第三十七話~色々と動き始めてみました~
翌日、俺は頼んでおいた物資を受領するため一人で商業ギルドへと足を運んでいた。
マールは引き続き国王やゾンタークとの協議。要求するものが決まったので、協議そのものは前進するだろうと思われる。
ついでに街道整備や通商に関する事案などについてもある程度の触りだけは話をしておくらしい。まぁ、現状ではまだ色々と未定なので突っ込んだ話は出来ないだろう。
とりあえずこの後獣人達の村に行くつもりなので、同行者はいないのである。
え? 昨晩?
「……朝っぱらからなんか儚げな雰囲気醸し出してるな。大丈夫か?」
「ああうん、大丈夫。ちょっと昨晩激しかっただけだから」
「心配するんじゃなかったよ畜生!」
俺の返答に全力で商業ギルドの壁を殴るヒューイ。そして痛みに蹲る。アホか。
いやぁ、マールとフラムのダブルアタックは強敵でしたね。
商業ギルドはなかなかに広い敷地を誇っている。
ギルド本館の横には様々な商品を積み降ろしするための集積場があり、その奥には多数の大型倉庫が並ぶ。
集積場の横には馬車を牽く馬等の厩舎もある。馬『等』である。この世界で馬車(?)を牽くのは馬だけではないのだ。
一番使われているのは馬なのだが、ランドランナーと呼ばれる大型の鳥類やチャリオットと呼ばれる大型爬虫類なども使われているのだ。
速度とスタミナと牽引力のバランスに優れるのが馬、緊急時の瞬発力に優れるがスタミナと牽引力の弱い鳥、スタミナと防御力と牽引力に優れるがスピードで劣る爬虫類、というふうに使い分けるのだそうだ。
コストなどの関係から馬が主流ではあるらしいけどな。
「用意はできてるみたいだな」
「軍で用意していた糧食が結構な量放出されているからな。本来大氾濫中に消費されるはずだった物資が結構ダブついてるんだよ」
俺の言葉にヒューイはそう答えた。
王都アルフェンは未だ疎開してきている人々が多いために混沌としている。そんな中、各所で神殿や一部の貴族などが炊き出しを行っているのだが、それらの炊き出しにはこういった軍の放出品である物資が使われているのだそうだ。
また、隣国であるミスクロニア王国やドワーフ達の多く住むマウントバスでは未だに大氾濫による戦闘が継続しているらしい。そういった隣国に支援物資を輸送することも計画されたらしいが、大氾濫が継続中の隣国に物資を届けるのはあまりにも危険であるため計画は頓挫してしまっているということだ。
うーむ、やはり俺が行ったほうがいいんじゃないだろうか? ゾンタークやカレンディル王、それにマールも何も言ってこないから何となくで流してしまっているのだが……。
「とりあえずこの物資は貰っていくぞ」
そう言って俺は積み上げられている物資を次々とストレージに取り込んでいく。
干し肉や干し果物を始めとして焼しめたパンや塩漬けにして長期保存が出来るようにしてある肉、酢漬けの野菜や干し野菜、長期保存の利くタマネギや根菜や芋の類、塩、小麦粉や雑穀などの食料品と飲料水やワイン、それに清潔な布や毛布、医薬品に薪などの燃料や調理道具などもある。
タマネギってあいつら食えるのかね?
