいにその匂いを吸い込む。安心する匂いだ。

 いつものように唇を合わせ、始原魔法で魔力を送り込み、吸い上げる。

 なんだか今日は妙に大人しい気がする。それになんだか初々しい。ああそうか、そう言えば子供っぽい服装でとか昼に言ってたな。なるほど、そういうプレイか。確かにそこはかとなくいつもより幼い感じがする。


「んふぅっ、やっ、らめっ」


 いつもよりも念入りに、ゆっくりと魔力を循環させて執拗に責める。

 初々しい反応に妙に燃えた俺は随分とハッスルしてしまった。なんだかいつもと感触すら違う気がする。


「あ、ぅぁ……」


 いつもはほぼ互角である勝負は終始俺が優勢だ。ここは家庭内の序列を守るために奮闘せねばなるまい。

 途中で一回気絶させてしまったので、そのまま構わず続けて無理矢理起こしてからはそうならないよう注意深く回復魔法も併用した。




 そして、朝が来る。


「ん……」


 小鳥の囀りで目が覚める。朝チュンですよ朝チュン、なんだか今日は凄く気分爽快な目覚めだ。横を見ると布団に埋れた鳶色の髪の毛が見え、左腕には愛しい体温が感じられる。

 今までにないくらいハッスルしてしまったのでベッドのシーツなんかはかなりの惨状だが、後で浄化でもかければいいだろう。今はもう少しこの幸せな時間を享受したい。

 ベッドのシーツをそっとずらしてマールの寝顔を堪能する。きっと今日もよだれを垂らしながら幸せそうに眠っていることだろう。


「……ん?」


 特によだれとかは垂らしていなかった。あどけない表情で静かに寝息を立てる鳶色の髪の毛の美少女がそこにいた。

 寝顔を見ていると長いまつげがふるふると震え、そっと瞼が開く。焦点の合わない瞳が俺の瞳を捉え、ばっちりと眼が合う。

 一瞬の混乱と、驚愕、そして最後には圧倒的な羞恥心が駆け巡ったのか彼女の顔が真っ赤になった。赤面した顔を隠すかのように彼女はギュッと俺の腕に抱きつき、その顔を俺の腕に埋めた。


「お、おはようございます……」


「オハヨウゴザイマス」


 蚊の鳴くような声で朝の挨拶をしてくる彼女にそう返し、俺はぼうっと天井を見つめる。

 そろそろ誤魔化すのを止めよう。いま俺がすべきことは一つ、隣で茹蛸のようになっているのはマールではなくティナーヴァ=ブラン=ミスクロニアであるという現実を認めることだ。

 なんかこの状況、凄くデジャヴを感じるのだが。


 記憶を辿ろう。


 昨晩の食事会で俺はアルバートに勧められて酒を飲んだ、そして急に前後不覚に陥り、マールに肩を貸してもらってこの部屋に辿り着き、ベッドに倒れこんだ。ここまではOK。

 そして着替えて戻ってくると言ってマールは一回出て行った筈だ。それは覚えてる。で、俺はそのままベッドに潜り込んで……そう、マールが戻ってきたんだ。で、ベッドに引き込んでその後はハッスルした。

 そこまで思い出し、俺はもう一度隣で寝ているティナーヴァ王女を確認する。どう見てもティナーヴァ王女である。姉妹なだけあって匂いも体つきもマールとよく似てはいるが、マールではない。フラムでもない。ティナーヴァ王女である。

 ああ、そういえばなんか妙に初々しかったり、始原魔法でやり取りする魔力量が少なかったりしたな。


「Oh……」


 シーツを少しめくってベッドの上の惨状を再度確認する。そこには明らかに初めての証であろう赤い染みがあった。

 つまりこの状況を推察するに、何らかの理由であの後マールは俺の部屋を訪れず、何故かティナーヴァ王女が俺の部屋を訪ねてきたんだろう。で、俺は酒に酔っていたこともあってそれに気づかずティナーヴァ王女をベッドに引き込んでハッスルしたわけだ。HAHAHA!


 俺は悪くねぇ!


