第四十一話~えいえんは、ありました~
PCがお亡くなりになったのでiPadから。
ちゃんと投稿できるか……?
「解せぬ」
「あぅ……」
ほんの数ヶ月前は俺が主導権を握っていた筈なのに、いつの間にか主導権をマールに完全に握られている気がする。
先日に至っては両手に凶器を持って殴りかかってくる始末である。これは俺の沽券の危機ではなかろうか。
モッフモフモフモフモフ。
「とうわけで俺の威厳とか沽券とかそういうものがピンチなんだよ」
「よくわからないけどシータンを放すべき。シータンも困ってる」
「んっ、べ、別に困っては……」
「だそうだ、断る!」
羊耳少女の言葉に構わず、もっふもふもふもふもふと胡座をかいた上に座らせている犬耳獣人のシータンをモフる。そりゃもう容赦無くモフる。おうおう、耳の後ろが気持ちいいのかこいつめ、ふへへへ。
「あぅあぅ……」
「完全に犯罪者の手つき。やめるべき」
羊耳少女ことカレンが俺の腕をぐいぐいと引っ張って俺の崇高な行動を阻害しようとする。
くっ、邪魔をするとは小癪な。いや、寧ろこれは自分も構うべきというサインなのではないだろうか? いやきっとそうだそうにちがいないふへへかわいいやつめ。
俺はカレンを抱き寄せ。
「ロックインパクト」
「アオォーーッ!」
ケツを襲う激しい衝撃に思わず悲鳴をあげて悶絶する。
地面から硬くて太いものが凄い勢いで隆起してきたようだ。土壁の応用魔法だろうか。ケツが割れたらどうしてくれようか。
しかも悶絶しているうちにシータンが連れて行かれてしまった。ああ、俺のモフモフ様が。
「何やってんだお前」
うつ伏せに倒れた俺の背中に馬乗りになってポカポカと俺の頭を叩くカレン、その横であたふたしている狐耳少女のシェリーと犬耳少女のシータン、そしてそれぞれに同調しているその他数人の少年少女。おいコラウサ耳少年、俺のケツでケツドラムするのをやめろ。
そんな光景を見たソーンが呆れた声で問うてくる。いつの間に現れたこいつ。
「嫁にぶん殴られたりして凹んだのでモフモフで気力を回復しに来た」
「嫁つええなオイ」
「まぁベッドの上で復讐したんだけどな」
滅茶苦茶搾り取られたが、体力的な意味ではまだまだ俺の方が上だ。回復魔法も併用すれば、ベッドの上の俺は阿修羅どころか大魔王すらも凌駕する存在だと自負している。
そして大魔王からは逃げられないのだ、フハハハハ。
「ベッドの上?」
「ああ、それはな」
俺の頭の上でカレンが疑問を口にする。ここは懇切丁寧に説明せねばなるまいと俺は口を開いた。
「子供に何教えようとしてんのお前!?」
「そりゃナニだろ」
「やめんか馬鹿たれ!」
ソーンが俺の真ん前にしゃがみ込んで俺の頭を叩く。解せぬ。
「性教育は大事だぞ?」
「そりゃわかるがなんぼなんでも早いわ! ったく」
ソーンが俺の上に陣取っている少女や少年を撤去していく。おいやめろ馬鹿、尻尾のモフモフとか少女のお尻の感触とか素晴らしいものを奪うな。
少年はまぁうん、どうでもいいけどな。
男の娘でもちょっとなぁ……超えてはいけない一線は守りたいと思う。男として。いや、でも元の世界の俺の住んでた国でも戦国時代の武将の間では普通のことだったらしいしなぁ、アリなのか? 確かに可愛いけどな、ウサ耳少年。
「っ!?」
ふと目が合った瞬間凄いダッシュで逃げて行った。正に脱兎の如く。
大丈夫、俺ノーマルだから。ノンケだから。あんな美人の嫁が二人もいるのに血迷うことは無いと思う。多分。
「で、変わりは無いか、ポチ」
「ポチじゃねぇよ。まぁ変わりは無いと言えば無いな。あの妙な魔物が昨日また現れたくらいだ」
「ん? あいつ魔法も使うし結構強かっただろ。怪我人は?」
「大丈夫だ、お前の結界の際に引きつけて戦ったからな。あっちの攻撃は結界に阻まれて届かんから、一方的だったぞ」
「魔物涙目だな」
村の人間の攻撃は素通りで相手の攻撃だけシャットアウトとか流石俺の結界、容赦が無いな。
「で、味は?」
「クソ不味かった。革とか牙とか爪とか有用そうなものだけ剥ぎ取って燃やした」
「そうか……」
まぁ見るからに不味そうな感じだったもんな。なんか悪魔っぽかったし食ったらお腹壊しそうだ。
そういや王都アルフェンの冒険者ギルドに鑑定依頼してんだっけか、そのうち聞きに行こう。