「マジで入るのか」
「割と余裕だな。寧ろ一つに梱包してもらったほうが良かったかもしれん」
細々とした荷物も袋に入れてストレージに放り込むと一個のアイテムとしてカウントされるしな。
とにもかくにも発注していた物資は問題なくストレージの中に収まった。これでソーンとの約束も果たせるな。
「追加で物資を用意しておいてくれ。俺が預けている資金の範囲内で用意できるだけ」
「は? 何考えてんのお前。莫大な量になるぞ」
「問題ない、入りそうだし。ただ、あまり小分けにしないである程度まとまった量を一つに梱包して用意してくれ。あとまぁ、買占めみたくなって市場に影響が出ないよう上手くやってくれよ」
物資はそれなりに確保したいが、それによって市場に混乱を生み出すのは本意ではない。
超高品質の武器を大量に市場に流して武器工房をいくつか潰しかけた俺が言う台詞じゃないけどね。少々調子に乗りすぎた、今では反省している。
「なんというか相変わらず常識の通じない……わかった、手配しておく。モノが用意でき次第屋敷に使いを寄越すよ」
「ああ、頼んだ」
ヒューイと別れ、商業ギルドを後にする。
ううむ、他にも何か用意していくべきだろうか? ちびっこ達も結構居るみたいだしお菓子でも買っていくか。ああ、あと酒もあったほうがいいかな。
「来ちゃった」
「いや、昨日来るって言ってただろお前」
獣人の村に転移すると早速ソーンが出迎えてくれた。ネタの通じんやつめ。
ソーンに案内されて獣人の村の中を通り、昨日訪れた倉庫へと歩いて行く。
途中、擦れ違った獣人や半獣人の住人達に会釈されたり礼を言われたりした。昨日とは大違いだ。『別にそんなつもりじゃなかった』とか青臭いことを言うつもりはない。もっと褒めていいのよ。
倉庫に着くと、俺が昨日のうちに渡していた物資の配給をしているようだった。
デボラやそのお付きのケンタウロス娘と虎耳娘、黒豹男のレリクスもいるな。昨日俺が治癒した馬男もいるようだ
「よう、昨日ぶり」
「今日も来たのね」
熊が三角巾とエプロンを着けて大鍋でスープを作っていた。いや、デボラなんだけどね。
ケンタウロス娘は特に何をするでもなくむっつりとした表情で配給の様子を見ており、虎耳娘はこちらに視線を向けようともしない。この二人に嫌われてるんだろうか、俺。
レリクスは倉庫から物資の出し入れを、馬男はなにやら帳簿をつけているようだ。意外と知性派なのだろうか、あの馬。
「追加の物資をな」
「そう……一杯どう?」
「物資を倉庫に置いてきたら貰うかな」
そう言うとデボラは頷き、スープの配給に戻ったようだった。
俺とソーンはレリクスと馬男に挨拶しながら倉庫に入り、物資の放出を始めた。
ズンズンと倉庫内に物資が積み上がっていく。一応管理しやすいように種類ごとにまとめておく。食料品でもすぐに食えるものと生モノは手前、保存の利くものは奥の方ってね。
「なんとかギリギリ入りそうだな」
「どんだけ持ってきたんだよ……」
「騎士団一個小隊、つまり成人男性40人から50人が一ヶ月活動できるだけの物資だそうだ」
ソーンがなんとも言えない渋面を作る。ふふ、俺の人脈と調達能力が怖いか?
「俺が言えたことじゃないが、真っ当な品なんだろうな? どこかで騎士団を襲って奪ってきたとか言うなよ」
「お前が俺をどういう目で見ているかよくわかった。訴訟も辞さない」
そう言って俺はモフモフしているソーンの体毛を少量ずつぶちぶちとやってやった。
防ごうとしても無駄無駄無駄ァ! 残像が出るレベルで繰り出される俺の手はソーンの防御を許さない。格闘レベル5を舐めてはいけない。
「いてぇ! いてぇからマジやめろおい! やめてください!」
「……チッ、折角の物資が抜け毛塗れになっても仕方ないし許してやるか」
身悶えするソーンをその場に残して俺は倉庫を後にする。出てくるとデボラがすぐに俺に気付き、先ほどの約束どおりスープを振舞ってくれた。