 と声を大にして叫びたい気分だが、ヤってしまったものは仕方がない。どういう形になるかはまだわからないが、責任も取らなきゃいけないだろう。

 でも今は、そんなことはどうでもいいんだ。重要なことじゃない。


「ここは、どうするべきか」


 誤魔化す、という選択肢は俺的に取りたくないので取らない。如何なる理由があったにせよ、誤魔化して責任逃れをするというのは俺の趣味ではない。ヤってしまったからには男として責任は取るべきだろう。

 無論、どうしてこうなったのかきちんと説明はするけども。責任云々は別として、故意でなかったという点についてはしっかりと主張していきたい。

 つまるところ、開き直るわけじゃないがここはすべて正直に話して様々な方面で落とし所を探っていくしかないだろう。ああ、気が重い。


「あの……」


「ん?」


 考えがある程度まとまったタイミングでティナーヴァ王女が俺に声をかけてきた。天井から横に視線を移すと、まだ顔は赤いもののしっかりと俺の眼を見つめてくるティナーヴァ王女の顔があった。


「ごめんなさい……」


 何故か今にも涙が零れそうなほど瞳に涙を溜めているティナーヴァ王女。

 はて、この状況下で彼女が謝るということは何を指すのか。ぱっと考えつくのはマールと付き合っている俺を寝取ってしまったということに対する謝罪だろうか。

 あるいは、彼女がなんらかの意図を持ってこの状況を作り出したことに対するものか。どちらにせよなにも言わずとも謝ってくるということは、何かしらの罪悪感を感じているのは間違いないんだろう。


 それは何に対してか?


 それを考えながら俺はティナーヴァ王女の瞳から零れた涙を手で拭ってやる。どういう事情にせよ、抱いた女を泣かせるのは駄目だろう。

 なぁに、いざとなればマールとフラムとティナーヴァ王女を連れて何処へなりと転移で逃げてしまえば良いのだ。力で押し通るっていう最終手段もあるしな。もうなんというか思考が魔王まっしぐらだが、あまり気にしないことにする。

 大氾濫をぶっ飛ばした時点でもう自重する意味がないんだからな。俺の力はすでに大陸中に知れ渡っていることだろうし。


「事情は落ち着いてから聞く。それより身体は大丈夫か?」


「あの、その……腰が立ちません……」


 そう言ってティナーヴァ王女はまた真っ赤になって俺の腕に顔を埋めてしまった。なにこの可愛い生き物。鎮まれマイサン、今からきっとマールが来るぞ。そしてあのおっさんとやり合うことになるぞ。

 うむ、制御成功。


「そっかー、腰が立たないかぁ。仕方ないよなぁ、初めてだったんだしなぁ。諦めよう、うん」


 実は目覚めてからずっとマールの気配を追っている。どうも誰かを探しているらしく、あちこちをうろつき回っている。俺の所に来ないということは、俺でなく他の人を探しているということなんだろう。

 フラムも一緒に行動しているようだ。

 で、今その気配は俺とティナーヴァ王女のいるこの部屋に近づいてきている。そしてティナーヴァ王女は足腰が立たない状況だ。

 つまり。


「詰んでるぜぇ、はっはっは」


 最早笑うしかあるまい。ここは逆に開き直って対応するか。

 いや、正直なところ浄化や転移や回復魔法、まだ取っていない精神魔法とかを駆使すればなんとかできそうな気がしないでもない。だがそれをするのは何か違う気がする。

 ここでそういう力を使って誤魔化すと、今後俺はずっとマールに嘘を吐いていかなきゃいけなくなるもんな。


「タイシさーん、起きてま……?」


 ノックも無しに入ってきたマールがベッドの近くに脱ぎ捨てられているティナーヴァ王女の服を見つけ、硬直する。

 ギギギ、と軋む音を上げてマールの視線がベッドの上の俺とティナーヴァ王女に向く。そしてそのまま脳内がハングアップしてしまったのか動かなくなってしまった。

 このまま睨み合っていても不毛なのでこちらから声をかけよう。


「てへっ、ヤっちゃったZE☆」


「な、な、なにヤってんですかぁーーーーッ!? 私は昨日お預けだったのにズルいです!」


 えっ、そっちなの?

「首尾は?」


「上々かな。三杯飲んでも顔色を変えなかったから器の効果が効かないのかと焦ったけどね。五杯でダウンしてくれたよ」


「そう、それじゃマールちゃんの足止めよろしくねー」


「それはいいけどね。いいの?」


「マールちゃん一人で縛れそうな子じゃないものー。これでカレンディル王国にも大きく差をつけられるしー」


「まぁ、ゲッペルス王国のクズ野郎にやるよりは数千倍マシだよね。確か十二番目の妻だっけ?」


「今は十八番目らしいわよー。こっちも二番か三番だけどまだ常識の範囲内よねー」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 子煩悩な王様なのにクズのとこに娘を嫁がせるのには抵抗ないのか。 子供に興味がない政治優先の王様だったなら辻褄が合ったのにこれではわけわからん。
[気になる点] 第六話~与太話かと思ったら本当でした~、にて回復をレベル2にして取得した解毒で酔いを覚ませられる、とあるのに今回の酔いに使わないのが不自然に感じました
[一言] あっ...(察し)
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