ペロンさんにも鎧注文してたなぁ。ああ、商業ギルドにも物資の手配頼んでたっけか。時間があればアルフェンに一度戻って色々と用を足さなきゃならんね。
こんなんだから生き急いでるとか言われるんだろうなぁ、まったく。
「取り敢えず問題ないようなら俺はもう行くわ、ミスクロニア王国の首都にそろそろ着くらしいからな」
「言ってることがよくわからんが、わかった。気をつけてな」
「おう、じゃあな」
片手を挙げてその場から長距離転移を行う。
一瞬の視界のブレの後、俺はミスクロニア王国軍が野営している宿場町に到着していた。
そろそろ出立の準備も大詰めらしく、全人員の約半数程が馬車に乗り込み終わっているようだ。
俺達に用意された馬車へと戻ると、既にマールとフラムは乗車を終えていた。俺が馬車に入るなり二人が俺に視線を向けてくる。
「浮気者」
マールが俺にジト目を向けてくる。完全に犯罪者か何かを見る目である。
「 何を勘違いしているのか分からんが、相手はまだ十二歳かそこらの子供だぞ。ちょっと頭を撫でてきただけだ」
「どうでしょうか。自分で言うのもなんですけど、私に欲情するならそれくらいの女の子も十分に守備範囲ですよね?」
マールの言葉に俺は思わず目を逸らす。確かに、マールは年齢の割に発育はあまりよろしくない。背は低いし、胸もかなり慎ましやかだ。
今はバトルドレスを着用しているし軽く化粧もしているのでそれなりに大人っぽく見えるが、化粧をしないで子供っぽい服を着せると……ふむ。
「よし、今晩辺り試してみよう。フラム、後でマールに合う女児用の服を買ってきてくれ」
「えっ、ええ?」
「へ、変態だーッ! しかし受けて立ちましょう! フラムさんお願いしますね!」
「えっ? えぇ……?」
特に理由のない理不尽な無茶振りがフラムを襲う! しかし俺とマールは本気である。この埋め合わせは勿論する、俺とマールの二人掛かりでな。
理不尽に理不尽の積み重ねだが、意外とフラムはマゾっ気があるので悦んでくれると思う。
ちなみに家庭内(?)での力関係はベッドの上で決まるので、始原魔法を使えないフラムの地位は最底辺である。マールが容赦無くバリバリと始原魔法の餌食にしているので、そろそろ覚えるんじゃないだろうか。
その後はフラムがマールの服のサイズを把握するためにマールの身体の大きさを測ったり、逆にマールがフラムの身体の大きさを測ったり、自分にはないデッドウェイト(マール談)を揉みくちゃにしたりするのを眺めていた。
終いには二人で俺の身体を測ろうとか言ってベタベタしてきたので俺もそれに便乗してイチャイチャした。
流石に致すわけにもいかないのでお触りだけだったけどね!
「これはまた」
王都クロンの街並みを目にした俺が最初に口にしたのはこんな台詞だった。我ながら少々間の抜けた言葉だったとは思うが、こんな光景を見れば大多数の人が同じような台詞を吐くのではないだろうか。
王都クロンを一言で表すのなら「水の都」と言ったところだろうか。
大通りの代わりに清純な水を湛えた水路が整備されており、その水路を大小様々な船――ではなく円盤が滑っている。
一人乗りのマンホールくらいの大きさの円盤や、少し大きくして座席をつけたもの、複数人が一度に乗れる楕円形のもの、大量の荷物を載せて運ぶ大型のものなど形は様々だ。
不思議なことに接触事故は起きていないようだ。よくよく見てみると一定以上近づくとお互いに反発力が働いて接触しないようになっているらしい。謎の技術だが、元の世界の自動車よりもよっぽど安全性が高いように思える。
街並みもまた随分洗練されている。
大通りに面している建物の雰囲気はどことなく和風なテイストで、屋根には瓦、漆喰の塗られた壁はどれも汚れがなく真っ白に見える。道ゆく人々の様相も様々で、一番多いのは着流しや浴衣のような服を着た人々だ。次にカレンディル王国でもよく見た中世ヨーロッパっぽい服装の人々、他には中東の民族衣装 のような服を着た人々もいるし、水兵服のようなものを着た船乗りっぽい人もいる。
そしてカレンディル王国のいくつかの街と比べて明らかに道を行く獣人の数が多い。エルフもそこそこ見かけるし、クロスロードの武器屋の店主と同じケットシー族もちらほら見かける。
しかしドワーフは逆にあまり見かけない。ドワーフの王国であるマウントバスから遠いからだろうか?