む、美味い。俺が昨日置いていったキャベツっぽい野菜と塩漬け肉を使ったようだ。程よい塩気と野菜の甘みに加え、片栗粉でも入れたのか微妙にとろみがついていて美味い。
「美味いな」
「そう? 私が作ったのよ」
ちょっと誇らしげな様子で胸を張るデボラ。お料理クマさんか、よく見れば三角巾とエプロンも似合っているように見えるな。
「腕っ節が強いだけでなく料理もできるんだな」
「まぁね、嗜みとして」
「淑女の?」
「ぷっ……淑女ってガラに見える?」
俺の返しにデボラは小さく噴き出しながらそう言って肩を竦めて見せた。
俺の身長を優に超える巨体に茶色い毛皮に覆われた太い腕、顔も愛嬌はあるがまぁどう見ても熊。どことなく女性的な雰囲気を醸し出してるけどまぁ熊。
しかしまぁ、体つきだけはこう女性らしいというかなんというか。出るとこは出てる、どーんと。俺がこちらで見た乳の中では文句無く最大級と言えるだろう。
「淑女ってのは紳士と同じで見た目じゃなくて在り方だと思うね。エプロン似合ってるぞ」
「そ、そう?」
淑女と言われて悪い気はしないのか、デボラは急にクネクネしはじめた。いや、うん、これは恥ずかしがってるのか? この熊にフラグが立ってしまったりするんだろうか。
あまり深く考えないことにしよう、うん。
「とりあえず倉庫にそれなりの量の物資を補給しておいた。目録があるんだが、あの馬っぽい人に渡せばいいのか?」
「え? ええ、そうね。ヤマト!」
デボラが声をかけるとなにやら帳簿をつけていた馬男が帳簿から顔を上げてこちらに歩いてきた。
こいつもデカい、2mを越す巨躯だ。栗毛の体毛に黒い鬣が勇ましい雰囲気を醸し出している。腰に下げているのはメイスか、こいつも戦えるのかね。
「どうした?」
「今日持ってきてくれた物資の目録があるって」
「おお、そうか。それは助かるな」
俺はヤマトと呼ばれた馬男に目録を渡す。これが有るのと無いのとでは管理の手間が随分と違うだろう。
「……こんなにか?」
「ああ、後で確かめてくれ」
目録を見て考え込むヤマト。デボラもヤマトの様子を不審に思ったのか、その目録を覗き見てギョっとした顔をした。
「どうした?」
二人の様子に流石の俺も不審さを隠せない。そんなに驚くことかね?
「うーん、助かるのは助かるんだけど……」
そう言ってデボラは困ったような表情をしながら何事かをヤマトに向かって囁いた。ヤマトは小さく頷き、倉庫の中へと入っていく。
デボラはエプロンはそのままに虎耳娘とケンタウロス娘にスープの配給を任せ、俺を倉庫の中へと招いた。よくわからんが、素直に従って倉庫の中へと戻る。
「あんまり駆け引きとかって得意じゃないし、好きじゃないから単刀直入に言うけど。あんた、何を考えているの?」
デボラの言葉に俺は首を傾げた。何を考えていると言われても何と答えればいいんだ。
「昨日も言ったと思うが、さし当たっては俺がこれから取得する領土の住人になってもらおうと思ってるぞ」
俺の言葉にデボラとヤマト、ついでにソーンが顔を見合わせた。ソーンだけはどこか投げやりな態度だが、デボラとヤマトからは困惑した雰囲気が伝わってくる。表情はわかりにくいけど。
「本気なの?」
「本気だ」
「何のためにだ?」
ヤマトが俺をじっと見てそう問いかけてくる。馬面に見つめられるのってなんか微妙な気分になるな。なんというか馬マスクを思い出す。ヤマトはあの被り物よりも遥かに知的な容貌だけど。
「理由は色々有るけどなぁ……綺麗なのと汚いのと崇高なのどれから聞きたい?」
「綺麗なのから」
「困っている様子のお前達を単純に助けたいと思った。俺にはそれだけの力があると思うしな。同情もまぁ、入ってるのは否定しない。実際のところ理由としては一番弱い」
「汚いのは?」
「困っているところを助けて恩を売っておけば俺のお願いを断りにくくなるだろ。命が掛かってるなら尚更だ」
「じゃあ崇高な理由ってのは?」
「獣人や半獣人のモフモフを愛でたい。なでなでしてスリスリしたいしペロペロされたいお」
「どこが崇高なんだよ欲望ダダ漏れの変態じゃねーか!?」