ただ、ミスクロニア王国にはカレンディル王国ほどの獣人差別がない事はこれで確信できた。
何故こんなに差があるのかということに関しては興味が湧かないことも無いが、そういうことは余裕ができた時に調べれば良いだろう。
「タイシさーん、タイシさーん、帰ってきてくださーい」
「おう、すまん。ちょっと街に見とれてた」
横からちょいちょいとマールに袖を引っ張られて周りの状況を再認識する。
魔物の群れを見事殲滅し、エドワードの率いる大隊と俺達は王都クロンへと凱旋した。国民のために危険な魔物の群れを駆逐してきた王国軍に対する民衆の感情は実に好意的だ。それに加えて出奔していた第一王女が勇者を連れて戻ったとなれば、その熱狂ぶりは実に凄まじいものである。
水上円盤に乗った人々や建物の窓から顔を出している人々が老若男女問わずこちらに声援を送ってきているのだ。俺とマールはカレンディル王国で何度か似たようなことをやったので慣れているのだが、フラムは緊張でガチガチになっている。南無。
それにしてもミスクロニア王国では勇者に対する態度というか、感情がカレンディル王国とは大きく異なっているように感じる。
長らく勇者が現れることの無かったカレンディル王国の国民にとって勇者とは遠い存在でしかなかった。軍をはじめとした国の上層部では勇者の存在を危険視していたのもあり、露骨ではないものの勇者に対するネガティブキャンペーンが実施されていたというのもある。
例えば『一人の勇者より我らの騎士団』とか『団結と絆が命を救う』とか『一人より二人、二人より三十人、勇者より騎士団』と言ったような標語を展開するとかそういったレベルの話だ。
まぁあながち間違ってもいないだろう。現にカレンディル王国には長らく勇者が出現しなかったし、そうなれば魔物に関して頼れるのは騎士団か金で動く冒険者ぐらいだったのだから。
勇者が何故発生しなかったのか、という点については置いておくがね。
「タイシさーん、もう城に着きますよー?」
「そうみたいだな。さて、どうなるか」
まぁ言わばマールの実家なわけだし、滅多なことは起こらないだろう。
そう思っていた時期が俺にもありました。
そう、ことの起こりは凱旋したその日、王城プロテクションサークルに着いたその瞬間だった。
「良くぞ参った、勇者よ! 死ね!」
「うおおぉぉぉぉぉい!?」
にこやかに近づいてきた身なりの良いおっさんがノータイムで斬りかかってきやがった。
しかもその剣筋が今までに見た中で群を抜いて鋭く、速い。その上見るからに業物の剣に眩いほどの魔力を込めているときた。
避けると周りの人間が数人単位で消し飛びそうだったので、咄嗟に全力の魔力を込めた両掌で白刃取りを敢行する。
「ぬぅっ!? 小癪なぁぁぁぁぁぁッ!」
「うおああぁぁぁぁあぁっ!? おいこらてめぇら見てないで止めろおォォォォッ!」
俺の言葉で正気に戻ったのか、呆然としていた周りの騎士達が斬りかかってきた身なりの良いおっさんの四肢にしがみついて取り押さえる。
「邪魔だてするなぁぁぁっ! 貴様ら全員不敬罪で処断するぞオラァァァァァッ!」
四肢にしがみついた騎士達を振り回しながらおっさんが暴れる。板金鎧装備した人間を絡みつかせたまま暴れるって人間離れしてるなぁ。まぁ俺もできるだろうけども。
そんな状態のおっさんにマールがスタスタと近づいていく。
「お、おぉ! マール、今パパがお前をあの小僧の手からすくって」
「パパなんて大嫌いです、顔も見たくありません」
パシン、と音が鳴る。どうやらマールがおっさんの頬を張ったらしい。おっさんの表情が絶望の色に染まり、そしてそのまま脱力した。どうやらあまりのショックに気絶してしまったらしい。
「行きましょう、タイシさん」
「お、おう。良いのかこれで」
「良いんです」
マールに手を引かれて歩き出す俺。フラムも真っ青な顔で後ろについてきた。そりゃ顔合わせた途端に国王が斬りかかってきたんだからそうなるよな。
近衛騎士と思われる人々はマールのパパさんを担架に乗せてどこかに運んで行った。妙に手慣れている感があるんだが、日常茶飯事のことなんだろうか。
騒ぎの輪から抜けるとメイド服を着た品の良いおばさんが現れ、マールに深くお辞儀をした。どこかジャック氏に似た雰囲気を感じる、侍従長とかそういう立場の人なのかもしれない。
「ただいま、グレイス」
「お帰りなさいませ、マーリエル様。そしてお初にお目にかかります。私はグレイス、この城で侍従長を務めさせていただいております。どうぞお見知り置きを」
グレイスと呼ばれたメイドのおばさんはそう言ってお辞儀をしてから俺の頭のてっぺんからつま先までを見た。そしてじっと俺の目を見つめてくる。
灰色の瞳が心の奥まで見透かしてくるような錯覚を覚える。何かしらの魔眼だろうか? 俺の魔力眼には魔力の反応はないし、危険察知も働かないから違いそうだな。
「自分勝手で面倒臭がりで傲慢、熱しやすく冷めやすい、その上頑固で意地の悪い面もありますね」
初対面の人にいきなり人格否定された、死にたい。
しかもなんか妙に具体的というか、身に覚えのある感じで非常に居心地が悪いのですが。
ちょっと凹みつつもそのままじっと灰色の瞳を見返していると彼女はふっと表情を崩した。
「必要とあらば外道にもなる、けど根っからの外道にはなかなかなれないようね。それに、弱者を見捨てることができない性質もあるみたい。それを優しさと取るか甘さと取るかは人次第でしょうけど、私は嫌いではないわ」
そう言ってグレイスさんは俺から視線を外し、次はフラムに目を向けた。
少しの間フラムと目を合わせると彼女は何も言わずにフラムの肩を一つ叩いた。
え? 俺にはズバズバと言ったのにフラムはそれだけ? なんか不公平じゃね?
「長旅でお疲れでしょう。寛げる場所へご案内いたしますので、どうぞこちらに」
歩き出すグレイスさんとマールの後ろについて俺とフラムも歩き出し始める。
王城の内装は思ったよりもかなり質素で、正直カレンディル王国の王城の方が高価そうな調度品が多かったと思う。
その代わりいやに作りが大きくて奇妙だ。何が奇妙って、通路の中央付近だけが石造りで、その他の大部分が板張りというか木造なのだ。なんでこんな構造なんだろう。
「緊急時には避難所になりますからね! 石の床の上だと硬くて冷たくて寝られないじゃないですか」
「なるほど」
「緊急時にはここに住民を非難させて、王城の魔法装置で水を大量発生させて外敵を押し流すんですよ。王城は勿論のこと、王城に近い位置にある建物は官民問わず臨時の避難所になりますし、王都の家屋は全て放水に耐えられるように厳しい建築基準が設けられているんですよ」
「つーことは、あの運河というか水路は道であると同時に防衛機構でもあるのか」
「そういうことですね。ちなみにこれは広く公開されている事実です」
物理的に全方位を大量の水で押し流すのか。よくできた防衛機構だな、後始末は大変そうだが。
「ちなみに半年に一回放水訓練があるんですよ! 住人の避難の訓練、王城やその周辺の避難受け入れ態勢のチェック、建物が放水に耐えられるかのチェックが同時に行われるんです。いい加減な造りの建物や老朽化した建物が崩壊するのは恒例行事みたいなものですね!」
一応老朽化した建物の建て直しに関しては国から補助が出るらしい。それでも最低二十年は耐えられるような構造にしているところが多いらしく、建て直しはそう多くはないようだが。腕の良い職人が手がけた建物は百年以上耐えるという話だ。
なんでも魔法を付与して耐久性を上げているらしく、所謂魔法大工という人々が鎬を削りあっているのだとか。やっぱどこの世界でもガチの大工は半端じゃないな。
その他にも王都クロンの行事などについて聞きながら歩いていると応接間のような所に通された。貴賓室というやつだろうか、やはり値の張りそうな調度品が多い。
「どこかで見たような部屋だな」
「貴賓室の作りなんてどこも同じようなものですし……っ!」
「ん? どうした?」
「いえいえ、なんでもありませんよ?」
マールの反応に首を傾げながらソファに腰掛ける。うむ、この体が埋まりそうな沈み込み具合は覚えがあるな。フラムも俺の隣に腰掛け、思った以上にソファが柔らかかったのか一瞬驚いていた。
ちなみに我が家のソファはここまで柔らかくない。柔らかすぎるとなんか落ち着かないんだよな。慣れれば慣れるもんだけど。
それにしてもマールの今の反応はなんだったんだろうか? 部屋を見回して見ても高そうな調度品とニコニコした部屋付きらしいメイドさんがいるくらいだ。
「マーリエル様はお召し物を変えていただきます。お連れの方もです」
「わ、私もですか?」
「はい、貴女もです。申し訳ありませんが時間も押しておりますので。勇者様は暫くこちらでお寛ぎください、何かありましたらそちらの者にご用命を」
「タイシさん、また後でー」
グレイスさんが有無を言わせぬ迫力でフラムを引っ張り、マールがその背を押して貴賓室から退室して行ってしまった。
ぽつねんと残された俺の前にお茶の淹れられたカップが置かれる。
「晩餐の際のお召し物を選んでいただく必要がありますから」
「ああ、成る程」
お茶を淹れてくれたメイドさんに生返事を返す。晩餐ねぇ、あまり格式張ったのは勘弁願いたいんだが。テーブルマナーとかよくわからんぞ? ナイフとフォークを外側から使えばいいんだっけ?