ソーンが全力で俺に突っ込んできた。いいツッコミだ、お前ならお笑い界のトップも狙えるかもしれん。あ、そうすると俺がボケ役か。狼男とコンビか。ウケるか? なんかお茶の間から半年で消えそうだな。
なんかデボラは腹抱えて笑ってるし。そんなに面白いこと言ったかね、俺。
「つーかアレか、結局お前も人間だな。俺らのこと愛玩動物か何かと思ってんだろ? え?」
ソーンが牙を剥いて唸る。おお、怖い怖い。
「ハッハッハ、興奮するなよポチぃ。ほーらお前の好きな骨付き肉だぞー」
「誰がポチだよふざけんなてめふぼぁっ!?」
タイミングを見計らってソーンの口にストレージから取り出した骨付き肉(照り焼き)を放り込んでやる。あまりに嬉しかったのかソーンはそのまま倉庫の奥に飛んでいってしまった。投擲レベル5を舐めてはいけない。
「あー、もう。苦しい。まぁそんな風に考えてるならこんな回りくどいことしないわよね」
「道理だな。君なら男どもを皆殺しにして女子供達を攫っていくのは簡単だろう」
飛んでいったソーンを見送りながらヤマトが頷く。なんというかアレだな、デキる男の雰囲気が漂うな、この馬男は。
「欲望ダダ漏れってのは否定しないけどな。というか全く下心なしにこんな手間かけられないぜ、俺は勇者だけど聖人じゃねーぞ」
そう言ってから俺は昨日マールと話した領地獲得の実現性に関して説明をした。
カレンディル王国側からの了解はほぼ問題ないであろうということ、ミスクロニア王国側との交渉が必要であること、これからミスクロニア王国に赴いて交渉をしに行くことになるだろうということ。
「そんなわけで、俺はミスクロニア王国に向かう。つっても俺は長距離転移魔法が使えるからちょくちょく顔は出すけどな」
そんなことを言っているうちにソーンが復活してきた。気絶してたんだろうか、それとも骨付き肉を食っていたんだろうか。
「よう、美味かったか?」
「美味かったかじゃねーよ死ぬかと思ったわボケェッ!」
毛を逆立てて吼えるソーン。ぼけぇとか言いながらしっかり骨だけになってるじゃないですかやだー。
それでも多少落ち着いたのか、再度食って掛かってくるようなことはなかった。腹減ってイライラしてたんだな、間違いない。
「まぁとりあえずそういうわけでな、今日はこの村に結界を張りに来たんだよ」
「結界?」
「おう、昨日みたいな得体の知れない魔物が来たら困るだろ。半永久的な対魔物結界を設置してみようと思ってな」
そう言いながら俺はメニューを呼び出し、スキルメニューを操作して結界魔法をレベル3からレベル5にした。
【スキルポイント】168ポイント(スキルリセット可能)
【名前】タイシ=ミツバ 【レベル】64
【HP】813 【MP】4438
【STR】1687 【VIT】1656 【AGI】1565
【DEX】461 【POW】928
【技能】剣術5 格闘5 長柄武器5 投擲5 射撃1 魔闘術3
火魔法5 水魔法5 風魔法5 地魔法5 純粋魔法5 回復魔法5 始原魔法2
結界魔法5 生活魔法 身体強化5 魔力強化5 魔力回復5 交渉2 調理1
騎乗5 鍛冶5 気配察知5 危険察知5 鑑定眼 魔力眼 毒耐性3
ふむ、レベル4で覚えたのが対魔結界と封魔結界、レベル5で覚えたのが大結界と大殺界ね。
ついでにレベル4で結界恒常化の知識も入ってきた。どうやら結界の中心と周囲何箇所かに起点となるものを設置する必要があるらしい。
「術者の所有物で、且つ魔力を通しやすい性質のモノねぇ」
ミスリル製のナイフとかで良いだろうか。まぁやってみるか。
「おい、そんなことが出来るのか?」
「やってみるのは俺も初めてだ」
ソーンの言葉にそう答えて俺は倉庫を出る。チラリと後ろを見ると、ソーンはついてくるようだ。デボラとヤマトは何か話してるな。
とりあえず俺は村の中心にある井戸へと辿り着いた。井戸の周りには水を汲みに来たらしい獣人や半獣人の女性や子供達がいた。結構深い井戸のようで、水汲みも大変なようだ。
「おうソーン、手伝ってやれよ。俺は結界張る準備すっから」
「なんで命令されなきゃならねーんだよ」
とかなんとか言いながら釣瓶を引くのを代わってやるソーンさんマジぱねぇっす。流石にレベルが高いからか水なんて入っていないかのように釣瓶を引っ張ってるな。
普段からよく手伝っているのか、いつもありがとうございますとか女の人に言われちゃってんの。なんすかソーンさんそっぽ向いたりして、それ照れてるんすか? 照れてるんすかそれ。
「はやくやれよ」
「さーいえっさー」
ニヤニヤしながら見ていたらソーンにガチで睨まれた。仕方ないのでストレージからミスリル製のナイフを取り出し、対魔結界を発動するための準備を始める。
「これで発動したっぽいな」
俺の魔力眼には村全体を覆う光の膜が映っていた。どの程度の効果があるのかはわからないけど。
「これで魔物が寄ってこなくなるのか?」
「この結界を使うのは初めてだって言っただろ。効果の程はよくわからんから、まぁ気休めくらいに思っておいてくれ」
腐っても結界魔法レベル4だし、全く効果なしってことはないだろうけどな。思ったより効果がなかった、よりは思ったより効果があった、の方が嬉しいだろう。
ソーンはそんなものか、とか言いながら光の膜を触ったり腕を突き抜けさせたりしている。
この対魔結界というのは魔物に対してのみ外側に弾くようなベクトルを持つ結界らしい。封魔結界はその反対で、魔物に対してのみ内側に引き込むベクトルを持つ結界のようだ。
「さて、これでとりあえず用事は終わったし俺は一回帰るかね。そうだ、これを忘れてた」
ストレージから一抱えほどもある袋を取り出し、ソーンに押し付ける。
ソーンは匂いでその中に入っているモノがなんなのかすぐに気付いたようだった。
「なんだよこれ、甘い匂いがするな。菓子か?」
「ああ、子供達にと思って買ってきたのを忘れてた。配っておいてくれよ」
ソーンが子供達にお菓子を配る姿を想像して思わず笑みが零れる。出来ればニヤニヤしながらそれを見たいところだが、時間的な余裕も無いし我慢するとしよう。
しかしソーンはそんな俺を見て複雑な表情をしていた。なんだよ、男に見つめられて悦ぶ趣味は持ち合わせていないぞ。
「お前、何を考えているんだ?」
「何ってお前が子供にお菓子を配る姿を想像して笑ってるけども」
「笑うなよ! っていうかそういう意味じゃねぇよ空気読めよ!」
地団駄を踏むソーン。面白い奴だよな、コイツは。
「や、本当に裏も何も無いんだよ、徹頭徹尾自分のためだ。困っているようだったから助けたいと思っただけだし、根本的に助けようと思ったら俺の作ったルールが罷り通る場所が必要だと思っただけだし、何より可愛い獣人や半獣人の子をモフモフしたいだけだ。その為にはモフモフする俺も、モフモフされる子もこう、自由で、救われてないとダメなんだよ」
単純にモフモフしたいだけなら攫っちゃえばいいんだろうけどな。でも、そんな事をしたらずっと後ろめたい気持ちになるだろう?
モフモフする時にそんな気持ちを抱えていたら気持ちよさが半減してしまうじゃないか。
「そんなにいいもんかね?」
ソーンは自分の尻尾をチラリと見ながら、いかにも納得し難いというような難しい顔をして見せた。ふっ、真のモフリストでなければこの気持ちは理解できまいて。
「とにかくそういうことでな。まぁ、ちょくちょく顔は見せに来る。一方的に施されるのが気持ち悪いなら、何か俺が喜びそうなものでも用意しといてくれよ」
そう言い残して俺は王都アルフェンの屋敷へと転移した。
「……いない。おじさん、あの人は?」
「おじ……はぁ、アイツならもういっちまったよ。ミスクロニア王国に向かうんだと」
「じゃあ暫く来られないんですか?」
「うんにゃ、ちょくちょく顔出すとさ」
「……甘い匂いがする」
「ん、ああ。あいつがお前達子供にお土産だと」
「飴玉」
「わかったわかった、んじゃ広場で配るか。お前らも手伝え」
「はい!」「わかった」