いや、異世界だしテーブルマナーが同じとは限らんか。そもそもミスクロニア王国は米が主食らしいし。ということは料亭で出てくるような御膳なのか?
よくよくメイドさんを見てみるとメイド服そのものもいわゆる和装メイド服的な装いだ。どことなく大正浪漫っぽい。
そんな感じでボーっとメイドさんの服を見ているとメイドさんが微笑み返してきた。あまり気にしていなかったが凄い美人さんじゃないか。
髪の色はマールと似た鳶色で実に白いヘッドドレスが映える。全体的にどこか柔らかい雰囲気で、背丈はマールより少し高いがかなり小柄だ。結構胸もありそうだ。マールにお姉さんがいたらこんな感じだろうか。
「やだー、もう。そんなに見つめられたら妊娠しちゃいます」
「いやいや、見つめられただけで孕むならあんたみたいな美人は大変だろ」
「あらー、お上手。私をおだててもお茶しか出ませんよ?」
「そりゃ残念」
笑いながら俺はお茶を口に含み、何気なく鑑定眼をメイドさんに向けてみた。
名前:イルオーネ=ブラン=ミスクロニア
レベル:21
スキル:水魔法5 風魔法2 回復魔法4 礼儀作法4 詐術3 交渉術4 危険察知3 舞踏3 懐柔4 王族のカリスマ(優)
称号:水神の娘 囚われの姫 魔王の寵姫(元) 摂理の反逆者 泡沫の契約者 勇者の伴侶(現) ハイパー名器 般若 救国の英雄 狡猾なる者 ミスクロニア王国の魔女 ミスクロニア王妃
賞罰:なし
「ブフォアッ!?」
お茶噴いた。
「きゃあっ!? だ、大丈夫!?」
王妃ってことはさっき斬りかかってきたおっさんの奥さん、つまりマールの母親じゃねーか! というかお義母さん? いつも娘さんにはお世話になってます。
暫くむせた振りをして心を落ち着かせる。よし。
俺はストレージから綺麗なハンカチを取り出して自らの口と零してしまったお茶を拭い、努めて冷静に声を出した。
「一体なんのつもりですか、王妃様」
「あら? あらあら?」
頬に手を当てて困ったように微笑むメイドさん、もとい王妃様。マールめ、わかってて二人きりにしたな。さっき驚いた顔をしていたのはこの人が原因だろう。
どんな意図があったか知らんが後でお仕置きだな。子供っぽい服着せてお仕置きとか犯罪臭が凄いが、俺は気にしないしやると言ったらやる男である。
「もしかして鑑定眼持ちかしらー? やだー、もう。折角のドッキリが台無しだわ。折角野獣のような視線を向けてくれてたのにー」
「いやいやいや、勘弁してくださいよ。確かに凄い美人だと思って見てましたけど。似てますけど、マールのお母さんには見えませんよ本当に。お姉さんでも真面目に通ると思います」
「うふふ、そうでしょー? 私の身体は十七歳で成長が止まってしまっていますからね」
「え? マジですか?」
「マジなのでーす。私も昔は色々ありましたからね、うふふ」
リアル永遠の十七歳きたこれ。
「……! すみません、少し頼みたいことが」
「はい、なんでしょう?」
「あの、子供が着るような服を何着かご用意いただけませんか? サイズはその、マーリエル様くらいなのですが」
「承りました。貴女様の着られるサイズのものと合わせて何着かご用意致します」
「えっ?」
「必要ですよね?」
「えっ? えっ?」
「わかってますよ、ふふふ」